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HANNAのファンタジー気分

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May 8, 2023
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テーマ:本日の1冊(3684)
 タイトルはセンダックの有名絵本『かいじゅうたちのいるところ』のもじりですね。なるほど。
 だって、センダックのかいじゅうの独特の外見はおばちゃんおじちゃんだそうですから。そしてこちらの The Wild Ladies は、大阪のおばちゃんです。子育て幽霊だってアメをくれるところは、確かに大阪のおばちゃん。

 世界幻想文学大賞(短編部門)。日本人で受賞はレア、すごい!、また、落語や歌舞伎などの古い怪談からインスパイアされた現代の幽霊譚、というのも、怖そうだけど面白そう! と期待しました。

 ところが、最初のお話「みがきをかける」が予想と全然違っていたので、ちょっと気が抜けたといいますか、途方に暮れたといいますか。(以下ネタバレ少々)
 主人公は彼氏にふられて脱毛サロンに行く。ずっと気にしてきたムダ毛さえなくなればハッピー、みたいに気分を無理矢理アゲようとしていると、「おばちゃん」が訪ねてきて大阪弁で彼女を叱りとばす。

  「なに、毛の力、弱めようとしてんねん[中略]・・・その毛はなあ、あんたに残された唯一の野性や。[中略]毛の力はあんたのパワーやで」
                       ――松田青子『おばちゃんたちのいるところ』

 うーん、永久脱毛に興味をもったことのない私には、ムダ毛のトラウマはよく分からないけど、恋にやぶれたら自分磨きを始める気持ちは分かります。ユーミンの「DESTINY」ですね(♪冷たくされて いつかは/みかえすつもりだった/それからどこへ行くにも/着かざってたのに)。いいんじゃない、何がきっかけでも前向きにみがきをかけるって・・・
 でも、おばちゃんは、その方向性が間違っていると指摘するのです。自分の内なる野性の毛の力を高めよ、と。見てくれではなく、もっと根性を持て、と。

 ただそれがなぜ安珍清姫(娘道成寺)と結びつくのか、イメージ的に破綻しちゃって、私はストーリー半ばで立ち止まってしまいました。物語中で主人公もつっこんでますけど、だって蛇になる話だから、毛をはやすんじゃなくてツルツルの方が合ってません? 永久脱毛して、ウロコでもはやす方が。
 真っ黒な毛におおわれた主人公は、むしろ、狼とか熊とか猿とか、そういうワイルドさが似合うのに・・・
 それと、実はおばちゃんは1年前に恋にやぶれて自殺していて、幽霊だったのですが、最初から最後までまったく幽霊らしさがなく、死んでいる必要性を感じませんでした。自殺未遂で生き直している、でいいじゃん。だって、大阪のおばちゃんはどこまでも現実くさく人間くさく地に足をつけて生きている人で、幽霊やファンタジーの対極に位置する気がする・・・と思うのは私が凡人なんでしょうか。
 つまり、幽霊の雰囲気つまりはファンタジー的な非日常の雰囲気が好きな私は、どこまでも日常的な幽霊に、肩すかしをくらってしまったのでした。

 他のお話もすべてそうで、幽霊でもキツネでも、出てくる怪異がすべて日常と同レベルなんです。こわさとか、不思議さ、底知れなさ、ゆめうつつなおぼろさ、現実から遊離した感じ、センス・オブ・ワンダーがない。
 最後の、番町皿屋敷お菊が「さっさと転生して」(「下りない」)、「菊枝の青春」の主人公になって普通に暮らしてる、とわかったとき、ああ、この日常性は今はやりの転生ものなんだな、と気づきました。
 最近の「ファンタジー」と分類される話には、日常にファンタジー性があるのではなく、異世界にファンタジー性があるのでもない作品が多いのです。
 異世界の住人が日常に転生して日常を営む(『パリピ孔明』とかね)。または、異世界に日常性がある(いわゆる異世界転生もの)。ギャップの面白さや社会分析・批判はあるから、それはそれでいいんだけど、ファンタジー性はない。

 そう思って読むと、これは怪談の語り直しという形を借りた、現代社会の(特に女性の生き方についての)話なんだと気づきました。
 頑張って生きている女性たちの肩の力を抜いてくれ、うんうんと肯定してくれる、力強くも心優しい幽霊たちが次々と登場。その幽霊たちに対する女性たちのまなざしも、気負いなく差別なく親しみ深い。

  アトピーがひどい状態の私を見る同級生たちの目は、私を怪物だと言っていました。
  だから、お岩やお紺の醜く腫れ上がった顔を見ると、私は悲しくなったのです。[中略]どうして怪物扱いされなければならないのだろう。すっかり自分を重ね合わせて、彼女たちに同情してしまいました。               ――松田青子『おばちゃんたちのいるところ』

 なるほど、そういう視点は新鮮ですね。私は怖がりなので、怪談ものを読むと、背筋が冷たくなる系の雰囲気に圧倒されるばかりで、冷静にお岩の容姿がどうとか、考えたことはなかったです。
 ただ、お岩が醜くなくても、絶世の美女でも、化けて出たらそりゃあ顔つきは鬼気迫って恐ろしいでしょう。
 ・・・と、どうしてもつっこみたくなるけれど、まあ、私から見ると最新流行的な怪談の新視点で、目からウロコ、勉強になりました・・・って、やっぱり毛よりウロコをびっしり生やす力を蓄えた方が、合ってると思うけどなあ、おばちゃん。





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Last updated  May 8, 2023 01:11:20 AM
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