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カテゴリ:百人一詩
「雪の降る日」
以倉 紘平 一九七〇年 大阪で開かれた万国博覧会で 五千年後の人類に届ける タイムカプセルが埋められた そのなかに東京都板橋区の小学校四年生 林雅幸君の作文が収められている <五千年後のみなさん、今日は。 一九六九年一月二十九日、 東京にはめずらしく雪がふっている……> たしかそんな書き出しの作文だった 五千年後にも 雪は降っているだろう 四十六億年の歴史をもつ地球の営みからすれば 五千年後の地上に雪が降らないことはありえない 私は改めて自然の営みの悠久さを思いながら 五千年後の列島に静かに落ちる雪を思ってみる その頃も日暮というものがあるだろう しかし 灯の入った玄関で 外套(コート)の肩先きにかかる雪を払うしぐさや 外の雪を感じつつの夕餉や 帰宅を案じる心などというものはあるだろうか 二十世紀後半の 人間の感情生活を理解するには 膨大な注釈が必要だろう 雪の降る日の 人間のいじらしかった生活 人類はしかしとっくに滅びているだろう したがって注釈も書かれないだろう ただ雪だけが 小さな惑星の一隅で降っているだけだろう その時 私の魂のかけらが ふぶきのなかにまじっていたとしても もう何ひとつ思い出せないだろう ------------ つながりでもう一篇。この詩を読んで不具は思わず「核の冬」を連想しましたが、みなさんはいかがだったでしょうか。 今日は二〇一一年一月二十九日。 奇しくも窓の外は雪であります。… お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2011.01.29 20:16:48
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