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2016.02.22
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  『銀河鉄道の夜』宮沢賢治(岩波文庫)

 ……だからどうだと言うつもりはありませんし、下手な考え休むに似たりということわざもあるのですが、ここ数日けっこう、ふと思い出すと宮沢賢治についてぼんやり考えていました。
 というのも、かつてずっと私は、宮沢賢治は苦手だと思ってきたのですが、この度冒頭の童話集を読んで、苦手だというだけで放っておく訳にもいかないだろうという気になり、ネットやあれこれ手元にある書籍などを読んだからです。

 それはつまり、何といっても賢治の詩、たとえば「春と修羅」とか「永訣の朝」とか、あるいは「雨ニモマケズ」の中の「サムサノナツハオロオロアルキ/ミンナニデクノボートヨバレ」などといったフレーズに何度も圧倒されつつ、一方賢治の散文には、今ひとつ入り込めない自分を感じていたからでもあります。

 ちょっとじっくりと考えてみますが、確かあの本にそんなことが書いてあったはずと探したら、やはりありました。
 『安部公房とわたし』山口果林(講談社)という本です。
 この本は少し前に『安部公房伝』安部ねり(新潮社)と前後して読んだ本です。2冊合わせて読むと、晩年の安部公房の姿が彷彿と浮かんでくるようでとてもおもしろかったのですが、この本の中にこんな一節があります。

 ……マンションで「吉野葛」の文庫を読んでいる最中に安部公房がやってきた。お茶の支度をしている間、安部公房は本を取りあげ読んでいた。初めて読んだのだろう。「谷崎って僕の文体に似ている」と感心したように言った。
 いつのことだったか、「次の世紀に生き残る作家は誰だと思う? 三人挙げてみて」と聞いたことがある。安部公房は少し考えて「宮沢賢治、太宰治……うーん」三人目の名前はなかった。自分だという思いがあったのだと思う。


 公房が第1番に宮沢賢治を挙げたのは、少し驚きだったんですが、そんなことないですかね。それは、公房が賢治を評価している文章を私がそれまで読んだことがなかったからですが(娘さんの名前「ねり」というのが、賢治の童話から取ったと言うことは知っていたのに)、それにしても一等賞の評価ですか。

 そういえば、以前からわたくしは勝手に、演劇好きの人は賢治好きが多いという「自説」を持っておりまして、昔演劇好きの友人にその旨を言いましたら、「ふーむ」と考えて半ば納得してくれたような記憶があります。

 しかしあっさり白状すれば、私の「自説」は劇作家の別役実が賢治好きだからですね。それを私がほぼ勝手に全演劇人に敷衍しただけであります。
 でも今回、改めてはっと気がついたのですが、安部公房もお芝居を書いて演出までしているではありませんか。

 それに、この度上記の『安部公房伝』をぱらぱらと読んでいたら、娘さんが高校時代に、父親の職業について学校に提出する書類に何と書けばいいのかと聞いた時、「劇作家と書きなさい。小説家と劇作家とは全然違うのだ」という趣旨のことを言ったとありました。

 ……うーん、なんとなく符牒が合ってきたようにも思いますが、でも演劇畑の人になぜ宮沢賢治高評価者が多いのかの原因究明には至っておりません。
 しかし、これは何となく分かりますね。

 この度わたくし、賢治についてあれこれ読んでいた中に、賢治の時代の代表的童話雑誌の『赤い鳥』が、賢治を高く評価しなかったという一文も目にしまして、さもありなん、北原白秋や芥川龍之介の洗練された童謡や童話と賢治の素朴で無骨なお話とでは、とても相容れまいと納得しました。そしてそのことが、演劇人は賢治好きを逆方向から照射しているような気がします。(言わずもがなの補足ですが、演劇とは肉体による思考であるというポイントですね。)

 ところで、上記に引用した山口果林の文章ですが、前半部に谷崎のことが書かれてあります。実はわたくし、ここのところもなかなか興味深かったんですね。

 そもそも谷崎の文体と公房の文体って、本当に似ていますか?
 「吉野葛」という作品が、後期谷崎作品によく見られる随筆仕立ての構造になっていることと関係があるとは思いますが、例えば谷崎の「刺青」に見られるような絢爛豪華な文体が安部公房にも見られるとは思えません(公房もそんな文体を志向してはいないでしょうし)。

 わたくし、密かに思うのですが、山口果林のここんところの文章はこう読むんじゃないでしょうか。(山口果林がどんな意図で書いたかはともかく。)

  川端康成:谷崎潤一郎=宮沢賢治:太宰治

 いきなり川端康成をここに持ち出してきて、ヘンですかね。
 でも、谷崎、川端、安部という系列は、かつてノーベル文学賞に一番近い日本人として(実際川端は長寿のおかげで受賞しましたが)、共通した評価基準上にあったと思います。

 そして川端と谷崎の文学の質を比較した時、川端の方に、より天衣無縫な無手勝流の才能の噴出を感じることを、そのまま宮沢賢治と太宰治の文学の質にパラフレーズできると考えるのは、あまりに我田引水でしょうか。

 安部公房が、「吉野葛」の文体と自分の文体が似ていると感じたこと、そして宮沢賢治を次世紀に残る文学者の第一等においたことは、自分を谷崎=太宰よりに考え、一方で自らの資質とはやや異なる川端=宮沢的文学性をその上位に置いた、ということではないでしょうか。

 では、その宮沢賢治的文学性とは何かというと、これは賢治自身が『注文の多い料理店』の序文で自ら語った文章から伺えそうです。

 これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらってきたのです。
 ほんとうに、かしわばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかったり、十一月の山の風のなかに、ふるえながら立ったりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。(略)
 ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでしょうし、ただそれっきりのところもあるでしょうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。


 どうでしょう。安部公房は、特に前期いかにもシュールリアリズム的な作品を次々に発表しましたが、それらの作品を読んでいても、この賢治の文章にある「そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです」という感じはちっともしません。公房のシュールには、もっと知的な戦略があり技術がある(もちろんこの対比は善し悪しではありません)と感じます。

 さて少々長くなってしまいましたが、この度の冒頭の童話集を読んで、私はトータルな印象としてはどこか気味の悪い思いを持ちました。しかしその「気味悪さ」は、いわば「崇高な気味の悪さ」と言ってもいいような感覚でありました。

 それで思い出したこれまた一つのエピソードですが、坂口安吾が賢治の「眼にて云う」という詩を取り上げて、「この『罰当たり』が見ている青空の美しさ」という論評をしたのを読んだことがあります。
 ひょっとしたら宮沢賢治は、人間がそこまで辿り着いてはいけない「罰当たり」な地点から、私たちに語りかけているのかも知れません。


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Last updated  2016.02.22 19:20:54
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