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カテゴリ:宮部みゆき作品
私は宮部みゆき作品が大好きなんですが、彼女の作品はこれまで映画やテレビでいろいろ映像化されてきました。私はそれら映像化された作品について、拙サイト「やまももの部屋」の「映像化された宮部みゆき作品」のページに紹介しています。 さて、今日はテレビ朝日系で宮部みゆきの代表作『火車』』(双葉社、92.07.15)を原作とするテレビドラマ「火車」が放映されました。原作は、日本のバブル崩壊直後の1992年における消費者信用の多重債務が生み出す悲劇を題材にしたもので、物語は強盗事件で足を撃たれて求職中の本間俊介刑事が亡妻の従兄弟の息子である栗坂和也から彼の婚約者の関根彰子という女性が失踪したので、彼女を探してほしいと依頼されることから始まります。そして、本間は関根彰子追跡の調査の過程で彼女の驚くへき事実を突きとめることになります......。 では、今夜のテレビドラマ「火車」(森下直脚本、橋本一監督)はどのようなストーリー展開を繰り広げたのでしょうか。今朝の鹿児島の地元紙「南日本新聞」のテレビ番組欄には「サスペンス特別企画 火車~宮部みゆき作・東京~伊勢~大阪...死体なき連続殺人の謎に挑む! 名前も顔も捨て1000キロを逃げる美女!! " このミステリーがすごい!" 過去20年間のNo.1小説完全映像化!」との惹句が踊っていましたよ。このテレビドラマは、原作同様にバブル崩壊直後の1992年の東京が舞台で、捜査一課の刑事の本間俊介(上川隆也)が逃走する男を追跡した時に銃撃されて足を負傷する場面から始まります。負傷して休職扱いとなった本間が暮らすアパートに、彼の亡き妻の従弟の息子で銀行員の栗坂和也(渡辺大)が訪れて来て、彼の婚約者の関根彰子を探して欲しいと頼みます。栗坂和也の話によりますと、彼は関根彰子が銀行のブラックリストに載っていることを婚約後に知り、そのことを彼女に追求したところ、その直後に姿を消してしまったとのことです。栗坂和也が本間に見せた関根彰子という女性の写真には一人の美女(佐々木希)が写っていました。 調査を開始した本間は、彰子が失踪直前まで勤務していた事務所で彼女が提出した履歴書を手に入れ、それに基づいて調べを進めますが、そこに書かれている職歴は全くのデタラメナなものであることが判明します。本間は関根彰子が自己破産した経歴があることから、その自己破産の手続きを担当した弁護士の溝口悟郎(笹野高史)の事務所も訪れますが、そこで栗坂和也の婚約者と自己破産の手続きをした関根彰子(田畑智子)とが全く別人であるという驚きの事実をさらに知ることになります...。 ドラマは、捜査一課の同僚の刑事である碇貞夫(寺脇康文)の協力も得ながら本間が関根彰子の追跡調査を継続していきますが、その過程から栗坂和也の婚約者の「関根彰子」が本物の関根彰子の戸籍を手に入れながら、二人の女性は皮肉なことにどちらも消費者信用の多重債務の犠牲者であり、彼女たちは「共食いしたも同然だった」ことが判ってきます。ドラマは、原作同様にカード地獄の恐ろしさを浮き彫りにしていきます。 ありきたりの2時間ミステリードラマでは、よくラストで犯人が犯行の動機やアリバイ作りの手口などを長々と語る場面がありますが、この「火車」だけはドラマ化にあたってニセの関根彰子すなわち新城喬子にあれこれ喋ってらいたくないと強く願っていましたが、ほぼ原作通りに最後に姿を現すだけで終わらせており、これにはホッとさせられました。今回のドラマでも、ラストに彼女が登場する以前に彼女の悲しい過去とその犯罪行為の全貌がすでに明らかにされていましたね。 このドラマは、CM入りの2時間少しの限られた時間にも関わらず、私が予想していたより原作の基本ストーリーを忠実に追っており、またサイドストーリーもそこに登場する人物たちを丁寧に描いており、なかなか真面目で良心的な作品に仕上がっていると思いました。 例えば、原作では、本間が関根彰子が失踪直前に勤務していた今井事務機を訪れたとき、女性事務員のみっちゃんがこの事務所の社長から、妻の従兄弟の息子は「はとこ」というのかと質問されて、懸命に辞書を調べる場面がありましたが、そんな作品としての「遊び」の部分も、今回のテレビドラマても挿入されており、今井社長(金田明夫)に頼まれてみっちゃん(上間美緒)が「妻の従兄弟の息子」に関する意味を辞書を引きながら一生懸命に「調査」していましたよ。 本間を演じる上川隆也のいささかくたびれた感じの子持ちの中年男ぶりがとてもよかったですし、彼と同僚の刑事の碇貞夫役の寺脇康文の久しぶりに見る「相棒」ぶりも二人の息がよく合っていて大いに楽しませてもらいました。 本間の息子で、父一人子一人の寂しい日常を過ごしている智(山崎竜太郎)も、聞き分けのとてもいい子だけにじっと何かに堪えて我慢している寂しい姿には大いに共感させられました。 今回のドラマで、本間が息子の智くんのことを気にかけながら、実際には関根彰子追跡調査のために外出することが多く、父親としての役割を果たせていないことを痛感し、智くんを連れて伊勢まで関根彰子のことを調べに出かける場面があります。この場面について、一緒に視聴していた私の妻が「子どもを調査に連れて行くなんて可哀そうね」と言ったのですが、普段は我が妻のとても素直なイエスマンである私が、なんと即座に「いや、智くんはとても嬉しかったと思うよ」と珍しく異論を唱えました。 そして、私の母が高校の教師をしていたとき、子どもの私を連れて大阪で生徒の就職のための企業廻りをしたときの思い出を語り、そのとき母とずっと一緒にいられたことがとても嬉しくて楽しかったことを伝えました。なんだか智くんの寂しげな姿が昔の私と重なり、またまた母と過ごした昔の日々を思い出して涙ぐむ今日この頃のやまももでありました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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