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カテゴリ:ちょっとなつかしのファンタジー
ボストンは『グリーン・ノウ』シリーズで有名な、伝統的で神秘的な児童ファンタジー小説を書く人です。ファンタジーといっても、異世界モノではなく、現実生活にふと訪れる神秘的体験をきめこまやかに描いたもの。
主人公は子供ですから、神秘体験を受けとめるまっさらでオープンな感性も、けっして特異なものではなく、だれでも子供のころにはそうだったなあとなつかしさをおぼえる自然な感覚です。 コーンウォール(英国西部)の海岸で夏休みをすごすトビーとジョーの兄弟は、海につかった岩のトンネルの向こうの、二人だけの秘密の入り江に、漁師からもらったたまごの形の石を持ちこみます。すると潮だまりの中で、その石?(「海のたまご」)がわずかに動いたように見えるのです。 太陽がふたりの背中をじりじりとてりつけていました。ふたりはしーんとしずまりかえったむきだしの岩にとりかこまれて・・・あたりのふしぎにみちた風景は、この世のはじまりを思わせました。・・・こんな場所では、いつなにが起こるかわかったものではありません。有史以前の怪物がまざまざと見えるような気もちがして、なんといったらいいかわからないものの、とんでもないできごとが起こるかもしれないと思われてきました。音というものがうまれるまえの世界のように思われる、このあたりの暑いしずけさのなかでは、何が起こるか知れたものではありません。 ――ルーシー・M・ボストン『海のたまご』猪熊葉子訳 無人の入江の真昼の静けさ。そこに感じられる、ある気配。それは、グリーン・ノウの古い屋敷で祖先たちの気配を感じるときと同様、みずみずしい感性のアンテナをぴんと張っている子供だからこそ、感じ取ることのできるものです。 派手さはないけれど、このような“気配”は、実際、我々の周囲あちこちにひそやかに息づいているのかもしれません。確かにむかし、たとえばうっそうとした神社の木立ちの中とか、ラジオ体操に向かうセミしぐれの早朝の道とかで、そんな気配を感じたことがあるはず・・・ 今ではスペクタクル映画的な大音響の刺激になれっこな現代人には、そんな小さな神秘を見つけるこまやかな感性は、失われてしまったかもしれませんが。 海のたまごは本当に孵り、足のかわりに二つの尾びれを持った海の妖精トリトンが登場します。彼と仲良くなった兄弟は、満月の晩、彼にさそわれて、海中のトンネルをくぐって小島にある秘密の洞穴へ向かいます。 その晩の、月光に照らされた海の神秘とうつくしさ。アザラシたちの妖精じみた姿(ケルト伝説には、アザラシに変身する海の精がでてきます)。洞窟に満ちる霊妙な音楽。 一夜明けて、トリトンのふきならす貝のラッパが、夏の終わりを告げ知らすと、兄弟たちは海辺に別れを告げ、日常世界へと帰ってゆきます。 海や空気、月光、風、アザラシ、そんな自然の“気配”を感じることができた少年たちの貴重な夏の体験を、読者も一緒に、耳を澄ませ、匂いをかぎ、全身で感じ取るように、体験することができます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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