毎週金曜日は学園ドラマ?
毎週金曜日、15時55分の伊勢鉄道四日市行きに乗る。ぼくが小学生のころ、山や田んぼが整地されて、大きくまっすぐな溝が掘られていくのを見ながら、学校へ通っていたのを覚えている。何もない田舎に鉄道ができるのは、少し都会に近づいたみたいでうれしかった。調べてみると1965年から工事を開始し、1973年に国鉄伊勢線として開通したみたいだ。となると、1956年生まれのぼくは9歳から17歳の間が工事中。記憶は合っている。中瀬古駅という無人駅に、一時間に一本、のんびりとやってくる一両だけの電車。後ろから乗り込み、整理券をとって、前の方の席へ座る。前に座るのには理由がある。途中に高校が2校あって、ぼくが乗る時間は彼らの帰宅時間と重なる。後ろの方だと、南四日市駅で降りるときに、若者たちをかき分けて前方の出口に向かわないといけない。まわりを気にせず、おしゃべりやスマホに夢中になっている彼らのわずかな隙間を、「降ります」と手をあげながら縫っていくのは、けっこう勇気がいる。南四日市駅から、車がすれ違うのがやっとという広さの道を歩いていく。けっこう車が通るので、前後を気にしつつ、端っこを歩いていく。広い通りに突き当たって左へ曲がる。右手が高校のグランド。陸上部、野球部、テニス部、ラグビー部の元気な声や足音、球音を聞きながら校門に向かう。駐車場の脇を歩いて行き、学校の敷地の裏のはずれに定時制の古い建物がある。スリッパにはきかえ、職員室へ行って出勤のハンコを押し、質素な給食を食べてから、教室に向かう。4月からここの高校の定時制で非常勤講師をしている。80分授業を2コマ。「機械設計」という科目だが、要は機械設計に必要な数学の勉強をするわけだ。内容的には中学生レベル。中学生レベルと言っても、「こんなことやったっけ」という問題もけっこうあって、予習なしで行くと、質問されたらうまく答えられずに恥をかいてしまう。定時制は、できる生徒とできない生徒のギャップが激しい。できる生徒は放っておいてもいい。彼らは勝手にできない生徒に教えて回っている。できない生徒は、手取り足取り。多くて10人、少ないと3人とか5人というクラスもあって、そんな少人数に教師が2人もつく必要はあるのかと思っていたが、いつもマンツーマンに近い授業になってしまうので、1人ではとても授業を回していけない。おとなしい生徒が多いが、事情を抱えているのだろう、どう接していいのか、戸惑うことも多い。だから、すごくエネルギーを使う。帰るころにはクタクタ。帰ってからも、目が冴えて、なかなか眠れない。気楽に「先生でもやってみるか」と思って始めたことだが、決して気楽にできる稼業ではないな。6月のはじめは中間試験。「どうしたら点が取れるような問題にするか」ぼくを誘ってくれた友だちは、「いつものことだけど」と言いながら頭を悩ませている。いろいろとドラマがありそうなところだ。そうそう、昨日、授業が終わって教室を出たら、「小原田さんですか?」と声をかけられた。50代の方で、ぼくの知り合いと親しくしているそうだ。「先生ですか?」と聞くと、「いえ、生徒です」と頭をかく。定年退職をしてから、もっと勉強しないとと思って、定時制に入ったらしい。こういう人もいるのだと、楽しみがひとつ増えた。学校の先生になるなんて考えてもみなかったが、こういう流れ、ぼくは好きだ。