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カテゴリ:その他・考えたこと
●ストーリーの特徴 ハンターハンターは念能力を使いながら戦うバトル系の漫画で、努力して強くなって仲間との絆を深めて敵に勝利するといういかにもジャンプらしい王道の漫画である。ストーリーの展開をおおざっぱにいうと以下のようになる。 ・ハンター試験編:父親がハンターだと知った主人公ゴンがハンター試験をうけにいって強敵のヒソカに殺されずに済み、キルア、クラピカ、レオリオと仲間になる。 ・ククルーマウンテン:ゴンは暗殺一家ゾルディック家に軟禁されたキルアに会いに行く。 ・天空闘技場編:ゴンとキルアが念能力(裏ハンター試験)を修行して闘技場でヒソカと対決する。 ・くじら島への里帰り:ゴンが故郷に戻って父親が残した手がかりからグリードアイランドというゲームソフトを知る。 ・ヨークシン編:グリードアイランドがオークションに出されて、ゴンはマフィアで働くクラピカと幻影旅団の戦いに巻き込まれる。 ・グリードアイランド編:ゴンとキルアはゲームの中でビスケに修行してもらって強くなり、ゲームをクリアした特典を使って父親のところに飛んでいこうとしたらカイトのところに飛ばされる。 ・キメラ=アント編:ゴンとキルアがカイトの仕事を手伝っていたら人間を食べる危険な蟻が繁殖したので退治する。 ・会長選挙・アルカ編:キメラ=アント退治で会長が死んだので会長選挙が行われて、瀕死のゴンを助けるためにキルアはアルカの治癒能力を使おうとして兄のイルミから逃げて、治ったゴンはジンと会う。 ・暗黒大陸編:会長の息子のビヨンドが暗黒大陸に行くと言い出して、暗黒大陸に向かう船の中でカキン王の王位継承戦が行われて、クラピカは王子を護衛しつつ第四王子を倒そうとする。 ストーリーはバトル系漫画なので戦いがメインで、二種類の戦闘パターンがある。 ●登場人物の特徴 ハンターハンターには『幽☆遊☆白書』と特徴が似ている登場人物が多いと思うので書き出してみる。 ゴン:熱血バカ(浦飯幽助) キルアのヨーヨー攻撃は六遊怪チームの鈴駒がやっているし、ゼノの龍頭戯画は飛影の黒龍波だし、強さの差はあるけれど特殊能力を使いまわしている感じで既視感がある。登場人物の特殊能力自体はバトル系漫画によくあるもので、特に面白いというほどでもない。『幽☆遊☆白書』でもハンターハンターでも忍者がハゲなのは作者は何かこだわりがあるんだろうか。 ●知的要素としての面白さ ハンターハンターの登場人物の設定自体は『幽☆遊☆白書』と似ていて目新しいものではないのに、なぜハンターハンターは20年間も飽きられずに人気があるのかというと、窮地に陥った状況をどう知恵を出して切り抜けるのかという戦略性が面白さの特徴になっている。デスゲーム型の戦闘パターンに戦略性を加えることで、脇役の人数の多さを面白さにつなげることができるようになる。 ●トリックスターとしてのヒソカ 物語展開のキーパーソンになるのがヒソカである。敵でも仲間でもなく、クロロとタイマンで戦いたいという動機のために協力したり嘘をついたり裏切ったりする。これは『幽☆遊☆白書』ではなかったキャラクターの行動パターンで、ヒソカの存在が物語展開の幅を広げている。 ●プロットのパターン ハンターハンターのテーマを大雑把に言うと、家族と仲間の話である。ゴンは父親探し、キルアはゾルディック家からの自立、クラピカはクルタ族のあだ討ち、幻影旅団は盗賊仲間で、そのグループ間で利害関係をめぐってごたごたする話が展開する。普通の少年漫画なら主人公グループが正義、敵グループを悪として単純な二項対立でとらえて、主人公が苦労して敵を倒して大団円で終わるという展開になるけれど、普通の展開にならないのがハンターハンターである。 クラピカと幻影旅団は敵対していて、幻影旅団は欲しいものを奪うために平気で殺人する極悪非道な敵として描かれていて、どうやっても敵対関係が平和的に解決しそうにない状況である。しかしゴンは幻影旅団に仲間思いの側面を見出して、クラピカにもこれ以上殺人をしてほしくないということで団長との人質交換に応じて、パクノダは命と引き換えにゴンの思いを幻影旅団の仲間に伝える。こうすることで敵が単なる悪人にならず、敵にも仲間思いの人間性を持たせることができて、味方も敵もそれぞれ仲間思いなのだという終わり方になっている。このパターンがハンターハンターの特徴である。グリードアイランド編でもゴンたちは敵対していた爆弾魔のゲンスルーを倒した後は許して怪我を治療している。 主人公グループと敵グループの敵対と融和のパターンを人間と他の生物との大きな問題にしたのがキメラ=アント編である。人間は脅威である蟻を殲滅したくて、蟻は弱い人間を支配したくて、これは争いの規模が大きいだけに解決しにくい問題である。しかし蟻が人間だったころの記憶を思い出して、蟻の王はコムギと出会ったことで人間性を獲得して、蟻が人間性を持った一方で人間の凶暴さを暴くというジンテーゼになっていて、単に蟻を倒して終わるというだけの話になっていない。ヨークシン編とはまた違うアウフヘーベンのやり方で、命令のままに行動していた蟻が転生して人間性を持つというのは漫画ならではの面白さである。 暗黒大陸編はカキン国の国王と王子たちの家族内の対立にハンターたちが巻き込まれる形になっていて、クラピカは対立の当事者でなく冷静に護衛して平和的に儀式を終わらせようと調整しているだけで、その分感情的な葛藤がなくて盛り上がりに欠けている。王子の数が多すぎて人物像の掘り下げも不十分で、カキン王家の対立からクラピカのあだ討ちの物語にシフトしないと見せ場がない。しかしクラピカのあだ討ちのパターンはヨークシン編ですでにやっているので、別の落としどころを用意しないといけない。 ●欠点もあるよ ・絵柄が変わる 連載が長い漫画にはよくあることだけれど連載中に絵が雑になったり絵柄が変わったりしていて、顔が別人のようになっている。漫画としてキャラクターを描いているからには一番特徴がでる顔はできるだけ統一して欲しい。クロロがいつのまにかひろゆきになってしまうと魅力がなくなる。ヨークシン編のゼパイルの食事の仕方がAKIRAの金田のオマージュだったり、アルカ編でホラー風展開にして伊藤潤二のオマージュをしたりするのは漫画によくあることなのでそれは別によい。しかしそこに労力を使うくらいならもっと丁寧に描くべき部分があるだろう。 ・後付け設定の整合性 念能力というのは後付けの設定のようで、念能力の出始めのころはキャラクターの強さと念能力との整合性がとれていなくてちぐはぐになっている。 ・ご都合主義での復活 グリードアイランド編でゴンが腕を爆破されても大天使の息吹で一瞬で完全に治癒しているけれど、これはピトーの治癒能力以上の念能力ということになって、こういうことがほいほいできる念能力者の存在はパワーバランスを壊す。それからキメラ=アント編でピトーを倒すために無理やり大人になった反動で瀕死になったゴンはアルカの治癒能力で元の状態に戻る。無茶をしても後で治せるから大丈夫という大味な展開では、ハンターハンターの特徴である戦略性の面白さを損なうことになる。ご都合主義的な能力で超回復してしまうと医者を目指しているレオリオの無能さが際立つのもよくない。レオリオが念能力と寿命を引き換えにゴンを治すというくらいの制約を負わないと釣り合いがとれない。 ・ヒロインがいない 主人公のゴンとキルアは恋愛に興味がない子供で、クラピカは性別不明で、主要登場人物は恋愛方面での展開がない。パームがノヴに惚れているもののいかにも漫画的な大げさで猟奇的な恋愛になっているし、ヒソカは変態だし、スクワラとエリザの恋愛はほんのちょっと出てくるだけだし、恋愛に関連した面白さはない。念能力バトルと恋愛のかけひきの相性がわるいから恋愛方面は切り捨てているのかもしれないけれど、そのぶん登場人物の感情に深みがなくなる。 ●暗黒大陸編はどうなるのか 暗黒大陸編までの主要登場人物の動機を整理してみると、以下のようになる。 ・ゴン:ハンターになって父親のジンに会いたい。(解決済み) ゴンとキルアは会長選挙・アルカ編で目的を達成していて、それ以上の動機がなくなったので物語から退場している。主人公がいなくなってもまだ物語が進むというのは珍しいことで、本来ならゴンがジンと会ったところで完結するのがきりがよいと思うけれど、人気作品をみすみす終わらせたくないという出版社の事情もあるのかもしれない。ゴンとキルアの代わりにまだ目的を果たしていないクラピカが暗黒大陸編の主人公にかわって、レオリオは動機を掘り下げてもしょうがないのでチョイ役でしか登場しなくなった。しかしビヨンドが暗黒大陸に行きたいだの十二支んがどうのこうのという展開は、初期メンバーから登場人物の大半が入れ替わって脇役が大勢出てきて各人物の掘り下げが浅くて感情移入できる人物がクラピカしかいなくなって、クラピカが鎖を使い分けて一人で何役もこなしているけれど、場面が単調になってそのぶん物語の面白さとしては後退している感じ。それにクラピカの念能力はすでに完成しているのでこれから努力で能力が伸びる余地がないし、個人的な復讐目的では仲間との友情も深めにくくて、努力友情勝利の王道パターンも使えなくて手詰まりっぽい展開になっている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.09.28 21:17:52
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