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テーマ:本日の1冊(3697)
カテゴリ:かるいノリで古典を
私が「中将姫」を知ったのはごく幼いころ、小学館オールカラー版世界の童話シリーズにある「日本のむかし話」に入っていた、豪華な挿絵入りの「ちゅうじょうひめ」でした。もう手元にないのですが、可愛らしい日本人形のような顔のちゅうじょうひめが、ハスの茎を折って糸を取り、それを木の枝に干して、それから織って布にして、最後には「はすのまんだら」というすばらしい物ができる、というあたりを鮮明におぼえています。
(「世界の童話シリーズ」のリンク先は、偶然見つけた「古本 海ねこ」というネットショップさんのサイトです。ず~っとスクロールしていくと、中将姫がハスの糸を干している絵が出てきます。あまりのなつかしさに無断でリンク貼らせていただきました) 何年もたってから、当麻寺のハスの曼陀羅の伝説を知り、その伝説の姫君が出てくる話として、『死者の書』を手にしました。 ところが、冒頭は中将姫が出てこないんですね。いきなり、墓の中でめざめる死者が主人公という感じで始まって、この死者のよみがえりの描写が、 した、した、した。耳に伝ふやうに来るのは、水の垂れる音か。ただ凍りつくやうな暗闇の中で、おのづと睫と睫とが離れて来る。 …見廻す瞳に、まづ圧しかかる黒い巌の天井…氷になった岩牀(どこ)。両脇に垂れさがる荒石の壁。したしたと、岩伝ふ雫の音。 ――折口信夫『死者の書』 などと、何とも幽玄でこまやかで、さらに死者(大津皇子)が一人称で語り始めるや、もう恐ろしいほどリアルで、読者である私自身も暗く冷たく狭い墓の中に閉じこめられ、死の眠りから覚めたばかりであるかのような、この世の物ならぬ気分になってきます。 以前とりあげた『暁の女王と精霊の王の物語』ほどではないけれど、この本も荘重な旧仮名遣いと、古代の息吹そのもののような、擬音――水は「したした」と垂れ、「こうこう」と魂を呼ばれた死者は「ををう」と応え、また「つたつた」という足音をさせて夜更けに姫を訪ね――が、すばらしいけれど現代人にはとても難解です。 こういう文章がつづくこの物語自体が、何か忘れてしまった遠い過去からの夢の中の呼び声のように感じられます。 そんな古めかしい文章を、現代語訳もなく、それでも何とか意味を拾い拾い読む気持ちは、いつしか、ヒロイン南家の郎女(=中将姫)が、意味も教わらぬお経をいっしんに写したり、じっと坐したまま語り部の老女の昔語りに耳をかたむけたり、二上山の方角にあらわれる誰ともわからぬ幻の人(=大津皇子の霊、らしい)に心を寄せたりする、その気持ちに、通じてゆくように思われてくるから、不思議です。 ところで、『死者の書』は昨年、人形劇映画になりました。調べましたら、(あのNHKの「三国志」の)川本喜八郎監督・脚本で、ヒロイン中将姫の声は宮沢りえ、語りは岸田今日子、他にもそうそうたるメンバーをそろえた、なかなかスゴイ映画のようです。東京ではすでに公開され、関西では7~8月ごろ上映されるらしい! ぜひ観てみたいものです。 (『死者の書』まだつづく・・・) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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