オオカミの化石と骨-雑記帳 その1-
オオカミの化石と骨-雑記帳 その1-オオカミの化石と骨-雑記帳 その1-犬の頭骨の模型。歯と頭骨。犬とオオカミは歯の数などが共通である。犬の頭骨と歯の図。犬とオオカミは歯の数などが共通である。犬の骨格図。全身骨格図奈良県文化財研究所による。オオカミの化石と骨-雑記帳 その1-(本文)https://ameblo.jp/canisyagi/entry-12501949475.htmlオオカミの頭骨で解る事-2 2018年03月21日(水) 09時06分34秒テーマ:ニホンオオカミ前項はオオカミの頭骨と人間の関わりに付いて記しましたが、今回は捕獲方法を述べて見ます。下記に提示する標本は大英博物館自然史館所蔵B.M.(NH)1886.1.28.1で、1884年12月に秩父地方Kotukeで捕獲されたものです。(Kotukeは旧大滝村の隣村群馬県上野村の事です。)捕獲方法は不明ですが、歯牙を含め全く損傷が見られない、数少ないニホンオオカミ頭骨標本の一つです。イメージ 1ご覧の通り完全な標本イメージ 2友人の森田氏が大英博から有料で・・・国外に在るニホンオオカミの頭骨標本は、アンダーソン採集で最期のオオカミと云われる、大英博物館自然史館蔵がもう1点、オランダ・ライデン国立民族学博物館に2点、ドイツ・ベルリン博物館に3点。国外7点の頭骨標本中6点は損傷が見られなく、ベルリン博の1点のみ後頭部が破損された状態です。国外の博物館は損傷が無い標本を求めている訳ですから当然ですが、ベルリンの1点は毛皮付きでして、メインは毛皮だったと思われます。イメージ 3鷲家口オオカミイメージ 4ライデン博所蔵・右がタイプ標本イメージ 5ベルリン博所蔵・#42983牡イメージ 6ベルリン博所蔵・#22326牡イメージ 7ベルリンの#48817牝・毛皮と頭骨・左右前肢骨国内に眼を移すと、私が知る限り同様の標本は、国立科学博物館・徳島県立博物館・広島県旧加計町寺院の3例が存在します。ただし、徳島県博・加計町寺院の2標本は肉塊・皮膚の固化付着が見られ、細部の詳細調査が難しい状態です。根付け標本を別にすれば、民家に伝わる頭骨標本の多くは、肉塊・皮膚の固化付着が見られるのですが、研究者に貸した際付着物を勝手に取り除かれた・・・そんな話を良く聞きました。ここ三十年位で見つかった標本はそうした事が有りませんが、昔は大らかなところが有ったのでしょう。イメージ 8国立科学博物館蔵M100イメージ 9徳島県立博物館管理標本イメージ 10広島県旧加計町寺院所蔵これらに準じた標本も幾つか見られますので、それらも此処に提示して置きます。イメージ 11神奈川県秦野市個人所有の標本(頬骨弓の破損)イメージ 12和歌山大学の標本は上顎右犬歯と門歯の欠損今回のテーマは捕獲方法ですので、本題に戻りますが、先ず一番判り易い高知県旧仁淀村の標本。【比較的至近距離から撃たれた(罠にかかったところを鉄砲で撃たれたと推測される)と思われる直径17mmの弾痕が右前頭骨にあり、この弾により篩骨と後鼻腔が破損している。また、犬歯と第1小臼歯の全てと左上骨第小臼歯、右下顎第2小臼歯損傷が激しい。(以下略)】なる、詳細な報告書が在ります。イメージ 13高知県旧仁淀村の標本下記神奈川県山北町の標本は、今から485年前十里木峠で、先祖が切り殺したオオカミの中の1頭で、神棚にむき出しのまま安置していたので煤けています。「頭骨の損傷が少ないのは切り殺したため」と考えて差し支えないと思います。イメージ 14山北町の個人所有標本も、下顎門歯の欠損以上は国内に遺された比較的損傷が少ない標本ですが、記載例以外にも幾つか存在します。しかし、紙面の都合もありますので、いずれかの機会に紹介します。銃・刀剣の例を記載しましたが、残された頭骨標本の多くは、身近な道具で獲られています。東京都瑞穂町高橋家の標本に関し、ニホンオオカミ研究の先達直良信夫氏は、「日本産狼の研究」で発表していますので、記載を抜粋します。【本皮標本は東京都瑞穂町石畑xxx 高橋氏所有で、本家に当たる瑞穂町石畑xxxx高橋xx氏が上顎吻端部と下顎を所持している。文久3年(1863年)以前に高橋xx氏の数代前の銀蔵氏が石畑の茶畑(桑畑という説もある)に潜んでいた狼を棒でたたき殺して採捕した。毛皮は縦に二つ折れにされていて、尾部および四肢部を欠き頭胴部のみが残存している。(中略)皮の全長は(頭胴長)126センチ、肩高の部分は33センチ、結局この大きさは、狼の生時におけるからだの大きさ(もちろん現状では皮がひからびて固くなっているので実際よりは小さくなっている)の大体を表示しているとみてもよい。顔面骨の特色は、従来知られているものの中では若干幅が広めであって、上顎の歯牙も少し大形である。下額骨にあっては、まずその骨体が頑丈であって咬筋の発達がはなはだ顕著である。この資料は東京都としてはもっとも平野部に近い地域(狭山丘陵の西端)に棲息していた二ホンオオカミの遺体であることがまず注意を引く。江戸時代以降武蔵野は特別の地域以外は広漠とした草原様の景観を有していたであろう。道路はこの平原を縫って発達していたものと思考されるが、このような大形のしかも獰猛なニホンオオカミが常に出没していたであろうことを想像すると、旅人の往来は容易なものでなかったであろうことを、私は追想するものである。】イメージ 15本家の高橋家蔵標本イメージ 16分家で所蔵する本皮標本瑞穂町の例で、先祖の口伝と残された標本が示すように、こうした形態の頭骨標本が圧倒的に多いのです。つまり、身近な道具「棒」でたたき殺したと思われる頭骨の形状です。特定の者以外銃を持つ事は出来ませんし、それを許された猟師が高価な弾を放って、商品価値が低かった動物-狼-を撃つ確率は低いとされていました。イメージ 17福井県の民家所蔵標本イメージ 18長野県上田高校蔵標本イメージ 19神奈川県の民家蔵標本上記3点の頭骨は破損状況を見れば、たたき殺された狼だったことが明らかです。これから述べる事が今回の主題なのですが、アンダーソン採集で最期のオオカミと云われる、大英博物館自然史館蔵鷲家口産頭骨標本は、「高見川沿いに在るオオカミ像の下の川で筏に乗っておって、そこへバーンと飛び込んできたと、オオカミが・・・。それでみんなで木で叩いて殺した。詳しいことはわからないんです。明治のことだからね。」・・・・が定説となっています。果たしてそうだったんでしょうか。国内外に遺るニホンオオカミの、毛皮及び頭骨標本の多くを手に取り観察してきた私は、長い間鷲家口オオカミの捕獲方法に疑問を持っていました。下に示す写真は、当該の頭骨標本です。イメージ 20上記3枚続きの写真も参考にご覧の通り1点の破損部も無い完璧な頭骨標本なのです。伝わる様な「筏師が木で叩いて・・・」云々は明らかに間違いだと考えています。近々発売される予定の山根一眞氏の著作でも、若しかしたら取り上げられるかも知れませんが、次回はその辺を突っ込んで見たいと思います。http://tanzawapithecus.blogspot.com/2019/09/the-skull-of-japanese-wolf-from.html徳島新聞より 「オオカミの頭骨」"The skull of Japanese wolf" from the Tokushima newspaper徳島新聞2019年9月8日徳島市国府町の民家の神棚の奥に「狼頭入」と書かれた木箱に収められていたニホンオオカミの頭骨が見つかったようだ(図1)。鼻先から頭の後まで約23センチ、頬骨の幅が約13センチで、歯が2本外れていたようだ。図1.神棚の木箱に収められていたニホンオオカミの頭骨図1の左側面からの写真を見る限りでは、左上顎の第1前臼歯と左下顎の第4前臼歯が無いが、歯が2本外れているとはこの2本かな?矢状隆起が大きく発達していて、Full adultの個体に見える。が、歯の摩耗が見られないので、まだ4、5歳の個体か?しかし、左右の頬骨の幅が約13センチなんて、凄い!カイイヌの頭骨には見られない大きくて頑丈な頭骨だ!それにしても、昨夜の台風の風は強かった。風圧で西側の窓が割れるのではないかと恐れたくらいだ。部屋に取り込まなかったパフィオペディラムの鉢が倒れていた。吊り下げていたのはそのまま風に耐えたようだ。玄関前の牛乳・ヨーグルト箱はひっくり返っている。隣家の屋根のテレビのアンテナが倒れている。隣の庭のパーゴラが横倒しになっている。道路を隔てた有料自転車置き場の自転車も倒れている。こんな強風の台風は初めてかな?オオカミの化石発見http://www.jca.apc.org/~kuzunoha/kawara-kaseki.htm今年の最初に流した情報ですが、会報に載せないままでしたので、こちらに掲載します。情報自体が化石なほど古くなってしまいました。170万年前のオオカミ?日本最古のイヌ属化石。東京都昭島市の多摩川の河床で、約百七十万年前の地層から日本最古のイヌ属の骨格化石が見つかり、発見者の長野県飯田市美術博物館の学芸員、小泉明裕さん(38)が十五日発表した。これまで国内最古とされていたイヌ属の化石から約百五十万年もさかのぼることから、研究者らは「現存する大陸型の大型オオカミの先祖の可能性もある」としている。小泉さんは三十日、早稲田大で開かれる日本古生物学会で発表する。飯田の男性東京で発見 150万年さかのぼる。小泉さんによると、発見地点は多摩川の河床に露出する「上総層群」で、化石は頭骨の一部、左下のあごの骨や、上腕骨など一頭分の前半身の骨計三十四点。上腕骨の関節上部に、イヌの仲間に特徴的な直径約五ミリから十ミリの穴があることなどからイヌ属と推測。下あごの化石からオオカミに似た大型のものであることが分かった。さらに長谷川善和・横浜国立大名誉教授の鑑定で、「日本最古のイヌ属」との結論に達した。日本の鮮新世-前期更新世(約五百万-七十五万年前)ではゾウやシカの化石がほとんどで、陸生の肉食動物の化石としても初の発見という。化石は、下あごの第一大きゅう歯の長さが約三十ミリと、絶滅したニホンオオカミより一回り大きいのが特徴。カナダやユーラシア大陸北部に生息するイヌ属最大のタイリクオオカミや、日本各地で化石が発見されている大型の「化石オオカミ」に近い大きさだった。これまで日本で最古のイヌ属とされていたのは、一九七〇年代に静岡県引佐郡引佐町の谷下地区で発見された化石オオカミ。約十万年から二十万年前の地層から発掘された。小泉さんは「今回の化石の時代は、日本列島と中国大陸が、くっついたり離れたりしていた。同時代の化石が中国やイタリアなどでも発見されており、それらとの比較で、日本への動物の移入過程を考える手掛かりになる」としている。今後、現生種とつながりがあるのか、絶滅した新種なのかを含めて調査する。小泉さんは化石の研究者。一九九一年にも、神奈川県愛川町の二百五十万年前の地層から、日本最古のサルの化石を発見している。 長谷川善和・横浜国立大名誉教授の話 動物の大きさは気候や場所などによって変わる。大陸や日本で同じ大きさのオオカミが百数十万年前にも存在したことは、非常に興味深い。中日新聞 社会面 2000/01/16より。抄録https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaqua1957/42/2/42_2_105/_article/-char/ja/鮮新-更新統,加住礫層上部の泥層から大型のイヌ属,Canis(Xenocyon)falconeriの骨格化石が発掘された.化石包含層の上位層に挾まれる第2堀之内タフの年代が約1.6Maと推定されることなどから,本報告のイヌ属化石の年代は1.8Ma前後と考えられる.本骨格化石は広い範囲に分散した産出状態を示すが,1個体分のものと考えられる.臼歯の大きさは,現生種ハイイロオオカミCanis lupusの亜寒帯地域に生息する亜種の大きさに匹敵する.裂肉歯の形態は,上顎第1大臼歯のhypoconeがprotoconeよりも小さく,遠位側に位置し,下顎第1大臼歯のentoconidがhypoconidに比べてかなり小さいが,舌側に独立した咬頭で,hypoconidよりもやや近位にあり,中程度に純肉食性に特殊化している.また,上顎第4前臼歯は低冠歯で,protoconeが小さく,下顎第3大臼歯がある.このイヌ属化石の産出は,日本の鮮新-更新統から初めての記録であり,日本の鮮新-前期更新世の脊椎動物相の成立を検討する上で,重要な価値を持つものである.引用文献 (15)Berta, A. (1988) Quaternary evolution and biogeography of the large South American Canidae (Mammalia, Carnivora). Univ. California Publ. Geol. Sci., 132, 1-149.長谷川善和(1998)日本のオオカミ化石の変遷.中村一恵・樽創・大島光春編「オオカミとその仲間たち-イヌ科動物の世界」:62-65,神奈川県立生命の星・地球博物館.黄万波・計宏祥・〓氏〓(1991)洞穴与地層.馬風珍編「巫山猿人遺址」:10-15,海洋出版社,北京.黄万波・〓志楷(1991)脊椎動物化石,食肉目.馬風珍編「巫山猿人遺址」:92-112,海洋出版社,北京.伊藤久敏・谷口友規・篠原謙太郎・江藤哲人(2002)多摩丘陵上総層群中に含まれる前期更新世テフラのフィッション・トラック年代.第四紀研究,41,421-426.関東平野西縁丘陵研究グループ(1995)関東平野西縁丘陵の地質(1).地球科学,49,391-465.倉川博・間島信男(1982)加住北丘陵の層序について.関東の四紀,9,39-48.倉川博・多摩川足跡化石調査団(2000)昭島市の多摩川河床に露出する加住礫層から発見されたアケボノゾウ足跡化石とその年代・古環境.日本第四紀学会講演要旨集,30,102-103.小泉明裕(2000)関東平野西南部の鮮新-更新統,上総層群相当層の古生物群集(特に古脊椎動物)の産出層準について.日本第四紀学会講演要旨集,30,30-31.小泉明裕・福嶋徹・長谷川善和(2000)東京西部の鮮新-更新統加住礫層産のアケボノゾウ,カズサジカおよびイヌ属(予報).日本古生物学会2000年年会予稿集,78. Palmqvist, P., Arribas, A. and Martinez-Nvarro, B.(1999)Ecomorphological study of large canids from the lower-Pleistocene of southeastern Spain. Lethaia, 32, 77-88. Rook, L. (1994) The Plio-Pleistocene Old World Canis (Xenocyon) ex gr. falconeri. Bollettino della Societa Paleontologica Italiana, 33, 71-82. Saunders, J. J. and Dawson, B. K. (1998) Bone damage patterns produced by extinct hyena, Pachycrocuta brevirostris (Mammalia; Carnivora), at the Haro river quarry, northwestern Pakistan. Tomida, Y., Flynn, L. J. and Jacobs, L. L. (eds.) Advances in Vertebrate Paleontology: 215-242, National Science Museum Monographs, No. 14, Tokyo.佐藤時幸・亀尾孝司・三田勲(1999)石灰質ナンノ化石による後期新生代地質年代の決定精度とテフラ層序.地球科学,53,265-274.高野繁昭(1994)多摩丘陵の下部更新統上総層群の層序.地質雑,100,675-691.著者関連情報 被引用文献 (2)Maria Rita Palombo. Discrete dispersal bioevents of large mammals in Southern Europe in the post-Olduvai Early Pleistocene: A critical overview. Quaternary International. 2017, Vol.431, p.3.Bienvenido Martínez-Navarro, Lorenzo Rook. Gradual evolution in the African hunting dog lineage Systematic implications. Comptes Rendus Palevol. 2003, Vol.2, No.8, p.695. © 日本第四紀学会http://www.gmnh.pref.gunma.jp/wp-content/uploads/bulletin24_1.pdf原著論文http://www.gmnh.pref.gunma.jp/wp-content/uploads/bulletin24_1.pdf群馬県立自然史博物館研究報告(24):1-13, 2020 Bull.Gunma Mus.Natu.Hist.(24):1-13, 2020 受付:2019年12月10日; 受理:2020年1月24日日本産後期更新世の巨大狼化石 Late Pleistocene Megacanid (Mammalia, Canidae) fromYage Limestone Quarry, Central Honshu, Japan.HASEGAWA Yoshikazu1, KIMURA Toshiyuki1and KOHNO Naoki2長谷川善和1・木村敏之1・甲能直樹2群馬県立自然史博物館:〒370-2345 群馬県富岡市上黒岩1674-1。国立科学博物館地学研究部生命進化史研究グループ:〒305-0005 茨城県つくば市天久保4-1-1。要旨:静岡県浜松市北区引佐町谷下の小石灰岩体の裂罅堆積物中より発見された巨大狼について記述する.それは1960年夏,二人の中学生によって見つけられた.この標本は左右揃った下顎骨で歯もかなり良く保存されていて,その大きさはアメリカのロスアンゼルスのタールピットより産出している第四紀更新世の巨大狼 Dire wolf,Canis dirus LEIDYに比較される.はじめに 日本にはかつて北海道にエゾオオカミCanis lupus hattaiKISHIDA(1931)が,本州にはニホンオオカミCanis lupushodophilax TEMMINCK(1839)がいたが,両者とも人為的な消滅行動により明治時代末に姿を消した.ニホンオオカミがまだ生きていることを信じて熱心に調査している人達はいるが,1905年に奈良県吉野郡小川村鷲家口で捕獲された個体を最後に確かな生き残りは発見されていない.おそらく,エゾオオカミもニホンオオカミも明治時代に人間によって絶滅したものといわれているのが現実的なことと思われる.米国人Brett L. WALKERは“The last wolves of Japan”をWashington大学から出版した(Walker, 2005).驚くほど多くの論文から地方の新聞記事まで情報を収集し,多彩な議論をしている興味深い本である.本の内容は,(1)オオカミ像の形成.(2)狂犬病に罹った人殺しオオカミとの闘い.(3)科学的農業とエゾオオカミの撲滅.(4)オオカミ駆除に対する賞金.(5)オオカミ絶滅理論と日本の生態学分野の誕生.といったものである.この中でオオカミに関与した日本人は実に多い.かなりの人達は学会などで話しを聞いたり,個人的に付き合いのあった人もいて知っている人が多いが,知らない人の名前も出てきたり,随分と古い本や関係した人まで出てきて,これからオオカミの研究をする人は読まなくてはならない著書である.長年懸案の問題は日本犬とニホンオオカミの関係,ニホンオオカミとエゾオオカミの系統関係についてであり,関心を深めてきた人達は多いが,実に驚くべきことは研究を進めるには誠に対象として扱える標本が少ないのである.直良(1965)の「日本産狼の研究」によると,1945(昭和20)年5月25日に大東亜戦争で空襲を受けたとき大部分の資料を焼失し,それ以降のものを中心に書かれたといわれるが,個人所有のものが多く公的機関に所蔵されない限り,再検討はかなり困難と思われる.http://www.gmnh.pref.gunma.jp/wp-content/uploads/bulletin24_1.pdf日本産後期更新世の巨大狼化石 長谷川善和・木村敏之・甲能直樹Late Pleistocene Megacanid (Mammalia, Canidae) fromYage Limestone Quarry, Central Honshu, Japan.HASEGAWA Yoshikazu1, KIMURA Toshiyuki1 and KOHNO Naoki21Gunma Museum of Natural History:1674-1 Kamikuroiwa, Tomioka, Gunma 370-2345, Japan 2National Museum of Nature and Science, Tokyo:4-1-1, Amakubo, Tsukuba, Ibaraki 305-0005, JapanAbstract: We describe the megacanid mandible from the Upper Pleistocene fissure sediments at the northeastern sideof Lake Hamana, Central Honshu, Japan. Discovered by two junior high school boys, it is a rather well-preservedmandible larger than other fossil Canis specimens in Japan. The size of the mandible is closer to that of Canis dirusfrom the Late Pleistocene of North America. Also, M1 size of this specimen is the same as the M1 specimens from theUpper Pleistocene Shiriyazaki cave sediments, Aomori, northern Honshu, reported by Naora (1954) and Saito (1957).Key words: Shizuoka Prefecture, Hamamatsu-shi, Aomori Prefecture, Shiriyazaki, Limestone fissure, Late Pleistocene,Large grey wolf, Megacanid, Canis dirus.長谷川善和 木村敏之 甲能直樹群馬県立自然史博物館:〒370-2345 群馬県富岡市上黒岩1674-1 2国立科学博物館地学研究部生命進化史研究グループ:〒305-0005 茨城県つくば市天久保4-1-1要旨:静岡県浜松市北区引佐町谷下の小石灰岩体の裂罅堆積物中より発見された巨大狼について記述する.それは1960年夏,二人の中学生によって見つけられた.この標本は左右揃った下顎骨で歯もかなり良く保存されていて,その大きさはアメリカのロスアンゼルスのタールピットより産出している第四紀更新世の巨大狼 Dire wolf,Canis dirus LEIDYに比較される.はじめに日本にはかつて北海道にエゾオオカミCanis lupus hattaiKISHIDA(1931)が,本州にはニホンオオカミCanis lupushodophilax TEMMINCK(1839)がいたが,両者とも人為的な消滅行動により明治時代末に姿を消した.ニホンオオカミがまだ生きていることを信じて熱心に調査している人達はいるが,1905年に奈良県吉野郡小川村鷲家口で捕獲された個体を最後に確かな生き残りは発見されていない.おそらく,エゾオオカミもニホンオオカミも明治時代に人間によって絶滅したものといわれているのが現実的なことと思われる.米国人Brett L. WALKERは“The last wolves of Japan”をWashington大学から出版した(Walker, 2005).驚くほど多くの論文から地方の新聞記事まで情報を収集し,多彩な議論をしている興味深い本である.本の内容は,(1)オオカミ像の形成.(2)狂犬病に罹った人殺しオオカミとの闘い.(3)科学的農業とエゾオオカミの撲滅.(4)オオカミ駆除に対する賞金.(5)オオカミ絶滅理論と日本の生態学分野の誕生.といったものである.この中でオオカミに関与した日本人は実に多い.かなりの人達は学会などで話しを聞いたり,個人的に付き合いのあった人もいて知っている人が多いが,知らない人の名前も出てきたり,随分と古い本や関係した人まで出てきて,これからオオカミの研究をする人は読まなくてはならない著書である.長年懸案の問題は日本犬とニホンオオカミの関係,ニホンオオカミとエゾオオカミの系統関係についてであり,関心を深めてきた人達は多いが,実に驚くべきことは研究を進めるには誠に対象として扱える標本が少ないのである.直良(1965)の「日本産狼の研究」によると,1945(昭和20)年5月25日に大東亜戦争で空襲を受けたとき大部分の資料を焼失し,それ以降のものを中心に書かれたといわれるが,個人所有のものが多く公的機関に所蔵されない限り,再検討はかなり困難と思われる.ニホンオオカミとエゾオオカミの問題について述べると,エゾオオカミは大陸型のものでかつて大陸から北海道と本州に渡来したが,最後の氷期後(2万年前頃),本州のものは島嶼型に小型化してニホンオオカミとなったという考え(中村,1998a,b)と直良(1965)のイヌとの交雑,不自然な生活環境における影響によるものといった考えを取り上げている.Walker(2005)は中村の説に近いのかもしれない.なぜか次のことには触れていない.斉藤(1964)のように,日本犬の祖先を求める中でニホンオオカミや化石オオカミに関心を抱いて形質的な追求をしてきたことや,ニホンオオカミはエゾオオカミの縮小型ではない別物だという考え(今泉,1969,1970a,b)は全く触れられていない.しかし,最近のミトコンドリアDNA全配列に基づく分子系統解析によるとニホンオオカミが単系統性を示す.そして,エゾオオカミは北米オオカミに近縁であるというMatsumura et al. (2014)の成果が紹介されている(増田,2018).まだ日本のオオカミの系統地理について議論するには問題があるといえる.北海道では化石産地として知られるところがなく,エゾオオカミの化石と思われる確かなものは知られていないが,本州・四国・九州では各地の石灰岩体の裂罅や洞窟堆積物から大陸型オオカミの遺骸が産出して多くの記録がある.Shikama (1949),直良(1965),斉藤(1964),長谷川(1998, 2013),長谷川ほか(2015)などに報告があるが,まだ未報告のものもかなりある.不完全な標本が多いこと,洞窟堆積物から採取されたものは採集者が地質学的教育を受けてないために産状等の記録が明らかでないなど,様々な条件によって十分な検討がされず放置されていたことなどにもよるが,実際のところ洞窟探検家による発見が大部分である.記録だけ残しておこうかと思っても,なにがしかの比較標本が揃わないことや,関係する報告書などを揃えることもかなり難しいことが多くいつまでも引き延ばされてきた.これではいつまでも問題解決ができないので,多くの人達の目に触れ議論が出来るよう,素材を公にすることを優先することにしたいと思い,今回その一部を記録したところである.エゾオオカミとニホンオオカミに関していえば,近代まで相当数生存していたにも関わらず,実際の標本の数が少ない.ニホンオオカミに関しては近年かなりの数が知られている(北村ほか,1999; 長谷川ほか,2004).それでも数量が少ないためにまだ研究上の問題が多い.もう一方,大きな問題は本州の大型オオカミは大体縄文時代以前に存在し,小型オオカミ(ニホンオオカミ)は縄文時代以降のものであるが,この両者の間にどのような問題があるかというと,ニホンオオカミは大型オオカミ(タイリクオオカミと考えてよい)が島嶼化により小型化したものだという考え(中村,1998a, b)とニホンオオカミは大型オオカミとは違う系列のものだという考え(今泉,1969,1970a, b)の違いがある.今泉はニホンオオカミの特徴として,顔面部の形状がほとんど直線的で,骨と骨口蓋後縁(縫合部)が凹んでいること,側頭窩下部にある孔が6個でイヌより1個多いことに注目している.しかし,関連する種類についてはほとんど議論されていない.ところが大型オオカミの標本(例えば直良, 1965;長谷川ほか, 2013)では破損していて良好なものがほとんどなく,こうした点について検討できるものがほとんど知られていないので,長い間このような問題について議論されていない.今回報告する静岡県浜松市引佐町谷下(やげ,Yage)の材料はいずれも下顎歯のみで,上記の問題の解決に寄与するところはあまりないが,旧石器時代に日本に生存していた大型オオカミの変異幅の増大の様相を知る上で意義が大きいといえる.また,Saito(1957),斉藤(1964)および直良(1965)によって以前記録された化石(同じ標本)は,青森県下北郡東通村尻屋の日鉄鉱業株式会社の石灰岩採掘場より得られた標本で,世界最大の左下顎第一臼歯として報告されているがあまり知られていない.今回破片で計測点がとり難い標本NSMT 24856を1点識別できた.既報告のNSMT24854より僅かに大きいと思われる破片である(図版Ⅳ-F).これらは中島全二氏から長谷川に譲渡されたもので,国立科学博物館に所蔵した.ここのオオカミ標本は下顎臼歯など11点(NSMT24854 ~ 24864)である.採集者の中島全二氏の案内で長谷川が現地を視察した時,すでに採掘場は消失していて産状等の観察はできなかった.筆者らがその後,中島全二氏のいう採集地点より低位にある海水面より30数m上のトンネル内から複数個体(若~老)のオオカミを採集しているが,両者の間に堆積物の連続性があったかどうかは全く不明である.中島氏のオオカミCanis lupusとの共産化石にはナウマンゾウ Palaeoloxodonnaumanni, ヤベオオツノジカ Sinomegaceros yabei, ヒグマUrsus arctos, トラ Panthera tigris などがあって,トンネル内からも同様の種類が産出している.広義には後期更新世のもので同一時代と言えるが産出地点に高度差があり,また,トンネル内からはとくに海生哺乳類の種類と量が多く(未記載),鳥類(Watanabe et al., 2015, 2016, 2018a, b, c)が多いなど,種類や含有量ではトンネル内の化石量が圧倒的に多い.これは,明らかに堆積環境と年代差があるといえる.谷下採石場の巨大狼化石1953年,鹿間と長谷川が静岡大学の望月勝海教授と鮫島輝彦助教授(いずれも当時)を訪問したのは,横浜国立大学に最近脊椎動物の化石を入手したという連絡を受けたことによる.そこではトラとヒグマの部分骨を拝見し,標本は研究のために横浜へ持ち帰った.それから化石の採掘場所について紹介を得て,静岡県引佐郡井伊谷村白岩(現在の浜松市北区引佐町白岩)の石灰採掘場を尋ねた.オオカミの標本数点を入手したが,静岡大学の標本と同一場所かどうかは確認できなかった.この採石場は,磐城セメント工業白岩鉱山と呼ばれていた.その東側に小さい谷をへだてて河合石灰鉱業所の谷下採掘場がある.長谷川はこれらの石灰岩体と同一系統に分布する石灰の採石場を訪ねて,石灰岩体の裂罅や洞窟堆積層とそれらに内蔵されている更新世の脊椎動物について研究を進めていた.1960年頃当地へ調査に出かけた折,浜松市内から化石採集にきていた柴田健雄・峰野浩一郎という二人の中学生に会った.丁度彼等はかなり保存の良いオオカミの左右が揃った下顎骨の化石を発掘したばかりで,長谷川にその化石の種名を質問してきた.イヌの仲間と思ったがあまりに大きくて種名を言い当てることができなかった.そこで二人に調査することを約束して標本の寄贈をして貰った.それ以来,巨大狼であることは判断できたが,種名あるいは亜種名を決めることがなく何年も経ってしまった.それは比較標本が揃わないことが最大の理由であったが,そのことは現在でもあまり変化はない.白岩鉱山は岩体が谷下採石場より大きかったが,採掘が早くて短期間で閉山となった.ここから採集された標本は小型哺乳類が多く,中でも絶滅食虫類 Anourosorex(SHIKAMAand Hasegawa, 1958)の多い化石床があった.こうした脊椎動物包含岩層を総称して都田累層が提唱された(鹿間ほか,1955).ここではその層準について考えてみることにしたい.谷下採石場の地層と古生物採石場の地層は,赤石山脈の走向する(北東-南西方)方向に中・古生代の基盤岩が配列し,その中に点々と石灰岩塊が分布する(磯見・井上,1972).東側では旧石器時代の浜北人が産出した根堅のブロック,白岩・谷下のブロック,そして西に三ヶ日,愛知県では石巻のブロックと続いているがいずれの岩体も小さい.石灰岩体中の化石は結晶化しているためにあまり明瞭ではない.ここ谷下は浜名湖の北東の引佐細江に流入する都田川の川口のすぐ北側に,井伊谷川という支流があり,その東側の三岳山の南麓にある石灰採石場が在る.国鉄金指駅の北方およそ2kmの地点にあたる.同町の河合宏氏が稼行し,河合石灰採石場と呼ばれていた.河合石灰採石場での地質および古生物に関する報告書はかなり多い(鹿間ほか,1955; Shikama and Hasegawa, 1958;高井ほか,1958;上野,1965; Rzebik-Kowalska and Hasegawa,1976; 冨田,1978; 浜松北高地学部, 1979;河村・松橋,1989; 野嶋,2002; 野嶋ほか, 2014; Handa, 2015など).この河合石灰採石場の石灰岩は結晶質で化石は発見されていないが,近くの相当層から Pseudofusulina, Schwagerina などのフズリナ類が認められ,下部二畳系を示すと考えられている(磯見・井上,1972).谷下の石灰岩の裂罅堆積物は谷下層と呼ばれているが,冨田(1978)が上下二層に分けた.下部層は白色および褐色ないしオリーブ色粘土層で,淡水性コイ科魚類のコイ・フナやニホンムカシジカ Cervus(Nipponicervus)praenipponicus,ワニ類 Toyotamaphimeia,(AOKI, 1983; Iijima et al., 2018)カワウソ Lutra sp.,ハナガメ Ocadia sinensis などが報告されているが,中でも上野(1965)による Distoechodon cf.tumirostris と別種のコイ・フナなど魚類遺骸群集の密集層は5層以上あり,個体の全体像の把握はできないほど分離した骨の集合した層で,浜松北高校生がまとめた推定総数は9000万匹になるという.筆者等は検証できていないが相当量の死骸の掃き溜め層であった.これらのうちDistoechodon は中国の揚子江以南に現生種が生息するものに近く(上野,1965),ワニ類およびハナガメなど明らかに現在の浜名湖の気候より温暖なものが多くいたことが明瞭である.ワニ類は少なくとも数体分が識別されている(浜松北高地学部,1978; 中島・長谷川,1982; 中島,1983MS).この下部層の上に不整合的に洞窟裂罅堆積物として残留粘土あるいは石灰岩礫の他に周辺の砂礫類と思われるものがみられるが,堆積状況は小規模な範囲では観察できるが大規模な範囲では明瞭でない.次々と石灰岩の採掘により土砂が移動させられるからである.概観するに比較的大きな裂罅堆積物といえる.この層は上部谷下層という(冨田,1978).ここから哺乳類21種,両生類3種,爬虫類3種,鳥類4種を記録している.河村・松橋(1989)は,第5地点とした所から爬虫類4種,翼手類5種,齧歯類5種,哺乳類は食肉類2種,偶蹄類1種など17種を記録している.野嶋(2002)の報告では,浜松北高の生徒たちが1967 ~ 1976年間に約1000個採集し,その内訳は哺乳類24種,両生・爬虫類2種があったという.3者の構成種はほとんど同じといえる.こうしたものを総合すると,ナウマンゾウ,ヤベオオツノジカ,ヒグマ,トラ,オオカミ,クズウテン,ニホンモグラ,ジネズミなど絶滅種を含んだ陸生脊椎動物約30種類の遺骸群集である.この構成種は後期更新世のPaleoloxodon-Sinomegaceros 動物群(Hasegawa, 1972)の範囲に入り,葛生層上部層(Shikama, 1949)に対比される.亀井ほか(1968)ではBiozone QM5に,その後の河村・松橋(1989)ではQM6にあたる.ここに報告する巨大狼としたものは1960年頃の採集によるが,当時は石灰岩採石のため大量の崩壊された残留堆積物中から採取されたもので詳細な原堆積状態は全く不明である.浜名湖東側の広大な扇状地は天竜川から運び出されて堆積した扇状地堆積物で,いわゆる三方ヶ原台地を構成する礫層で,その下位には佐浜泥層(槙山,1924b;井上,1956)がある.佐浜泥層の代表的な化石はナウマンゾウ(Makiyama, 1924a)で,多くの海生貝類化石が報告(脇水,1918)されている.地形からみて上部谷下層は三方ヶ原礫層に下部谷下層は佐浜泥層に対比できると思っているが,下部谷下層の下部にみられた白色の凝灰岩は佐浜泥層の下位層に対比されると考えられている(野嶋ほか, 2014).巨大狼の記載Order Carnivora Bowdich, 1821Family Canidae Fischer, 1817Genus Canis Linnaeus, 1758Canis lupus Linnaeus, 1758(図版Ⅰ~Ⅳ)発見者:柴田健雄・峰野浩一郎発見場所:静岡県浜松市北区引佐町谷下,河合石灰採掘場標本(NSMT 5634)は左右の下顎骨で歯はI1 2本,P1 2本,M3 1本が欠損しているが,その他の歯は磨耗が激しいが植立している.右I3は下顎骨と同じ場所で遊離歯として採集されたもので,静岡県磐田市の石代二三二氏から浜松市博物館の向坂鋼二氏を通じて送られてきた.左I3と比較したところ磨耗状態が同じであり,右I3の歯槽にほぼ一致することが判明した.この下顎骨の標本は歯の磨耗が激しいが歯もほとんど抜け落ちていないので,研究上極めて重要な資料である.かなり老齢な年齢といえる.左下顎骨(図版IのA, ⅡのA, Ⅲの左側,ⅣのB, C, D)左下顎骨は10片以上に亀裂が入っていて,M1の舌側と頬側の顎骨が欠けている.筋突起(coronoid process)先端を欠くが,下顎の形状についての形態的観察はおおよそ可能である.各歯牙の先端は著しく磨耗が進み,一部とくにM1の中央は欠損と発掘時の損傷と考えられる不自然な凹みがみられる.I1とP1の歯は歯槽内に石灰華が充填しているので,埋堆積過程で抜け落ちたものといえる.各歯牙の咬頭はすべて磨耗によって先端は尖っていない.しかし,各歯牙の大きさなどを知る外形の状態は問題ない.I3の主咬頭は側咬頭のレベルまで磨耗しており,側咬頭も先端が磨減している.前臼歯の主咬頭の後位にある側咬頭はP2からP3まである.第1臼歯(M1)の主咬頭の頬側破損とそれに連絡して後端歯頚部の浅いU字形の凹み(タロニッド)は発掘時の人為的な損傷と思われるがよくわからない.後端の低部はほぼ平らに磨減している.M2・M3の小咬頭はその存在を知ることができる程度である.下顎関節突起(condylarprocess)は,ほぼ完形であるが,下側の先端は僅かに欠損している.Dire wolfのレプリカ(VAP S049)と比較すると,歯牙の大きさでは切歯と犬歯は谷下標本の方が大きい.前臼歯列はVAP S049の歯が若干大きいのと各歯牙の間に歯隙があるため顎骨の長さが長いが,臼歯列は谷下標本の方が大きい.下顎関節突起は小さいが,下顎体の高さはほとんど変わらない.Dire wolf の下顎犬歯と第1前臼歯間はひどく凹み,前顎部分が大きく際立っているがこの種の一般性なのか個体の特徴なのかは今後の検討課題である.右下顎骨(図版IのB, ⅡのB, Ⅲの右側, ⅣのA, B)下顎関節突起は欠如しているが,破損面は新鮮であるところからみて発掘時に破損してしまったと思われる.下顎体は左側と同様な亀裂が多い.P4からM2にかけて下顎体が不自然に膨らむ.M1の下部は頬舌双方に最も大きく豊隆する.病変と思われるが,骨の表面は正常部とそれほど変わっているようにはみえない.下顎筋突起は完全に残っている.歯牙はI1,P1,M3が抜け落ちている.I3は先述したように石代氏が採集したものがほぼ一致する.下顎おとがい孔はP3の下とP1の下に大きいのが開口する.残っている歯の磨耗は進んでいて,右側の状態と同様である.P2とP3の咬頭は主咬頭と遠心の側咬頭が同じ高さになるほど磨耗している.P4は頬側の歯冠が破損しているが磨耗はP3より弱い.M1の近心咬頭と主咬頭は頬側前位に傾いた大きな磨耗面ができているが,上顎P4との強い咬耗のためと見受けられる.考察日本の後期更新世にかなり大型の巨大狼が生存していたことは静岡県と青森県の標本でも確認できた.その他に単離した犬歯などかなり大型と考えられる標本もあるが,単品で産状などについて不確かな点もあるので,今回の検討から除外した.今回報告した下顎骨二点と同一層準から共産する化石の中で重要なものはナウマンゾウ Palaeoloxodon naumanni やオオツノジカSinomegaceros yabei 動物群に入る.また,北方系のトラPanthera tigris,ヒグマ Ursus arctos,オオカミ Canis lupusなども共通しており,地層の年代は巨視的にはほぼ同じと考えてさしつかえない.大陸北部からの渡来といえる.いわゆるタイリクオオカミ Canis lupus の中で更に細分するかどうかは議論の多い所であるが,共産する他のオオカミ標本はここに報告した巨大狼標本より小さい.共産した他のオオカミと比較すると谷下の巨大狼標本は年を取っていることも事実で,いわば属する群れのリーダーであったものと思われる.尻屋崎標本(NSMT 24854)は歯冠の咬耗がほとんど進んでおらず,この個体は明らかに若い.図版ⅣのD-3に示した破片(NSMT 24855)はこれより僅かに大きいかほとんど同大である.Saito(1957)および斉藤(1964)が世界最大級のオオカミとして報告したものは,直良(1965)にも図などの記述がある.直良(1965)の24頁の図14に写真が,29頁の図16には計測とメモリのついた縮小版のスケッチ図が6点あり,その中の第3図のM1が世界最大と書かれているが,残念ながらこの図からは正確な値を計算できない.しかし,実物があるので斉藤の扱った標本と同じものであることが確認できる.直良は中島全二氏から鑑定のために送られてきた大量の骨を識別しているので,その折の記録であることがわかる.千葉(1995,p.150)の紹介は斉藤から引用しているが,このオオカミは大きさからしてタイリクオオカミとして扱わなければならないだろうとしている.平岩(1986,p.15-16)にある短報はどちらからの引用であるかわからない.谷下の左右下顎骨と尻屋崎の下顎第一臼歯は,表1でみるとアメリカ南部に分布していた大型のDire wolf(Canisdirus)に匹敵する大きさであることがわかる.2点の計測値はDire wolfの範囲でも決して小さい方ではない.現生オオカミと比較すると最大級であるといえるであろう.筆者等の近くにDire wolfの現物はないが,レプリカ(VAPS049)で比較できるものと比較を行ってみた(表2).これで見ると臼歯に関しては2点の標本と大旨同じと言える大きさであるが,切歯などは谷下の下顎切歯の方がむしろ大きい.異なる点はVAP S049では臼歯,特に前臼歯間の歯隙が大きいため下顎が少し長い.また犬歯の後部から第一前臼歯間の顎骨(上顎犬歯との咬合部)が大きく舌側に窪み,下顎犬歯の歯根部が外方に大きく張り出し,後部が内側に強く凹んでいるが谷下の下顎骨にはほとんど窪みはない.むしろ直線的である.これはVAP S049の個体の特徴かどうかは今後検討をしなければならない.ニホンオオカミと本州の化石オオカミは年代で言えば大旨縄文時代前は大陸型オオカミで,ニホンオオカミは縄文時代以降に出現している.しかし,両者の関係を議論するには小型の化石オオカミとの形態的比較がより重要であるが材料が少なすぎるので今後の問題である.単純に大陸型のオオカミが島嶼型に変わったと言える材料は今のところない.むしろ,ヒグマ,トラなど北方系の大型獣も南方系のナウマンゾウ,ヤベオオツノジカなど大型哺乳類がほとんど絶滅していることに注目すべきと考える.今泉の指摘しているニホンオオカミにみられる口蓋部後縁のV字型の切れ込みは極めて特徴的で,日本犬やタイリクオオカミでは我々は見た事が無い.最終氷期にマンモス,トナカイ,ヘラジカなどと共に進入した可能性も考慮に入れる必要があるが,彼等の日本への進入に際して他にどのような種類がいたかを考える材料は今のところ部分的で,充分な種類が見つかっていない.日本犬との関係もまだ決定的な材料はない.谷下の第5地点から1977年の夏に採集されたシカ類を使った14C年代から18,040±990yBP(GaR-11494)が今のところ唯一の年代測定値(河村・松橋,1989)であるが,ここに報告した巨大狼との関係は定かでない.かなり近い値としてみると花泉(Norton et al., 2007)や野尻湖(野尻湖哺乳類グループ, 1987, 1990, 1993, 1996, 2008, 2010)など旧石器時代と連続してくる.アメリカ・カリフォルニア州ロスアンゼルスのRancho La Breaから得られた骨の14C年代(Fuller et al., 2005)は10,710 ~ 44,650yBP で27,000 ~ 28,000年代が一番多い.すなわち最終氷期における大型哺乳類の放散あるいは絶滅問題に関係する北半球の事件にからむ年代であり,現代人の出現と活動がはじまった,いわば日本における旧石器時代人の諸相を知る時代にあたり,地球規模での気候変動と現代人類の出現とからんだ重要な時期にあたるので多くの問題に注意していかなければならない.謝辞採石場での調査に協力いただいた河合宏所長,巨大狼を発見した柴田健雄と峰野浩一郎両氏は標本を研究のために寄贈された.また,このことについて書いた小記事を見て,同地点から採集した切歯一本を保管していた石代二三二氏は,向坂鋼二氏を通じて送って下さった.このことによって標本がより充実したものとなった.研究のため標本の検討を許可いただいた国立科学博物館,比較標本の利用をさせていただいた群馬県立自然史博物館,ミュージアムパーク茨城県自然博物館,報文をまとめるにあたり,関連する論文などの補完にご協力いただいた小原巌,加藤太一,樽創,小泉明裕,髙桒祐司,中島秀一等諸氏と各研究機関の方々に厚く御礼申し上げます。引用文献阿部 永(1994):日本の哺乳類. 東海大学出版会,東京,195pp.安部みき子(2001):ニホンオオカミとモンゴルオオカミの数量的比較表の試み.フォレスト・コール,8: 22-23.Aoki, R. 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