カテゴリ:童謡・唱歌 桃源郷
早春賦 そうしゅんふ
吉丸一昌(よしまる・かずまさ) 春は名のみの 風の寒さや 谷の鶯 歌は思へど 時にあらずと 声を立てず 時にあらずと 声を立てず 氷解け去り 葦は角ぐむ さては時ぞと 思ふあやにく 今日もきのふも 雪の空 今日もきのふも 雪の空 春と聞かねば 知らでありしを 聞けば急かるる 胸の思ひを いかにせよとの この頃か いかにせよとの この頃か 作曲:中田章 『新作唱歌』(大正2年・1913刊)所収。 註 春が訪れたら「胸の思ひを」打ち明けようと思っているのだが、気後れしたり雪が降り続いたりして、なかなかその機会は訪れない。 うかうかうじうじしているうちに春が来てしまったので、ああどうしようかと今さらながら気が急(せ)くばかりの今日この頃である。 やきもきするほどじれったくて純情な、昔の人の古風な恋心。 あるいは発表当時、すでに古めかしく感じられたのではないかと思われるほどの、和歌的・擬古的な文語の文体と内容である。 「胸の思ひをいかにせよと(胸の思いをどうするかと)」などを見ても、(男の方から求愛するのが普通だった)当時の社会通念からして(今でもけっこうそうだろうが)、この詞の潜在的な作中主体(私)は、一聴した印象と異なって、若い男かもしれない。 歌は思えど時にあらずと:(恋の)歌を歌おうかと思うが、まだその時ではないと。 角(つの)ぐむ:(草木が)芽吹く。萌える。 さては時ぞと:さあ、今こそその時だと。 あやにく:「あいにく、折り悪(あ)しく」の意味の古語。 春と聞かねば知らでありしを/聞けば急(せ)かるる胸の思いを/いかにせよとのこの頃か:春と聞かなければ知らないそぶりでいられたのに、聞いてしまったら急かされるこの胸の思いを、いったいどうしようかと思い惑う今日この頃だなあ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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