安倍政権が推進する政策は、安保関連法案に限らず通信傍受法や残業代ゼロ法案、国家戦略特区、マイナンバー制度と、いずれも憲法違反の疑いがある。その点について、6月30日の東京新聞は次のように論評している;
国会で審議中の安保関連法案は、違憲性が最大の焦点となっている。ただ、違憲性が疑われるのは安保法制だけではない。現政権が推進する少なからぬ政策に共通する特徴だ。通信傍受(盗聴)法改正案や労働法制関連の改正案、国家戦略特区、10月に番号を通知するマイナンバー制度など、いずれも「違憲」の疑問符が付けられている。(林啓太)
「通信傍受法は現行法さえ、憲法21条の通信の秘密に違反している。改正されれば、違憲の度合いがさらに強まるだろう」
上智大の田島泰彦教授(情報法)はそう話す。
現行の通信傍受法の対象犯罪は薬物、銃器、集団密航、組織的殺人のみ。審議中の改正案は、対象を傷害罪や児童買春・ポルノ禁止法まで広げる。「傍受の標的は犯罪組織の関係者だけでなくなる。一般人まで通信の秘密が暴かれる危険が高まる」(田島教授)
実際、通信の秘密の担保はおぼつかない。捜査当局の傍受への「監視」も弱まる。現行法では電話会社の施設で、社員の立ち会いを義務付けている。改正されれば、警察署などに伝送して外部の立会人なしで傍受する手法も可能になる。
田島教授は「将来は、米国のようにあらゆる通信を傍受することを正当化したいのだろう。これは憲法で保障された基本的人権の危機でもある」と危ぶむ。
労働法制ではどうか。衆院に労働基準法改正案の形で提出された「ホワイトカラー・エグゼンプション」法案。「残業代ゼロ法案」との異名の通り「高度の専門的知識を必要とする業務」とl定の年収を対象に、本人の合意があれば残業だけでなく休日、深夜の割増賃金も支払われなくなる。
憲法27条の2項には「勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」とあるが、龍谷大の脇田滋教授(労働法)は「憲法制定時には『基準』は8時間労働制が想定されていた。この法案は8時間労働制から大きく逸脱する。ゆえに違憲が疑われる」と説く。
労働者派遣法改正案はどうか。成立すれば、派遣労働から抜け出せない人が増えるとの懸念が広がる。19日に衆院を通過した。
脇田教授は憲法27条1項に定める「勤労の権利」に着目する。「憲法を制定した当時、国に安定的な仕事を提供させることも勤労の権利の一部と考えられていた。生涯にわたり、不安定な派遣労働を強いかねない改正法案は違憲だ」
アべノミクスの目玉政策のひとつ「国家戦略特区」にも、違憲性が指摘されている。「特区」が憲法14条が定める「すべての国民は、法の下に平等」という規定に抵触するからだ。
一昨年5月に法律が成立したマイナンバー制度にも、プライバシー保護の観点から違憲批判がある。憲法13条の「すべて国民は、個人として尊重される」というくだりは「プライバシー権」の根拠とされる。
個人に番号を割り当て、貯蓄や社会保障などの情報を国家が一元的に管理することは、プライバシーの侵害にあたらないのか。日弁連情報問題対策委員会副委員長の水永誠二弁護士は「マイナンバーは制度設計自体が違憲。利用される範囲は広く、深刻さは住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)をはるかに上回る」と語る。
現政権で違憲の疑いがある政策が山積している現状について、田島教授は「官僚の思惑」を指摘する。
「いずれの政策も従来ならば、違憲性の問題で頓挫しかねないものばかり。自民党が絶対安定多数を確保しているうちに、つくれる法律は全部つくってしまおうという官僚の算段が働いているのではないか」
2015年6月30日 東京新聞朝刊 11版S 28ページ「政策違憲疑惑だらけ」から引用
従来であれば違憲性が問題視されて頓挫するはずの政策が次々と立法化されるというのは重大な問題である。このままで推移していけば、過去に何度も国会に提出されてその度に廃案になっていた「靖国神社国家護持法案」も復活し、やがて国会は「日本は神の国」決議を可決し、あらゆる新聞は「自由新報」に統合され、すべてのテレビ・ラジオは「国営NHK」にまとめられて異論は許されない社会になるかも知れない。呆れた話だ。