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表紙絵とタイトルと帯のレビュー(あの大森望さんが「ここにはSF100冊分のネタが詰まっている」ですって!)につられて、ふと買い求めました。中身は、いろんなジャンルごとに、短いけれど印象深い、素敵な講義みたいな文章が盛りだくさんです。
天空編:工藤直子の詩に出てくるくじら君が、すきな本について、 ――宇宙関係はよくよみます。じーんとして、ぼうとなる感じがすきです。 ――工藤直子『ともだちは海のにおい』 と語っていますが、まさにそういう感じが味わえます。第1夜は、 海辺に佇んで、寄せては返す波の響きを聴いていると、「永遠」という言葉が心に浮かぶ。 ――全卓樹『銀河の片隅で科学夜話』 と始まるのですが、たちまち光瀬龍『百億の昼と千億の夜』の冒頭、「寄せてはかえし/寄せてはかえし/かえしては寄せる波の音は…永劫…」を思いだしました。 宇宙の中心とか果てとか、くり返しの永遠とか、遙かに遠いところへ思いを馳せるのは、ファンタジー気分そのものです。 原子編:量子力学における“多世界解釈”(私がこの用語を初めて知ったのは川原泉のコミックス『フロイト1/2』でしたけど)の説明で、ボルヘス「八岐の園」が出てきます! あることが起こるか起こらないかが「重ね合わせ状態」にあり、観測した瞬間に偶然的に決まる、という原子レベルの世界の法則が量子力学。わけがわからないですが、これをパラレルワールドを使って説明したのが多世界解釈・・・らしいです。 今ではSFやファンタジー、RPGなどですっかりおなじみのパラレルワールド。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ではドク(博士)が説明していましたね。 むかし、ゲーム機もなかったころ、RPGの本というのがありました。たとえば主人公が右の分かれ道を選択するならP50へ、左を選択するならP70へ、引き返すならP30へ、などと書いてあり、そのたびにページを飛ばし飛ばし進むのですが、当然、分厚い割に内容のうすいものになってしまっていました。だって主人公の可能性すべてを網羅したら、それは物語世界の時空をまるごと記すことになりかねません(ところでこれに近いことをやっていたのがトールキンの準創造というやつで、物語世界の歴史や地理や神話や言語まで創って、しかも一つ改変をするたびにその背景となる時空の改変をも、果てしなく続けたそうです。彼はボルヘスより前の1910年代かそれ以前から物語世界を記し始めています)。 ボルヘスの「八岐の園」はそういう可能性すべてを網羅し把握することについての物語ですが、RPGより昔(1941年)の小説ですからパラレルワールドなんて言葉があるはずもなく、いや、その言葉の意味するところの太祖的存在だった。そして、あとから量子力学を理解するのにこれが用いられるなんて、人間のアタマの構造は昔から変わっていないということでしょうか。 数理社会編:私の苦手な確率や統計の話。救い(?)なのは、理屈抜きでついやってしまう「自由気ままな選択」や「付和雷同」などの人間心理が、よくないことではなく、人類の進化には必要な本能的心理だった、という説明です。他人の選択になんとなく従っていく性質は、よくない結果も生むが、それ以上に、生存に必要な迅速な集団行動をするのに役立つから、進化した心理だ、というのです。 筆者はあることの説明に、目先の理屈だけでなく、進化とか歴史とか人類全体とかを考えて深く長い見方を披露してくれ、読者は視界が開ける感じがします。 倫理編:本人も覚えていない夢を解析する技術の話では、『劇場版銀河鉄道999』(松本零士)のドリームセンサーを思いだしました。メーテルは鉄郎の夢を無断で覗いてますけど、倫理的にどうなんでしょうね。 トロッコ問題その他の章では、倫理観や世界の理解の仕方に地域や言語などで差があることが説明され、自分の視野が偏狭である(言い換えれば個性的である)かも、と気づかされます。 生命編:アリの社会の話が衝撃でした。私の昔の愛読書『どくとるマンボウ昆虫記』(北杜夫)とか『アリの国探検記』(J.C.ケンリー)にはなかった新事実が載っていたのです。サムライアリが他種族のアリを奴隷にするのは有名な話ですが、最新の研究によると奴隷アリの反乱という現象があるそうです! 何だかワクワクしますね。鎮圧されてしまうけれど、反乱には意味がある、その説明(ネタバレしないでおきます)には、なるほど自然界の妙!とうなってしまいました。 最終話の、渡り鳥をグライダーで率いて飛ぶ話も感動的です。ひな鳥の「刷り込み」を研究したローレンツの『ソロモンの指環』を思いだしました。 参考文献:これまた私の昔の愛読書カール・セーガンの『COSMOS』が挙げられていました。古典、ですって。嬉しいです。 こんなふうに、ブックサーフィンというか、この一冊から、読んだことのある本へ、または知らない本へ、心が旅していける、そんな意味でとても深みのある1冊でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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