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元SF小説家・春橋哲史のブログ(フクイチ核災害は継続中)

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きなこ@ Re:フクイチの汚染水(処理水)放出までの経緯 2012年11月~23年8月(10/13) 詳しい経緯のまとめ、ありがとうございま…
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2019.08.18
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※23年9月2日、最新の情報に基づいて文章や数字を一部更新
​※22年9月1日、ポンチ絵の一部を差し替え、文章を一部簡略化
​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​

 これまで、拙ブログでは、フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)の汚染水について、タンク容量の限界が見えていることをお伝えしてきました。
 今回の記事では、もう一つの「保管容量の限界」についてお伝えします。

 ALPS(アルプス)で発生する廃棄物に関する事なので、先ず、ALPSの概要等を掲載します。

 当ブログのポンチ絵やグラフはクリックすると拡大します。無断転載・引用はご遠慮下さい。​​​
 グラフ・表・ポンチ絵は、B5サイズ以上のタブレット・PCでご覧頂くことを前提に作成していることをお断りしておきます。
 見難い場合には、ワード・ペイントに張り付けてご覧下さい(Windowsの場合)。


ALPSの構成と概要

※ALPS→多核種除去設備。水に含まれる放射性核種の内、62種類を、検出限界値未満まで除去可能な性能を持つ。トリチウム(三重水素)は水と同等の性質を持つ為、除去不可。

3種類のALPS(既設・増設・高性能)(23年8月末時点のもの)





ALPSで除去可能な62核種



フクイチ構内配置図



 ALPSの概要を箇条書きします。

1.ALPSには「既設」「増設」「高性能」の3種類がある。
2.ALPSでの処理には薬液が必要。
3.高性能ALPSは2016年2月以降休止中。
4.既設・増設ALPSを稼働させると、「スラリー(高濃度廃液)」と「使用済み吸着材」が水処理二次廃棄物として発生。
5.水処理二次廃棄物は「HIC(ヒック)」と呼ばれるポリエチレン製容器に詰められる。
6.HICは「ボックスカルバート」と呼ばれるコンクリート製のボックスに収納され、敷地内の「使用済み吸着塔一時保管施設」に保管されている。


HICの保管容量に限りが有る

 ここからが本題です。
 結論を先に書くと、「HICの保管容量に限界がある」のです。

 水処理二次廃棄物(スラリーや使用済み吸着材)が詰まったHICは、「使用済み吸着塔一時保管施設」に保管されています。2023年8月末時点で確保されているHICの保管容量は4384基分です。
 HICの保管基数が増え続けるばかりだと、下記のようになります。

保管すべきHICが増え続ける→ HICの保管場所が尽きる→ ALPSで発生する水処理二次廃棄物が保管できなくなる→ ALPSは稼働させられなくなる

 ALPSが稼働させられなければ、フクイチの汚染水処理は破綻します。それは絶対に避けなければいけません。

●HICの保管容量4384基の根拠→ (リンク)​​ALPSスラリー安定化処理設備設置における検討状況​(PDFの8頁)

 以上が、フクイチの水処理に迫る、もう一つの「時間切れ」です。

 東電・原子力規制委員会が何もしていない訳ではありません。対策案が具体化してきましたので、それを見てみましょう。


東電が検討している対策

 元々、HICの耐用年数は最長でも20年間と評価されており、水処理二次廃棄物をHICに保管するのは、永続的な処置ではありません。原子力規制委員会は、以前から「HIC内のスラリーの抜き取り方法」を検討するよう、東電に指示していました。

 2019年7月22日の「第73回 特定原子力施設監視・評価検討会」で東電が提示したのが下の案です。
(同検討会の資料2-2「ALPSスラリーの安定化処理に向けた検討状況」よりキャプチャ/http://www.nsr.go.jp/data/000277900.pdf )

HIC内のスラリー抜き取り検討案


 同検討会での東電の説明をまとめます。

●21年度中の運用開始目標(2022年度末に「26年度運用開始を目指す」旨が報告された)。
●安定化処理設備建屋は、ALPSの建屋ほど大きなものにはならない。
●スラリーは加圧圧搾濾過方式で脱水・圧縮する。
●脱水したスラリーはパンケーキ状になり、その「パンケーキ」はHIC5基分を角形容器1基に詰める。
●検討中のスラリー抜き取り設備は、1日当たりHIC3基の処理が可能。
●ALPSの稼働開始直後に発生したスラリーは放射能濃度が高い為、HICが発生した時系列順に抜き取ると、角形容器の放射能濃度が高くなり、後の処理に支障を来す可能性がある。角型容器内のパンケーキの放射能濃度ができるだけ均等になるようにスラリーの抜き取りを進めたい。
●角形容器と、パンケーキの処分方法は今後検討。
●スラリーを脱水することで発生する廃液と、スラリー抜き取り後の空HICを洗浄した廃液は、放射性液体廃棄物である為、ALPSで処理する(ここでも水処理二次廃棄物が発生)。
●空HICの洗浄水は、貯留しているALPS処理水を用いるなど、汚染水の総量を極力増やさない方法を検討。
●洗浄後の空HICは廃棄すると固体廃棄物になる為、廃棄物の総量抑制の観点から、再利用を検討。

 以上が、東電の説明の概要です。

(リンク)資料:​ALPSスラリーの安定化処理に向けた検討状況

(リンク)会議の動画(ALPSスラリーについては1時間35分頃から)
 :​第73回特定原子力施設監視・評価検討会(2019年07月22日)


スラリーが保管されているHICの基数やインベントリ(放射能量)

 東電の検討内容や説明が妥当なものかどうか、考える際に前提となるのが、処理すべきHICの基数やスラリーのインベントリ(放射能量)です。

 残念ながら、HIC内のスラリー全てが調査されていないので、監視・評価検討会では、それらの情報が提示されていません。
 そこで、若干古いデータですが、今は廃止された、もう一つの検討会である「特定原子力施設放射性廃棄物規制検討会」の第6・7回会合に提出された資料から推測します。

 先ず、インベントリ(放射能量)について。

 2018年5月2日時点のデータによると、スラリーの代表的核種であるSr90で推定・約22京ベクレルです。下記資料の2頁「1-2.スラッジ、スラリーの性状と発生状況」に基づいて計算しました(1立方メートルは100万立方センチメートル)。

(リンク)​除染装置スラッジ、ALPSスラリーの安定化処理にむけた検討状況​(2018年7月23日/第7回検討会の資料2)

 次に、HICの基数についてです。
 HICには、スラリーが保管されているものと、使用済み吸着材が保管されているものがあります。
 その内訳を直接示した資料はありませんが、放射性廃棄物規制検討会に提出された資料と、水処理週報の数字を照らし合わせることで割り出せます。

 それによると、2017年7月6日時点のHICの総保管基数は2463基、同年7月5日時点のスラリー入りHICの保管基数は2254基です。
「保管総数の約9割がスラリーが保管されているHIC」になります。

元データ1
(リンク)​水処理週報・310報​(PDF3頁下部の「保管容器」)

(リンク)​スラリー、スラッジの安定化処理にむけた検討状況​(第6回・検討会の資料2の3頁「1.スラリー、スラッジの種類と発生状況(2)」)

 2018年の基数も同様に割り出してみます。
 2018年5月3日時点のHICの総保管基数は2733基、同年5月2日時点のスラリー入りHICの保管基数は2478基です。
 1年経っても、「保管総数の約9割がスラリーの保管されているHIC」という割合は変わってません。

元データ2
(リンク)​​水処理週報・351報​​(PDF4頁下部の「保管容器」)
(リンク)​​除染装置スラッジ、ALPSスラリーの安定化処理にむけた検討状況​(2018年7月23日/第7回検討会の資料2の2頁「1-2.スラッジ、スラリーの性状と発生状況」より)

 以上の結果から、当ブログでは「HICの保管総数の内、約9割がスラリーの保管されている​​HICであろう」と見做します。


処理能力は多めに見積もり、一日でも早い設備の稼働を

 ALPSで処理すべき水は、「ALPS処理待ち水(ストロンチウム処理水)」「建屋滞留水」「今後も増加する汚染水」だけではありません。タンク貯留されているALPS処理水の約7割も、ALPSの性能通りに核種が除去されておらず、更なる濃度低減処理が必要です。東電も、ALPS小委員会の第10回会合で、二次処理する方針を示しています。
 ALPSでの水の処理量が減ることは考え難く、寧ろ、増える可能性もあります。

 又、HICからのスラリー抜出に伴って発生する廃液(スラリーから脱水した分+HICの洗浄液)もALPS処理されます(HIC3000基の処理で約2.5万トンと推定)。

 このような状況を踏まえると、​脱水・安定化処理での日量処理可能量はHIC3基ではなく、6基程度を想定すべき​だと思います。
 又、世界で初めて稼働する設備であり、実績のないものです。稼働率は50%程度と見做すべきかも知れません。

 時間をかけて良いことはないのですから、安全確保を大前提としつつ、出来るだけ処理能力の大きい設備を、1日でも早く稼働させるべきです。

 何れにしても、「時間切れ」が見えている課題ですから、取り組みは待ったなしでしょう。

 当記事をお読み頂いた皆さんは、数字の羅列に辟易されたことと思います。記事を書く上で必要でした。
 HICの保管容量・保管基数は、拙ブログで汚染水の貯留量を月末ごとにお伝えする記事に記載しています。そちらの数字にも注意を払ってみて下さい。


春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF)​​​​​​​​​ ​​​​​​​​​





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Last updated  2023.09.02 19:09:51
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