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カテゴリ:これぞ名作!
ロングセラーの幼年童話、北極グマ兄弟の物語。舞台が北極なので何となくこの季節に合うかと思いますが、クマたちが活動しているのは北極の夏なんですよね。物語の最初、クマ兄弟が生まれるところは冬ですが、最後のクライマックスは「夏至祭」です。 やさしくて強い母さんグマと、性格は違うけれど仲のいいムーシカ・ミーシカ兄弟、友だちになったあざらしや白鳥、そして養い子のマーシカなど、みんなけなげで可愛くて、心があたたまります。でも子グマたちは、氷の割れ目に落ちたり、荒れ狂う海面が凍っていくのを浮氷の上で体験したりします。リアルに描かれる苛酷な自然環境は常に危険をはらみ、ほのぼの系のキャラクターたちを、きゅっと引き締めています。 また、ふだんは遠くを旅している父親グマ「ものしりのムー」が、なかば伝説の英雄のような、それでいていざという時には助けに現れ、大事なことを示してくれる、偉大な存在として描かれています。北極グマの子は父親とは一緒に暮らさないのでしょうが、マイホームパパでなくてもこのように存在感のある父親像というのは、なかなかすばらしいと思いました。 物語にはいわゆる“悪者”はほとんど登場しません。唯一、人間の船や鉄砲の音は恐ろしい印象を残すものの、直接残酷な姿を現すことはありません。同じ北極の住人であるエスキモー(イヌイット)の少年が出てきますが、彼は後半で、狩人と獲物という立場の違いはあるけれど、心の通じる仲間として描かれます。 肉食獣である子グマたちも、仲良くなったアザラシや白鳥との間には、食う食われるの関係が厳然と存在するため、彼らは立場の違いと友情との板挟みになって悩みます。このあたり、動物ファンタジーにはつきものの悩みで、根本的にはどうしようもない。 舞台が“都会”だと、自然の摂理を曲げてもそれほど支障がなかったりしますが――たとえば『川の光』でネズミたちを助けてくれるのは、まぐろの缶詰が主食の飼い猫だったり、映画「アメリカ物語」のネズミは、菜食主義者の猫と親友になったり――、この物語では、母さんグマの言うとおり、 きびしいこの北のはてのくにでは、たべものをさがして生きていくということが、なによりもたいせつなことだから・・・(中略)にんげんはアザラシやクマをとることを、クマはアザラシやニシンをとることを、そしてまたアザラシはニシンやタラをとることを、じぶんの子どもにおしえるのです。 ――いぬいとみこ『北極のムーシカミーシカ』 それゆえ、アザラシと仲良くなった子グマたちも、飢えた時はアザラシの血を飲んで生きながらえるのです。 自然のおきてから離れて安穏と暮らしている私たちは、せめてこういった物語の中で、生きるということの本来の厳しさを知るべきなのかもしれません。 そのシビアな現実を知ったうえで、最後に夢のような「夏至祭」の場面が描かれます。 「夏至祭」は、北極の動物たちがいつもの食う食われるのおきてを超えて集うことができる、一種の魔法空間です。ここでのみ、子グマたちは、もう一度友だちとして仲良しのアザラシと会うことができます。 フォア文庫版の解説では、斎藤惇夫(『冒険者たち』シリーズの作者)が、この「夏至祭」の場面を「正統をくずす」「正統に挑戦する」と述べています。生と死のシビアな世界を描いたうえでの、最後の奇蹟。これは、リアリズムの動物小説の正統ではないかもしれませんが、ファンタジーの正統だと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
December 21, 2009 11:21:43 PM
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