【相馬写真日記 Vol.1】キノコ狩り!
先日、予告した通り、古いノートパソコンから、相馬時代の写真が見つかり、嬉しくて仕方ないので、ブログにもアップすることにしました!「相馬写真日記」と題して、少しずつ大切な想い出を写真と共に綴りたいと思います。すべての想い出を写真保存しているわけではないので、写真でイメージ浮かばないと思われる点は、私の拙い文章で補うこととします。さて、第一弾は、浪江町の依頼者ご一家とご一緒したキノコ狩りの写真。福島県浜通りにある浪江町は、緑豊かな田園風景が続く穏やかな町。私が赴任した当時、浪江町には、弁護士は一人もいなかった(今もです)。浪江町の住民が、弁護士に相談に行くためには、北の相馬市に行くか、南のいわき市に行くかしか選択肢がなく、いずれにしても1時間以上は移動時間が見込まれる。依頼者は80代の農家の老夫婦で、農作業をされていることもあって、大変お元気な方々ではあったけれど、打ち合わせには、いつも30代のお孫さん(女性)が同行され、階段の上り下りや少しだけ耳が遠いご夫婦のために私が言ったことをかみくだいて耳元でもう一度説明してくださる等、依頼者ご夫婦にとってはむろん、私にとっても、大切な役割を果たしてくださっていた。事件としては、形式的には「境界画定訴訟」という名称が付されるものではあったけれど、その内実は、長年にわたる感情のもつれに代表される当事者間の様々な事情があって、法律上、簡単に単純に結論を出せる問題ではなかった。そこで、事務所に打ち合わせに来ていただいたり、裁判所の期日に出頭するだけではなく(いわき支部です、相馬市からは車で2時間半、遠かった・・・)、依頼者のお宅にお邪魔して実際に現場を見ることも何度か必要で、そんな年月を過ごしているうちに、依頼者は勿論、前述したお孫さんのご夫婦ともすっかり打ち解けてお話ができる関係になっていった。ある日の打ち合わせ時の雑談で、「今年もそろそろキノコ狩りの季節がやってきた」ということをお聞きし、「へえ、私、キノコ狩りなんて今まで一度も行ったことがないです。採れ立てのキノコってやっぱり美味しいですか。どんなキノコが採れるんですか」等と何気なく口に出した。その瞬間、依頼者のおじいちゃまの目がキラリと輝き、「一番沢山採れるのは、ナラタケだ。炊き込みご飯にしても味噌汁にしても、うんとうまい。うまくすっと、マイタケのおっきな株にあたることもあんど。」ととめどなくキノコ狩りの魅力を話してくださる。側にいたお孫さんも、「そうそう、食べきれないから、すぐに汚れ採って大鍋で煮てねえ、冷凍しておけば、先生、一年中、食べられるんだよ。ここらの人、キノコなんて買ったことないよ。キノコ狩りのコツはね、やっぱり朝早く出ること、お昼過ぎじゃあ、良いキノコ全部なくなってるし、山の夜は早いからね」と言葉を添える。・・・聞けば聞くほど、楽しそうだ。「わあ、私も行ってみたい」と思わず口に出すと、おじいちゃまもおばあちゃまもお孫さんも身を乗り出すようにして「先生、ホント?ホントに来る?一緒に行く?」となり、「はい!何時に行けばいいですか?」と聞くと、「5時にウチに来られる?」と答えが返ってきた。5時・・・。朝の5時ですよね。今は早起きの私も、当時は、深夜まで仕事をする生活スケジュールだったので、休日は1分でも寝ていたい。それに浪江町に5時って、4時前に出ないといけないってことだよね、3時半には起きないと駄目だよね・・・一瞬、迷いが生じたが、目の前には、わくわくきらきらの3人が私の顔を固唾を飲んで見ていらっしゃるし、それに、何よりキノコ狩りがあまりにも楽しそうでこの機会を逃したらいけないかもしれないと思うと、いいじゃん、お昼寝すれば、とすぐに思って、「はい!行きます!いつにしましょうか」と答えたときの、3人の嬉しそうな顔、今でも、心に焼き付いている。日程を決めて、汚れても良い服、歩きやすい靴、手袋、帽子などキノコ狩りの装備をお聞きして、後は、当日を迎えるのみ。眠い目をこすって依頼者のお宅に約束通り、5時に到着した時には、この人たちはいったい何時から起きていたのだろうと思われる活気ある雰囲気。後でお孫さんからお聞きしたところによれば、おじいちゃまは、興奮して眠れなかったらしいです(笑)。私の持参した軍手を一瞥して、「そんなもの、薄すぎる、こっちにしな」と厚手のスキー用のような手袋を貸していただき、さあ、みんなで里山に出発だ!早速山に入るも、キノコ狩り初心者の私は、そもそもどこにキノコがあるのか、探し方のコツがまったく分からない。ベテランのお孫さん夫婦は、とにかく私に直接キノコを見つける楽しさを知ってほしいというお気持ちなのだろう、「先生、あの藪の下とかあっかもよ」「古い木があるとこは要注意」と的確な指示を与えてくださる。なるほど~と探すうちに、わあ、あったあった!食べられるかどうかも私には判別つかないのだけど、とにかくキノコがあったあった!「先生、ナラタケだよ、食べられるよ!」とお孫さんも大喜び。貸していただいた鎌で慎重に掘り出したところを、お孫さんが持参したカメラでパチリと撮って下さったのが冒頭の写真です。その後も、「先生、初めてとは思えないよ~」等とおだてにおだてられて、すっかり調子にのってキノコを収穫、汗だくで2時間程、山道を歩いたか、帰宅の時間となった。2つの籠一杯のキノコを背に帰宅した私たちをお留守番部隊のおばあちゃまが、満面の笑みで出迎えて下さる。早速、庭に広げて、絡んだ雑草や泥汚れを落とし、大鍋で煮る。浮き上がってくる汚れをすくって、もう一度さっと煮てできあがり。ものすごい量のキノコをほぼ全部お土産に持たせていただき、「先生、今日はゆっくり休んでよ」と見送られて、帰途につく。高揚する頭で、寝付けるはずもなく、炊き込みご飯とお味噌汁を作り始め、食べてみたら、まあ!なんとなんと美味しいんでしょう!採れ立てのキノコって全然香りが違うんだあ。キノコって食感を楽しむものだと思ってたけど、香りが命なんだなあと、実感。ここからは後日談。それから半年後、私は、日弁連の機関誌「自由と正義」に公設事務所のリレーエッセイの寄稿を依頼された。仕事のやり甲斐も勿論だけど、相馬の魅力、どうしても伝えたい。写真も数枚掲載していいということだったので、迷わず、この写真も選んだ。だって、東京にいたら絶対経験できない楽しいことなんだもん。原稿と写真を日弁連の担当事務局にメールで送ったところ、「先生、写真の順番、どういたしましょうか。あと、通常、冒頭に、先生の顔写真を掲載するのですが、別途送って頂いていいでしょうか」と電話連絡があった。私は、「え~、顔写真ですか。えっと、じゃあ、あのキノコの写真ありますよね?あれを顔写真代わりに使うのでどうでしょう?『ナラタケを収穫した筆者』とキャプションつけていただければ、私だって分かりますよね」と答えると、「はい、あの、でも、先生?この写真ですと、キノコに先生のお顔が隠れてしまっていますが、それでもよろしいでしょうか」と戸惑った声。「いいです、いいです、キノコが主役で」と答えると、笑いをたっぷり含んだ声が「分かりました!そうさせて頂きます」と応答してくれた。拙稿「相馬ひまわり物語」は、自由と正義 (58巻(2), 103頁、2007年)に収録されていますが、巻頭写真には実は、こういう背景があったのでした。依頼者宅にも勿論送付して、大変喜んでいただきました。・・・楽しくて素敵な宝物のような想い出、ここまで書いてくるだけで、何度も涙が溢れそうになりました。浪江町。小さいけど、豊かな自然に恵まれていたあの町は、キノコ狩りどころではない、今は、警戒区域となって、誰も入れない地域に指定されています。誰がこんな日が来ると予想したでしょうか。・・・返してください。あの綺麗な自然を返してほしい。あの日の皆の笑顔を返してほしい。それだけです。お金なんていらないです。あの日に戻ることができるなら、私は、どんなことでもしたいです。でも、でも、心に焼き付けた想い出は、どんな強大な力だって消せないから、だから私は、書き残しておこうと思います。相馬写真日記第一弾でした。