原 稿 用 紙 10 枚 を
書 く 力
原稿用紙10枚という分岐点を超えたら、
後は20枚も30枚も同じことだ。
そんなに大きな差はない。
そして、10枚の壁を突き破った後
見える風景がある。
突き破った人にしかわからない爽快感がある。
( あとがきより )
まえがき
いま、文章を書くことが苦手だという人たちが多い。
ことに若い年代に多くなっている。
書く力は、読書力と深い関係がある。
書く力のない人はたいてい読む力もない。
日常生活で、何も困らないのなら、それでいいのかもしれない。
しかし、学生なら当然、論文やレポートなどを書かなければいけない機会も多い。
社会に出て会社に入れば、報告書から企画書にいたるまでさまざまな形で
書く力が要求される。
書く力がないと、困った場に直面することになるであろう。
それなのに日頃の書く訓練があまりにも不足しているのではないだろうか。
本書では、だれもが400字詰め原稿用紙10枚程度の文章を書く力を
身につけられる方法を、できるだけ実用的に示していく。
書く力は、訓練次第でだれでも確実に身につけることができるのだ。
そしてもっと大事なことは、「書く力」を身につけることで、
読書力がつくだけではなく、これからの社会でもっとも必要とされる
「考える力」をつけることができるといういうことだ。
いまの若い人たちがいかに「書く力」=「考える力」がないかは、日頃から
学生ちと接触している私には、嫌でも目につくことである。
学生に、あるテーマを設定して、「20分以内にその場でまとめてみなさい」
といった課題を出すことがある。
20分たっても、わずか3~4行しか書けない学生たちが少なからずいる。
書けないとなると、ほとんど何も書けない。
好意的に解釈すれば、書きたいことが頭の中にたくさん渦巻いて、何から
書きはじめていいかわからない。
そのうちに時間がきてしまったとも考えられる。
しかし、実際には、そんなことはない。
書きたいことが頭の中に渦巻いているというよりも、書くことが
思い浮かばないうちに、時間がきてしまうのである。
なぜ書けないのかといえば、文章を書く訓練が決定的に不足しているからなのだ。
それは、考える訓練を重ねてきていないということでもある。
著者: 齋藤 孝
2004年10月10日 第1刷発行
1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。
同大学院教育学研究科博士課程を経て、
現在明治大学文学部教授。