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弁護士YA日記

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日出町法律事務所
2019年6月より1年間、日本弁護士連合会客員研究員としてイリノイ大学アーバナシャンペーン校に留学後、弁護士業務を再開しました。
弁護士葦名ゆき(あしな・ゆき)
2012.02.23
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カテゴリ:弁護士業務
2月20日、いわゆる光市母子殺害事件の最高裁判決があった。
事件発生から13年。紆余曲折を経て、犯行時18歳1ヶ月だった元少年の死刑判決が確定したわけだ。

この事件は、被害者の権利、少年法の趣旨、刑事弁護人の役割等、社会に広範な議論を巻き起こし、私自身も思うところ多い事件であるが、今回は、死刑判決確定を受けたマスコミの実名報道に対する姿勢に絞って書きたい。

まず、大前提として、少年法61条は、次のように規定している。

「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない」

この条文を素直に読む限り、少年のとき犯した罪により公訴を提起された者が、その後、どんな判決を受けようと(たとえ死刑判決であろうと)、実名報道はできないことになるはずだ。

しかし、実際には、今回の死刑判決確定を受け、多くのマスコミが元少年の実名報道に踏み切った。
下記記事によれば、毎日新聞、東京新聞を除くほぼすべての報道機関が、実名報道をしたらしい。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120221/trl12022122500012-n1.htm

(引用)
「新聞は産経、朝日、読売、日経の各紙が21日付朝刊で実名報道。産経は死刑により「更生の機会が失われ、事件の重大性も考慮」したことを主な理由とした。朝日新聞は「国家によって生命を奪われる刑の対象者は明らかにされているべき」と主張、読売新聞も「国家が人の命を奪う死刑の対象が誰なのかは重大な社会的関心事」と付け加え、情報公開の観点からも必要性を強調した。

毎日新聞と東京新聞は匿名を継続。毎日新聞は、更生について「心持が根本的に変化すること」と広辞苑の定義を引用し、死刑によって更生の可能性がなくなるとする見方にくみせず、刑確定後も大月被告の心からの謝罪を求め、再審、恩赦の可能性にも触れた。東京新聞も再審、恩赦制度に言及し「少年法が求める配慮はなお必要」とした。

 テレビ各局は更生の可能性が喪失したことを主な理由に実名報道。テレビ朝日、TBS、フジテレビは、国家権力行使の監視の観点を理由に加えた。」


少なくとも形式的には条文に反することは明らかなのだから、これだけ多くの報道機関が実名報道に踏み切った理由、是非、詳細な説明が欲しい。

しかし、理由は、事前に各報道機関において、入念に打ち合わせでもされたのでしょうかと問い質したくなる横並びぶり。
上記の記事によれば、「更生の機会がなくなる」「死刑の対象者が誰かは社会的関心事」、「国家権力行使の監視の観点(・・・?すみません、日本語として意味が分からないのですが。)」の3つしか理由のレパートリーがない。

この3つの理由、個人的にはいずれも納得できないが(3つめはそもそも言葉の意味が分からない)、中でも、私が、ものすごく引っかかったのが、ほとんどのマスコミが「死刑確定により更生の可能性が喪失」を理由に挙げたこと。

えっと、でも、「死刑確定」と「更生の可能性が喪失」って論理必然なのでしょうか?
私、今から難しいことを言うつもりはないんです。言葉の意味を考えてほしいと言いたいだけです。

では、いきますよ~。
まず、「により」ってことは、文字通り、「死刑が確定したら、更生の可能性は当然喪失する」という意味で、マスコミ各社は使っておられるのですよね?

確かに、「死刑確定」に伴い、普通に考えれば、この元少年は、「今後の一生を絞首刑によって命を絶たれるその日まで、拘置所で過ごすこと」になるのでしょうね。
再審とか恩赦とかがない限り、そうなりますよね。

社会に出られなくなるわけだから、その意味では「社会復帰の可能性が限りなく低くなる」これは、間違いないことでしょう。
仮に社会復帰の可能性が限りなく低ければ実名報道して良いのかという問いの立て方をされると、少年法の趣旨に遡った深い論証が必要になってくるので、今は割愛します。

なお、このテーマに触れているタイムリーな論文は、下記。九大の武内さんに教えていただいた論文ですが、少年法の趣旨に遡った深く説得的な論証に、ただただ感動しました。

本庄武(2011)「成長発達権の内実と少年法61条における推知報道規制の射程」一橋法学10巻3号99-138頁
http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/handle/10086/21189

・・・実は、本庄さんは、大学院時代に一緒に机を囲んで沢山のことを教えていただいた先輩です。当時から切れ切れの頭脳の持ち主であることは分かっていましたが、久々にアカデミックな論文をちゃんと読んで、自分の勉強不足を痛感すると共に(文字通り、心が痛かった)、研究者というのはなんと素晴らしいお仕事をされているのだろうと畏敬の念を持ってしまいました。本庄さんに限らず、私がお付き合いさせて頂いている法学研究者は、大変尊敬できる方ばかりです!

はい、でも、ここで、私が問題にしているのは、日本語を使う日本国民としての(笑)、もっと素朴な言葉の使い方です。

普通に考えて、「更生の可能性」と「社会復帰の可能性」って同じ意味ではないですよね。
「更生」という言葉は、「社会復帰の可能性」も包含するもっと大きな概念。
毎日新聞が引用しているように、広辞苑は、「更生」を「反省・信仰などによって心持が根本的に変化すること」と説明しています。

私自身も、刑事事件の弁論等で、しょっちゅう「更生」という言葉を使いますが、「社会復帰」という意味に限定して使ったことはなく、その方が持っている心の力といった広辞苑で説明されているような意味で使っています。

「広辞苑」に従属するつもりはないけれど、更生の意味については、私の理解は特殊なものではなく、日本語の意味としては、極めて一般的な解釈ではないでしょうか。

「更生」の定義がはっきりしたところで、「死刑確定により更生の可能性が喪失」という言葉を、より分かりやすい言葉に置き換えると、マスコミ各社は、一斉に声を揃えて「死刑確定により、元少年の心持が根本的に変化することがなくなったので、実名報道することにしました」と各紙一面トップで、あるいはテレビのトップニュースで高らかに宣言したことになります・・よね?

・・・何で?いや、本当に素朴に何で?

死刑が確定したからって、どうして、一人の人間の気持ちが変化することなんかないって、言い切れるの?
死刑を言い渡された人は、確定した瞬間、心まで死んでしまうの?

それじゃあ、死刑を言い渡された人は、およそ「改悛の情」を持つことは金輪際ないということになるの?人に対して「優しさ」とか「愛情」を感じることは絶対にないってことなの?

実際に、この元少年の心が今後どうなるかは分かりません。変化するかもしれないし、しないかもしれない。
ただ、変化するかしないかは、神ならぬ私たちには、分からないことではないでしょうか。

・・・私は、率直に言って、なんと傲慢な人たちが記事を書いているんだろう、なんと人間の尊厳を冒涜することを厭わない書き方なんだろう、と心底、品性を疑ったし、また、この「横並びぶり」に怒りを通り越して、愕然とした。

私は、言葉を手段に、言葉を武器に、人の心と向き合う職業なので、言葉の使い方に特別敏感なのかもしれない。
大袈裟に反応しすぎだという人もいるかもしれない。

でも、そんなこといったら、報道機関だって、同じではないですか。
マスコミは、言葉を使って人に情報を伝える組織なんだから、言葉の持つ意味、言葉の使い方は、鋭敏に研ぎ澄ましていなくてはならないお仕事ではないのですか。

今回のマスコミ報道は、人間の尊厳への冒涜であると共に、自分たちの魂であるはずの言葉への冒涜だと強く感じました。

最後に、今回の一連の報道の中で、私が唯一救われたと感じた、毎日新聞の「お断り」を引用しておきます。
結論に賛成するから、ではなく、言葉に対する鋭い感覚を維持されていることがよく分かる誠実な「お断り」だったので、こういう姿勢を、反対の立場であっても各社に見せて欲しかったなあと切実に思うからです。

「毎日新聞は元少年の匿名報道を継続します。母子の尊い命が奪われた非道極まりない事件ですが、少年法の理念を尊重し匿名で報道するという原則を変更すべきではないと判断しました。

 少年法は少年の更生を目的とし、死刑確定でその可能性がなくなるとの見方もありますが、更生とは「反省・信仰などによって心持が根本的に変化すること」(広辞苑)をいい、元少年には今後も更生に向け事件を悔い、被害者・遺族に心から謝罪する姿勢が求められます。また今後、再審や恩赦が認められる可能性が全くないとは言い切れません。

 94年の連続リンチ殺人事件で死刑が確定した元少年3人の最高裁判決(11年3月)についても匿名で報道しましたが、今回の判決でも実名報道に切り替えるべき新たな事情はないと判断しました。」







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Last updated  2012.02.25 02:54:27
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