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テーマ:不思議な世界(697)
カテゴリ:不思議な世界
▼怪事件が残した禍根
今日においても、あの怪事件が誰かの策略であったのか、それともただのミスだったのか、わかっていない。 もし前者だとしたら、福来の実験に反感をもつ東京帝国大学のグループが実験を失敗させる明確な意図をもって、乾板の入ってない箱に向かって郁子に念写させ、それを現像したと偽って何も写っていない写真を示し、念写現象の「インチキぶり」を喧伝するつもりであったのだろう。おそらくこのグループにとっての計算違いは、郁子に本物の透視能力があったことだ。郁子はまさに、常人では知りえないような事実を透視し、見事陰謀を見破ったのだから。 だが単なるうっかりミスだとしたら、郁子は山川らの前でもう一度、念写実験をして念写が真実であることを証明すべきであった。あのとき郁子が山川立会いのもとで完璧な透視実験を成功させていたら、郁子は心労などから病気で死ぬこともなかったし、福来も後に大学を“追放”されることがなかっただろう。そして何よりも、日本の超心理学研究がその後100年間、これほど異端扱いされることもなかったのではないだろうか。 そうであっても、郁子・與吉の長尾夫妻にはどうしても実験を継続したくない理由があった。“ミス”をした張本人である藤が、その後一度も長尾夫妻や福来博士と会おうとせず、いっさいの説明を事実上拒否していたからである。二日後の1月10日午前になって、藤はようやく長尾宅先を訪れ、暇乞いをした。しかしその際も、汽車の時間が迫っているという理由で藤は詳しい説明をせず、乾板の件は自分が粗忽だったからだとだけ告げて立ち去った。 怪事件発覚後の藤の挙動は、福来や長尾との面会を拒絶するなど、不審な点が多かった。後にわかった藤の説明によると、藤ともう一人の技手が高等女学校の暗室で乾板を取り扱った際、お互いが乾板をボール箱に入れたと“勘違い”して、空の箱を実験で使ってしまったのだという。だが、乾板を入れた箱と入っていない箱では明らかに重さが違うはずである。この稚拙な説明を信じろというほうが無理であった。 ところが驚くべきことに、悪意をもってこの怪事件を取り上げ、郁子の念写がインチキであると報じる新聞が出てきた。1月11日付の大阪時事新報である。山川博士の実験は成功し、郁子の千里眼がまったく研究価値がないだけでなく、人心を惑わす詐欺まがいの行為であると断じたのだ。 (続く) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.05.25 12:19:31
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