|
カテゴリ:1977年頃のディスコのお話
秋晴れの土曜日、派手やら地味やらの混合バンドの一団は赤羽線十条駅に降り立ったのでした。
「いやー、ちょっとやばいんじゃないのここら辺」 やたら興奮する委員長を尻目に、一団は目指す家政大学へ早足で進みます。 「ロニーさん、僕達ってちょっと目立ち過ぎてません?ここらで」 同じく動揺を隠せないKG。 わけもなく多少興奮気味の我らがバンドごっこのメンバーはコンサート会場の教室に到着しました。 いわゆる大学の教室ですが、それとなく飾り物などが施してあり、模擬店風に飲み物なども売っていたりして、ちょっとしたライブハウスといった面持ちでした。 プログラムは4バンドの出演となっていましたが、委員長のバンドは名前がなく、「正宗&ザ・バンド」となっていました。 どーゆーことかムラちゃんに尋ねると、アッちゃんの芸名が正宗だそうで、ロニーズバンドはレパが2曲しかないので、いくらなんでもバンド名はオコガマシイので、アッちゃんのバックバンドということになったようでした。 しかし、アツシ君のセンス、凄いですねぇ、「正宗」って何だか刀匠みたいですね。 岩窟王の方がピッタリと来る感じなんだけどなぁ。 ということで、対バン(対抗するバンドのことです)はフォーク系ポップスバンド、ヘビメタ系(当時はヘビーメタルという呼び方はありませんでしたが)ロックバンド2組、そして我らがロック&ソウルバンドの4グループが演奏を競い合うのでした。(笑) 教室の裏の通路のようなところが楽屋になっていて、ここで皆持参したそれなりの衣装に着替えます。 アッちゃんはいつもの赤のボタンダウンのシャツから青のボタンダウンに着替えます。 (ほとんど意味がわかりません) H氏はなんと昇り竜の刺繍の入ったガウンを羽織ります。 さらにミニアフロのカツラにサングラスとかなりの入れ込みようです。 その姿に一同「おおっ~」と声が上がります。 「昨日吉祥寺で見つけて買って来たんだよね。これでかなりソウルバンドでしょ」 と、かなり自信アリの表情です。 シゲルは大人しいアイビー系でしたが、シャツを脱ぎTシャツの上に委員長が着てきた革ジャンを羽織って襟を立てます。 大人しい顔立ちながらもしっかりとした体格に革ジャン、Tシャツはそれなりに雰囲気が出ます。 ムラちゃんは黒のフレアーに黒のシャツ、サテンの黒ジャケットに黒のハンチングと黒ずくめのブラックマンですが、ちょっと間違えると変質者の親爺になりそうです。 そう言って委員長がからかうと、「いっひっひひー」と妙な笑い声を立てて怪しい目付きをして見せるムラちゃんでした。 そしてドラムスの石○君といえば、 「ボクは特別衣装にはこだわってませんから」 と、相変わらずの白ワイシャツに白の綿パン黒の革靴です。 そっちがこだわらなくてもこっちがこだわってるんだけどなぁ、とやや不服な委員長でした。 委員長はもちろんラメ入りのジャンプスーツです。 脇役ダンサー二人は主役の委員長を盛り立てるため、チョイ地味なお揃いのジャンプスーツで準備万端整っています。 さあ、いつでも来いってな感じで気合が入りますが、さすが主催者である企画委員会が知り合いの強みで、委員長たちのバンドの出番はもちろんトリになっています。 ちなみにこういったアマチュア・バンドの競演とかコンテストってやつは、リハーサルの音出しの段階でほとんど勝負がついてしまいます。 アンプの調整やPAのセッティングで1曲演奏すれば、大体どの程度の腕前かはわかってしまいますから、ちょっと気の小さい奴らだと本番前にビビって帰っちゃったりする場合もあったりします。 このあたりがアマ・バンドは実に面白いですね。 ファッションとか楽器とかでハッタリかましたりしますが、実際に演奏してみればその実力は一目瞭然、本番前にランキングは決まってしまうわけです。 さて、我らがアッちゃんバンドはどうだったかというと、まずメンバーの異様さとアフロ三人組みに威圧されて、フォーク系は当初よりビビリまくり、本来イケイケであるはずのヘビメタ系ですら、親爺だの若いのだの頭がデカイだのが入り混じったこのバンドの醸し出す異様な雰囲気に少々恐れを抱いているようでした。 さらに、リハーサルの音出しが始まり、次々とバンドが調整のための演奏を開始する中、なんと我バンドの若手ドラマー石○君はステージの真ん前のイスに寝転んでいるではありませんか。 これにははっきり言って委員長も驚きました。 まるで対バンにケンカを売っているような態度です。 しかし、その態度たるや、挑発というよりは明らかに相手にしてないといった風の、完全に舐めきったものでした。だってこいつ本気で寝入っちゃったんですよ。 頼もしい奴っちゃなあ。 委員長はこの時から彼の根性に一目置くようになりました。 金髪振り乱してガンガン音鳴らすメタルバンドの真ん前で、いびきかいて寝てる18歳の少年なんて想像を絶する登場の仕方です。 ルックスはイマイチかもしんないけど、たいした根性者だぜこいつは、ってなもんで、ムラちゃんはもとよりシゲル君も彼の度胸を認めざるを得ませんでした。 さあ、我らがアッちゃんバンドのリハはアッちゃん一人に任せて、あとのメンバーはかなり適当な音出しで余裕をかまします。 とは言うものの、やはりドラムはバンドの要、基本的基本ですから、ちょっと叩けば実力は歴然とします。さらにシゲルのチョッパーも軽くベンベンと弾いただけですが、すでに回りを威嚇しています。 さらにアフロ三人衆は何もしません。マイクのテストとポジションを確認しただけで終わり。益々妙なバンドは不気味さを漂わせています。 一体、何なんだよこいつらは~、みたいな感じですね。 大体バンドとかショーなんてものは、この始まる前の期待感とか不安感があってこそ本番が生きてくるものなんですね。 期待はずれってこともありますが、見るものの理解を超えた所にこそ面白さがあるわけです。(そうなの?) さて、いよいよライブハウス模擬店の開演です。 まずはちょっと若手のメタルバンドからスタートです。 ナリからして結構真面目なコピーバンドといった感じで、技術的にはまあまあでしたが、面白みのないアマチュアっぽいバンドでした。 身内が数人見にきていましたが、開演はちょっと可愛そうなくらいがらんとしていました。 続いてフォーク系バンドの登場です。 4人組みで、アリスみたいな感じのグループでした。 やりたいことは判るが実力が伴っていないといった感じです。 コーラスなんかも入れて頑張ってはいるのですが、自分たちが目指しているものと現在の実力とが噛み合っていないステージでした。 理想は高く持った方が良いので、まあそれなりに頑張って下さいってことで、おつかれさんでした。 このバンドは傾向的にも同大生徒には比較的好評で、それなりにファンのようなグループが見に来ておりました。 (しかし、ディスコっぽい演出って、誰が言い出したのでしょうか、よくわからないですね) 次はがらりと代わってちょっとプロっぽいハードロックバンドの登場です。 先程の若手メタルバンドと比べてチョイ歳喰った感じですが、金髪ヴォーカルにバックは革ジャン系のいかにもといったバンドです。(いわゆるボンデージ系みたいな) ばぁあ~ん! おっといきなりツェッペリンから入ります。 ちょっとハイトーンは苦しかったし、ドラムも結構シャバダバでハシリ気味です。 途中にレイジーが出てきたのにはちょっと意外でした。(後のラウドネスですか) ということで観客もそこそこ30人ばかりで埋め尽くされ(?)、いよいよアッちゃんバンドの登場です。青のボタンダウンシャツに黒のスリムジーンズ、妙な助平サングラスをかけた正宗ことアッちゃんはエルク社製のSGを引っさげてダミ声でシャウトします。 オリジナルなんで、聴いている方もようわかりませんが、それなりにニューミュージックというかフォークというか、まあこんなもんかなぁ、って感じです。 そして委員長のソウルバンドが華やかにエンディングを飾ります。 はっきり言って、見に来ているお客の顔ぶれ見て冷め切っていた委員長でしたが、そこはそれ、だてにディスコでメシ食ってきたわけじゃありませんから、ベシャリも入れてウケ狙います。 「みなさんこんにちは。新宿ディスコバンドのみずぼうずです(なんじゃそりゃ)」 その昔、委員長の同級生にみず坊と呼ばれる個性的な奴がいて、突然そいつの顔とアッちゃんの顔がダブってしまい、つい口からでまかせ、DJ得意の饒舌なハッタリが次々と飛び出してしまいました。 「今日の会場は超満員、席の無い方はどうぞ前の方に詰めて下さい。これを我々の業界ではチョーマン大入りと呼んでおります」(言ってる本人も何だかよく分かりません) 「今日はこのステージのためにカムチャッカ半島よりダンサーズ約2名を連れてきております。それでは聴いて下さい、郷ひろみの曲で男の子女の子!」 (ドドン!とここでスネアの音とチーンとシンバルの音が入ります) 肉まんドラマー、石○君わかっとるやないけ。って感じでコミックバンドのノリそのまんまでしたが、この程度のジョークで大うけの家政大お嬢様女学生の心をしっかりとつかまえた委員長のバンドの演奏が始まりました。 泥臭いFUNK ROCKのTHANK YOUながら、踊りが珍しかったのか、どこまでマジだかわからないようなバンドの雰囲気が面白かったのか、観客は手拍子打って大喜びです。 殆ど歌など入っていないインストもんのようでしたが、無事終了。 「お楽しみ頂きましたみずぼうずのコンサートも残念ながらお別れの曲となりました」(会場大爆笑) ヘイヘイ、フィーオーライッ、(ワンタイム)アッ! ブレイクでダンサー全員ストップモーションからロボットを踊ります。 馬鹿ウケ! 調子づくダンサーズもブレイクを増やしていきます。ツータイム、スリータイム、フォータイム、ってことで会場からも声が掛かります。全員でアッ、アッ、アッ、アッ! 更にここでメンバー紹介が入ります。 キーボード、ミスターH! H氏も乗り易い人でした。お尻でキーボード弾いて馬鹿ウケ。昇り竜のガウンが揺れています。 ベース、ゲルシー(シゲルの反対ですね) チョッパー炸裂、まるで空手チョップです。フェンダー社製プレッジョンが唸ります。 ギター、ちゃんムラ(ムラちゃんの反対ですね) なんと更に悪乗りムラちゃん、ギターソロのまま裏の楽屋に入って非常口を閉めてしまいました。ギター音だけが会場を駆け巡ります。(爆笑) 最後は肉まんドラム小僧、ミスター石○! いやー、凄かったですね。ここだけマジでミュージシャンでした。さすがに対バンのメンバーとかも目を丸くしておりました。テクはとにかくプロ並です。 最後は会場も一緒になって大合唱! 最後のブレイクで全員がストップモーションでエンド。 馬鹿ウケ、大拍手!いやーマジで受けました。 まあ委員長にしてみれば毎日お店で仕事してるのとあまり変わりなかったんですけどね、一般市民にも通じる技だったということを認識したコンサート体験でした。 おかげで、翌日の打ち上げは噂を聞きつけた学生がどっと押し寄せ、冗談抜きで教室は人で溢れかえりました。 しかし、たった2曲の持ち歌(歌じゃねーよなこれは)でこれだけ沸かせたのですから、妙な自信を持った委員長とムラちゃんでした。 ちなみにこの学祭にはウェストロードブルースバンドなどが別会場でライブをやっておりました。 ということで一気にバンドへの夢が花開いた一日でした。 あれっ、今日はオチがないの? もちろんあります。 キーボードH氏の昇り龍のガウン、アンプの上に載せっぱなしにしていてちょうどお尻の部分がこげてしまいました。翌日の尻弾きキーボードではこの焦げた穴で、またまた笑いを取ったH氏には頭が下がりました。 もうひとつ、会場を後にしたバンドの面々、駅に向かう道すがら、案の定サンペン襟章の少年たちと遭遇、小さな紙くずをアフロ頭に投げ込まれた委員長以下3人でした。 さすがに十条、噂どおりの街でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[1977年頃のディスコのお話] カテゴリの最新記事
|