「処理水」の希釈放出(投棄)により、貯留量は減少傾向
フクイチ(東京電力・福島第一原子力発電所)の汚染水に関する数字です。
24年6月・最終木曜時点で汚染水(放射性液体廃棄物)の貯留容量は約140.8万t容量で、貯留量は約132万tです。貯留量の内、いわゆる「ALPS(多核種除去設備)処理水+処理途上水」(※)は約130.2万tです。
※「ALPS処理水」
:正確には「ALPS(多核種除去設備)で放射性核種の濃度低減処理を一度でも実施した、相対的に低濃度の放射性液体廃棄物」。簡略化の為、当ブログでは「ALPS処理水」又は「処理水」と記載。
下の「資料2」のグラフで一目瞭然ですが、貯留量は昨年9月以降、微減です。昨年8月24日に「処理水」の、海洋への希釈放出(事実上の「投棄」)が開始されたからでしょう。
政府・東電は海洋へ希釈放出する理由について「敷地を空けたい」「タンク増設の余地は限定的」等、色々と言っていました。私は、それらの説明は全て建前で、本当の狙いは「貯留量の減少」ではないかと下衆の勘繰りをしています。
海洋放出は23年8月22日の関係閣僚等会議で決定され、その決定通りに開始されました。
(リンク)
●詳細は「第6回 廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議」の資料2に記載
●福島第⼀原⼦⼒発電所ALPS処理⽔の海洋放出開始について(8月24日/東京電力)
放出に際しては、「放出水量は日量最多500t」「トリチウム濃度の上限値は1500㏃/L」「年間放出量上限はトリチウムの放射能量で22兆ベクレル」という運用基準が定められています。
24年7月16日までに7回、水量にして約5.5万tの「処理水」が希釈放出されました。
(リンク)
●フクイチの「処理水」放出による、放射性物質の核種別放出量/24年7月上旬(拙ブログ記事)
私は「施設の管理に失敗して惹き起こされた核災害由来の放射性廃棄物を、意図的且つ大量に環境中に放出して処分する」ことには反対です。金曜行動でのスピーチ・拙ブログ・月刊「政経東北」でも、その立場から情報や意見を発信してきました(私が「放出に反対する理由」は、22年9月7日に個人として経産省に申し入れした際の文章に凝縮されています)。
その他の分析や私見も含めて、「海洋放出」に関して書いた拙ブログ記事・月刊「政経東北」連載へリンクを貼っておきます。
悪い意味で大きな一線を越えてしまったのは極めて残念です。
(リンク/過去記事)
●希釈放出を「決定」したのは一体誰?(月刊「政経東北」2021年7月号)
●フクイチの汚染水等に関する、経産省への申し入れと回答 (22年10月17日)
●フクイチの汚染水に関する私見~増加抑制策・タンク用地確保・性状分析~(23年5月30日)
●(7月20日に)岸田首相宛てに送った「放出反対」の意見(8月24日)
●「風評被害」ではなく、「市場構造の変化」という実害(24年5月9日)
●放出開始。「年間22兆Bq上限」は維持されるのか(月刊「政経東北」2023年10月号)
●放出を阻止できなかった「敗因」の検証を(月刊「政経東北」23年11月号)
●「処理水」放出は、やはり回避できた(24年1月15日)
建屋の恒久止水に向けた検討が開始。局所止水の実証施工は8月に終了見込み
汚染水対策(汚染水の発生量の低減)に関して、東電は新たな対策を準備中です。
東電は、1~4号建屋の恒久止水について、第108回(23年7月)と109回(同10月)の「特定原子力施設監視・評価検討会」に資料を提出して、検討状況・内容を説明しました。
(リンク)
●汚染水対策の現況と2025年以降の見通しについて(2023年7月24日)
●汚染水対策の現況について(23年10月5日)
東電は、恒久的止水策の検討とは別に、流入量が多いことが分かっている建屋を目標とした「局所止水」の成立性も確認中です。
何れも、最新の進捗状況は、23年12月の「第110回 監視評価検討会」、24年1月の「第27回 汚染水処理対策委員会」で説明されました。
恒久的な止水策(遮水壁)については、埋設物への対応・被曝防護・発生する廃棄物への対処等を検討し、止水壁の材質や構造等を絞り込んでいくとのことです。
局所止水については「建屋止水」を実施するとのこと。
今年3月28日に公表された資料によると、5・6号建屋での建屋間ギャップ(建屋と建屋の間の地下の隙間)にモルタル等を充填する試験施工で成立性が確認できたので、4月には4号建屋で同様の工事を行い、放射線防護装備を装着しての施行成立性を確認するとのこと。それで施行成立性が確認されれば、早ければ24年度中には、地下水流入量が最も多い3号建屋のギャップ部地下にモルタル充填工事を開始するとのことです。
(リンク)
●汚染水抑制対策の現況について(23年12月18日/資料3―1―6)
●汚染水処理対策委員会(第27回)
●汚染水対策スケジュール(2024年3月28日)
6月27日公表の資料によると、4号建屋間ギャップ部での実証施工は今年8月に終了見込みとのことです。私の感触ですが、10月までには、3号建屋間ギャップ部での施工が開始されているのではないでしょうか。
(リンク)
●汚染水対策スケジュール(1/3)(6月27日資料。建屋間ギャップ部施工の進捗については、1頁の最下段に記載)
ALPSで発生するスラリーの扱いは別記事に
続いて、水処理二次廃棄物について。
ALPS(多核種除去設備)で、放射性液体廃棄物(汚染水)の核種除去処理を行うと、除去された放射性核種が高濃度に圧縮された廃棄物(水処理二次廃棄物)が発生します。
ALPSによる処理が続く限りは二次廃棄物が発生し続けるので、この二次廃棄物の処理・処分は避けて通りません。
具体的には、専用のポリエチレン性容器(=HIC/ヒック)に詰められている、スラリー(粘性の高い廃液)の処理・処分方法が課題です。
二次廃棄物の保管容量の件も含めて、この問題は込み入っているので、別記事に書いています。
(リンク)
●フクイチのHIC(ヒック)保管容量と保管基数~2024年6月末~
水処理二次廃棄物(主としてスラリー)と「処理水」放出はセットで把握しなければ、フクイチでの水処理の全体像を見誤ってしまいます。
24年6月最終木曜時点の汚染水の貯留量・滞留量
以下、貯留量・滞留量等の詳細な数字等を掲載します。
ポンチ絵はクリックすると拡大します。
当ブログのグラフ・表・ポンチ絵はB5サイズ以上のタブレット・PCでご覧頂くことを前提に作成していることをお断りしておきます。無断転載・引用はご遠慮下さい。
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拙ブログでは、分かり易さの観点から「放射性液体廃棄物」を「汚染水」と表記しています。
詳細の紹介の前にお知らせです。
フクイチの汚染水の貯留量・滞留量の記事は、原則として月末の数字がまとまる度に拙ブログで紹介してきました。「処理水」の希釈放出に伴って、今後、貯留量は横ばい傾向が続くと思われるので、今後、貯留量・滞留量の数字は、原則として3ヶ月に1回の掲載に変更します。次回は6月末の数字がまとまった時点で掲載します。
今後は、「処理水」の放出インベントリの計算と掲載の頻度を上げていきます。私個人のリソース(時間・労力)の再配分です。ご理解賜れば幸いです。
資料1 フクイチ敷地全体図
(1~4号用タンクエリアは右側[南側]の青色部分)
●構内配置図(予定含む)の出典(21年5月27日公表)
●ALPSスラリー安定化処理設備設置の検討状況について(23年10月5日公表/敷地利用計画の変更は13・14頁)
●ALPS処理水海洋放出の状況について(24年1月25日公表/敷地利用計画が22~23頁に記載)
●燃料デブリ取り出し遠隔操作室を含めた新集中監視室の耐震クラスの考え方について(24年3月5日/末ページに設置場所の地図が掲載)
●日本海溝津波対策防潮堤(本体部)設置工事の完了について(24年3月15日)
福島第一原発の汚染水の貯留量・滞留量(2024年6月27日)
(リンク)元データ→ 福島第一原子力発電所における高濃度の放射性物質を含むたまり水の貯蔵及び処理の状況について(第657報)/PDFファイル3頁右上、「RO処理水(淡水)」「処理水」「サンプル水」「処理水(再利用分)」「Sr処理水等」「濃縮塩水」の貯蔵量・貯蔵容量から計算。
▸タンク内貯留総量:約132万t(移送中の水・タンク底部の水は含めず/RO濃縮水は過去の処理量に基づく計算値)
▸タンク運用上限値:約140.8万t容量(撤去・解体予定のフランジ[ボルト締め]タンクは、当ブログでは運用数値に含めず)
▸建屋滞留水:約1.4万t(主として1~3号原子炉建屋+プロセス建屋+高温焼却炉建屋/水位計の計測等に基づく計算値)
◆資料2 貯留容量・貯留量 グラフ(~24年6月・最終木曜)
(リンク)数字・注記の出典
●エリア別タンク一覧(24年6月20日)
●汚染水発生量(24年6月27日)
●汚染水抑制対策の現況について(汚染水処理対策委員会/24年1月30日)
資料4 汚染水対策の目標と最悪シナリオ
(右の状態を避けなければならない)
ALPS補足資料:除去可能な62核種と告示濃度
◆資料5-1 汚染水対策・3つの基本方針と具体策
◆資料5-2 フクイチの放射性物質の放出基準・線量基準
資料6 フクイチ構内への散水量(日回り散水/2015~23年度)
春橋哲史(ツイッターアカウント:haruhasiSF)