カテゴリ:日本経済
バブルを考える (65)
官邸の登場 それでも、住友信託はなお揺れていました。大蔵大臣の宮沢は、拓銀や山一の倒産の経験から、大銀行が破綻した場合のコストが大き過ぎることを意識していました。資産の劣化するスピードが速く、預金者保護のための納税者負担が膨大なものとなること、連鎖的な信用収縮も起き、倒産や失業という負の連鎖が続き、消費者や企業心理の冷え込みも軽視できないことを、十二分に理解していました。 大銀行の倒産は何としても避けなければならない。こう考えた宮沢が考え出したウルトラCの作戦が、住友信託の高橋社長に対する「首相の要請」という、前代未聞の頂上作戦でした。 なお合併を巡って躊躇っている住友信託を、合併に踏み切らせるには、「首相に要請された」という大義名分が必要になるだろうという判断でした。こうして8月20日午後8時過ぎ、高橋住信社長は、首相官邸に招かれ、小渕首相、宮沢蔵相、野中官房長官、日野金融監督庁長官の4名から、口々に長銀との合併を頼まれたのです。 高橋にとって、総理以下内閣をあげての直接の依頼は、まさに晴天の霹靂であり、大いに面目を施した事、非常に光栄なことであることは、間違いありませんでした。しかし、それでも高橋には合併を約束するは出来なかったのです。行内の合併慎重派の説得が急務でしたし、市場の反応も無視できなかったのです。 合併報道後、それまで730円前後だった住信の株価は、7月末には500円を割り込み、8月20日には、遂に439円まで下がっていたのです。市場の声は、合併に否定的でした。 しかも,私企業の合併問題に政権中枢が乗出したというニュースは、その日のうちにマスコミに漏れてしまったのです。これが誤算でした。私企業の合併問題に、官邸が介入するとは何事か?野党は色めき立ちました。長銀が破綻すれば、内閣も持たないだろう。長銀処理はまさに政局を左右する問題になってしまったのです。こうなると住信も動けません。首相と蔵相は、「合併がうまく行かなければ、内外の金融システムに重大な影響が出る可能性がある。日本発の金融恐慌を起こしてはならない。」と答弁しました。 こうして、長銀の危機は、政局にもみくちゃにされて、破局への最終コーナーに向うことになりました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.12.06 16:11:23
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