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テーマ:いい言葉(576)
カテゴリ:文学・芸術
▼悪の華(猫2)
マリー・ドーブランに捧げられた「猫」はどのような猫なんでしょうね。では早速、見てみましょう。 Le Chat(猫) I Dans ma cervelle se promène, Ainsi qu'en son appartement, Un beau chat, fort, doux et charmant. Quand il miaule, on l'entend à peine, 自分の部屋の中を歩くように 私の脳みその中を歩き回る、 美しく、強く、優しく、魅力的な一匹の猫がいる。 その猫は鳴いても、ほとんど聞こえないほどで、 Tant son timbre est tendre et discret; Mais que sa voix s'apaise ou gronde, Elle est toujours riche et profonde. C'est là son charme et son secret. その響きは柔らかく、慎み深い。 だけどその鳴き声が静かで、喉を鳴らす程度であっても、 いつも豊かで奥深い響きがする。 それが猫の魅力、そして秘密。 Cette voix, qui perle et qui filtre Dans mon fonds le plus ténébreux, Me remplit comme un vers nombreux Et me réjouit comme un philtre. 私の心の最も暗い深奥へと 滴り染み渡っていくその声は、 リズムのよい詩のように私を満たし、 媚薬のように私を喜ばす。 Elle endort les plus cruels maux Et contient toutes les extases; Pour dire les plus longues phrases, Elle n'a pas besoin de mots. その声は耐え難い苦痛を和らげ、 あらゆる恍惚を内包している。 とても長い文章を語るのにも、 言葉をまったく必要としない。 Non, il n'est pas d'archet qui morde Sur mon coeur, parfait instrument, Et fasse plus royalement Chanter sa plus vibrante corde, 完璧な楽器である私の心に食い込み、 心の弦を振動させて 堂々と奏でさせる 弓などほかにありはしない、 Que ta voix, chat mystérieux, Chat séraphique, chat étrange, En qui tout est, comme en un ange, Aussi subtil qu'harmonieux! お前の声を除いては。神秘な猫よ、 清らかな猫よ、不思議な猫よ、 お前の中では何もかも、天使のように、 精緻で調和が保たれている。 II De sa fourrure blonde et brune Sort un parfum si doux, qu'un soir J'en fus embaumé, pour l'avoir Caressée une fois, rien qu'une. 黄金と褐色の毛皮から あまりに甘美な芳香が漂うので、ある晩、 一度だけ、たった一度撫でただけで、 私もその香りに染まってしまった。 C'est l'esprit familier du lieu; Il juge, il préside, il inspire Toutes choses dans son empire; Peut-être est-il fée, est-il dieu? それは場所になつく精霊。 自分の帝国にあるすべてを 裁き、支配し、霊感を与える。 おそらく妖精か、神か? Quand mes yeux, vers ce chat que j'aime Tirés comme par un aimant, Se retournent docilement Et que je regarde en moi-même, 私の両目が愛すべきその猫の方へと 磁石のように引き寄せられ、 その視線をふとそらすとき、 そして自分自身の内を眺めたとき、 Je vois avec étonnement Le feu de ses prunelles pâles, Clairs fanaux, vivantes opales Qui me contemplent fixement. その青白い目の炎に 気付いて私は驚く。 明るい灯火、生きた猫目石(オパール)は、 私のことをじっと見つめているのだ。 「その場所になつく精霊」とは、まさに猫の習性ですね。この猫はマリー・ドーブランのことですから、おそらくボードレールは、マリーを舞台の上の「精霊」とみなしていたのでしょう。観客を魅了し、詩人に霊感を与え、そして劇場のすべてを支配する女優としてマリーを描いているように思われます。 舞台が終わった後、ボードレールはその余韻に浸っていたのでしょうか。詩人の心に強烈な印象を残したのは、オパールのような緑の眼だったわけです。自分だけをじっと見つめていると思い込むほど、恋は盲目ということでしょうか。 でもそんなことはさておき、純粋に猫ちゃんの詩として読むことができるところが楽しいですね。 お寺の舞台に上がったマリー・ドーブラン? ![]() 残念ながら寝ているので、オパールの眼は見られませんが・・・ ![]() マリーのようにふっくらとしていました(笑)。 (続く) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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