ヴェネツィアの獅子たち

　潮の干満は、月や太陽によって海面が周期的に昇降する現象で、一日に満潮、干潮とも各二回ずつ起こります。満潮から次の満潮までは約12時間で、満月と新月のときに潮位は最大となります。
　ヴェネツィアのアックアアルタは、大潮とシロッコという風の要因が重なったときに起こります。大潮とアフリカから吹いてくるシロッコが海面を押し上げ、異常な高潮アックアアルタを引き起こすのです。このシロッコは、しばしば湿った空気を連れてくるため、イタリア中に雨を降らせます。そして各地の洪水のニュースとともに、ヴェネツィアの水につかったサンマルコ広場の映像が流されるので、イタリア人の中でもヴェネツィアの水びたしの原因は雨だと勘違いする人もあります。
　アックアアルタの史上最高の記録は、1966年11月の194センチで、何時間も海水に浸かった一般の家屋や店舗、歴史的建造物に大きな被害をもたらしました。今シーズンは二度ほどサイレンが鳴ったくらいで済みました。

　地元の人は、アックアアルタに対する独特のセンサーを持っていて、警報が出る前に生暖かい空気や風の匂いを感じとって、「来るぞ」と感じるようです。一階部分の店舗や事務所が水につかる前に、商品などを高い所へ移動させ、水が押し寄せそれが引いた後は、海水でぬれた部分を水道水で洗い流す、という作業をもくもくとこなします。
　今ヴェネツィアのラグーナでは、街をこのアックアアルタから守るための大工事が始められています。環境や予算面などの様々な批判や反対もあるようですが、だからといって何もせず手をこまねいてる訳にもいかないのです。この大工事が少しでも街の生活と歴史的遺産の保護に役立つよう心から祈るばかりです。
（写真はアックアアルタ用の長靴、太ももの上くらいまであります）