「ラストレター」 ラジオの魅力
最近面倒くさい話題ばかり書いていたのでちょっと一服。おすすめの小説など「ラストレター」作 さだまさし 朝日新聞出版 聴取率0%の深夜ラジオ放送局の大改革に勢いで抜擢されたアナウンサーと、それを取り巻く奇人、変人、でも根底にラジオが持っている可能性を信じている人々とリスナーのはがきが、やがて奇跡のような番組を作る。 この本は歌手であり、それ以上にラジオDJとして文化放送で長く深夜放送を支えていた著者のある意味自伝的な側面もあり。当時その放送をリアルタイムで聞いていた自分だから、多分の思い出補正が入っています。ですが、なんだか自分がラジオが好きな理由がとてもよくわかる。ラジオは想像力のメディア、だからこそ感情に直結し、一枚のはがきに笑い,泣き、怒り、喜べ、感動もする。 小説内であるディレクターが「昔、ラジオドラマで三国志をやったが、「曹操軍10万の兵が一斉に~」という言葉、これはラジオだから地平線を埋め立てて押し寄せる大軍勢の絵が成立する。これがテレビだとそういう映像を作らなくてはならない、作っても視聴者に「これ、10万人もいないで3万ぐらいじゃね」と疑われてしまう」そういうメディアだ」と言うくだりに納得したのです。 そして本のタイトルにもなっている「ラストレター」のコーナー。これは実際にさださんの番組では必ずあって、どんなに番組内ではしゃいだり、ふざけたりしても最後の一通で今週自分が一番心に残ったはがきを読むことで聞き手にその体温が伝わる。これ、本当に真実で。だからこそ「また来週も聞こう」という気分になる。聞いてよかった番組として心に残る。 最近、スマホやパソコンでラジオを聴く人が増えているそうで。これは懐古主義とかそういうのではなく、一時期ラジオをもう古いモノ、時代遅れで無用なものと思っていただけでなく、一回も聞いたことがない人が初めてラジオを聞いてファンになる、ということもあるのかなあと。テレビと違ってラジオが自宅の情報中心メディアとしてある家庭もここ何十年も少なかったですから。その一方で現実には地方放送局の資金難など、厳しい状況も続いていて。 と、ラジオに思い入れのある方向けの小説なのは否めませんが、だからこそそういう人にはぐっとくる、ぜひ読んでほしい、そしてどの番組でもいいからまたラジオを聞いてみたくなる小説です。 ちなみにさださん本人は、現在NHKのテレビで不定期(2か月に一回ぐらい?)に深夜にはがきを読む深夜ラジオのような番組「今夜も生でさだまさし」を10年も続けています。テレビ的な演出はほとんどなく、ときどき歌と、ゲストとのトーク以外は恐ろしく地味な、でも体温が伝わる番組で。この番組でもラストレターのコーナーはちゃんと受け継がれています。