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テーマ:メディアって何だ!?(204)
カテゴリ:メディア
▼他人の褌
「他人の褌で相撲を取っているような会社になぜ入ったのだ」 私は父に共同通信社の記者になると報告したときに、こう言われた。普通の父親なら就職が決まって喜んでくれそうなものだが、私の父は平凡な父親ではなかった。 しかし他人の褌という言葉を聞いて、私は思わず苦笑してしまった。言いえて妙な言葉であったからだ。 ではなぜ、共同通信社が「他人の褌で相撲を取っている」のかを説明しよう。 それを端的に示しているのが、共同通信社富山支局が北日本新聞社の四階にあるということだ。支局が他の新聞社の中にあるというのは尋常ではない。読売新聞が朝日新聞社のビルに中にあるようなものではないか。それでも共同通信社の支局は、ほとんどが地元新聞の中にあるのだ。 理由は簡単だ。共同通信社が他のメディア、とりわけ地方新聞社に経済的に依存しているからである。共同通信社は営利企業ではなく、北は北海道新聞から南は沖縄タイムズまで全国の地方・ブロック新聞やテレビ放送局などに加盟してもらい、その加盟料(つまり他人の褌)で運営されている。加盟社とは運命共同体。加盟社がなければ、活動ができない社団法人なのだ(営利目的の情報サービスを提供する株式会社共同通信社もある)。 かつては朝毎読など全国紙も加盟していたが、国内報道は自前でまかなえるとして脱退、その代わり共同通信の外電(外国のニュース記事)だけ契約している。よく「ワシントン=共同」などのクレジットがついているのが、共同通信社が配信している記事だ。加盟料はそれぞれの新聞社の発行部数や業績によって異なる。大口の加盟社は、NHKや日本経済新聞である。 共同通信の前身は、戦前、戦中と日本政府の宣伝・報道を手がけていた同盟通信社。政府の情報広報機関として強大な力を持っていたが、戦後GHQは同盟通信社を弱体化させるため、一般報道部門を共同通信社に、経済情報部門を時事通信社に、そして広報・宣伝部門を電通に分割した。その際、電通の暴走にある程度の歯止めをかける思惑もあり、共同通信社が電通株の25%を保有して筆頭株主となり、時事通信社がそれに次ぐ24%の電通株を保有した。 後にその電通も上場したが、その際共同通信は保有する電通株の一部を売却、潮留のビルに引っ越したと聞いている。本社はさすがに、虎ノ門にあったころから自社ビルであった。 そのような歴史のある共同通信社の富山支局に赴任したのは、ゴールデンウィーク最中の五月はじめ。長かった冬も終わり、富山にも春の気が満ちあふれていた。JR富山駅南口から放射線状に延びている道の一つをたどりながら10分ほど歩くと、四階建ての北日本新聞社ビルが右手に見えてきた。他社の建物――まさに他人の褌そのものであった。そして、その建物こそ、私がその後3年間の記者生活を過ごす職場となったのだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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