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テーマ:不思議な世界(697)
カテゴリ:不思議な世界
▼「私」の最期
このとき、私が武藤さんに頼んでいた録音テープの片面(一時間)が終わる音がした。武藤さんがそのテープを裏返す間、質疑応答が中断した。 再び録音が始まると、武藤さんは質問した。 「あなたがいる村は、よその村との交流があるのでしょうか」 「物品の交換はしていたみたいです。ロープを使って谷のほうから荷物を上げていたのも、谷間の村と交流していたからだと思います」 「あなたがいる村は山の中にあるようですけれど、海のものと交換することがあるのでしょうか」 「魚・・・。よくわかりません」 「あなたは今何歳ぐらいですか」 「38?」 先ほどより、さらに歳をとったようだった。 「家族は」 「・・・いるかもしれません」 私は、この時代の意識に完全には入り込むことができずにいた。自分と思われる人物の意識が読み取れない。ぼんやりとしか、状況が浮かんでこないのだ。 「村には長老以外にも、あなたより年上の人たちがたくさんいるのでしょうか」 「・・・」 答えが浮かばず、黙っていた。 「別の言い方をすると、あなたはまだ、村のしきたりだとか、何か伝えられてきていることとかについて、そんなによくは知っていないのでしょうか。これからもっともっといろいろなことを知るようになるのでしょうか」 「・・・」 質問の意図はよくわかったが、意識がその時代から離れて、かなり希薄になっているのが感じられた。 「よくわかりませんか」 私はうなずいた。 「それではまた、時間を動かしていきましょう。あなたの人生のもう少し先の場面に行きます。10,9,8・・・3,2,1,0」 薄暗い場所で、横になっている翁が見えてきた。 「どうなっていますか」 「年老いた白髪のおじいさんが寝ていると言うか、病床に伏しています」 (続く) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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