書いているうちに主人公、登場人物が勝手に動き出すと作家はよく言う。
半信半疑に思っていた。作家だもの、文責ってものがあるだろう。統御できるでしょ、作家の分身ではないか、頭の中で作り出したのだろう?
だが、私のへたな文章でも書いているうちに、最初の意図と異なる文意になっていく経験をする。あれれ、こんな風に言うつもりはなかったのに!と。
パタンと閉じる、そこで読み終わったすぐの感想…、面白かったか、よかったか、感動したか、打ちのめされたか、暗い気分になったか、まずいものを読んだと思ったか、それはないよと叫んだか。
みんな当たっている。が、一番印象深いのは主人公、登場人物が勝手に踊りだしたのではないかだ。作家自身も手を焼いたのでは?作家が書くのをやめられなくて、読者が読むのをやめらない、になれば成功ということ。
場面を追って、話のすじは面白い。しかし、暗い部分が暴れている。どうしようもなく深くなっていく人間の絆の闇。ハードボイルドはかっこいいばかりではない。引きずっているものを切り捨てる苦しみをも醸す、冷ややかに。それは見苦しいとも言える現実なのだ。
探偵村野ミロの行く末を知りたい、桐野夏生さんのファンなら一読の価値ありの本。