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弁護士YA日記

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日出町法律事務所
2019年6月より1年間、日本弁護士連合会客員研究員としてイリノイ大学アーバナシャンペーン校に留学後、弁護士業務を再開しました。
弁護士葦名ゆき(あしな・ゆき)
弁護士葦名ゆき(あしな・ゆき)のブログです。
東京、福島、静岡、アメリカと移動しつつ、人を幸せにする法律家を目指しています。
東日本大震災で被害に遭われた方々に心からお見舞い申し上げます。
2024.05.26
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カテゴリ:弁護士業務
袴田事件の再審公判が結審した。
ニュース速報で、検察官、再び死刑求刑、というテロップを見た時、十分予想できていた、というか、検察官はそうするに違いないと最初から分かっていたことだったにもかかわらず、自分でも驚くほど強い衝撃を受けた。


常人の想像が及ばないレベルで心身を極限まで痛めつけられた日々を取り戻すかのように、周囲の愛情に支えられながら文字通り懸命に生きている袴田巌さんという、88才の一人の生身の男性に対して、また、袴田ひで子さんという、人生を賭けて弟を支えながら、心をよどませることなく明るく毅然と背筋を伸ばして目の前に座る小柄な91才の一人の生身の女性に対して、国家権力としては今もなお、巌さんの命を奪うことが相当だと考える、という、人間が人間である故に持ち合わせているはずの柔らかさや温かさが微塵も存在しない言葉を突きつけることのあまりの残酷さに、私はとても耐えることができなかった。

あの場で検察官が言うべきことは、過去を変えられなくても、未来を変えていくための架け橋となる「ごめんなさい」だったのに。そのシンプルな言葉から、すべてが始まるのに。

ただ、自分でも予想していなかった衝撃を受けたのは、やはり、私が、巌さんの存在を、とても自然に「生身の人間」として認識していたことが大きいと思う。巌さんは10年前に後述の村山決定により釈放されて以来、お住まいの浜松市を中心に、街を歩き、外に出かけ、様々な形で人々と触れ合ってきた。だから、巌さんは、最早「どこか遠くの見知らぬ可哀想な人」ではなかった。私たちの地域で私たちと同じように日常生活を送る、柔らかな皮膚を持つ私たちと同じ一人の生身の人間だった。その感覚は、私特有のものではなく、静岡県に住む人々にとっては、至極当たり前の感覚であり、その証拠に、最近、私の事務所を訪れる方々は、私が話題を振った訳ではないのに、目を潤ませたり、大きく見開いたり、頬を紅潮させたりしながら、口々に、「検察官が言っているのは、今から、あの巌さんを死刑にするってことなんですか?今からですか?」、「おねえさんは、どういうお気持ちで聞いていらしたのでしょうね」等と、我が隣人のことを語るかのように、話題にしていた。

市井の人々の感情に触れて、改めて私の眼前に浮かんできたのは、今年の3月27日の風景だった。

3月27日は、袴田事件再審公判において3日連続の証人尋問最終日という山場で、日本弁護士連合会の正副会長が知事、市長、新聞社等と面談する、日弁連再審法改正実現本部のメンバーが来静し市内各地で街宣活動を行うというスケジュールが組まれていた。


私は、静岡県弁護士会側の担当副会長だったため、主に街宣活動に関して、街宣場所の調整、日弁連側との折衝、当会側の人員確保等の雑務を担当していた。雑務に追われていた余り、当日になるまで、「日弁連再審法改正実現本部」とはどのような組織なのかを実感する余裕がなかったのだが、朝7時半に、集合場所となっている弁護士会館に行き、小柄な身体から愛と優しさ、正義感のパワーが溢れ出す鴨志田祐美本部長代行(私は鴨志田弁護士の大・大・大ファンです!)、余りに膨大な量のあらゆる実務的な側面を調整し本部の要を担う上地大三郎事務局長はじめ、全国津々浦々から集まっていたその場にいた方々の、どこまでも真摯でありつつも、底抜けに明るくやる気に満ち溢れた、今からとても楽しくやり甲斐のあるイベントを実施するのだ!という雰囲気に圧倒された。ああ、この方々は、今日、この場で、本当に真剣に、市民の方々に語りかけようとしている、世論を喚起しようとしている、だから、こんなにキラキラしているんだ、晴れて良かった、本当に良かった、と今までの人生でこれほど天気に感謝したことがないくらい、青空を嬉しく感じた。

ただ、私が、率直に一番驚いたのは、その場に、村山浩昭元裁判官がいらしたことだった。そう、10年前の3月27日に巌さんの再審開始決定、そして、何より、死刑の執行停止のみならず拘置の執行停止を命じたいわゆる「村山決定」の村山部長(正しくは、村山元裁判官もしくは村山弁護士、とお呼びすべきなのだと思うのですが、部長という呼称が、静岡県弁護士会会員としては一番しっくりするのです・・・)がいらしたのである。この場にいらっしゃるということは、もしかして、村山部長も資料配付などされるのだろうか、と思いながらご挨拶申し上げると、穏やかな笑顔で、「(街頭に立つ全員が身につけることになっている日弁連の)腕章がうまく自分でつけられないので手伝っていただけませんか」とお声かけいただいた。わあ、やっぱり、街頭に立たれるんだ、今日この日に村山部長が街頭に立たれたらマスコミが絶対に集中してしまうけれど大丈夫なのだろうか等と少しドキドキしながら、「もちろんです」と安全ピンで腕章をつけるお手伝いをさせていただいた。

その後、裁判所前で始まった街宣、傍聴券を求めて並ぶ人々、通勤、通学途上の方々や学生に向けて、鴨志田弁護士はじめ再審法実現対策本部メンバーの弁護士の声が力強く良く通る声が響き渡る中、私は、傍聴券を求める方々の悲喜こもごも(ほとんどの方は残念ながら外れ)を目撃しながら、ハワイからこの日のためにいらしたという有名なデイビッド・ジョンソン教授の抽選番号が当選し、教授が大喜びされている瞬間を思いがけずご一緒させていただく等の幸運にも恵まれたりしつつ、駆けつけてくれた静岡県弁護士会会員(みんな、ありがとう!!!)と一緒に、一部でも多くの資料を配付したいと精出していた。

街宣は朝だけではなく静岡市役所前で昼にも行われ、日弁連再審法実現本部のメンバーも朝よりなお多くなり、それぞれの方が力強く心の底から道行く人々に呼びかけをされていた。刑事裁判界のレジェンド裁判官であった、木谷明先生までいらしたことには、もう、驚くというより感動した。どれほどの気合いなんだ、この街宣は!

そして、予想通り、マスコミのカメラやマイクは、数メートル離れた私の立ち位置からは、人だかりで村山部長のお姿が見えなくなる程、村山部長に集中していた。

元々、村山部長は、マスコミの前に出ようと出まいと、村山部長率いる合議体が、10年前に再審開始決定を出したのに、その後の検察官上訴のために、事件が東京高裁、最高裁、東京高裁、静岡地裁と裁判所を転々と係属した末に、いまだに再審公判が続いており、10年後でもなお無罪判決に至っていないという袴田事件のあまりにも長い時の流れを象徴する存在だった。

まして、10年前のこの日、再審開始決定を出した当の合議体の元裁判長である村山部長が、ちょうど10年後に、いかにこの裁判が不条理かを訴えるために、敢えて自ら街頭に立って、人々に訴え、資料を配るという「絵」が、マスコミの注目の的になることは、私のような部外者の目から見ても、火を見るより明らかだった。もっと言えば、マスコミの注目を集めてしまうことで、何かしらの批判も受けてしまう可能性があることも、また、容易に予想がつくことだった。

でも、そのことは、村山部長ご自身が誰よりも分かっていらしたことだった筈なのに、何故、今日、ここに立つ決断をされたのだろう。よほどの覚悟で今日ここにいらしたのではないか、そう思って、次々駆けつけてくれる当会会員(何度でも言います、みんな、ありがとう!!!)にビブスを渡したり、立ち位置を調整したりする雑務の合間に、そっとご様子をうかがうと、村山部長は、カメラの前でも外でも、他のメンバーとまったく同じように、ずっと笑みを絶やすことなく、通行人の方々に、明快な言葉で語りかけ、丁寧に頭を下げ、歩み寄り、資料を手渡しておられた。他のメンバーと同じ、ではあるが、他の誰も引き受けることができない村山部長にしか持ち得ない孤高の覚悟のせいか、そこだけ不思議な光が差しているようだった。どこまでも穏やか、でも、本当に毅然とした佇まいに、私に限らず多くの方々が心を揺さぶられたと思う。

この10年間は、巌さん、ひで子さん、弁護団、支援者、誰にとっても長すぎる10年間だったが、村山部長にとっても、また想像を超えた歳月だったのではないかと推察される。でも、この10年の間に、冒頭に述べたとおり、巌さんは、私たち静岡県民にとって、本当の意味での「人間」になった。そのことを、心から村山部長にお伝えしたいと思う。

もちろん、巌さんは、今も拘禁症の後遺症に闘い続ける日々だが、その闘いの日々をも、市井の人々が実感し、一人の人間としての巌さんを感じるようになった。だからこそ、小難しい専門家同士の机上の空論の話ではなく、目の前の人間の尊厳を守るために、再審法改正が必要だという主張が、地に足がついた市井の人々の実感と一致する形で、世論を形成しつつある。

日弁連再審法改正実現本部は、今年を「実現」の年にすべく、一層精力的に活動されている。当会においても、4月に再審法改正実現PTが結成され、私も、PT委員に任命された。今週は、焼津市、静岡市、それぞれに説明にお伺いする予定を組んでいる。少なくとも私は、再審法改正が何故必要かを説明する度に、3月27日のあの空気感を、また、村山部長の佇まいを思い浮かべることになるだろう。


*3/27のテレビ報道の一部は下記の通り。





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Last updated  2024.05.27 12:11:54


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