全て
| カテゴリ未分類
| 近ごろのファンタジー
| 絵本の読み聞かせ
| ちょっとなつかしのファンタジー
| おうちのまわりの四季
| これぞ名作!
| 映画と原作
| お気に入りコミックス・アニメ
| かるいノリで古典を
| 気になる絵本
| ファンタジックなSF
| Hannaの創作
| ファンタジックな音楽
テーマ:アニメあれこれ(27159)
カテゴリ:お気に入りコミックス・アニメ
昨今の集団的自衛権うんぬんのニュースを見ていたら、“世界で唯一、戦わない軍隊”のお話を思い出しました。
自衛隊ではありません。それは架空の国オネアミスの、王立宇宙軍。軍隊とはいうけれど、初の有人宇宙飛行の実現をめざす組織で、NASAとか現在のJAXAとかに近い(ずっと小規模で貧乏ですが)。主人公シロツグ・ラーダットは無為徒食の青年から一念発起、初の宇宙飛行士となります。 バブルでモラトリアムで無気力で、冷戦と核の恐怖を未来に描きつつ、科学技術がまだレトロなバラ色だった昭和の終わり、1987年のアニメ映画です。 20代の制作スタッフが職人技で細部にこだわったというパラレル・ワールドには、現実と似て非なる、ノスタルジックな風景が描きこまれています。見慣れない文字、無国籍な人名、でもどこかとてもニッポン。 森本レオのやさしい声で、自分も世界も軽く茶化してしまうシロツグの不真面目な穏やかさとか、そもそも宇宙へのチャレンジという華々しいできごとを担う組織が“戦わない軍隊”だったなんていう発想そのものが、戦わない自衛隊のいるニッポンならではだと思うのです。 シロツグは空を飛ぶという夢を持ち、パイロットになりたかったけれど、成績が悪くて空軍に入れなかったと自己紹介しています。あとで、空軍の飛行機で訓練飛行をしたとき、その夢はかなったとも言えるでしょう。地上の喧噪を離れた空は広く美しく、宮崎アニメにもよくありますが、飛ぶことの爽快さがよく分かります(私自身は高所恐怖なのであまり飛びたくないけれど)。 しかし、空軍のパイロットたちは、穀潰しで何の役にも立たない「宇宙軍」のシロツグたちをあからさまに軽蔑し、「撃ち落としてやる」みたいな発言をします。今や、こんな俗っぽい連中が撃ち合う空は、もうあこがれの聖域ではなくなっているようです。 かわって、宇宙が聖域として描かれています。技術も予算もなく宇宙服の実験では死者まで出してしまう、名ばかりの「宇宙軍」。しかし、そんな実態を知らないヒロインのリイクニが、「戦わない兵隊さん」や「けがれた下界から離れ星の世界をめざすこと」をすばらしいと褒めるのを聞いて、シロツグは俄然目覚め、初のアストロノートを志願するのでした。 リイクニは街角で「神の裁きの日は近づいています」とビラを配る宗教少女ですが、押しつけがましさは感じられません。彼女の語る宗教は、黙示録的ですが、何か行動を強いるものではないようです。「聖典」とされる書物に記されているのも、現実の特定の宗教ではなく人類共通の古代の神話(火がもたらされたことによる原罪、みたいな)を思わせます。 そして、それには何の興味もない様子だったシロツグが、やがて悩んだとき、つらいときに、ふとその聖典をひもとくのです。やがて、ついに宇宙という聖域へ飛び出したとき、その感動は地上への祈りとなって彼の口をついて出ます。宇宙へ行くことは、つねに人をしばる重力をいわば「解脱」して、この世を外から眺める視点を得ることであり、その視野拡大の体験は超越的で、宗教的な何かと通じるものがあるのでしょうね。 で、ふと振り返ると、最初の場面、宇宙服実験の事故の犠牲となった同僚の墓前でシロツグたちが歌う、なんだか滑稽な「宇宙軍軍歌」の歌詞には「裁きの時は近づかん」とあり、実は宇宙軍はリイクニの説いていた黙示録と同じ予言をしているのでした。 こんなふうに、宗教という日本人にはちょっときわどく難しいモノを扱いつつ、このお話は日常俗世の次元を超えた宇宙的視野を描きます。おもしろさと同時に、こういう感動をも提示してくれる作品って、いまあるのかしら。 戦わず、宇宙的思索の獲得を目指す軍隊、王立宇宙軍。パラレル・ワールドでこその存在なのかもしれませんが、憲法9条を持つニッポンが誇るお話だと思うのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
July 6, 2014 10:12:11 PM
コメント(0) | コメントを書く
[お気に入りコミックス・アニメ] カテゴリの最新記事
|