ウクライナ紛争でロシアに経済制裁をする関係で、同国から天然ガスの供給が得られなくなる西欧諸国が代替エネルギーをどうするのかという問題を抱えていることについて、毎日新聞編集委員の青野由利氏は4月16日の同紙に、次のように書いている;
世界を戦慄(せんりつ)させるロシアのウクライナ侵攻。軍事的に中立だったフィンランドも北大西洋条約機構(NATO)加盟に傾いている。
そう聞いて思い出しだのは、2013年に北欧のこの国を訪問した時のことだ。
まず向かったのは首都ヘルシンキから高速バスで西へ4時間ほどのオルキルオト島。原発から出る核のゴミの最終処分場「オンカロ」で有名だが、そもそもは原発サイトだ。稼働中の原発2基に加え最新鋭のオルキルオト3号機が建設中で、4号機の計画もあった。
福島の事故後も原発維持・新設の方針は揺るぎないように見えたが、なぜなのか。
現地で感じたのは、「エネルギー面でもロシアからの独立を保ちたい」という強い思いだ。
複雑な歴史を持つフィンランドが帝政ロシアによる統治を経て独立したのは1917年。それ以降もソ連の侵攻を受け、国家の維持が脅かされた経験がある。
接する国境は1300キロ。至る所にあるという防空シェルターもヘルシンキの大聖堂の地下で見せてもらった。隣国の脅威を肌で感じてきた歴史が原発政策にも影響してきたのだろう。
今、世界の原発の位置づけは微妙に変化しつつある。欧州委員会は今年1月、原発を「環境に配慮した投資先」に含める方針を決めた。温暖化対策の観点から後押しする動きだ。
当然、脱原発を進めるドイツやオーストリアなどが猛反発したが、原発大国フランスは歓迎する。
ここにさらなる一石を投じたのがロシアの軍事侵攻だ。
欧州各国は化石燃料の多くをロシアに依存してきた。ここからどうエネルギーの脱ロシアを図るか。原発復権の可能性もあるが、原発依存のリスクもまた大きい。
05年に建設が始まったオルキルオト3号機は4年で完成予定だったのに、17年かかってようやく送電を開始したのがこの3月だ。
炉心溶融にも航空機の衝突にも耐えるというが、技術的な問題で延期が繰り返された。建設費も膨れ上がり、一時は訴訟に発展した。原発新設は英仏でも課題が多く、持続可能とは思えない。
日本では経済産業相が脱ロシア依存に向け「再生可能エネルギーや原子力を含めたエネルギー源の多様化をめざす」と述べている。
だが、この機に乗じた原発回帰は禁物だ。
ロシアの隣国同士でも日本とフィンランドは地質がまるで違う。「地震? 経験したことがありません」。かの地の地質担当者の言葉を思い出す。
(客員編集委員)
2022年4月16日 毎日新聞朝刊 13版 2ページ 「土記-脱ロシアと原発」から引用
この記事では「原発大国のフランス」などと書いているが、フランスの原発はうまく行ってるのかどうか、極めて怪しい。それというのも、福島の原発事故の後始末に東京電力が購入した放射能汚染水の浄化装置の製造元だったアトラス社は倒産したというニュースに接した記憶があるし、上手い具合に事故無しで稼働した原発があったとしても、そこから出てくる高濃度放射性廃棄物を無害化するには10万年かかるというのであるから、経済モデルとして成立しないことは明らかです。フィンランドでは、この数百年間に一度も地震がないと言っても数万年単位で地層の変化を辿れば、それなりの地殻変動は間違いなくあったのであり、どっちに転んでも原発は将来の我々の子孫に多大な迷惑を及ぼすものであることは論を待ちません。気象条件に左右されるとか、立地場所の問題があるとか、様々な困難があるにせよ、再生可能エネルギーを利用するというドイツの方針のほうが、人類の福祉に貢献できるのは間違いないと思います。