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カテゴリ:これぞ名作!
子供の頃、風邪を引いて寝てなきゃならなくなると、宮沢賢治の朗読レコードをかけてもらいました。中でも、長岡輝子の語る「雪渡り」はいちばん好きで、何度も何度も聞いたものです。
幼い兄妹の四郎とかん子が、雪野原を越えて森まで行き、白い子狐紺三郎(こんざぶろう)と仲良くなって、狐小学校の月夜の幻灯会へ招かれて行くお話です。 朗読で聞いていて楽しいのは、兄妹と狐との歌の掛け合いです。四郎の「し」とかん子の「か」の音がくり返し歌に出てきて聞く方もリズムにのったところへ、 「堅雪(かたゆき)かんこ、凍(し)み雪しんこ。狐の子ぁ、嫁ぃほしい、ほしい。」 と歌うと狐が出てきます。面白いのは、最初から人間と狐が普通に話をするのではなく、まず歌でやりとりをするのです。 「四郎はしんこ、かん子はかんこ、おらはお嫁はいらないよ。」 「狐こんこん、狐の子、お嫁がいらなきゃ餅やろか。」 「四郎はしんこ、かん子はかんこ、黍の団子をおれやろか。」 「狐こんこん狐の子、狐の団子は兎(うさ)のくそ。」 初対面の狐と人間が、すぐにはうち解けず、何か一種の儀式みたいに決まり文句の呼びかけをしたうえで、少しずつ相手との心の距離をちぢめていく、みたいな感じ。 そのうえでやっと普通に話を始め、狐は幻灯会の入場券をくれます。 それから、3枚の幻灯の内容を説明し、それぞれについて狐と四郎とかん子が即興で歌を作ります。狐は人間の失敗談を、人間は狐の失敗談を歌うのですが、この時はもう彼らは仲良くなって、狐とか人間とかの境をこえて親しみ合い、踊りながらいっしょに林へ入っていくのです。 朗読で聞くと、「キックキックトントン」の拍子や歌が、とてもテンポよく楽しいので、自分でも歌いたくなります。宮沢賢治も歌いながら創作したのではないでしょうか? 狐と兄妹は、鹿の子を呼ぶのにも歌で呼びかけます。返事の歌はありますが、鹿の子は現れない。すると狐の紺三郎は「あいつは臆病ですから」などと馬鹿にするのが、何だかかわいらしい。 ともあれ、見知らぬ相手と仲良くなり、その相手の世界(別世界)へ入る切符を手に入れるとき、呼びかけや歌がまるで魔法のようにはたらくのです。 最近、うちの子供たちにもこの朗読を(MDに録音し直して)聞かせますと、キックキックトントンの歌をすぐに覚えました。大人になって聞き直した私が初めて気づいたのは、幻灯会には行けない、兄さんたちの見守る姿のあたたかさ。 11歳以上は狐小学校へは行けない(別世界へは招かれない)というルールは、C.S.ルイスの「ナルニア国ものがたり」などにも似たものがありますが、簡単に別世界への扉が開かれるのは幼年時代の特権なのでしょうね。 しかし、年上の兄さんたちはそのことを知らされても、怒ったり悲しんだり馬鹿にしたりせずに、四郎とかん子におみやげのお餅を持たせ、戸口に並んで、またもや歌で送り出すのです。そして、最後の段落で、ちゃんと二人を迎えに来ています。 なんていい兄さん達でしょう! 別世界に遊ぶことを卒業しても、このように理解ある大人になれたら、ほんとにいいでしょうね。 なお、私の持っているレコード+本は、1971年に中央公論社から出た『宮沢賢治童話集』全5巻で、長岡輝子(最近もたくさん賢治作品の朗読を出しているみたいです)のほか、たとえば「オッペルと象」を宇野重吉が、「注文の多い料理店」を米倉斉加年が朗読していて、とってもすばらしいです…が、今は絶版。 図書館等で見かけたら、絶対オススメです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
January 24, 2006 10:19:43 PM
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