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カテゴリ:百人一詩
「盲人の独白」
エーリッヒ・ケストナー 通りかかる者はみんな 通りすぎます 誰も、私がめくらだというので、立っているのがわからないのですか でも私は三時から立っているのです さて、おまけに雨まで降りだした 雨が降ると人間はつれなくなります こんなとき私に逢うものは てんで私に逢わないふりをするのです 眼なしで私は街に立っている 街はまるで海辺かと思うどよめきかたです 晩になれば私は犬のあとから 綱にひかれていくのです 私の目はこの八月が 失明十二周年記念日でした なぜ弾のかけらは、胸や もう働きたがらないこの心臓にあたらなかったのか ああ、誰も手製の絵葉書を買っちゃくれませんよ 私が運がわるいからでさ どれも一枚十ペニヒです 私は自分で七ペニヒ払っているのです もとは私もあなたがたのように何でも見えました 太陽も、花も、女も、街も そしておふくろがどんな様子をしていたか こいつは一生わすれません 戦争はめくらにする それは私を見ればわかる そして雨が降っている 風も出ました いったい、ここには自分の息子をおもう 人の母はいないのですか それから、私のためにお母さんからお金をもらった子供はいないのか ---------------- 亡くなった不具の祖父は、栄養失調で十二の年に失明し、戦時中はごくつぶしと言われたそうです。 ケストナーは『点子ちゃんとアントン君』や『飛ぶ教室』で有名なドイツの詩人・作家。 出典『ケストナァ詩集』(思潮社)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2011.04.29 23:51:21
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