ブランデー水で割ったらアメリカン
「ブランデー水で割ったらアメリカン」??たぶん1970年代の終わり頃にサントリーのコマーシャルに使われたコピーなのだが、マスメディアがこのような誤解を生む可能性のある文言を流布する事には疑問も感じるし、それをコマーシャルに使ったメーカーの常識や、その宣伝文句をテレビ放送で何度も繰り返し放送されることになった、それを語るタレントも、その真疑を知っていたなら、同罪のように感じたものだった。今でも、水で薄めた飲み物を「アメリカン」と呼ぶことに抵抗がない人たちも少しは居るかと思うが、語源は、日本で薄めのコーヒーを「アメリカン」と読んで喫茶店が提供し始めたことに依るのだろう。真実はアメリカ合衆国ではコーヒーの中で、ライトローストやシナモンロースト、或いはミディアムローストされたコーヒー豆を用いて多めのお湯で抽出されたコーヒーが広く提供されているところから、日本人が、アメリカンタイプコーヒーと言う意味合いで作り出した日本語に由来するでしょう。40数年前、ジャズ評論家と言う肩書でTVに出演し始めた大橋巨泉の巨泉は俳号で、この罪深い「ブランデー水で割ったらアメリカン」と言う俳句風のキャッチコピーをしゃべるコマーシャルに起用され、サントリーはブランデーの販売拡大に成功したのだそうだ・・・・。(俳句風のコピーは巨泉の書いたものであるとは思えないが)日本の喫茶店でも実際にネルドリップで落とし溜めたコーヒーを水で薄めてイブリック等で温め直して客に提供していたところもかなり多かったはずだから、そもそも日本語である日本での「アメリカンコーヒー」の真実と言う点では、あながち間違いとも言いにくいのだが、水で薄めればアメリカンというコピーはやはり誤解を生むものに違いはない。本場アメリカで飲まれる薄めのコーヒーを実際に飲んだことが無い私だから、多くは語れないが、生のコーヒー豆を購入して自分でローストして飲んでいる私は、やや浅めの焙煎で入れるコーヒーのことは熟知していて、言って見れば、苦みが少なく酸味や香り成分が多く残りカフェインも多く含まれる状態のコーヒーと言うことになる。余談だが、私はコーヒーを抽出する時、お湯の量を正確に管理しない。その代わりやや濃いめにドリップして、苦みを程良く出来る濃さにお湯で調節して頂く。その理由は適量のコーヒーをミルで挽き、適量のお湯で抽出すれば良いのだが、実際に一人前を抽出することは殆どないし、ちょっとしたことで薄く入れてしまうと、抽出の後半では雑味や渋みを感じる成分が出て来てしまうのではないか?と感じた頃から、早めにドリップを止め、飲む時に少しお湯で薄めた方がより美味しく飲めることを発見したからに他ならない。私は30数年前「ブランデー水で割ったらアメリカン」と言うセリフのあるコマーシャルを引き受けた大橋巨泉は節操のない男と感じたし、高額であろうコマーシャルの出演料のためなら、そういう誤解を生むようなコピーを語る仕事でも臆面もなく引き受けてしまう人なのかとちょっとガッカリしたものだが、その大橋巨泉も数日前にこの世を去った。大橋巨泉はアメリカ文化の最たるものであるジャズの評論家でもあり、多くのアメリカ人が飲む薄めのコーヒーが決して普通に入れられたコーヒーの水増しでは無く、浅炒りの豆を使う事に由来していることを知らないはずはないし、そして何かと蘊蓄を語り、そうしたことには即突っ込みを入れる様なキャラクターだったから、「水で割ったらアメリカン」と言うコピーには彼自身疑問を感じ無いとは考えられなかったので、あのコマーシャルを引き受けたということで、私は大橋巨泉にやや失望し、どちらかと言えば嫌いになっていたのです・・・・。「ブランデー水で割ったらアメリカン」と言う宣伝文句は決して褒められるようなものではないと思ったし、多くの誤解を生んだと思うが、ジャパンドメスティックではあってもブランディーを水割りで飲むことがタブーであったことを打ち破り、そういう飲み方に道を開いたことは一つの固定観念の打破と言う意味で評価しようとは思う。(フランス等のヨーロッパ諸国では、ブランディーの最大の魅力である香りのバランスを著しく壊すという理由で全く評価されていない飲み方なので要注意、エステル系の香り成分は水に溶けないことがその主な科学的理由とされるが、もしかしたらフランスでは水が日本とは違って硬水であることもその遠因となっているのかもしれないのだが・・・。)大橋巨泉殿、「モルヒネも水で割ったらアメリカン・・・・」もし、貴方がそんな風に言って看護婦さんたちを笑わせていたりしたのなら本当に面白かったでんすがね・・・・・。どうぞ安らかに眠ってください。