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カテゴリ:連載小説
英語は目的ではなく、手段だと思います。受験英語は、英語が目的化しているところに「悲劇」があるように思えます。
きょう初めての方は、フリーページからどうぞ! そうは言っても不安はある。 「どうしたの?深刻そうな顔をして。」 席にもどると、あらたかた荷物を片付け終えた広田が、かえってきた松田をみるなり、そういった。 「英語でプレゼンやることになった。」 「うおー、かっこいい。」 「からかうんじゃないよ。おれにできるかなあ。」 「心配しなくていいんじゃない?まえもって川越さんと綿密な打ち合わせをしておけば、大丈夫よ。だって、川越さんは、まつさんの英語の力も知ってるんしょ?」 「そりゃ、そうなんだけどね。でも、その表現、ちょっと気になるけど。」 「それにね、海外じゃ、ビジネスマンたるものプレゼンできて当たり前なんですからね。チャンス!くらいに思ったほうがいいわよ。」 「そういうもんかなあ。」 広田の言葉には、自分のなかにとかく埋没しかける自信というものを、見事なまでに復元してくれるパワーがある。 「まつさん、プレゼンやるんだって?」 気が付くと熊本がいた。 「どうして知ってるんですか?そういえば、川越さん探してましたよ。」 「いま、社長室よってきた。」 熊本は、年令は松田より上だが、神野などひとまわりは若い開発のメンバーと徹夜もこなしてきた。まったく体力的によわったところ、疲れをみせないのは、たいしたものだ。 「でも、この会社どうなるんですかね?」 「どうなるもないさ、とにかくJで資金と実績は積んできたんだからね。」 この台詞は、何度となく聞いた。たしかに、Jが売れるに越したことはない。しかし、松田が懸念するのは、アメリカではなく、インターナショナルの傘下にはいる点だ。 この点については、川越はなにか思うところあるようだが、熊本は、それを知っていても外にださない。ある意味で、川越は正直なのかもしれない。 夕方、7時。初日の疲れもあり、会社をあとにした。熊本は、神野と飲んで帰るとかで、さそわれたが、帰ることにした。 「なるようにしかならないんだから」 たしかに熊本のいうように、なるようにしかならない。でも、少しでもいい発表をしたいというのが正直な気持ちであった。苦し紛れといわれようが、泥縄とおもわれようが、手引きとなるものを読んでみたくなった。 銀座の旭屋書店は、昨今の大型店鋪と比べれば広いとはいえない広さだが、売れ筋の本は、ここにくれば買いそこなうこともなかったし、ビジネス書も充実していた。入り口あたりの雑誌コーナーは、待ちあわせのOLらしき女性が何何人も、女性誌を読んでいる。そして、女友達であれ、彼なりがくると、その雑誌をおいて、店を出ていく。また、はいって、おくまった壁際には、これも、銀座らしいというか、広告関係、マーケテイング関係のコーナーが充実している。 しかし、いまひとつ、納得のいく内容の本にめぐりあえなかった。 本のなかには、冒頭は、こうしてはじめればいいとか、出ている本もある。しかし、プレゼンは一方通行ではない、プレゼンのあとの質疑応答も大きなポイントになる。こういって締めろとあって、締めたところで、そのあと、どんな質問がとんでくるかまでは書いていない。 結局、日比谷にぬけ、たまたま入った界隈にしては、すこし古いビルの中にある書店で、コンパクトにまとまっているプレゼンのハウツー本を求めた。 論理構成をピラミッド式にせよ、とか、英語というよりも一般的なプレゼンの方法論が主体の本だった。。 「この本はよく売れるよ。そこの×菱商事が研修で使った本だからね」 「よく、御存じですね」 「まあ、本についてわからないこと、なやむことあったら、なんでも聞いて」 この店主の一言が決めてだった。 旭屋書店、近藤書店、などいろいろあるが、店の人が本を知り尽くしてるっていう感じは、残念ながらない。書評にでた本でも、いちいちパソコン端末でたたいて、在庫の有無、在庫している場合、その棚の位置を確認する。 しかし、この書店でしばらくみていると、問い合わせにも、店主が的確に答えている。また、書棚の構成もよく練られていて、会社関係で使う本、それでだれでなく、各種の本がベストセラーふくめてうまく並んでいる。 都会の中で、密かなオアシスをみつけたような気がした。 松田は、東京駅から東海道線に乗り込んだ。 しかし、新しい場所への通勤で、気疲もあったのか、乗り込んだとたんにうとうとはじめた。 ふと目をさますと、蒲田の駅を通り過ぎている。ほんの数日前まで、この駅をりようしていたのが信じられない心持ちであった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.04.13 00:09:17
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