新百人一詩その77―エズラ・パウンド「ヒュー・セルウィン・モーバリー 5」―
「ヒュー・セルウィン・モーバリー 5」エズラ・パウンド数えきれぬ者たちが死んでいった、――しかも、もっともよき者たちがそのなかにはいたのだ――、歯がぼろぼろのあばずれ婆あのために、できそこないのぼろくず文明のために。すこやかな口もとに浮かぶ微笑の魅力も、くりくりした瞳も いまは大地の目蓋の下、たかが二グロスのばらばらの彫像のために、たかが数千のぼろぼろの本のために。(嵯峨山登訳)-----------------There died a myriad,And of the best,among them,For an old bitch gone in the teeth,For a botched civilization,Charm,smiling at the good mouth,Quick eyes gone under earth's lid,For two gross of broken statues,For a few thousand battered books.原詩は岩波文庫の『アメリカ名詩選』に日本語対訳で載っています。一方、別の邦訳が思潮社の海外詩文庫『パウンド詩集』にもありました。第二連の二行をそれぞれ独立したものとしてとらえるか(思潮社)、一行を分かち書きにしたものととらえるか(岩波)で翻訳者の解釈が異なるようです。不具は後者を採りました。全体としては、両者を参考にしつつ、押韻・縁語等に気をつけながら、いいとこどりで訳したつもりなのが拙訳です。蛇足ながら、本詩は第一次世界大戦の死者を悼む挽歌ですが、今日的な目でとらえると、第二次世界大戦の挽歌として、ベトナム戦争の挽歌として、否、勝った側が読んでも敗けた側が読んでも、戦争による犠牲そのものに対する抗議の絶唱として、たいへん優れた作品だと思います。なお、邦訳を比べ読みしたい方は以下の二冊を図書館や書店等でお求めください。【送料無料】アメリカ名詩選パウンド詩集