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カテゴリ:近ごろのファンタジー
物語、なかでも異世界ファンタジーを愛する人のための物語。先日、古書店で入手したコルーネリア・フンケの『魔法の声』には各所に書物への愛情がいっぱいです。
まず、各章の初めにいろいろな本からの引用が掲げてありますが、そのほとんどが児童書や著名なファンタジーです。トールキンにルイス、ミヒャエル・エンデ、ケストナー、またアラビアンナイトや『宝島』、『ウォーターシップダウンのうさぎたち』、はたまたレイ・ブラッドベリ、ディケンズ、プリンセス・ブライドは映画が有名ですね。どれも、ファンタジー好きなら一度は読んだり観たり、あるいは噂を聞いたりしたことのある作品ばかりなのが、嬉しいです。 (難をいえば、いくつかの章で引用作品がだぶっていること。ここはマニアックに、すべて違う作品からの引用を並べてほしかったかも。) それから、本の大好きな登場人物たち。主人公の少女メギーの父モルティマ(モー)は、古い本やいたんだ本を修復する専門家。まだ若いのにそういう職業の人って珍しいですね。父子二人の家は、 ・・・本で埋めつくされている。本棚だけではない。いたるところに、本が積んである。机の下にも積んである。イスの上にも、本がある。部屋の隅にも、本の山がそびえる。キッチンにも、トイレにも・・・(中略)・・・テレビの上にも・・・タンスの中にも・・・。本、本、本。・・・本があれば、退屈することはない。 --フンケ『魔法の声』浅見昇吾訳 いや、この有様は私の部屋にそっくりです。違うところは、父の影響でメギーも無類の本好き少女であるのに対し、うちの子供たちは本を読まないこと。娘は少しは読みますが、どうでしょう、現代の日本で、子供が「本があれば退屈することはない」と言い切れる家庭はどのくらいあるでしょう。もはや、ほとんどないのではないかと思われます。私の子供の頃でさえ、ストーリー漫画やテレビに耽溺する友人はたくさんいましたが、物語本に耽溺する友人は見あたりませんでした。いまは、ちょっと長くて複雑だとコミックスの活字すら読まない子供が結構いるのでは。 そんな現状を思うと、メギーは現代としては希有な存在といえるでしょう。彼女は寝る前に寝床で本を読みます。イヤなことがあると読書で心の平静を取り戻そうとします。旅行に行くときは本を持っていきます(どれも私の行動と同じです。たぶん作者フンケもそういう少女だったのでしょうね)。 さらに、メギーの大叔母で古い立派な館に住むエリノア。その家は、玄関ホールから廊下から、あらゆる部屋の壁に天井まで本棚が据えられ、彼女の父や彼女自身が財産をつぎこんで蒐集してきた貴重な本がきちんと管理されてぎっしり詰まっているのです。きわめつけは図書室で、ここには「キャスターつきの木製の階段」や「書見台」、美しい絵入りの古書が展示された「ガラスケース」などもあります。 ほんとに羨ましいような家ですが、エリノアはすべての情熱を本に注ぎこみ、特に貴重な本の隠し場所や、警報装置などを備え付け、毎晩古書のカタログを眺めながら、訪問者を拒絶したった一人で暮らしているのです。 「本をぜったいに汚さないこと。これだけは守ってもらうよ」 「本棚から三歩以上離れていること」 なとど言い、独身ですが本を我が子のように愛するエリノア。これはまた、違った意味での本への耽溺ですね。 このような3人の前に、「インクハート」(Inkheart、闇の心臓。これが原題の直訳である英語のタイトルです。凶悪な登場人物のことでもあり、インクで印刷された本の登場人物に心が宿る、みたいにも読めます。)というタイトルの物語本の登場人物が現実に出現。「ホコリ指」と呼ばれる火を操る男で、現実世界になじめず自分の世界へ返してくれ、と訴えます。 あとで分かりますが、メギーの父モーは本の朗読もうまく、その天才的な朗読の技によって、何年も前に物語中のものを現実世界に呼び寄せてしまったのでした。 読者が物語世界に入りこむ話はわりとありますが(拙作『海鳴りの石』もそう)、このお話は、逆に物語の人物が現れるという発想ですね。しかも現れたのが、強大な悪役カプリコーン(山羊座という意味がありますが、悪魔サタンがヤギのかたちで描かれるのと関連があるのでしょうか?)だったのは、運が悪すぎます。 こうなると、現実への異世界の流入は、世界征服をたくらむ邪悪な魔王を黒魔術で召喚したのと変わりません。おまけに、その代償にメギーの実の母が本の中へさらわれてしまいました。 こうして物語はハラハラドキドキの展開となるのですが、メギーたちそして読者にとって、いま一歩腑に落ちないのは、どういう法則?で物語と現実の間に“交換人事”が行われるのか、はっきりしないこと。モーは朗読を二度としないと誓い、必死に妻の奪還を模索しているのですが、彼の何が悪かったのか、どうすれば魔法の声の力をコントロールできるのか、最後まで釈然としません。 もっと気の毒なのはホコリ指です。物語の重要人物でもない彼は現実世界に連れてこられたゆえに宙ぶらりんで小心者で悩み多き裏切りキャラになってしまっています。おまけに物語そのものでも実は殺されてしまう気の毒な結末。 実は、続編(このお話も3部作となっています)では活躍するのだそうですが・・・ とは申せ、逃走や脱出、冒険活劇的要素はいっぱいで、テンポ良く最後まで読めます。 後半では、「インクハート」の作者まで登場し、作者ならではのどんでん返しもあります。それについてはまた次回。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 12, 2014 10:16:30 PM
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