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カテゴリ:ついつい批判的にみてしまう会社法
(前回からのつづき)
ここまでは、自己取引の場合でも利益相反取引の場合でもそれ以外の場合でも、423条1項の意味は共通であることを前提に書きましたが、あり得る解釈としては、それぞれの類型ごとに423条1項の意味を使い分けるということも考えられます(以下、二元説一元論に絞って書きます)。 まず、原則論として、423条1項の任務懈怠には任務懈怠(客観)と過失(主観)とが含まれるはずだと。 けども、「自己取引」の場合における423条1項の任務懈怠は、428条1項が任務を怠ることとは区別して帰責事由云々と書いているので、「任務懈怠(客観)」の意味なんだと(それに伴い423条3項で推定されるのも「任務懈怠(客観)」のみとなる)。これは、428条1項によってはじめて任務懈怠(客観)に制限されるのではなく、自己取引における任務懈怠というものが、もともと過失(主観)を含まないものなんだということ(428条1項を確認規定扱いする)。 これに対して、「利益相反取引」における423条1項の任務懈怠は、428条1項のような区別のある規定はないから、原則論のとおりだと(それに伴い423条3項で推定されるのも原則論どおり)。 このことを、任務懈怠の意味に焦点をあわせて整理すると、 1 自己取引の場合 428条1項 客観 →423条1項 客観 →423条3項 客観 2 利益相反取引の場合 423条1項 客観+主観 →423条3項 客観+主観 とそれぞれの類型の中では任務懈怠の意味が整合するわけです。しかし、こういう使い分けが許されるのか、という点が当然問題となりますよね。 考え方の順番としては、本当は上の矢印の順のとおりなんですが、1の場合、428条1項によって423条1項の任務懈怠の意味が制限されるのではなく、423条1項ははじめから「客観」を意味するのだと。なんでわざわざこういうことを言うのかというと、423条1項の任務懈怠を「客観+主観」としてしまうと、(後で制限されるとはいえ)428条1項(「客観」)と一致していなかったことになってしまうからです。 また、上に書いたとおり、423条3項に「主観」も含めてしまうと、同条1項の段階で過失の立証責任がすでに役員側に転換されていることとも整合しなくなってしまうという問題があります。 そうすると、類型ごとに使い分ける、という手法をより強引に推し進め、通常の場合には、423条1項の段階で「立証責任の分配」の一般論により過失(主観)の立証責任を役員側に転換するが、利益相反取引の場合には、423条1項の段階では過失(主観)の立証責任を役員側に転換しないでおいて、423条3項によって、任務懈怠(客観)とともに過失(主観)を役員側に転換される、としてしまうか。3項によってはじめて過失(主観)の立証責任の転換がなされるんだと。 任務懈怠の意味及びその立証責任の所在を整理すると、 1 自己取引の場合 423条1項 客観(追及側) 423条3項 客観(役員側) 428条1項 客観(主観は不要) 2 利益相反取引の場合 423条1項 客観(追及側)+主観(追及側) 423条3項 客観(役員側)+主観(役員側) 3 それ以外の場合(通常の場合) 423条1項 客観(追及側)+主観(役員側) ということになり、123それぞれの類型の中では任務懈怠の意味を一致させることができるわけです。 以上、長々と書きましたが、条文解釈のお作法の問題であって、別に実益はありません。だから、教科書の類でも、 423条1項の任務懈怠責任は過失責任 423条3項により利益相反取引の場合は任務懈怠が推定される 428条1項により自己取引の場合は無過失責任となる と何ら節操なく並列的に書いてあっても、なんの問題も生じないわけです。任務懈怠の意味が条文ごとに違っている、なんてことは運用上も何ら支障はありませんし。条文作成者としても形式よりも実益を重視したということでしょうか。 何ら関連無く選択された言葉がたまたま一致しているというだけで、無理に意味を合わせる必要はないと思いますが、ここででてくる任務懈怠は意識的に同じ言葉を選択しているはずです。それゆえ、なんとかして意味を一致させようと試みたのですが、それぞれの類型(自己取引、利益相反取引、それ以外)の中で一致させるところまでが限界で、類型間での一致まではできなかった、というところでおしまいです。 ○会社法 第423条(役員等の株式会社に対する損害賠償責任) 1 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 3 第356条第1項第2号又は第3号の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。 第428条(取締役が自己のためにした取引に関する特則) 1 第356条第1項第2号の取引(自己のためにした取引に限る。)をした取締役又は執行役の第423条第1項の責任は、任務を怠ったことが当該取締役又は執行役の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができない。 第356条(競業及び利益相反取引の制限) 1 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。 一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。 二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。 三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007年05月23日 13時00分57秒
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