カテゴリ:読書感想
![]() 1920年代と1990年代をつなぐ濃い花の香り。人間として何をすれば生きたといえるのか、それは男も女も違いは無いのに、お互いを遠い存在にしてしまう、理解しがたいものの正体は? 桐野夏生さん、珍しい時空間移動物語風、ファンタジー風。でもリアリティはしっかりあるのである。 桐野さんの作品のヒロインには多い気質と思うのだが、硬質な精神をもてあまし、ぴりっとしていて、自立している意思、そのために傷つき易い心の持ち主。 そういうもろヒロイン有子が恋人を振り切って、会社も辞めて上海に語学留学している。くしくも彼女の大伯父も1920年代(かって日本がとてつもなく大陸に夢をはせた時代)に船乗りとして上海で暮らしたことがあるという。その大伯父との意識交流をとおして、恋人への思い、悩み、人間関係が交錯するなかでの変化、うごめく、堕ちる、を経験する物語。 「グロテスク」を読んだ時もとても気になったのだが、しっかりした女性の恋愛の崩壊による幻滅が、性の崩壊につながっていくことがあるというテーマ。 桐野さんも「文庫本のためのあとがき」で『女は性によって男に裏切られる。しかし、性で戦うこともできるのである。』とおっしゃっている。 つまり、男と同じ人間として社会で暮らすには、鎧を着て戦うごとく挑むのだが、矛盾だらけの世の中で受け入れられず、限界を感じるのだ。気まじめな女性ほど、『世の中と適当に対応することができない、複雑な性格を有する』と思われ、その『痛々しい姿は、現代に生きる若い女性の悩みの一側面を表している。』のだ。そして壊れていくかに見える。 (これによって「グロテスク」がわかりやすく理解できたのかもしれない。「グロテスク」と一対と言ってもよいのではないかしら。) どこかに行けば、新しい自分に会える。遠くへ行きたい!離れたい!違う自分に会いたい! しかし結局、自分にしか会えなかったのではないか?自分は変れたのか? 答えは最終章。登美子という親分肌の女性(66歳)の存在。ああそうなんだと…。 キーワードは大伯父さんの質(ただし)の生き様。 大伯父の恋人浪子(なみこ)といい、この登美子(とみこ)といい、作家「林芙美子」を思い出さずにはいられない、と思ったら桐野さんの随筆に林芙美子さん、好きとあった。なるほどね。 なかなかよろしい作品。再読したくなる。 ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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