カテゴリ:読書感想
篠田節子さんの長編は読めば必ず感動して圧倒されているが、短編ははじめて。「愛逢い月」「死神」つぐ三冊目の短編集だという。
短編だけれど、中身がぎゅっと詰まっている。リアルな語り口だが、幻想が加味された不思議な雰囲気であるのは長編と変わらない。しかもぐんぐんと迫ってくる力強さがすごい。 「彼岸の風景」「ニライカナイ」「コヨーテは月に落ちる」「帰還兵に休日」「コンクリートの巣」「レクイエム」 それぞれに印象的な作品だが、「コヨーテは月に落ちる」がもう若くない女性の心の空洞がかもしだす寓意的な経験が面白い。 一人生きてきて世間の荒波を乗り越え乗り越え、まじめに果敢に人生に向かっていても、障碍が起こるたびに心の中を風が吹きぬける。障碍とは仕事の行き詰まりであり、身体的衰えであり、孤独であることである。 転勤の歓送迎会に出ようとしていたヒロインが街角で、さっそうとしたコヨーテの青白く光る目に誘われて、砂漠のような都会の高層マンションに閉じ込められてしまった。 そのマンションは独身の自分が苦労して手に入れたマンション(入居目前で地方に転勤になってしまった)のようでもあり、他の場所のようでもあり夢のように時間が経過していくばかり。 歓送迎会に遅れると心配しつつ。迷路のような高層マンションのさまよいから抜け出せない自分に、それを許すのか。結末は篠田節子の世界だ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年08月25日 10時18分21秒
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