NOと言える三多摩～言泉「やまと」後悔日誌

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• ［VOYAGE-467］　映画／ライラの冒険＆いつか眠りにつく前に。

  今日は晴れ時々曇り。三多摩の府中のアメダスによれば、日最低気温は-0.2℃（05:40）、日最高気温は12.0℃（14:30）。今季38日目の冬日であった。さて、いきなり本題。昨日見た4本の映画のうち、後半2本を取り上げる。昨日の3本目。『ライラの冒険　黄金の羅針盤』。現実世界と似て非なるパラレルワールドにある、英国・オックスフォード。12歳の孤児ライラはダイモン（自らの魂の分身、守護精霊）のパンタライモンや親友のロジャーらとともに、ジョーダン学寮で騒がしい日々を過ごしていた。ライラの叔父で探検家・学者のアスリエル卿は、北の地で発見した研究成果を持ち帰るものの、絶対的な教義に基づいて社会体制を支配する教権（マジステリアム）の不興を買う。一方、街ではジプシャン族の子どもが誘拐犯ゴブラーによって連れ去られる事件が多発し、ロジャーもその一人として失踪してしまう。その後、ライラはコールター夫人のもとで一時的に暮らすことになり、その旅立ちの日に学寮長から黄金の羅針盤を手渡される。その羅針盤は真理計（アレシオメーター）とも呼ばれ、かつては世界中に存在していたが、教義を揺るがすものとして危険視した教権によってことごとく没収され、アスリエル卿が隠し持っていた最後の1個であった。やがて、コールター夫人がゴブラーの黒幕であることを知ったライラは、その豪邸から脱走。ロジャーを救い出すため、ジプシャン族、魔女族の女王セラフィナ・ペカーラ、気球乗りのリー・スコーズビー、鎧熊族のイオレク・バーニソンらとともに北の地を目指すことになる・・・。1995年に発表されて以来、世界中でベストセラーとなり、数多くの賞に輝いてきたフィリップ・プルマン氏のファンタジー小説3部作の第1部を映画化したもの。主人公のライラ役には新人のダコタ・ブルー・リチャーズ氏。コールター夫人役にはニコール・キッドマン氏、アスリエル卿役にはダニエル・クレイグ氏、セラフィナ・ペカーラ役にはエヴァ・グリーン氏、といった豪華キャストが脇を固める。上のキャスティングは、『007　カジノ・ロワイヤル』と『インベージョン』を足して2で割ったかのような印象もなくはない。が、『ロード・オブ・ザ・リング』のサルマン、『スター・ウォーズ』のドゥークー伯爵＝ダース・ティラミス、もといティラナス、『チャーリーとチョコレート工場』の歯科医師ウィルバー・ウォンカ（ジョニー・デップ氏が演じた工場主ウィリー・ウォンカの父）などを演じたクリストファー・リー氏もチョイ役で登場し、どちらが悪役側かすぐに分かる（？）配役となっているのもポイント。「ライラの冒険黄金の羅針盤」主演ダコタ・ブルー・リチャーズ（YOMIURI ONLINE　2008年2月22日）「ライラの冒険　黄金の羅針盤」 （米）（YOMIURI ONLINE　2008年2月29日）映画インタビュー：ライラの冒険：「ニコールに学んだ」１３歳のシンデレラ　ワイツ監督も魅了（毎日ｊｐ　2008年2月29日）原作への思いがクオリティーを高めた　映画「ライラの冒険　黄金の羅針盤」クリス・ワイツ監督インタビュー（MSN産経ニュース　2008.2.29 15:30）【週末読む、観る】天才子役、堂々の演技　「ライラの冒険　黄金の羅針盤」（MSN産経ニュース　2008.3.2 08:34）それにしても、各紙が絶賛しているように、主演のダコタ・ブルー・リチャーズ氏がなかなかの演技力を発揮していた。彼女が演じるライラは、まだ12歳なのに、ものすごく機転が利き、とっさの判断で人を騙すのが得意。にもかかわらず、子どもらしい純粋さも残っていて、そのバランスが実に絶妙なのである。天才子役のダコタと言えば、『宇宙戦争』や『シャーロットのおくりもの』などのダコタ・ファニング氏（1994年生まれで同年齢）を思い出してしまうかもしれないが、こちらの新人も決して負けていない。『パンズ・ラビリンス』でオフェリア役を演じたイバナ・バケロ氏（1994年生まれ）や『マリと子犬の物語』で石川彩役を演じた佐々木麻緒氏（1999年生まれ）、『北の零年』『SAYURI』『遠くの空に消えた』などの大後寿々花氏（1993年生まれ）、『神童』『きみにしか聞こえない』などの成海璃子氏（1992年生まれ）らと並ぶ名演技として、記憶されるに違いない。また、このテのファンタジー作品は、壮大な世界観が魅力の一つ。とは言え、本作は、とある宗教団体を寓話的に描いているようにも見える。私自身は全く問題ないけれども、反発を覚える人もいるであろう。ストーリーとしては、まあまあといったところ。今後の展開にも期待したい。あと、第80回アカデミー賞で「視覚効果賞」を獲得したのはダテではなく、ビジュアル的には満足できるはず。ただ、同じファンタジー3部作の『ロード・オブ・ザ・リング』に比べてしまうと、戦闘シーンなどは少々物足りない感じもするが・・・それは高望みというもの。『ハリー・ポッター』シリーズにも引けを取らず、『ナルニア国物語』第1章よりは出来がいいと感じた。もう一つ、個人的に興味深いのは、スバールバルという地名。鏡水会党首の大滝淳議員が報道陣とともにヘリで待機していそうな気もする・・・って、それは言泉「やまと」ならぬ原潜「やまと」の物語。昨日の4本目。『いつか眠りにつく前に』。重い病で倒れた老女アンは、2人の娘である長女コニーと次女ニナ、そして夜勤の看護婦に見守られながら、自宅のベッドで静かに人生の最期を迎えようとしていた。寝ている間に、娘たちが聞いたこともない「ハリス」という名を口走るアン。混濁した彼女の意識は、40数年前の夏の日へと戻っていた。親友ライラの結婚式で花嫁の付き人をするためにその別荘を訪れたアンは、ライラの弟で大学時代の同級生のバディと再会。さらに一家のメイドの息子で今は医者をしているハリスとも出会う。このハリスは、実はライラがずっと憧れていた人であったが、ライラは彼をきっぱりと諦めるために別の男と結婚しようとしていた・・・。老女が人生の終わりを目の前にして今まで封印していた過去の恋を回想する一方で、彼女を看病する娘たちが自身の人生を見つめ直す、という感動ドラマ。年老いたアンを演じるのはヴァネッサ・レッドグレイヴ氏、年老いたライラを演じるのは大御所メリル・ストリープ氏。若きアンを演じるのは『スターダスト』などのクレア・デインズ氏、若きライラを演じるのはメリル・ストリープ氏の実娘メイミー・ガマー氏。現在と過去とが行ったり来たりする上に、登場人物の関係が複雑で、しかも上の『ライラの冒険』を見た直後に別のライラが2人も出現するのである。見ていて頭がかなり混乱してしまった。本作の主人公と同様に、私の記憶も混濁してしまうのか？とは言え、それなりに余韻に浸れるのは確かであり、出来は決して悪くはないと言える。ある意味では、昨日の『潜水服は蝶の夢を見る』に似た要素があるかもしれない。

  2008.03.02

• ［VOYAGE-466］　映画／奈緒子＆潜水服は蝶の夢を見る。

  晴れたが、日中は一時曇り。三多摩の府中のアメダスによれば、日最低気温は0.4℃（05:20）、日最高気温は15.2℃（11:40）であった。さて、まずは私の目に留まったニュースから。地下鉄に青い車体、小田急の新型ロマンスカーが試運転（YOMIURI ONLINE　2008年2月29日15時05分）国内初、座席指定特急の地下鉄乗り入れ　小田急ロマンスカー試乗会（MSN産経ニュース　2008.2.29 18:22）駅弁季語：しらす弁当～東海道新幹線ほか・浜松駅（静岡県）（毎日ｊｐ　2008年2月29日）【鉄道ファン必見】あなたも機関士になれる！　碓氷峠鉄道文化むら（１）（MSN産経ニュース　2008.3.1 14:56）変わる津軽の海　連絡船廃止、トンネル開業２０年（asahi.com　2008年03月01日15時03分）長野・柳沢遺跡で「九州型」「大阪湾型」銅戈が同時出土（asahi.com　2008年02月29日20時11分）長野の遺跡から「九州型」銅戈　中国地方以東で初（MSN産経ニュース　2008.2.29 21:11）「九州型」「大阪湾型」銅戈、同時に出土…長野・柳沢遺跡（YOMIURI ONLINE　2008年2月29日23時14分）上段は鉄道関連、下段は歴史関連である。では、今日の本題に入ろう。毎月1日は「映画の日」。このサービスデーで映画を見るのは昨年11月以来ではあるが、今日も4本見てきた。その前半2本の感想などを述べてみたい。今日の1本目。『奈緒子』。長崎県の波切島。喘息の療養のために両親とともに東京からこの島を訪れた12歳の篠宮奈緒子は、走ることが大好きな10歳の少年、壱岐雄介に出会う。釣り船に乗って沖合に出た際に、奈緒子は誤って海に転落。そのとき奈緒子を救助してくれた雄介の父が命を落としてしまう。以来、奈緒子は罪の意識に悩み苦しんでいた。それから6年。高校で陸上部に所属する奈緒子は、大会の手伝いをしていたところ、波切島高校の西浦天宣監督に人探しを頼まれ、そこで雄介に再会する。「日本海の疾風」と呼ばれる天才ランナーとして高校陸上界の期待の星になっていた雄介は、再会した奈緒子に「誰も恨んじゃいねぇ」と冷たく言い放つのみ。その後、雄介は短距離から駅伝に転向し、九州オープン駅伝に初参加。そんな雄介の姿を一目見るべく、奈緒子はわざわざ九州までやって来る・・・。原作は、1994年から2001年まで『ビッグコミック・スピリッツ』に連載された同名のコミック。篠宮奈緒子役には『スウィングガールズ』『のだめカンタービレ』の上野樹里氏、壱岐雄介役には『キャッチ ア ウェーブ』『恋空』の三浦春馬氏、西浦天宣監督役には笑福亭鶴瓶氏をキャスティング。本作で私が注目していたのは、やはり上野樹里氏。罪の意識や恋愛感情などが混ざった複雑な心境から、言葉をうまく発することができない中で、表情や身振りや全力疾走といった全身の非言語行動で巧みに表現していたのは見事。そのしっとりとしたひたむきな演技は、『のだめ』の変態キャラクターとは一線を画していて、新境地を開いたかのような印象も受けた。こうした人物設定の青春ドラマは過去にあったなぁ・・・と思って脳内検索エンジンを起動してみると、1件ヒットした。それは、鹿の“使い番”堀田イト、じゃなくて多部未華子氏と石田卓也氏による『夜のピクニック』。この二人は同じ高校に通う異母兄妹で、不倫相手の子である妹が正妻の子である兄に対して複雑な心境を抱きながら夜のピクニックに参加するというものであった。このピクニックを駅伝に置き換えてみれば、よく似た構図になるかもしれない。で、本作のストーリーとしては、ひたすら走っている場面が多く、単調と言えば単調。しかし、そのレース展開はやや誇張気味ではあるものの、それなりに手に汗を握ることはできる。また、波切島高校陸上部の西浦監督の隠していた秘密がどうなるか、も見どころの一つであろう。さらに、海あり山ありの風光明媚な長崎・壱岐の自然がビジュアル的にいい感じ。もし東京が舞台であったとしたら、こういうストイックなストーリー自体が成り立たなかったに違いない。今日の2本目。『潜水服は蝶の夢を見る』。3人の子を持つ父親で雑誌『ELLE』編集長のジャン＝ドーは、ある日、病院のベッドで目覚め、脳梗塞で倒れて以来、数週間も昏睡状態にあったことを聞かされる。しかし、意識は以前と同様にはっきりしているものの、身体が麻痺していて全く動かなかった。いわゆる「閉じ込め症候群（ロックト・イン・シンドローム）」で、まるで潜水服を着ているような気分であった。唯一動くのは左目のまぶただけ。言語療法士のアンリエットは、この左目だけを使ってコミュニケーションをとる方法を考え出す。「はい」は瞬き1回、「いいえ」は瞬き2回。さらにはE・S・A・R・I・N・T・・・と、単語の使用頻度順にアルファベットを読み上げてもらい、瞬きで合図をすることで文章化する方法を身につける。こうしてジャン＝ドーは、20万回の瞬きによって自伝を書き上げる中で、その魂は記憶と想像力の中を蝶のように自由に羽ばたいていく・・・。実在した『ELLE』編集長、ジャン＝ドミニク・ボビーの奇跡的な自伝を、ジュリアン・シュナーベル監督が映画化したもの。身体を動かせない難役のジャン＝ドーを熱演しているのは、『ミュンヘン』のマチュー・アマルリック氏。個人的に興味深かったのは、やはりコミュニケーションの方法。同じことを日本語でやるとしたら、どういう方法が最も効率的であろうか・・・と、ちょっと考えさせられてしまった。言語療法士のアンリエットをはじめとして、周囲の人々が主人公を献身的に支える様子が感動的。それでいて、いかにもフランスっぽいエスプリに満ちた主人公の言葉が微笑を誘う。その両者が絶妙な均衡を保っていて、静かながらも味わいのある作品に仕上がっている。

  2008.03.01

• ［VOYAGE-464］　映画／マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋＆チーム・バチスタの栄光。

  今日も晴天の一日。三多摩の府中のアメダスによれば、日最低気温は-0.4℃（00:50）、日最高気温は11.6℃（13:50）。今季36日目の冬日であった。さて、まずは横道。私の目に留まったニュースなどを並べてみる。機動戦士Zガンダム：全長60センチの巨大プラモデル登場（毎日ｊｐ　2008年2月16日）変形可能な重厚長大Ｚガンダム！　精巧シャアザクも（MSN産経ニュース　2008.2.26 14:48）機動戦士ガンダム：超精密「シャアザク」と巨大「Z」登場　ガンプラ発表会（毎日ｊｐ　2008年2月26日）パンダ、パパンダ、コパンダ～（asahi.com　2008年02月27日）記者の目：公教育に一石　和田中・夜スペ１カ月＝三木幸治（毎日ｊｐ　2008年2月28日0時03分）上段は「おもちゃ屋」つながりのガンダム関連。下段はその他もろもろ。「パンダ、パパンダ、コパンダ～」は、私も昨日、予告編を見た。ということで、昨日の記事の続き。昨日見た映画4本のうち、後半2本の感想などを記してみよう。昨日の3本目。『マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋』。おもちゃたちが魔法で動き回り、子どもたちに大人気の「マゴリアムおじさんの不思議なおもちゃ屋」。その支配人は23歳のモリーであるが、彼女は最近自信を失っていた。というのも、少女時代を天才ピアニストとして過ごし、今は作曲で認められたいと思っているのに、五線譜には筆が全く進まなかったからである。そんなモリーを見ていたオーナーのマゴリアムおじさんは、自身が243歳の誕生日を迎えたのをきっかけとして、世界から引退して店を彼女に譲ることを決心する。そこで、店の資産価値を算定する必要から会計士のヘンリーを雇うものの、彼は魔法を信じることのできない堅物で、ことあるごとにモリーと衝突する。やがてマゴリアムおじさんが「引退」を表明すると、店を継ぐはずのモリーは大慌てでそれを辞退し、必死におじさんを引き止めようとする。と同時に、魔法のおもちゃたちも一斉に反発して店の中を暴れ回り、客は避難を余儀なくされ、店は一時的に閉店に追い込まれてしまう。店を今後どうするかは、モリーの双肩にかかっていた・・・。『主人公は僕だった』の脚本を担当したザック・ヘルム氏の初監督作品となるファンタジー。マゴリアムおじさん役にはダスティン・ホフマン氏、モリー役にはナタリー・ポートマン氏を起用。本作で個人的に注目していたのは、言うまでもなく、『スター・ウォーズ』シリーズでパドメ・アミダラ役を演じたナタリー・ポートマン氏。私は彼女の子役時代を存じ上げないけれども、『コールドマウンテン』『クローサー』『Vフォー・ヴェンデッタ』『パリ、ジュテーム』などはチェック済み。凛とした芯の強さと、どことなく「はにかみ」をたたえているのが魅力と言えよう。ところが、本作での彼女は、冒頭からして、ちょっとヘンな感じ。オーラというかフォースというか、何かが欠けていたのである。微妙な髪型のせいかとも思ったが、理由は分からなかった。しかし・・・物語が終盤に差し掛かるにつれて、彼女の魅力も回復。ああ、そうか！　これは、迷っているモリーの心境を表現する巧みな演技力なのかと、ようやく最後になって悟った次第である。彼女のこの演技からも、本作のメッセージである「自分を信じることの大切さ」が伝わってくるに違いない。また、本作に登場する楽しいおもちゃたちは、レトロな雰囲気を漂わせていて、子どもだけではなく大人も童心に返ることができるはず。『ハウルの動く城』を思わせる「どこでもドア」の存在や、ダスティン・ホフマン氏の生き生きとした演技などともあいまって、思わずニコニコとさせられる作品であった。昨日の4本目。『チーム・バチスタの栄光』。「バチスタ手術」は成功率60％の心臓外科手術。この難しい手術を東城大学付属病院の7人の専門集団は26例連続で成功させ、「チーム・バチスタの奇跡」と呼ばれていた。しかし、その後は3例連続で失敗するという事態が起きる。原因は事故なのか、それとも故意の“殺人”なのか。次の患者の手術は絶対に失敗が許されないことから、院長の命によって内部調査を行うことになった心療内科医の田口は、聞き取り調査の結果「単なる事故」と結論付けようとする。が、そこに厚生労働省の白鳥が現れて「このままではまた死人が出ますよ」と警告し、再調査を開始する・・・。現役医師の海藤尊氏が書き上げて第4回「このミステリーがすごい大賞」を受賞した同名の小説を、『アヒルと鴨のコインロッカー』の中村義洋監督が映画化したもの。心療内科医の田口役には竹内結子氏、厚生労働省の白鳥役には阿部寛氏。チーム・バチスタには吉川晃司氏、池内博之氏、佐野史郎氏、玉山鉄二氏、田中直樹氏、田口浩正氏、井川遥氏。そのほか、野際陽子氏、平泉成氏、國村隼氏らの個性派俳優が勢揃い。本作で私が注目していたのは、竹内結子氏ではなくて、阿部寛氏のほう。『ドラゴン桜』『結婚できない男』といったTVドラマや、『姑獲鳥の夏』『トリック劇場版2』『バルトの楽園』『アジアンタムブルー』『バブルへGO!!タイムマシンはドラム式』『大帝の剣』などの映画に出演し、とりわけ「変人」役で絶妙な怪演を見せることは有名（？）。本作でも、その才能を遺憾なく発揮していた。原作が原作だけに、ストーリー展開としても申し分なく、十分に楽しめるであろう。ただ・・・本作の冒頭で重大な事実に気づいた。私自身はある種の「先端恐怖症」で、メスを使って肉体を解剖する情景などは大の苦手であることを、すっかり忘れていたのである。劇中の手術シーンを見てそのことを思い出し、何度も目をそむけることになってしまった。ううっ・・・『とんねるずのみなさんのおかげでした』風に言えば、「参りました」という気分であった。

  2008.02.28

• ［VOYAGE-463］　映画／歓喜の歌＆KIDS。

  今日はおおむね晴れ。三多摩の府中のアメダスによれば、日最低気温は2.1℃（24:00）、日最高気温は9.5℃（14:10）であった。さて、まずは別件。いつものように、私の目に留まったニュースから。中国西域のタクラマカン砂漠を・・・（asahi.com「天声人語」　2008年02月25日）南から猛々しい強風が・・・（NIKKEI NET「春秋」　2008/2/26）発信箱：新宿に降る雪＝磯崎由美（生活報道センター）（毎日ｊｐ　2008年2月27日0時03分）余録：ダメージコントロール（毎日ｊｐ　2008年2月27日0時03分）匠の技に触れる　２８日から伝統工芸品展（MSN産経ニュース　2008.2.26 08:32）柳原一成の季節かたり：弥生　雛の節供（毎日ｊｐ　2008年2月26日）上段はコラム系。下段はその他もろもろ。個人的にコメントを要するのは「伝統的工芸品展」のネタ。［VOYAGE-456］で日本語学校の学生を引率したエピソードを述べたが、これは2年前の2006年2月に開催されたこの展示即売会であった。では、今日の本題に入る。今日は昼前から夜まで映画を4本見てきた。それらを見終わると、さすがに首や肩が痛くなり、帰宅後は無理をせずに休養した次第であった。まあ、何はともあれ、今日の記事では4本のうち前半の2本を取り上げて、後半の2本は明日の記事に回すことにしたい。今日の1本目。『歓喜の歌』。12月30日。みたま町の文化会館に、1本の電話がかかってくる。それは、『みたま町コーラスガールズ』から、明日の夜のコンサートの会場予約を確認する電話であった。「大丈夫ですよ、お待ちしてま～す」と応対したのは、飯塚主任。半年ほど前に市役所本庁から現在の閑職に飛ばされてきた、いい加減でやる気のないダメダメ公務員であった。この電話応対が終わると、部下の加藤の顔が青ざめていた。「主任、僕も昨日、ママさんコーラスから確認の電話を受けたんです。僕が話したのは、『みたまレディースコーラス』でした」と加藤は言う。「申し込んだときはガールズだったけど、年を取ってレディースになっちゃったんじゃないの？」と毒づいてみるものの、大晦日コンサートの前日になってホールのダブルブッキングが発覚。「まぁ何とかなるだろ、どうせオバサンたちが暇つぶしでやってんだから」と、甘く考えた飯塚は、対応を協議するために双方の代表を呼ぶ。一方は、セレブな奥さま方が集う由緒あるグループ『みたまレディースコーラス』のリーダーで、スーパーマーケットも経営するやり手の女性、松尾みすず。もう一方は、家事やパートで忙しい主婦たちが1年半前に結成した『みたま町コーラスガールズ』の副代表で、ファミレスの制服を着たまま駆けこんできた塚田真由美。ところが、どちらも全く譲る気配はない。訪問介護のパートをしている『ガールズ』のリーダー・五十嵐純子も後から加わって合同コンサートを提案するが、協議は平行線をたどるのみであった。ほかにも個人的な問題をいくつも抱え込んでいた飯塚は、にっちもさっちも行かずに八方塞がりとなってしまう・・・。立川志の輔氏の同名の新作落語を、『東京タワー　オカンとボクと、時々、オトン』の松岡錠司氏が監督・脚本を担当して映画化したもの。主役の飯塚主任には同じく『東京タワー』の小林薫氏、その部下の加藤役には伊藤淳史氏、ガールズの五十嵐純子役には安田成美氏、対するレディースの松尾みすず役には由紀さおり氏をキャスティング。そのほか、浅田美代子氏、光石研氏、でんでん氏、笹野高史氏、塩見三省氏、筒井道隆氏、片桐はいり氏、藤田弓子氏、根岸季衣氏といった錚々たる面々に加えて、原作者の立川志の輔氏とその師匠の立川談志氏もチョイ役で出演している。ダメダメ公務員を本気にさせるきっかけとなった本作のキーワードは、「ギョーザですよ、ギョーザ。」本作とは無関係ながら、まさか世間でこんなに大騒ぎすることになろうとは・・・いずれにせよ、ごく普通の人々を等身大で描く中で、その悲喜こもごもの心の機微が巧みに表現されていて、実におかしみがある。それでいて、最後には大団円を迎えるという見事な構成。おそらく原作の落語からして、よくできているのであろう。いかにもシネカノンらしい、なかなかの傑作と言える。なお、劇中のコーラスも本格的。私の目（耳？）を奪ったのは、スーパーマーケットでパート店員として働く傍ら、庶民派のガールズに所属してソロ・パートを披露する平澤由美氏。舞台『ミス・サイゴン』のジジ役とのことで、その歌唱力は間違いなく一流であった。個人的には「みたま町」という名称からして興味深いものがあったが・・・『未来予想図　ア・イ・シ・テ・ルのサイン』以来の出来事に遭遇。映画館のすぐ近く（多摩都市モノレール高松駅の周辺など）でロケをしていて、その光景を見た観客がかすかに反応していたのも面白かった。今日の2本目。『KIDS』。さびれた町の工場で働くタケオは、行きつけの食堂でいつものメニューを注文していると、見慣れない少年が手を使わずにテーブルの塩を引き寄せているのを見る。彼の名はアサト。ある事情で、この町に引っ越してきたのであった。特殊な能力を持つアサトに興味を覚えたタケオは、アサトがチンピラに絡まれているところを救うものの、手にケガを負ってしまう。アサトは、タケオのその傷を自分の身体に移動させ、その痛みを分かち合う。こうして、二人の間には友情が芽生えていく。ゴミや雑草に覆われた近所の公園を二人がきれいにしていると、食堂でいつもマスクをしているバイトの少女シホも手伝い、やがて子供たちが集まってくる。子供たちがケガをするたびに例の超能力を使うアサトに対して、タケオはアサトがその力をむやみに使うことを快く思っていなかった。しかし、シホに思いを寄せるアサトは、彼女の悲しい過去を知ってその傷を癒やそうとするが・・・。『きみにしか聞こえない』などで知られる乙一氏の小説を原作とした青春ファンタジー。アサト役に小池徹平氏、タケオ役に玉木宏氏、シホ役に栗山千明氏。そのほか、斉藤由貴氏や泉谷しげる氏らが脇を固めている。毎週水曜は「レディースデー」ということもあってか、観客の95％は女性。しかも、そのほとんどが高校生か大学生っぽい雰囲気で、劇場で購入したパンフレットを手に持っている人が多かった。おそらく小池徹平氏（か、玉木宏氏）のファンなのであろう。まあ、かく言う私も、栗山千明氏ではなく、千秋さま＝小川先生が出演していなければ、本作を見ようと思わなかったに違いない。内容自体も、そうした年齢層向きかもしれない。ストーリーそのものは決して悪くないと思ったけれども、ところどころの描写にリアリティーが感じられず、私個人としては今ひとつ感情移入できなかった。とは言え、周囲の観客は少し涙ぐんでいたりして・・・どうやら『マリと子犬の物語』以来の展開となってしまったらしい。

  2008.02.27

• ［VOYAGE-457］　映画／テラビシアにかける橋＆アメリカン・ギャングスター。

  今日も晴天の一日。三多摩の府中のアメダスによれば、日最低気温は1.1℃（05:20）、日最高気温は13.5℃（14:00）であった。さて、今日の記事は、本来なら昨日書くはずであった映画ネタである。まずは1本目。『テラビシアにかける橋』。小学5年生の少年ジェスは、徒競走が得意なのに、家計が苦しくてスポーツシューズも買ってもらえない有様。家族は父、母、姉2人、妹2人の7人。姉からはのけ者にされ、すぐ下の妹は何かと慕ってくるものの少々面倒であった。また、学校に行けば完全にいじめられっ子の役回りで、結局どこにも自分の居場所を見つけられずにいた。そんな彼の唯一の楽しみは、空想の生き物などをこっそりと絵に描くことであった。ある日、同じクラスに転校生がやって来る。少女の名はレスリー。徒競走ではジェスをも負かすほどの行動力と、誰に対しても偏見を持たない自由自在な発想を持っていたが、風変わりな印象を与えるせいか彼女には友達がいなかった。こうした孤独な境遇が似ているジェスとレスリーは、実は隣家に住んでいることを知り、お互いに少しずつ心を開いていく。二人は近くの森に遊びに出かけるようになり、そこを空想の王国「テラビシア」と名づけて友情を育んでいくが・・・。児童文学の名作を映画化した感動ドラマ。主演の二人、ジョシュ・ハッチャーソン氏（『ザスーラ』）とアナソフィア・ロブ氏（『チャーリーとチョコレート工場』）が、なかなかの好演。思春期に入る一歩手前のみずみずしい感覚をうまく表現している。まあ、微妙なのは・・・南海キャンディーズの「しずちゃん」こと山崎静代氏を思わせるようなキャラクターが途中で登場すること。これが何を指しているかは、本作を見ていただきたい。私自身は予告編を見ていたのでさほど驚かなかったけれども、急展開するストーリーには唐突な印象がなくもない。とは言え、そのおかげで、感動の度合いが高まっているのは確かであろう。「現実の人生には厳しいことだらけであるが、豊かな想像力があればそんなに苦しくはない」といったメッセージが伝わってくるような気もした。個人的に興味深かったのは、米国の学校における音楽教育。先生がギターなどで弾き語りをするだけでなく、子どもたちも自由に歌ったり楽器を使ったりと、これならイヤでも表現力が身につくに違いない。自己表現しすぎるのもどうかとは思うものの、全く自己表現できないよりはマシではなかろうか。日本の学校教育が何を目指すべきなのか・・・と、思わず考えさせられてしまった。続いて2本目。『アメリカン・ギャングスター』。1968年、ニューヨーク。ハーレムを牛耳ってきた黒人ギャングのボス、バンピー・ジョンソンが心臓発作で急死し、15年にわたり運転手として彼に仕えてきたフランク・ルーカスがその地位を継承する。フランクは自らの親族のネットワークを駆使して、ベトナム戦争に動員されている米軍を利用しながら、タイの奥地で生産される純度の高いヘロインを大量に密輸して「ブルー・マジック」というブランドで安く売りさばき、大物マフィアたちを出し抜いて暗黒街に君臨するようになる。しかし、フランクは常に目立たないように行動していたため、その素性を知る者は限られていた。他方、ニュージャージーの警察署に勤務する刑事のリッチー・ロバーツは、相棒のジェイ・リベラとともに100万ドル近い大金を容疑者の車のトランクから押収するものの、警察署の「慣習」に従わずに自分の懐に入れなかったことから、周囲から煙たがられていた。リッチーは汚職がはびこる警察を辞めるつもりで、司法試験を目指して夜学で法律を勉強していたのである。離婚協議中の妻とは息子の養育権をめぐって対立し、さらには相棒のジェイが麻薬中毒で死亡するなど、うんざりするような日々を過ごしていたリッチーであったが、麻薬撲滅のための新たな捜査チームが設立されることになり、その責任者に抜擢される。以後、ブルー・マジックの流通ルートを解明すべく、捜査の指揮に当たっていくが・・・。実話に基づく犯罪サスペンス。フランク・ルーカス役には『デジャヴ』などのデンゼル・ワシントン氏。また、リッチー・ロバーツ役のラッセル・クロウ氏と、リドリー・スコット監督の組み合わせは、『プロヴァンスの贈りもの』などでもおなじみ。二人の男とその組織がお互いに死力を尽くして攻防を繰り広げる様子は、相当に緊迫感があり、手に汗を握ってしまう。ドラマの幕切れ自体はあっけない感じもしたが・・・その後の「実話」を字幕で解説していて、その内容が非常に興味深かった。ということで、昨日の2本は「当たり」。どちらも満足感の得られる作品であった。なお、今週末には、個人的に今春の大本命である『ライラの冒険　黄金の羅針盤』の先行上映がある。そちらを先に見るか、それとも、まだ取りこぼしている2月の作品群を先に見るか。どうしようかなぁ・・・と、迷ってしまう。

  2008.02.21

• ［VOYAGE-443］　映画／ナショナル・トレジャー＆Mr.ビーン。

  今日は晴れ時々曇り。三多摩の府中のアメダスによれば、日最低気温は-0.2℃（24:00）、日最高気温は10.4℃（12:50）。早くも昨季タイ記録となる今季23日目の冬日であった。さて、実は昨夜、久々に川崎で映画を2本見てきた。その本題に入る前に、余談を2点ほど。まず一つは、三多摩の自宅を出発するときは小雪であったのに、川崎に到着したときは小雨であったこと。同じ関東南部とは言え、内陸と臨海とでは微妙に諸条件が異なるらしい。なお、映画を見終わって川崎を出発するときも小雨であったが、東京駅で東海道線から中央線に乗り換える際には小雪に変わっていて、三多摩の自宅に到着したときには小雨であった。もう一つは、三多摩の自宅に帰る前（深夜01時前）に、大学の近くにあるモスバーガーでテイクアウトを注文したところ、店内が妙に混雑していたこと。観察してみると・・・試験前なのかレポート対策なのかは定かでないけれども、学生が本やノートなどを開いて必死に黙々と勉強していたのである。いろいろな学習スタイルがあるものだなぁ、と感心してしまった。それでは、昨日の1本目。『ナショナル・トレジャー　リンカーン暗殺者の日記』。歴史学者で冒険家のベン・ゲイツは、父パトリックとともに、リンカーン暗殺に関する講演を行っていた。リンカーンを暗殺するブースらの南部主義者一味は秘密の黄金都市への入り口を示す暗号を入手していたが、その解読を依頼されたゲイツ家の祖先が、暗号の書かれた日記のページを破り取って燃やしてしまったおかげで、南部主義者の野望を砕くことができた、という内容であった。ところが、日記の所有者の子孫であるウィルキンソンが現れ、日記の一部を示しながら「ゲイツ家の祖先こそがリンカーン暗殺を企てた首謀者である」と指摘する。ベンは自らの一族の無実を証明するため、相棒のライリーとともに行動を開始。まずは国立公文書館が所蔵する日記を詳しく調べるため、別居中の恋人アビゲイルが住む豪邸に侵入し、彼女を口説き落とすことにする・・・。世界中で大ヒットした、歴史の謎を解きながらお宝を探すミステリー・アクションの第2弾。製作はジェリー・ブラッカイマー氏。ベン・ゲイツ役で主演するのはニコラス・ケイジ氏。舞台がパリ、ロンドン、ワシントンD.C.、ラシュモア山へと飛び回り、前半は『ダ・ヴィンチ・コード』、後半は『アメリカ横断ウルトラクイズ』（？）＋『インディ・ジョーンズ』を見ているような気分に陥ってしまった。とは言え、ストーリー展開が実にスピーディで、最後まで飽きさせないはずである。登場人物としては、ブルース・グリーンウッド氏が演じた現代の合衆国大統領の「空とぼけ」が絶妙。また、『トロイ』や『敬愛なるベートーヴェン』などにも出演したダイアン・クルーガー氏も相変わらずの美しさで華を添えている。ただ、問題は・・・お宝探しアドベンチャーを成功させると、リンカーン暗殺の汚名を着せられたゲイツ家の名誉回復につながるのか、という点。これが本作最大の謎である。また、前作から気になっていたことではあるが、「ワールド・トレジャー」ではなく、もちろん「パナソニックとレジャー」でもなく、なぜ「ナショナル・トレジャー」なのか。いかにも米国的な一国独善主義のPR効果を感じてしまうのは私だけであろうか。続いて、昨日の2本目。『Mr.ビーン　カンヌで大迷惑?!』。教会のくじ引きで南仏カンヌ1週間旅行とビデオカメラが当たったビーンは、早速カメラを片手に列車でパリ経由でカンヌへ向かう。パリ・リヨン駅では通りすがりの男性に頼んで、カンヌ行きの列車に乗るところをカメラで撮影してもらうビーン。しかし、ビーンがあれこれ注文をつけているうちに列車が出発してしまい、男性はホームに置き去りにされてしまう。列車の中には、父親とはぐれて心細そうにしている10歳の男の子がいた。ビーンはその男の子を連れて、一路カンヌを目指すことになるが・・・。TVシリーズでおなじみのミスター・ビーンことローワン・アトキンソン氏が、相変わらずの「ヘンなおじさん」ぶりを発揮するコメディ。今回はカンヌ映画祭でひと暴れしてくれるのか・・・と思っていたら、そういう要素も多少は含んでいるものの、むしろカンヌにたどり着くまでの珍道中をロードムービー風に描いている。率直な感想としては、TVシリーズよりも洗練されていて、期待していたほど大笑いはできなかった。その意味では『ジョニー・イングリッシュ』（2003）のほうが単純で面白いかもしれない。ただ、爆笑はできないまでも、微笑程度ならそれなりにクスクス笑えるであろう。また、最後の最後には大どんでん返し（？）があって、ちょっとだけ心温まるストーリー展開に仕上がっている。カンヌ映画祭をそれとなく皮肉っている様子は、字幕にご注目。あと、エンドロールの後でワンシーン残っているので、それもお見逃しなく。

  2008.02.07

• ［VOYAGE-436］　映画／2007年日本映画産業統計。

  北風がやや強いながらも、晴天の一日。三多摩の府中のアメダスによれば、日最低気温は1.9℃（02:10）、日最高気温は10.2℃（12:20）であった。まずは私自身の行動記録から。昨日から頭・眼・顎関節・首・肩のあたりに鈍い痛みがあり、解熱鎮痛薬を服用したものの、あまり効かなかった。そのだるさのせいもあって、結局、今日は二度寝ならぬ三度寝、四度寝くらいして、昼前の11時過ぎに目覚めた。夕方に指導教員の研究室を訪れ、依頼されていたExcel処理を渡す一方で、奨学金免除申請の際に必要となる推薦状を頂戴し、そのまま学生支援課に提出。ところが・・・『●●大学大学院第一種奨学金返還免除申請要領』の中に書かれていた、（学位論文は、本文と要旨を併せて提出してください。）という記述を見落としていたため、論文の提出を求められて、そんなの聞いてないよ～状態に陥る。それらとともに、ほかの証明資料（ホームページ作成の実績をアピールしたため、そのハードコピー）を明日までに提出することを宣言して、帰宅の途についた。そして、自宅に到着するやいなや、修士論文の本文と要旨などを再びプリントアウトすることになったのである。本当なら今夜は映画を2本ほど見るつもりでいたが・・・よく考えたら、今日は木曜。22時から『鹿男あをによし』を見るので、レイトショーは見に行けない。体調も万全ではないことから、映画を見に行くのは完全に諦め、入れておいた予約をすべて取り消した次第である。さて、今日は、社団法人日本映画製作者連盟から、2007年日本映画産業統計が発表された。ちなみに、昨年は1月30日に発表されている。［洋画］順位公開月作品名興収（億円）15月パイレーツ・オブ・カリビアン　ワールド・エンド109.027月ハリーポッターと不死鳥の騎士団94.035月スパイダーマン３71.2406年12月硫黄島からの手紙51.058月トランスフォーマー40.166月ダイハード４．０39.177月レミーのおいしいレストラン39.083月ナイトミュージアム35.798月オーシャンズ１３32.01011月バイオハザードIII28.5111月幸せのちから27.11206年12月００７/カジノ・ロワイヤル22.1131月マリー・アントワネット21.0144月バベル20.0152月ドリームガールズ19.21606年12月エラゴン　遺志を継ぐ者18.71711月ボーン・アルティメイタム16.5186月３００＜スリーハンドレッド＞15.6181月ディパーテッド15.6206月シュレック３15.5213月ハッピーフィート14.5223月ホリデイ13.3［邦画］順位公開月作品名興収（億円）19月ＨＥＲＯ81.527月劇場版ポケットモンスター　ダイヤモンド＆パール　ディアルガＶＳパルキアＶＳダークライ50.2311月ＡＬＷＡＹＳ　続・三丁目の夕日45.647月西遊記43.7506年12月武士の一分41.1611月恋空39.073月ドラえもん　のび太の新魔界大冒険　7人の魔法使い35.481月どろろ34.593月アンフェア　ｔｈｅ　ｍｏｖｉｅ27.2104月名探偵コナン　紺碧の棺（ジョリー・ロジャー）25.31110月クローズＺＥＲＯ25.0124月ゲゲゲの鬼太郎23.41306年12月大奥22.0146月舞妓Ｈａａａａｎ！！！20.8159月エヴァンゲリヲン新劇場版：序20.0164月東京タワー　オカンとボクと、時々、オトン18.81706年12月劇場版　どうぶつの森17.0178月Ｌｉｆｅ　天国で君に逢えたら17.0194月クレヨンしんちゃん　嵐を呼ぶ　歌うケツだけ爆弾！15.5203月バッテリー15.3211月愛の流刑地13.9213月蒼き狼　地果て海尽きるまで13.9238月劇場版　仮面ライダー電王　俺、誕生！電影版　獣拳戦隊ゲキレンジャー　ネイネイ！ホウホウ！香港大決戦13.82406年12月ＮＡＮＡ２12.5255月眉山　びざん12.1258月劇場版　ＮＡＲＵＴＯ　ナルト　疾風伝12.1276月大日本人11.6281月それでもボクはやってない11.0295月俺は、君のためにこそ死ににいく10.8興行収入が10億円を超えたのは、洋画22本、邦画29本、合計51本であった。昨年1月から11月までに134本を見た私の感覚では、もっと多くの作品が入っていてもよさそうなものであるが、10億円の壁は案外厚いらしい。で、リンクを貼り付けたのが、要するに私が見た作品である。洋画の売れ筋はおおむね見ているものの、邦画の好みはかなり偏りがあるということか？

  2008.01.31

• ［VOYAGE-420］　映画／椿三十郎＆マリと子犬の物語。

  今日は曇りのち晴れ。三多摩の府中のアメダスによれば、日最低気温は0.7℃（03:20）、日最高気温は8.0℃（14:50）であった。さて、まずは今日のエピソードから。「やまと」より国連・各国政府に告ぐ！極海における戦闘の終結を伝える！（かわぐちかいじ『沈黙の艦隊』VOYAGE-144「戦闘終結宣言」）と、［VOYAGE-357］と同じコメントを掲げる必要があろう。というのも、今朝08時30分ごろに2,000字程度の要旨をどうにか作成し終わり、提出論文情報記入用紙を表紙の裏側に貼り付けるなどの「工作」を行った後で、身支度をしてから自宅を出て、10時30分ごろに大学の研究科事務室に修士論文（正本）：1通上記論文の写し：3通上記論文の要旨：4通を提出したからである。これで戦闘はひとまず終結し、修士論文に関しては2月22日（金）の口述試験を残すのみとなった。これらを提出した後は、最初に立川にある某・研究機関に行き、返却期限が過ぎて督促状をもらってしまった資料を返却。その後は、約1か月半ぶりとなる映画三昧で、今日は2本見た。昨年の映画を総括する余裕は今までなかった。それは今後、ブログのネタが尽きたときに試してみたいと思うが、少しだけ触れておくと、私は昨年1月から11月までの間に、結局134本の映画を映画館で見たらしい。2006年に達成した年間94本の自己記録を大幅に更新したことになる。では、今日の1本目。『椿三十郎』。上役の汚職を暴こうとした若侍・井坂伊織は、最初に伯父で城代家老の睦田に相談するがノラリクラリとかわされ、次に大目付の菊井に相談したところ「よくわかった。同士全員を至急集めよ」と言われる。そこで夜の社殿に9人で集まっていると、そこに1人の浪人がふらっと現れる。金がないために社殿で寝泊まりして彼らの話を盗み聞いていたその浪人・椿三十郎は「その大目付が黒幕かもよ」と告げる。事実、社殿は既に、大目付が大動員した軍勢によって十重二十重に取り囲まれていた。その場は三十郎の機転によってどうにか切り抜ける9人であったが、「お前たちのやることは危なくて見ていられねぇよ」と、三十郎も彼らに加勢することになる・・・。黒澤明監督の往年の名作を、森田芳光監督がリメイクした時代劇。椿三十郎役で主演するのは織田裕二氏、敵の懐刀・室戸半兵衛役に豊川悦司氏、井坂伊織役に松山ケンイチ氏、そのほか鈴木杏氏、中村玉緒氏、村川絵梨氏、佐々木蔵之介氏、風間杜夫氏、小林稔侍氏、西岡徳馬氏、藤田まこと氏といった豪華メンバー。うーむ。冒頭の9人の切り抜け方は、『スター・ウォーズ』エピソード4でハン・ソロ船長が同様の手口を使っていたような気がする。さすがはジェダイ（時代）劇？やはり見どころの一つは織田裕二氏と豊川悦司氏の掛け合いであろう。特にトヨエツこと豊川悦司氏のニヤッと笑いながらとんでもないことをする演技は、同じ森田芳光監督と豊川悦司氏の組み合わせの『サウスバウンド』のキャラクターを髣髴とさせて、味わい深いものがあった。あと、最高に笑えるのは、ドラえもんのような佐々木蔵之介氏。この「ドラえもん」という形容がどういう意味かはスクリーンでご確認のほどを。若侍9人衆の発想が実に能天気で「おいおい！」とツッコミを入れたくなるが、それを言っちゃあ、おしまいよ。ストーリーが成り立たなくなるので、そこは目を瞑るべき。むしろ中村玉緒氏と鈴木杏氏の母娘がおっとりしすぎていて、私としてはそれこそ「危なくて見ていられねぇよ」と言いたくなってしまった。なお、脇を固めるベテランの中では、とりわけ風間杜夫氏の演技が光っていた。全体的にユーモアに富んでいて結構面白かったと思う。作品の内容と観客動員数とが一致しない例の一つに挙げられるかもしれない。「本当にいい刀は、鞘の中に収まっているもの」という台詞は、この作品自体へのメッセージ？続いて、今日の2本目。『マリと子犬の物語』。新潟県山古志村で暮らす石川家は4人家族。小学生の亮太と5歳の彩は仲良し兄妹。父・優一は村役場に勤務し、長岡市との合併を前に市内への転居を考えていた。母・幸子は病気で既に亡くなり、あとは祖父・優造がいる。ある日、彩と亮太は原っぱでダンボール箱に入れられた捨て犬を見つける。父が大の犬嫌いのため一度は諦めようとするが、物心がつく前に母を失っている彩はひとりぼっちの子犬を見捨てることができず、優一もついに根負けして一家で飼うことになる。マリと名づけられた子犬はすくすくと成長し、やがて3匹の子犬を産む。家族が増えたと喜ぶ子供たち。ところが、そんな時、新潟県中越地震が発生。優一は義理の妹・冴子が営む長岡市内の美容室に、亮太は課外授業で村の小学校に、そして彩と優造は倒壊した自宅の中に、それぞれ取り残される・・・。実話に基づく絵本を題材とした感動ドラマ。地震ネタに関しては［VOYAGE-237］でも取り上げているが、ここでもう少し補足しておこう。私自身は次の2点から、この2004年10月23日の新潟県中越地震は忘れがたいのである。1）この地震の数日前に、空に浮かぶ半月の周囲に強烈なハロ（光輪）が見えたこと。阪神・淡路大震災の直前にも同様のハロが観察されたと聞いていた私は、「これはやばい！」と直感して寒気を覚えたのであるが・・・まさか本当に大地震が来るとは思わなかったため、それだけに精神的な衝撃は小さくなかった。2）ちょうどこの頃、私は日本語学校の駆け出しの非常勤講師として教壇に立つようになっていたが、ほとんど地震のない国から来ている就学生が多かったため、この地震をきっかけとして、地震や台風などの被害が多い日本の状況を説明せざるを得なかったこと。というわけで、私はタロとジロの『南極物語』の舞台を平成の中越地方に置き換えたような犬の話に興味があるわけではなく、あくまでも、この地震への思い入れから見に行った次第である。ゆえに、この映画自体では、私自身はそんなに感動しなかった。まあ、山古志村を離れていく自衛隊の救助ヘリをマリが懸命に追いかけるシーンでは、ちょっと涙腺が緩んだものの、泣きはしなかった。その程度である。もっとも、私の周囲では、途中で涙ぐんでいる観客もいたけれども。子役の二人の演技は見事で、さらに船越英一郎氏、松本明子氏、高嶋政伸氏、小野武彦氏、宇津井健氏といった大人たちの熱演もいい感じ。加えて、あれだけの犬の演技指導もさぞ大変であったであろう、とスタッフの苦労が偲ばれる。個人的には、小林麻央氏が演じた小学校教員とその児童の対応が気になった。自分の身は基本的に自分で守るという「防災教育」とか、あるいは災害時の生存確認などをどうするかといった「地域防災マニュアル」のようなものを、きちんと準備しておく必要性を思わずにはいられなかった。

  2008.01.15

• ［VOYAGE-372］　映画／ディスタービア＆僕のピアノコンチェルト＆ブレードランナー。

  今日もどんよりとした曇り空。三多摩の府中のアメダスによれば、日最低気温は9.7℃（07:20）、日最高気温は12.0℃（15:20）であった。さて、修士論文追い込みモードに突入しつつある私としては、映画を見るのをそろそろ差し控えなければ・・・と思ってはいるものの、今月や来月は見たい作品が目白押しで、なかなかやめられないのである。もはや「中毒症状」とも言えようが、今日は常連の立川に加えて、銀座や新宿にも遠征してハシゴしてきたので、それらの様子などについて触れてみたい。1本目は『ディスタービア』。ケールは郊外の高級住宅街に住む高校生。車で釣りに出かけた帰りに交通事故に遭遇し、同乗していた最愛の父親を亡くしてしまう。それから1年。自暴自棄に陥った彼は、勉強する意欲が全く湧かず、学校で父親のことを言われてカッとなり教師を殴ってしまったことから、裁判所で3か月間の自宅軟禁処分を言い渡される。ケールは自宅の中心から半径30メートルの行動範囲を越えると自動的に警察に通報される発信装置を足首に取り付けられ、母親ジュリーの小言を聞き流しながらゲームや音楽に浸る退廃的な生活を送るはめになった。ある日、隣の家に引っ越してきた一家の中に、美人の女の子アシュリーがいるのを発見した彼は、彼女の水着姿などをこっそりと双眼鏡で覗くようになる。親友ロニーとともに「ご近所ウォッチング」を楽しんでいた彼らは、ふとしたきっかけからアシュリーとも親しくなる。ちょうどその頃、近隣では赤毛の女性が失踪する事件が多発していた。裏の家に住むターナーの車が容疑者の車の特徴に合致する上に、夜中に血まみれの大きなゴミ袋を引きずっているのを目撃したケールたちは、携帯電話・ビデオカメラ・PCなどを駆使してターナーの監視を始めるが・・・。退屈しのぎに始めた覗き見の趣味がとんでもない事態を招いてしまうアンリミテッド・ショック・スリラー。ちなみにタイトルの「ディスタービア（Disturbia）」とは、Disturb（不穏な）とSuburbia（郊外）を掛け合わせた造語である。主人公のケール役を演じたのは『トランスフォーマー』でも主役に抜擢されたシャイア・ラブーフ氏。美少女アシュリー役にはモデル出身でハリウッド・リメイク版『呪怨』シリーズにも出演した新人女優サラ・ローマー氏。さらに母親ジュリー役には『マトリックス』シリーズのトリニティー役でおなじみのキャリー＝アン・モス氏（もっとも、本作では黒い衣装やサングラスを身につけていなかったため、エンドロールを見るまで私は気づかなかったが・・・）。冷静に考えればツッコミどころ（奇妙な設定）もいくつかあるけれども、見ている間はさほど気にならなかった。ストーリーが展開していくにつれて、うわっ、この先どうなっちゃうの？と、観客の恐怖感も増幅されるはず。やや過剰ではあるが音楽も効果的で、手に汗を握るスリリングな興奮を堪能できるに違いない。2本目は『僕のピアノコンチェルト』。スイス、チューリッヒ。父レオ、母ヘレンの間に生まれたヴィトスは、初めて触ったおもちゃのピアノを弾きこなし、幼稚園では地球温暖化について語り、お遊戯そっちのけで辞書を読みふけるほどの天才児。わずか半年のピアノレッスンでシューマンの『勇敢な旗手』を披露し、息を呑んだ来客は彼を「神童」と評するしかなかった。そんな周囲の評判にすっかり気をよくしたヘレンは、6歳のヴィトスを音楽学校に通わせてピアニストに育てることを決意する。仕事が忙しくなったヘレンはベビーシッターとして若いイザベルを雇うが、ヴィトスは「赤ちゃんじゃない！」と反発するものの、二人は次第に打ち解けていく。しかし、両親の留守の間に二人が飲酒していたことから、イザベルは放逐され、仕事を辞めたヘレン自身が付きっきりでヴィトスの教育を受け持つことになる。そんな息苦しい生活からヴィトスが解放されるのは、田舎で家具工房を営む祖父の家だけであった。やがて12歳になったヴィトスは、飛び級で高校に入学していたが、授業内容があまりに簡単で面白くなく、教師やほかの生徒との間で埋めようのない深い溝が広がっていく。彼の言動に手を焼いていた高校からは、特別な教育機関で学ぶように、と退学を勧告されてしまう。ヘレンは高名なピアニストの下で指導を受けさせようとするが、その先生の前で演奏を拒否したヴィトスに激怒し、彼の唯一の楽しみであった祖父の家に行くことすらも禁止してしまう。普通の人になりたいと願うヴィトスは、祖父の助言を受けて、ある大胆な行動に出る・・・。天才少年が、周囲の期待を受けながらも、自分自身の人生を歩もうとする感動ドラマ。見終わってみると、少年のピアノコンチェルトは最後の10分間だけ。ピアノレッスン以外の要素が多くを占め、本作の邦題には少々無理を覚えてしまった。原題は『VITUS』。この主人公の名前は、「ヴァイタリティー」の語源でもあるラテン語の“VITA”と同じ意味を持ち、ローマ帝政時代に処刑された聖なる少年で芸術を守護した「ヴィトス」に由来するらしい。とは言え、教育ママの支配から自由でありたいと悪戦苦闘する少年の姿は、見ていて共感を覚えた。12歳のヴィトスを演じたテオ・ゲオルギュー氏自身も若き天才ピアニストで、そのテクニックはさすがであった。また、『ベルリン・天使の詩』『ヒトラー～最期の12日間～』『バルトの楽園』で知られるブルーノ・ガンツ氏もユーモア溢れる祖父役で出演し、いい味を出していた。3本目は『ブレードランナー　ファイナル・カット』。2019年、ロサンゼルス。降り注ぐ酸性雨によって荒廃するこの街に、男3人と女3人が逃亡してくる。外見は人間にそっくりであるが、彼らは強い肉体および開発者と同等の知能を持つ人造人間（レプリカント）で、過酷な開拓地である植民地惑星から反乱・脱走してきたのであった。レプリカント専門捜査官（ブレードランナー）のデッカードは既に退職していたものの、彼らを捕獲する依頼を受けて、人間社会に紛れ込んだレプリカントたちを追跡することになる・・・。『エイリアン』『ブラック・レイン』『テルマ＆ルイーズ』『グラディエーター』『ハンニバル』『キングダム・オブ・ヘブン』『プロヴァンスの贈りもの』などで知られるリドリー・スコット監督が、自身の1982年のオリジナル版や1992年のディレクターズ・カット版などに、再編集とデジタル修正を施して蘇らせたSF映画の金字塔。私個人はオリジナル版などを見たことがなく、本作を目にするのは今回が初めてである。そのせいもあろうが、あまり萌えなかった。その理由としては、次の3点が考えられる。1）東洋的あるいは日本的な要素を多く盛り込んでいるものの、完全に「オリエンタリズム」で、奇をてらっているとしか思えなかったこと。2）ハリソン・フォード氏が演じたデッカードと、ショーン・ヤング氏が演じたレイチェルの関係が微妙なこと。男尊女卑というか、女性を奴隷っぽい存在として描いているのが不快に感じられた。3）今から25年前に想像するのは困難とは言え、「近未来」のイメージに違和感がありすぎること。もはや欠かせないのは携帯電話などのモバイル機器であるが、本作では皆無に等しい。また、画像などの情報処理技術もあまりに稚拙。さらに、今から12年後にはおそらく、石油はほとんど使えなくなっていると思われるけれども、本作では化石燃料への依存が続いているように見える。ここで描かれた近未来は、電気文明というよりは、まだまだ機械文明の延長線上であって、マーシャル・マクルーハン氏のメディア理論などは取り入れられていないらしい。とは言うものの、SF映画の「古典」としては、やはりそれなりに魅力的であろう。個人的には『バック・トゥ・ザ・フューチャー』（特に『2』）の原型のような都市空間が興味深かった。

  2007.11.28

• ［VOYAGE-370］　映画／転々＆ウェイトレス。

  今日は晴れ時々曇り。三多摩の府中のアメダスによれば、日最低気温は2.7℃（06:20）、日最高気温は16.8℃（13:50）であった。さて、今日の記事は、一昨日のエピソードの第3弾である。昨日の記事の中では「映画A」「映画B」という伏せ字の表現を用いたけれども、それらの感想などをまだ述べていないため、その映画ネタをここで取り上げよう。1本目は『転々』。竹村文哉は法学部に在籍する大学8年生。親に捨てられて家族はなく、天涯孤独で自堕落な生活を送っている。いつの間にか作った借金が84万円。その借金を取り立てるために一人の男が文哉のアパートに現れ、返済猶予はあと3日と告げた上で、文哉の学生証と免許証を預かって立ち去る。返済期限の前日、文哉の後を付けていたその借金取りの男が、文哉に意外な提案をする。借金はチャラにして、しかも100万円の報酬もやるから、俺との散歩に付き合え、と。選択の余地がない文哉は、その提案に乗るしかなかった。こうして、この男・福原愛一郎の気が済むまで無期限の、吉祥寺から霞ヶ関へと向かう、二人の東京散歩が始まった・・・。テレビ朝日ドラマ『時効警察』シリーズでおなじみの三木聡監督とオダギリジョー氏がコンビを組んだ、妙にスローなロードムービー。この監督ならではの脱力系の小ネタが満載で、思わず笑ってしまう内容が少なくない。しかし・・・そうしたジャブは巧みではあるが、決定的なボディーブローに乏しい。大枠の構成が今ひとつで、結末では不完全燃焼の印象が残ってしまった。二人の主役、つまり竹村文哉役のオダギリジョー氏と、福原愛一郎役の三浦友和氏という、新旧のイケメン俳優のユルユルぶりは秀逸。オダギリジョー氏の演技は、『東京タワー　オカンとボクと、時々、オトン』のキャラクターと重なるものがあろう。他方、三浦友和氏の演技は、シリアスな役ばかりではなく、こういうお茶目な役もこなすようになったのか・・・と、私は半ば絶句してしまったほどの変わりようである。昔のファンは見ないほうがいいかも（？）。岩松了氏、ふせえり氏、松重豊氏のスーパーマーケット3人組、鷲尾真知子氏と石原良純氏の親子、怪しげな芸術家役の広田レオナ氏、さらには岸部一徳氏（そのまんま本人役！）などのサブキャラクターも、実に絶妙な演技を見せている。ただ、本作の後半で擬似家族の一員を演じた小泉今日子氏に関しては、『やじきた道中　てれすこ』のほうがキラキラと輝いていたような気もした。2本目は『ウェイトレス　おいしい人生のつくりかた』。米国南部の田舎町にあるレストラン、ジョーズ・ダイナー。そこで働くウェイトレスのジェンナが焼き上げるパイは大評判で、彼女はいつかそのパイ作りの才能で自らの人生を変えることを夢見ている。しかし、彼女の夫アールは横暴で嫉妬深いダメダメ亭主で、彼女の自由を奪って服従させることしか頭にない。そう遠くない将来に夫と別れて自活するため、ヘソクリを貯めてきた彼女であったが、予期せぬことに夫の子を妊娠してしまった事実が判明する。これで人生はお先真っ暗、と思ったとき、彼女は産婦人科の担当医ポマターに出会う。彼は、ジェンナのマシュマロパイが大好きなベテラン担当医の後任として着任したばかりの新人で、彼の妻も研修医であった。そのマシュマロパイを代わりに受け取ったのをきっかけとして、二人の仲は急速に進展していく・・・。女性の自立、妊娠、出産にまつわるビターな現実を、甘いスイーツでくるんだ愛らしいコメディ・ドラマ。この主人公はうれしいときも悲しいときも「この感情をパイで表現するなら？」と空想を働かせてしまうのがクセ。そのおかげで、カラフルでいかにも美味しそうなパイのオンパレードがスクリーンに登場する。それらを見ているだけでも食欲がそそられ、思わず幸せな気分に浸ってしまうことは間違いあるまい。人物設定としては『幸せのレシピ』にも似ているが、あちらは完璧主義のシェフが自らの美意識に酔いしれているだけなのに対して、本作のウェイトレスは愛を込めて焼き上げている感じ。どう見ても、こちらのスイーツのほうが美味しそうである。クセのある登場人物が多く、笑い（苦笑？）を誘う場面がところどころに盛り込まれているとは言え、どうしてそうなっちゃうの？と疑問を覚えてしまうシチュエーションもちらほら。しかしながら、ラストでは主人公の思い切った決断が示される。おおっ、そうきたか！と、意外ではあるものの、思わず納得してしまう結末に仕上がっている。プロセスはイマイチでも結果はOK、という意味では、上記の『転々』とは全く対照的であると言えよう。後味の爽快さは抜群と評しておきたい。

  2007.11.26

• ［VOYAGE-364］　映画／4分間のピアニスト＆ボーン・アルティメイタム。【2007.11.21 06:44:13】

  午前中は雲が多かったものの、午後は晴れ時々曇り。三多摩の府中のアメダスによれば、今日の日最低気温は3.4℃（06:50）、日最高気温は16.6℃（15:10）であった。さて、今日は（というか、今日も）映画を2本見てきた。例によって、それらの印象などを述べてみたい。1本目は『4分間のピアニスト』。ドイツ。ピアノ教師として刑務所で奉仕活動をしてきた80歳のトラウデ・クリューガーは、ひときわ暴力的で不服従ながらも、類稀なピアノの才能を有する女性囚に出会う。彼女は20歳のジェニー・フォン・レーベン。幼い頃から数々の国際コンテストに出場し、「神童」の名をほしいままにしながらも、自分をモーツァルトのように育てようとした養父との関係がうまくいかず、自暴自棄の言動に走るようになって、殺人犯として刑務所に入れられたのであった。彼女の才能を埋もれさせないことが残り少ない人生の使命であると感じたクリューガーは、所長を説得して刑務所の一室にピアノを運び込み、特別レッスンを開始する。お互いに才能を持つがゆえに、二人の魂は激しくぶつかり合うばかりであったが、どんなことがあってもクリューガーはジェニーの才能を信じたことから、ジェニーも閉ざしていた心を次第に開いていく。こうしてクリューガーの厳しい指導を受けたジェニーは、ユース・コンテストに出場して次々と予選を勝ち抜いていくが、この二人の師弟愛に嫉妬した看守の陰謀により、ジェニーはドイツ・オペラ座での決勝大会を目前にして暴力事件を起こしてしまう・・・。2007年ドイツアカデミー賞では作品賞と主演女優賞を獲得。音楽レッスンを通じて共鳴を覚えつつも、緊迫した関係を最後まで保ち続ける師弟を描いたドラマ。クラシックの名曲を中心に据えながらも、自由かつ大胆にアレンジしてジャンルにこだわらないピアノ曲もあったりして、音楽の面では確かに素晴らしいものがある。が・・・あの衝撃的なラストは、どうであろうか。『のだめカンタービレ』『神童』『ピアノの森』『私のちいさなピアニスト』などの「ピアノレッスンもの」を見てきた私としては期待度が高かっただけに、ちょっと違和感も覚えてしまった。むしろ、ラスト直前の人間ドラマが強烈で、感動的でもある。実はクリューガー自身が「とある過去」を封印していて、それゆえに自らの感情を押し殺すような厳しい指導をしてきたのであるが、ふとしたきっかけからその封印が解かれ、一瞬だけ激しく感情的になるシーンがある。その「とある過去」も「ふとしたきっかけ」もシチュエーションとしてはあまり現実味がないとは言え、クリューガー役を演じたモニカ・ブライブトロイ氏の迫真の演技が私の心を打った。そういう意味では、ジェニー役を演じたハンナー・ヘルツシュプルング氏も、ほとんど無名新人とは思えないほどの熱演を見せていたと言えよう。2本目は『ボーン・アルティメイタム』。CIAの極秘プロジェクト「トレッドストーン計画」によって暗殺者に仕立て上げられ、同時に過去の一切の記憶を失ったジェイソン・ボーン。彼は自らの記憶を取り戻すべく、CIAの指揮から離脱して独自の行動をとっていた。一方、英国紙『ガーディアン』の記者・ロスは「トレッドストーン計画」に代わる「ブラックブライアー計画」の取材を進め、その過程でボーンの写真を新聞記事に掲載する。それを見たボーンは、ひそかにロスへの接触を図るためパリからロンドンへと向かうが、彼は既にCIAにマークされていた。ロスと待ち合わせをした駅で狙撃を逃れたボーンは、情報源を追い求めてスペイン・マドリッドからモロッコ・タンジールを経て、ついにニューヨークに出現する・・・。『ボーン・アイデンティティー』『ボーン・スプレマシー』に続くシリーズ第3作目にして完結篇。監督は前作『スプレマシー』や『ユナイテッド93』などのポール・グリーングラス氏。主人公ジェイソン・ボーンの超人的な活躍がとにかく見もの。ロンドンのウォータールー駅でCIAの追跡をかわしながらロスと接触を図る場面は、「こいつ、ニュータイプか？」と思ってしまうほど、読みがバンバン的中。また、タンジールの市街地での追いつ追われつの攻防戦や、あの狭い室内でのすばやい格闘技対決は、本当に息を呑むばかりであった。そして最後の雪のニューヨークは・・・個人的には『幸せのレシピ』以来のトラウマが甦ってしまったけれども、カーチェイスなどが迫力満点であった。携帯電話を駆使したスリリングな展開は、本作主演のマット・デイモン氏も出演した『ディパーテッド』、というより、その元ネタの『インファナル・アフェア』を思わせる。また、マドリッドからタンジールにかけては、ボーンに協力する女性が登場する。その構図は、まるで往年の（？）『007』シリーズにそっくり。ただし、本作ではお色気シーンはない。私自身は最初の『アイデンティティー』を見ておらず、前作『スプレマシー』を見たのみである。暴力の連鎖を断ち切ろうとするメッセージには共感したものの、何か不完全燃焼の印象が否めなかった。それゆえに、本作にはあまり期待していなかったのである。しかし、結末が少々甘い要素もあろうが、観客を圧倒するアクションをはじめとして、全体的に大満足である。このジャンルとしては『ダイ・ハード4.0』の出来を超えると言っても過言ではあるまい。なかなかの傑作と評しておく。

  2007.11.20

• ［VOYAGE-361］　映画／オリヲン座からの招待状＆てれすこ。【2007.11.18 20:13:45】

  上空に寒気ミナミー、じゃなくてキター！　天気自体は曇り時々晴れといったところであるが、三多摩の府中のアメダスによれば、今日の日最低気温は3.1℃（06:40）で11月下旬から12月上旬並み、日最高気温は12.0℃（15:00）で12月上旬から中旬並みとなった。日最低・日最高ともに今季一番の冷え込みで、特に日最低気温が5℃を下回ったのは4月6日（金）以来のことである。さて、今日は、映画を2本見てきた。いつものように、それらの感想などを書き込んでみよう。1本目は『オリヲン座からの招待状』。現代、京都。地元の人々に愛され親しまれてきた映画館・オリヲン座が閉館することになり、最終興行の招待状が送られる。それを受け取った三好良枝は、夫・祐次とともに万感の思いで映画館に足を運ぶことになる。1957（昭和32）年、大津から一文無しで京都に出てきた17歳の仙波留吉は、オリヲン座の前で足を止める。窓口の豊田トヨは、いかにもお金のなさそうな彼を見て、無料で映画館に招き入れる。その日、すべての映画の上映が終わった後で、留吉は映画館で働きたいと申し出る。トヨは困惑するが、夫・松蔵は彼を家に泊めて、映写技師の弟子として働かせることにする。やがて、松蔵は肺がんで他界し、トヨは映画館を閉めようとするが、松蔵から「オリヲン座をほかしたらあかん」と言われていた留吉は二人で守り抜くことを誓う。そんな二人を、世間は妙な目で見るようになる。また、家庭にテレビが普及しつつあり、映画は斜陽産業への道をたどり始めていた・・・。原作は浅田次郎氏のベストセラー『鉄道員（ぽっぽや）』に所収された短編小説。主要キャストを図式化すると、次のようになる。【昭和30年代】【現代】豊田松蔵役：　宇崎竜童氏豊田トヨ役：　宮沢りえ氏→　中原ひとみ氏仙波留吉役：　加瀬亮氏→　原田芳雄氏三好祐次役：（子役）→　田口トモロヲ氏三好良枝役：（子役）→　樋口可南子氏この中で独特のオーラを放っていたのは、宮沢りえ氏であろうか。私にとっては2006年6月公開の『花よりもなほ』以来の拝見となるが、むしろ伊右衛門のCMのほうがおなじみかもしれない。いずれにせよ、ニコール・キッドマン氏に勝るとも劣らない「かわいらしさ」が印象的であった。あと、主要キャストではないものの、クセのある「うどん屋の亭主」はどこかで見たことがあるなぁ・・・と思っていたところ、エンドロールのクレジットを見て「ああっ！」と納得。『のだめ』のハリセンこと江藤耕造先生（豊原功補氏）でいらっしゃった。ほかのキャストも、この人はいつショッカーの怪人に変身してしまうのか、とヒヤヒヤさせられたりしたけれども（？）、総じて味わいのある演技を見せていた。しかし・・・そうした演技とは裏腹に、メリハリのないストーリー展開が微妙。原作が短編であるせいもあろうが、2時間もの長さで見せられると何か間延びした印象が否めないのである。とりわけ宮沢りえ氏が自転車をこぐ場面は、一体何を表現したいのか今ひとつ理解できなかった。また、子役が登場するエピソードも、ちょっと唐突で説明不足。後の展開で生きてくるとは言え、何か無理やり接合した感じであった。周囲で涙ぐんでいる観客もいたが、私自身は違和感の嵐に襲われ、またしても取り残されてしまったらしい。結局のところ、本作での収穫は、宮沢りえ氏のかわいらしさだけであった。2本目は『やじきた道中　てれすこ』。江戸時代。大阪で「てれすこ」と呼ばれる不思議な生物が捕獲され、人々の話題を集めていた。その頃、江戸・品川宿の遊郭「島崎」では、売れっ子花魁（おいらん）のお喜乃が、新粉細工職人の弥次さんに、本物そっくりの指を粉で作らせていた。「想いの深さを表す切り指」と偽って常連客に渡し、客から金をせしめていたのである。そんな中、お喜乃は、沼津にいる病気の父に会うため遊郭を抜け出して一緒に逃げて欲しい、と涙ながらに弥次さんに頼む。ちょうどそのとき、遊郭の庭先では、芝居でヘマをした役者の喜多さんが首を吊ろうとして、もがき苦しんでいた。こうして、三人は沼津に向けて旅立つことになる・・・。「東海道中膝栗毛」でおなじみの弥次さん喜多さんの物語に、古典落語の人気演目「てれすこ」を取り入れた人情喜劇。監督は『しゃべれども しゃべれども』の平山秀幸氏。主役の三人、つまり弥次さん役の中村勘三郎氏、喜多さん役の柄本明氏、花魁・お喜乃役の小泉今日子氏が「生き生きはつらつ」とした演技を見せ、実に爽快。特に小泉今日子氏のいたずらっぽい言動は（文字通り？）堂に入っていて、弥次さんならずとも心を奪われてしまうかもしれない。このほか、ラサール石井氏、笑福亭松之助氏、淡路恵子氏、間寛平氏、松重豊氏、山本浩司氏、吉川晃司氏、鈴木蘭々氏、星野亜希氏、藤山直美氏、國村隼氏、笹野高史氏といった錚々たる芸達者がチョイ役で出演している。弥次さんがあまりにもお人好しすぎて、そこからストーリー展開が膨らんでいくのが面白い。一方、喜多さんはドジ。あの大根役者ぶりといい、酒乱ぶりといい、もう笑うしかあるまい。いかにも落語的な、和風でスローな笑いに満ちていて、頬の筋肉が緩みっぱなしであった。そうした至福のひとときを過ごしたい人におすすめしたい。

  2007.11.17

• ［VOYAGE-358］　映画／恋空＆タロットカード殺人事件。【2007.11.15 17:13:49】

  今日も秋晴れの一日。三多摩の府中のアメダスによれば、日最低気温は8.6℃（05:30）、日最高気温は20.2℃（14:50）であった。さて、追われていた「締め切り」から解放された翌日に私が何をするか・・・と言えば、もう映画を見に行くしかあるまい。今日も2本見てきたので、それらの感想などを記してみたい。ただ、その前に、ぼやきごとを一つだけ。ポイントカードの加算制度が改善された立川の映画館に私が足繁く通っていることについては、［VOYAGE-347］で述べた。朝イチの回は加算ポイントが倍になるため、今日も朝から映画館へと向かい、朝イチの回は自腹で見て、続く昼の回はたまったポイントを還元してタダで見よう・・・と、思っていた。ところが、である。「後の1本を900ポイントでお願いします」と伝えたはずなのに、発行されたチケットを見ると、朝イチの回が「ポイント0円」、昼の回が「学生1,500円」となっていて、ポイントカードもそのように減算・加算されていた。ええ～っ、これじゃ朝イチに見に来るメリットがないではないか！普通なら苦情を述べるところであるが、今日は水曜（レディースデイ）でチケット売り場には長蛇の列ができていたので、それは諦めた。腸（はらわた）が煮えくり返りつつも、混雑しているときに紛らわしい注文をした私のミスを悔いるとともに、スタッフの教育をもっとしっかりしてもらいたい（まさか、あのスタッフは、きちんと教育されていたからこそ、映画館の収入に有利な処理をしたわけではあるまい？）と、心の中で願った次第であった。1本目は『恋空』。高校1年生の田原美嘉は、夏休みに入る前、どこかに携帯を置き忘れてしまう。必死に探し、ようやく図書室でそれを見つけるものの、今までの電話帳やメールはすべて削除されていた。そこに着信音が鳴り響く。電話に出ると、一緒に探してくれていた女友達ではなく、見知らぬ少年からであった。携帯を拾ったというその少年に、メモリーが消去されたことで文句を言うと、「大事な友達なら向こうから連絡が来るから大丈夫」と返答される始末。その日以来、この少年から毎日電話がかかって来るようになった。少年自身は全く名乗らず、「そんなのフェアじゃない」と反発していた美嘉であったが、電話での会話を重ねるうちに次第にその少年に好意を持つようになり、夏休み明けの新学期初日に学校で会う約束をする。約束の場所に現れたのは、銀髪で長身のイケメン。思わずその場を立ち去る美嘉。彼の名前を調べてみると、美嘉の女友達の彼氏の男友達で、同じ学年の桜井弘樹（ヒロ）。ふとしたきっかけでヒロの優しさに触れた美嘉は恋に落ち、やがて激流のような人生を歩むことになる・・・。原作は、著者である美嘉氏の体験を基に書かれた「真実の物語」。1200万人が涙したとされるケータイ小説で、出版後は1か月で100万部を突破している。5日前には「どうせ大して面白くはあるまい」と高をくくって、見るのを後回しにした作品の一つである。が、それを先に見ようと考え直したのは、本作が先週末の興行ランキングで国内第1位となり、小説をほとんど読まない私としては「ケータイ小説」なるものが一体どの程度のものなのか、半信半疑であったからである。うーむ。ストーリー展開としてはかなりドラマチックで、観客をグイグイと引っ張るチカラがあるのは確かであろう。また、ごく普通の女子高校生～大学生という視点で語られているため、とりわけ女性の共感が得られやすいのも理解できる。私の周囲でも涙ぐんでいる女性がちらほら見受けられた。とは言え、私自身は全く泣けなかった。なぜであろうか。あの年齢ならもっと早くそうなるであろう、など、演出のところどころでリアリティーが感じられなかったせいかもしれない。（周囲が泣いているのに私が泣けなかった作品は過去にもあったなぁ・・・と、脳内検索エンジンを起動させると、1件ヒットした。それは、今は離婚するのしないのでモメている二人が結婚前に共演した『いま、会いにゆきます』（2004年10月公開）であった。当時、私が非常勤の日本語教師をしていた日本語学校で、学生から「先生は泣かなかったんですか？」となじられたのを記憶している。）まあ、「夏休み明けの設定なのに、景色は新緑っぽく、蝉の鳴き声も全く聞こえず、しかも制服は長袖？」と最初は疑問を覚えたものの、「クリスマスイブに雪が積もっている」のを見て、ちょっと納得したりした。美嘉役で主演したポッキー、もといガッキーこと新垣結衣氏に加え、ヒロ役の三浦春馬氏（『キャッチ ア ウェーブ』）、さらには小出恵介氏（『のだめカンタービレ』『キサラギ』『きみにしか聞こえない』）、香里奈氏（『深呼吸の必要』『天国の本屋～恋火』『しゃべれども しゃべれども』）などのキャストは魅力的。新垣結衣氏がTBSドラマ『ドラゴン桜』で自ら演じた香坂よしの（東京大学理科Ｉ類合格）モードに一瞬だけなったりとか、香里奈氏が同じ美嘉でも『NANA』の中島美嘉氏っぽいキャラクターで出演していたりとか、といった点が個人的には面白かった。2本目は『タロットカード殺人事件』。ジャーナリスト志望で、大学では新聞部に所属する女子大生サンドラ・ポランスキー。彼女は休暇でロンドンを訪れ、超売れっ子映画監督への突撃インタビューを試みるものの、一夜をともにしただけであえなく失敗に終わる。そんな彼女は友人に誘われてマジックショーを見に行き、その被験者として「チャイニーズボックス」の中に入ると、そこには有名な新聞記者ジョー・ストロンベルの亡霊が現れ、ロンドンの人々を震撼させている「タロットカード殺人事件」の犯人は大富豪の青年貴族ピーター・ライモンであると告げる。すっかり頭が混乱しつつも、一大スクープのネタをつかんだサンドラは、そのマジックを演じた三流マジシャン、スプレンディーニことシドニー・ウォーターマンを巻き込んで、ピーターへの接近を図っていくが・・・。ウディ・アレン監督がスカーレット・ヨハンソン氏と再びコンビを組んで、連続殺人事件の謎解きに挑む素人探偵の悪戦苦闘ぶりを軽妙に描くミステリー・コメディ。ウディ・アレン氏はもともと生粋のニューヨーカーではあるが、前作『マッチポイント』から新天地ロンドンを舞台としていて、その英国的なユーモアセンスは『ヴィーナス』などにも通じるものがある。ドタバタの展開は少々くどい印象も否めないけれども、ところどころで笑いを禁じえなかった。特に、ラストのオチは傑作。拍手喝采すること間違いなしである。青年貴族ピーター役で出演するヒュー・ジャックマン氏と「手品師がらみのストーリー」の組み合わせと言えば、6月に公開された『プレステージ』が記憶に新しい。あの作品もロンドンが舞台であった。また、とあるシーンで新聞記者ジョーの着ていたマントがふわっと落ちる場面があるが、私には『スター・ウォーズ　エピソード4』でアレック・ギネス氏が演じたオビ＝ワン・ケノービのマントが落ちる場面（ダース・ベイダーのライトセーバーに敗れるシーン）に重なって見え、思わずニヤッとしてしまった。

  2007.11.14

• ［VOYAGE-347］　映画／once ダブリンの街角で＆仮面ライダー THE NEXT。【2007.11.04 02:37:25】

  今日は曇りのち晴れ。三多摩の府中のアメダスによれば、日最低気温は10.6℃（23:20）、日最高気温は18.0℃（14:30）であった。さて、今日は（というか、今日も？）映画を2本見てきた。ただ、その話題に入る前に、雑談を三つほど。まず一つ。現在の私は三多摩に住んでいることもあり、また立川の映画館でポイントカードの加算制度が改善されたこともあるため、最近は川崎で映画を見る機会がめっきり少なくなった。しかし、2003年から2006年にかけて4年連続で興行成績が全国1位の映画館では、18本見ると5本が無料で見られるというコストパフォーマンスの高いポイントカードがあるおかげで、とりわけ横浜に住んでいた頃は足繁く通ったものである。で、今日は、ポイントがたまっていたこともあって、ほぼ2か月ぶりに川崎で映画を見ることにした。劇場に到着すると、（一昨日の記事でも述べたように）ものすごく混雑していて面食らってしまったが、長蛇の列の最後尾に並んだ末にようやく窓口にたどり着いたところ、招待券への引き換えができないことに気づいた。土曜ながら祝日（文化の日）であったからである。そのことをもっと早く思い出していれば、事前にインターネットで予約して、列に並ばずに済んだのに・・・ああ、ショック。もう一つ。その川崎にはM、L、LLサイズをすべて609円（本体価格580円）というリーズナブルな価格でパスタが食べられる店があり、こちらもよく利用してきたのであるが、いつの間にか値上げしていた（！）。ダブルショックである・・・。さらにあと一つ。今日はポイントカード系の運がとことんツイていなかった。ほかの音楽ショップで「いいなぁ」と感じたCDを、お世話になっている店で買おうと思っていたところ、その店では品切れであった。また、東急ハンズで買い物をしたとき、うっかりしてポイントカードを提示するのを忘れてしまった（帰宅して金銭出納帳をつけているときに気がついた！）。1,029円も買い物をしたのに・・・と、ムンクの『叫び』のポーズでフリーズしてしまいそうになった。では、今日の本題に入る。1本目は『once ダブリンの街角で』。アイルランドの首都ダブリン。多くの人が行き交うグラフトン・ストリートで、オンボロのギターをかき鳴らして歌を唄う男がいる。昼は有名な歌を唄って小遣いを稼ぎ、客が少ない夜は自作の歌を唄うことにしていた。夜、演奏する男の前に、一人の女がやって来る。10セントのチップを出し、あれやこれやと男に質問する。男が掃除機の修理の仕事をしていると聞くと、女は壊れた掃除機の修理の約束を取り付ける。その約束どおり、翌日、壊れた掃除機を持って女が現れる。その掃除機を男の自宅に持ち帰る途中、食事をしながら、お互いの境遇を少しずつ語る。女はチェコからの移民で、音楽家の娘として生まれ、ピアノが弾けるとのことであったが、アイルランドではピアノは高価で家には置いていない。そこで、ピアノを弾かせてもらえるという楽器店に立ち寄る。女のピアノの腕前に感心した男は、一緒に演奏することを提案する・・・。音楽によって心を通わせつつも、微妙に揺れ動く男女の思いをつづった恋愛映画。アイルランドの人気バンド、The Flames のグレン・ハンサード氏と、チェコ在住のシンガーソングライター、マルケタ・イルグロヴァ氏という、二人のプロのミュージシャンが主演。見る前は『ラブソングができるまで』の二番煎じかと予想していた（まあ、そういう側面もなくはない）けれども、そこまでコミカルな要素は本作にはほとんどない。淡々と進んでいく感じである。ストーリー展開そのものは、そんなにドラマティックではないかもしれないが、ラストシーンは、小さな感動を与えてくれるに違いない。むしろ、ストーリーの合間合間に挿入される彼らの音楽が素晴らしい。さすがはケルトの伝統を誇るだけのことはある。これらを総合的に勘案すれば、なかなかの佳作と言えよう。2本目は『仮面ライダー THE NEXT』。世界支配を画策する秘密結社ショッカーによって人体改造された後、その陰謀を阻止する仮面ライダー1号として自我を回復した本郷猛。それから2年。街では顔が切り刻まれた惨殺死体が次々と発見され、その現場には超人気アイドル・Chiharuの曲が流れているという噂が流れ始めていた。他方、その頃、猛は高校で生物を教える教師になっていた。そんな猛を心配させているのが、彼の教え子の一人である菊間琴美。最近授業をサボりがちなため、猛が話を聞くと、両親が離婚してそれぞれ再婚したため一人暮らしをしているがそれは大した問題ではなく、むしろ一番の悩みはChiharuがかつては琴美の大親友であったのに今は全く連絡が取れなくなったこと。おせっかいを嫌う琴美は一人でChiharuに会いに行こうとするが、猛も彼女を尾行する。すると、怪人・チェーンソーリザードと6人のショッカーライダーが現れる。猛は仮面ライダーに変身して琴美の危機を救う。その後、猛と琴美はChiharuの兄・風見志郎を訪ねることにする。新進IT企業の若き社長であった志郎は、社員全員が突如蒸発するという事件が起きた後、郊外の別荘に引きこもっていた。しかし、志郎は、ショッカーの怪人・シザーズジャガーが送り込んだナノロボットによって体内改造された改造人間・仮面ライダーV3であった。V3に変身した志郎は、再び現れたチェーンソーリザードやショッカーライダーとともに、猛に襲い掛かってきた。窮地に追い込まれた猛の前に、もう一人の仮面ライダーが現れる。それは、かつては本郷猛抹殺の命を受けながらも、猛とともにショッカーに反旗を翻した男、一文字隼人（仮面ライダー2号）であった・・・。往年の人気ヒーロー『仮面ライダー』シリーズを現代風に映画化したアクションの第2弾。恋愛映画の要素が多く盛り込まれていた前作に対し、本作は原作漫画版や昭和TVシリーズの序盤で意識されていた「怪奇性」を強調するものとなっている。うーむ。V3と言えば、秘密結社デストロンの怪人ハサミジャガーに両親と妹を惨殺され、自身も重傷を負ってしまったことから、仮面ライダー1号・2号によって改造手術が行われた・・・という誕生秘話があったはず。こちらは敵・味方および「復讐」の構図がはっきりしていて理解しやすいのであるが、本作の構図は・・・微妙。なぜ変身するのか、なぜ反旗を翻すのか、といった主人公の動機が極めて分かりにくい。いや、本作の中にも動機の説明はあるものの、必ずしも納得できる説明ではないのである。主人公の意図が不明である以上、最後まで感情移入しがたく、結果として私の評価は低いものになってしまう。そもそも、本郷猛の教師ぶりが、日光の手前（イマイチ）である。あんな教師はありえない。教師も教師であるが、学校も学校で、TBSドラマ『ドラゴン桜』で龍山高校の教頭・近藤時久役を演じた斎藤洋介氏がほとんど同じキャラクターで出ている点も苦笑を誘う。まあ、1号の黄川田将也氏、2号の高野八誠氏（『ウルトラマンガイア』のアグルのキャラクターを引きずっている？）、V3の加藤和樹氏といったイケメン軍団は、ビジュアル的には悪くあるまい。彼らを目当てとして見に来たと思しき女性の観客もちらほら見受けられた。あと、『プロジェクトX』のナレーションを務めた田口トモロヲ氏が、本作ではショッカーの手先を演じている。ギャップ激しすぎ・・・。

  2007.11.03

• ［VOYAGE-345］　映画／象の背中＆スターダスト。【2007.11.02 08:40:40】

  午前中は晴れたものの、午後は曇りで時々小雨がぱらつく天気であった。三多摩の府中のアメダスによれば、今日の日最低気温は11.9℃（03:00）、日最高気温は19.7℃（11:20）。日最高気温が20℃に達しないのは10月27日（土）以来のことになる。さて、今日は、昨日に引き続いて、映画をさらに2本見てきた。昨日はレディースデイ（毎週水曜日）、今日は映画サービスデイ（毎月1日）であり、私が水曜日に映画を見るのは7月11日（水）以来、また1日に映画を見るのは9月1日（土）以来のことである。が、昨日・今日の両日とも、いつになく混雑度が高かった。それだけ今の時期は、（平日の日中に映画を見に来られるような有閑階級にとって）面白そうな作品が目白押しなのかもしれない。今日の1本目は『象の背中』。48歳の藤山幸弘は、不動産会社の部長として、ここ3年ほどの間は臨海エリアに大規模なマンション街区を建設するプロジェクトを精力的に進めてきた。しかし、ある日、検査の結果、末期の肺がんが見つかり、余命半年と宣告される。残された時間をどう生きるか。死ぬまでは生きていたい。そう考えた彼は、延命治療を拒否し、できる限り今までどおりの生活を営みながら、心残りのないように最後の別れを告げたい人たちを訪ね歩くことにする。男同士ということもあって、長男の俊介には事実を伝えて後を託したものの、妻の美和子や長女のはるかには「苦しい思いをさせるのはできるだけ短くしたい」との思いから、きちんと話せずにいた・・・。秋元康氏の初の長編小説を、『g@me』の井坂聡監督が映画化したもの。そんなに過剰な演出ではないものの、途中から涙腺が緩みっぱなしで、ハンカチなくしては見られなかった。というのも、最初のうちは、私は主人公（夫・父）に感情移入して見ていたのであるが、途中からは、残される家族（妻、息子、娘）の視点で見るようになったからであろう。確かに、死に直面した本人が大変なのは理解できるけれども、つらい気持ちは残される家族も一緒である。なのに、この主人公は、自分自身の独りよがりの思いを貫くことしか頭にないらしい。家族の立場なら、きちんと言ってほしいと思うに違いない。そうした非対称的な家族関係の構図に気づいたとき、私は涙が止まらなくなってしまったようである。というか、この主人公に寄り添う妻が、人格的に出来すぎ。内面ではいろいろと葛藤を抱えつつも、それをほとんど表に出さず、落ち着き払った言動で一途に夫を支えようとする態度が、何とも健気（けなげ）なのである。こんなに素晴らしい妻を持ちながら（いや、持っているからこそ？）、死に際まで不倫相手に会いたがる夫って、どうかしているとしか思えなかった。いずれにせよ、この主人公は空気を読むのがヘタらしい。自分では相手にバレないようにうまくやってきたつもりでも、実は既にバレバレであり、にもかかわらず相手がこっそりとやってきたことには全く気づかないのである。まあ、この主人公に限らず、この世の人間には多かれ少なかれ、そういう「KY系の盲点」があるのかもしれない。主人公・藤山幸弘役には『SAYURI』『バベル』などの役所広司氏、妻・美和子役には今井美樹氏、息子・俊介役には『パッチギ！』『初雪の恋』などの塩谷瞬氏、娘・はるか役には南沢奈央氏。そのほか、井川遥氏、高橋克実氏、手塚理美氏、笹野高史氏、伊武雅刀氏、岸部一徳氏といった豪華キャストによる演技はさすがであった。今日の2本目は『スターダスト』。イングランドのはずれにあるウォール村。村はその名の通り「壁」に囲まれ、壁の向こうには踏み入れてはならない未知の世界があるとして、見張りの番人がその行き来を阻んできた。しかし、青年ダンスタンは壁を突破して、向こうの世界に足を踏み入れる。そこは魔法の国ストームホールドで、魔女に捕らわれた女性ウーナと出会い、一夜を共にする。その9か月後、壁に置かれていた赤ん坊が、手紙とともにダンスタンのもとに届けられる。それから18年。18歳の青年トリスタンは、村一番の美しい娘ヴィクトリアに恋をしているが、彼女にはハンフリーという恋人がいた。ある夜、空から流れ星が地上に落ちるのを見たトリスタンは、1週間以内にその星を手に入れたら愛の証としてヴィクトリアにプレゼントすると宣言。その後、父ダンスタンから自らの出生の秘密を聞かされ、まだ見ぬ母からの手紙を受け取ったトリスタンは、幸運の花とバビロンのロウソクを手に入れた瞬間、流れ星の墜落現場に移動してしまう。そこには、一人の美しい女性イヴェインが横たわっていた。なんと彼女は流れ星そのものであった。一方、ストームホールドでは魔女3姉妹のラミア、エンピューザ、モルモが、落ちてきた流れ星に大喜びしていた。永遠の若さをもたらす流れ星の美女の心臓を、彼女たちは400年もの間、待ち続けてきたのである。しかしながら、その流れ星が落ちたのには理由があった。ストームホールドの国王が息を引き取る際に、王位継承者の証であるルビーのネックレスが夜空へ舞い上がり、遥かな空間できらめく星を弾き飛ばしたからである。国王には、行方不明となっている王女ウーナのほかに、7人の王子がいたが、生き残っていたのは4人。そのうち1人は謀殺され、さらに1人が毒殺される。残ったセプティマスとプライマスの2人は、流れ星を追ってルビー争奪戦を繰り広げることになる。こうして、トリスタンとイヴェインは、魔女や王子たちに狙われる身となってしまう・・・。英国の人気作家ニール・ゲイマン氏が、自ら製作を担当した冒険ファンタジー。古今東西のさまざまな冒険ファンタジーをごちゃ混ぜにしたような雰囲気。特にスターつながりで『スター・ウォーズ』の影響は否めない。あの4人は誰がどう見てもアナキン、パドメ、ルーク、レイアの組み合わせ。魔女3姉妹は銀河帝国皇帝やシスの暗黒卿っぽい。さらにはハン・ソロとオビ＝ワンを足して2で割ったような、空飛ぶ海賊（飛空挺）の船長シェイクスピアも登場する。もっとも、本作では「アナキン」がダークサイドに陥っていない代わりに、「パドメ」が死なずに帝国に捕らわれていて、「レイア」は血のつながりがなかったりするけれども。そのほか、『パイレーツ・オブ・カリビアン』、『ロード・オブ・ザ・リング』、『ハリー・ポッター』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『インディ・ジョーンズ』などを想起させるような場面も見られた。そういうパクリの要素もあるとは言え、スピード感のある展開で観客を飽きさせず、内容自体も十分に楽しめるものであった。秀逸なアイディアを二つほど指摘しておくと、まず一つは、死んだ王子たちは次の代に王位が継承されるまで、ずっと煉獄（天国にも地獄にも行けない状態）にとどまること。生きている王子らに「ブラボー！」などと陰ながら声援を送っている様子がおかしかった。もう一つは、イヴェインはうれしいことがあると全身がキラキラと輝いてしまうこと。実に分かりやすいキャラクターで、「おいおい、そんな場面で輝くなよ！」とツッコミを入れたくなるくらいに、身体は素直な反応を示すものらしい。イヴェイン役のクレア・デインズ氏、トリスタン役のチャーリー・コックス氏といった若々しい俳優や、ラミア役のミシェル・ファイファー氏なども魅力的ではあるが、シェクスピア役のロバート・デ・ニーロ氏が最高（！）。実に絶妙な演技を見せている。なお、昨日の記事でも触れたピーター・オトゥール氏は、ストームホールドの国王というチョイ役ながらも威厳のある存在感を放っていた。

  2007.11.01

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  ［VOYAGE-344］　映画／アフター・ウェディング＆ヴィーナス＆クワイエットルームにようこそ。【2007.11.01 16:38:59】

  私個人は物理的にも心理的にも「温暖さ」より「冷涼さ」を好むタイプである（夏目漱石風に言えば「吾輩は猫舌である。名前はまだ無い。」というくらいに、熱い食べ物はとりわけ苦手である）が、今朝シャワーを浴びていた際には、お湯の温かさが実に心地よく感じられた。どうやら、そういう季節を迎えつつあるらしい。なお、今日の天気は晴れ時々曇り。三多摩の府中のアメダスによれば、日最低気温は12.6℃（23:30）、日最高気温は20.8℃（14:00）であった。ところで、今日は10月最後の日である。ということは、修士論文提出まで残り2か月半・・・ということになる。そろそろ「カウントダウン」を開始すべきかもしれないが、現在の心境を画像にたとえると、次のような光景を思い浮かべてしまいそうである。※画像は2007年3月15日にナイアガラ・フォールズで撮影したものを再掲。滝に向かって真っ逆さま・・・みたいな気分？さもなくば、カラータイマー点滅、といったところであろうか。さて、今日は、「それどころではない」という自己批判はあるものの、この秋は面白そうな作品が目白押しであるため、映画を3本見てきた。例によって、それらの印象などを書き連ねてみたい。1本目は『アフター・ウェディング』。デンマーク人のヤコブは、インドで孤児たちの救助活動に従事しているが、彼が運営する孤児院は財政難で閉鎖寸前であった。そんな彼のもとに、デンマークのとある実業家から巨額の寄付金の申し出があった。ただ、その寄付に際して求められた唯一の条件は、コペンハーゲンで直接会って話をすること。いかにも金持ち的な傲慢な態度にヤコブは腹を立てるものの、背に腹は替えられない。間もなく誕生日を迎える孤児プラモドらには「1週間で戻る」と言い残し、やむなくインドを後にするヤコブ。久々にデンマークに帰国した彼を待っていたのは、実業家のヨルゲン。インドの孤児院での救助活動にはあまり関心がなさそうであったが、交渉の感触は悪くない。その結論が出るまでの間、ヤコブはヨルゲンの娘アナの結婚式に招待される。ヨルゲンの強引な誘いを断り切れず、結婚式に出席したヤコブは、そこで元カノのヘレネに再会して困惑する。ヨルゲンは偶然を装っているけれども、何か裏で企みがあるに違いない。そう感じたヤコブは、やがて衝撃的な事実を知ることになる・・・。家族のあり方や生きることの意味を問いかけるヒューマン・ドラマ。その問いかけは、まずヨルゲンを直撃し、続いて主人公ヤコブを巻き込み、そして彼らは一つの決断を迫られる。自分ならどうするであろうか・・・と、観客自身も自問してしまうに違いない。が、彼らのファイナル・アンサーに共感を覚える観客は少なくないのではないか、と感じた。ちなみに、本作でヤコブを主演した俳優はどこかで見たことがあるなぁ、と思いつつも、私の脳内検索エンジンでは1件もヒットしなかった。しかし、公式サイトを見て納得した。このマッツ・ミケルセン氏は、『007　カジノ・ロワイヤル』で敵のル・シッフル役を演じた彼であった。2本目は『ヴィーナス』。同じ俳優仲間の旧友イアンが姪の娘を預かることになった、と聞いた70代の俳優モーリス。翌日、一緒に演劇を見に行くためイアンのアパートを訪れたモーリスは、不満たらたらのイアンに出会う。この姪の娘ジェシーは無愛想でロクに料理も作れず、期待はずれであったらしい。イアンは観劇を忘れて眠り込んでしまったため、モーリスは若いジェシーを誘って演劇を見に行く。ところがジェシーには芝居が退屈に見えたらしく、彼女は幕間に劇場を出てパブで飲むことを主張。そこで飲みすぎた二人はふらふらした足取りでイアンのアパートに戻り、モーリスはジェシーをどうにかベッドまで運ぶ。田舎娘のくせにモデル志望という非常識な彼女のために、モーリスは美術教室のヌードモデルの仕事を紹介したりして、何かと世話を焼く。海千山千のモーリスにとって、この20代の平凡な彼女は、むしろ魅力的に感じられるのであった。この二人の関係は必ずしもスムーズではないものの、モーリスの手練手管によって次第に距離を縮めていくが・・・。若い女性に恋をしてしまった老優の姿を、笑いと愛しさに満ちた「人間讃歌」として描いたヒューマン・ドラマ。老境の孤独と悲哀、人生の諦観と生・性への執着などが巧みに表現されている。いかにも英国的なユーモアに富んだ「老人力」が実におかしくて、何度も笑いを誘うはずである。年を取ることはネガティブな面も少なくないけれども、いやいや、ポジティブな面もたくさんあることが、本作で理解できよう。まあ、こんなに下品で無作法な小娘に恋をすること自体、私には信じられないが、既にその点が笑いの伏線になっているのかもしれない。モーリス役で主演したピーター・オトゥール氏（近作としては『トロイ』（2004）の王プリアモスや『レミーのおいしいレストラン』（2007）の批評家イーゴの声、さらには明日の記事で取り上げる予定の『スターダスト』（2007）など）や、イアンを演じたレスリー・フィリップス氏らの名優ぶりには、本当に頭が下がる。彼らの軽妙な演技なくして、本作の面白さは語れまい。3本目は『クワイエットルームにようこそ』。28歳の佐倉明日香は、フリーライターとして多忙な日々を送っていた。アルコールと不眠症用の睡眠薬を飲みつつ、締め切りが迫る原稿を書き上げていたはずであったが・・・ふと気がつくと、白い天井が見えるものの、手足は拘束されていて身動きが取れなかった。そこは、通称「クワイエットルーム」と呼ばれる、女子だけの閉鎖病棟の保護室。自殺未遂とみなされ、精神科の急患として運び込まれたのであった。しかし、明日香にはその間の記憶が全くなかった。周りの患者は変な人ばかりで、看護師のキャラクターも微妙。ここから退院するためには同棲相手・焼畑鉄雄と担当医の双方の同意が必要であることを知った明日香は、その同意を得るための悪戦苦闘を開始するが、ふとしたきっかけから自らの過去を思い出し、この病棟にたどり着いた経緯を知ってしまう・・・。一人の女性が再生するまでの14日間を描いた人間ドラマ。松尾スズキ氏が原作・脚本・監督を担当したもので、この原作は2006年第134回芥川賞にノミネートされたことでも知られている。上述の『ヴィーナス』以上に大爆笑できるネタが山盛り。とは言え、佐倉明日香の過去が明らかになってくるにつれて、ズシリと重くのしかかるような要素もある。それでいながら、ラストはどことなく救われたような印象が残るのが不思議であった。観客の心情を自在に操るマジシャンのような作品で、なかなかの怪作（快作？）であろう。ただ、見ている最中は気にならなかったが、見終わった後に冷静に考え直してみると、実に深い問題提起が隠されていることに気づくかもしれない。それは・・・たいていの人は自分が「正常」であると思っていて、たとえば精神科の病棟に入院している患者などのことを「異常」であると思いがちな点。ところが、そういう「正常」「異常」の区別は実は単に自他の思い込みに過ぎず、「正常」（のつもり）なのに「異常」扱いされたり、またはその逆ということも、状況次第ではありうるのではないか。・・・と、いろいろ考えさせられてしまったけれども、お笑いの部分だけにとらわれてしまうと、こうした深いメッセージにたどり着かない可能性もある。まあ、それはそれで、観客のリテラシーに委ねられている部分とも言えよう。いずれにせよ、主人公の佐倉明日香役を演じた内田有紀氏と、その同棲相手で放送作家の焼畑鉄雄役を演じたクドカンこと宮藤官九郎氏が、体を張った熱演を見せていて好印象。また、蒼井優氏、りょう氏、妻夫木聡氏、大竹しのぶ氏といった豪華キャストに加えて、しりあがり寿氏、俵万智氏、庵野秀明氏らのチョイ役も、いい味を出していた。

  2007.10.31

• ［VOYAGE-334］　映画／インベージョン＆グッド・シェパード。【2007.10.22 07:21:10】

  昨日以上に、今日もよく晴れた。三多摩の府中のアメダスによれば、今日の日最低気温は10.4℃（23:50）、日最高気温は21.8℃（13:40）であった。それにしても、今日はどういうわけかクシャミを連発することが多かった。しかも、回数としては、3回連続がほとんどであった。クシャミの回数に関しては、いろいろと迷信（？）があるらしく、検索してみると、3回は★非常に悪い噂をされている★誰かに惚れられている★ただの風邪と、諸説あって、特に定まってはいないようである。なお、私自身の見解としては、涼しくなって大量に汗をかく機会はなくなったのに水分を摂取しすぎて、それを鼻から排出しようとしてクシャミを引き起こした、という説を採用したい。というのも、私は寒くなると中耳炎にかかりやすく、それはもともと鼻の通りがよくないのが原因で、鼻の手術をしたほうがいい・・・と、以前、耳鼻科医に推奨された（とは言え、無視した）経験があるほど、耳や鼻の耐性が弱いからである。さて、今日は、昨日に引き続いて、映画をさらに2本見てきた。今日の記事では、それらを取り上げてみよう。1本目は『インベージョン』。スペースシャトル「パトリオット」が大気圏突入の際に事故を起こして墜落。空中でバラバラに分解した機体の破片は全米各地に散乱したが、連邦政府は何か事実を把握しながらもそれを隠蔽しているようであった。そんな頃、ワシントンD.C.に住む精神科医のキャロル・ベネルは、4年前に別れた元夫のタッカーから突然の電話を受ける。タッカーはシャトル墜落現場に赴いた政府の病害対策センター（CDC：Centers for Disease Control）の高官であるが、キャロルが養育している息子オリバーに会いたいとのことであった。息子には全く興味を持っていなかった元夫がどうして？　と、いぶかしむキャロルであったが、息子の同意を得て元夫の要求を承諾する。一方、彼女のクライアント（患者）からも、身近な人が突然優しくなり、まるで別人のように変わってしまった、という話を聞くようになった。人々の様子が何かおかしい。彼女の友人で医師のベン・ドリスコルも、同じようなことを感じ始めていた。ハロウィンの夜、キャロルはオリバーの体にアメーバ状の物体が付着していることに気づく。その物体の鑑定をガレアーノ医師に依頼すると、それは非常に耐性の強い知的生命体の胞子で、液体を通じて人々に感染し、レム睡眠中に放出される人間のホルモンの媒介によって遺伝子を操り、宿主の感情を乗っ取ってしまうものらしい。やがて、街では、生命体に乗っ取られて感情をなくした人々が、感情的な人々を「同化」する活動を始める。タッカーに預けたオリバーからメールが届き、危機感を募らせたキャロルは、オリバーを救出するためにタッカーの家に向かうが・・・。1955年に出版されて以来、たびたび映像化されているジャック・フィニィ氏の古典小説『盗まれた街』を題材としたSFスリラー。ニコール・キッドマン氏が、精神科医にして母親でもあるキャロル役を熱演。役そのものは必ずしも「キュート」ではないけれども、私個人としては2005年8月公開の『奥さまは魔女』の印象が強く残っているせいか、本作での演技も妙に「かわいらしく」見えてしまった。この人は、悪人役には不向きなのかもしれない（？）。また、『007　カジノ・ロワイヤル』で一躍ブレイクしたダニエル・クレイグ氏も、相変わらずの美男ぶりをベン役で発揮している。遺伝子レベルで感情を乗っ取るという設定自体は、「おいおい」とツッコミを入れたくなりそうである。しかし、昨日の『エクスマキナ』と比較・対照すると、実に興味深いことが見えてくる。どちらも「単一の主義・主張に同化して、世界から争いをなくそう」「それに同化できない人々は、力ずくで排除しよう」という発想に対して、主人公らが抵抗を試みるという展開なのである。で、日本製の『エクスマキナ』では「モバイル端末」からの侵入、米国製の『インベージョン』では「ヒトゲノム」からの侵入・・・と、それぞれの国の得意分野である点が非常に面白い。また、主人公らの解決手段に関しても日米の間で相違があるように思われるが、ネタバレになってしまうので、ここでは詳述を差し控えておく。いずれにせよ、まさに『ウルトラマンティガ』第41話と同じテーマではあるものの、『エクスマキナ』と本作は、セットで見ると、考えさせられるものがあるに違いない。お試しあれ。2本目は『グッド・シェパード』。1961年4月17日、米国の支援を受けた亡命キューバ人部隊が、カストロ政権の転覆を目論んでピッグス湾に侵攻。しかし、この作戦は、事前に情報が漏れていて失敗に終わり、指揮を執っていたCIAのベテラン諜報員エドワード・ウィルソンは窮地に立たされる。その3日後、彼の自宅には、録音テープと写真が何者かによって届けられていた。どうやら、CIAの内通者と敵側スパイの存在を暗示するものらしい。彼は早速、技術部に分析を依頼する。そもそも彼が諜報の道に足を踏み入れたのは、第二次世界大戦が勃発する直前のイェール大学在学中であった。その手始めは、FBI捜査官の依頼を受けて、詩を学んでいた自分自身の恩師であるフレデリックス教授の身辺を探って親独派の人々のリストを入手し、教授を辞職へと追い込んだことであった。やがて、大学のエリートたちの秘密結社「スカル＆ボーンズ」に勧誘されたのをきっかけとして、サリヴァン将軍に目をつけられたエドワードは、戦時中の対外諜報活動への参加を求められ、その申し出を受ける。彼はこの頃、図書館で知り合った耳が不自由なローラと付き合っていたが、秘密結社の集いで友人ジョンの妹クローバーを紹介され、弾みで関係してしまったクローバーが妊娠。ローラと別れてクローバーと結婚するものの、その直後にサリヴァン将軍から海外赴任命令を受け、英国の諜報機関のノウハウを学ぶため、戦略事務局（OSS）の一員としてロンドンへと旅立つ。そこで意外な人物と再会するが、戦中から戦後にかけては優秀な諜報員として暗躍していき、それは戦後に創設されるCIAの基盤となる。しかし、その陰で、妻と息子は孤独な生活を強いられ、彼の家族は危機的な状況を迎えていた・・・。CIAの誕生秘話と、それをめぐる人々の人間ドラマ。本作の監督は自らサリヴァン将軍役も演じたロバート・デ・ニーロ氏。製作総指揮はフランシス・フォード・コッポラ氏。キャストも錚々たるメンバーで、主役のエドワードを演じたのは『ディパーテッド』『オーシャンズ13』『ボーン・アルティメイタム』などでおなじみのマット・デイモン氏。クローバー役には『トゥームレイダー』『すべては愛のために』『Mr.＆Mrs.スミス』などのアンジェリーナ・ジョリー氏。フレデリックス教授役には『ハリー・ポッター』シリーズや『華麗なる恋の舞台で』のマイケル・ガンボン氏。その他、チョイ役ではあるものの、『善き人のためのソナタ』のマルティア・ゲデック氏なども出演している。とにかく重厚なドラマで、久々に「映画らしい映画」を見たような気がする。ただ、難癖をつけるとすれば、史実としてはよく分からない部分も少なくないことが挙げられる。特に、敵対するソ連のKGBの諜報活動を、抜け目のないスマートなものとして描きすぎている印象は否めまい。米国のCIAの失敗（およびエドワードらの苦悩）を強調するための演出としては確かに成功しているけれども、何か一昔前の『007』シリーズの構図を見ているようで、結局は自分たち（米国）の外部に仮想敵を求めてしまうものらしい。また、米国の軍産複合体を批判する台詞もあったが、その台詞を「米国への亡命を希望するソ連側スパイ」に言わせるのはちょっと不自然かもしれない。

  2007.10.21

• ［VOYAGE-333］　映画／王と鳥、春のめざめ＆エクスマキナ。【2007.10.21 06:20:35】

  今朝は「秋らしさ」を実感できて、気分爽快であった。まず一つには、青い空が澄み渡って、とても高く見えたのである。おそらく昨夜のうちに気圧の谷が通り過ぎたせいであろうが、低層や中層には雲が全くなく、高層に刷毛（はけ）でさっと撫でたような巻雲だけが漂っていた。夕方には巻積雲や巻層雲なども見えたが、いずれにしても「天高く馬肥ゆる秋」といった光景であった。もう一つには、鳥のさえずりがよく聞こえたことである。ヒヨドリなどの鳥のさえずりは、いつの季節でも聞くことができるものの、秋から春にかけては特によく聞こえるように感じられる。夏の間は蝉の声がうるさい上に、木々の葉も多く茂っているからであろう。自宅から駅に向かって大学通りを歩きながら、ビジュアル的にもサウンド的にも「大自然」に勝る芸術家はいるまい・・・と、詩人のようなことを思ったりもした。というわけで、今日の天気はおおむね晴れ。三多摩の府中のアメダスによれば、今日の日最低気温は11.4℃（05:40）、日最高気温は21.4℃（12:20）であった。さて、今日は、昨日の記事でも示唆したように、映画を2本見てきた。この中には「2本立て」が含まれているため、数え方によっては3本とも言えるが、ここでは「入場券1枚＝1本」と数えることにする。ともあれ、今日の記事では、それらの印象などを記してみたい。1本目は『王と鳥』＋『春のめざめ』。タキカルディ王国には、目もくらむようにそびえ立つ超高層の宮殿がある。その最上階の秘密の部屋は、絶大な権力を誇る王の私邸であり、そこには3枚の絵が飾られていた。美しい羊飼い娘、煙突掃除の青年、そして孤独な王の肖像画である。娘と青年は恋をしていたが、王は娘に求婚し、二人の仲を引き裂こうとする。やがて絵の中から逃げ出した二人は、本物の王に成り代わった絵の中の王や、その僕（しもべ）たちが追ってくるのを振り切りながら、一羽の鳥に導かれて、めまぐるしく続く階段をどこまでも駆け降りていく。そして二人がたどり着いた地下世界には、とてつもない真実が隠されていた・・・。（『王と鳥』）19世紀末、ロシアのとある町。貴族学校に通う16歳の少年アントンは、家に住み込みで働く同じ年頃の少女パーシャからの恋心に気づく。身分違いの二人ではあるが、アントンは幸せな家庭を築くことを夢見る。そんな時、彼は隣の家に引っ越してきた25歳の令嬢セラフィーマに出会う。彼女は美しく高貴で、まるで女神そのもの。衝撃を受けた彼は、セラフィーマに捧げる愛の詩を書き、彼女の家に投げ込む。一方、パーシャには縁談の話が持ち上がる。相手は同じくアントンの家で働く御者のステパン。ショックを受けたパーシャは、アントンの部屋を訪れて「一緒にいたい」と愛を告白する。こうして、二人の女性の間で心が揺れ動くアントンであったが、やがて事件が起きる・・・。（『春のめざめ』）前者は、フランス初の長編アニメーション映画『やぶにらみの暴君』が作者未承認のまま1952年にヴェネチア映画祭審査員特別賞を受賞した、巨匠ポール・グリモー監督による1980年の作品。また、後者は、『老人と海』（1999）でアカデミー賞短編アニメーション部門賞を獲得した、ロシアのアレクサンドル・ペトロフ監督による2006年の作品。どちらも、『アズールとアズマール』と同様に、世界中の傑作アニメーションをライブラリーに有する三鷹の森ジブリ美術館とのコラボレーションで上映が実現したものである。前者は、「シャルル（中略）16世」という王の名前（世代の数字）が暗示的で、あの地下世界の描写は「第三身分」の社会を表現しているようにも思われた。が、そうしたアンシャン・レジームをモチーフとしつつも、現代世界の支配構造をも鋭く批判していて、とても1980年（その原型自体は1950年代！）の作品とは思えないくらいに現代的な内容であった。とは言え、登場するロボットなどは、埴輪（はにわ）を思わせるような少々レトロなデザインで、1950年代の『鉄腕アトム』や『鉄人28号』と比較してもみすぼらしい印象は否めない。その点では、『未来少年コナン』（1978）と同じ時代のテイストを感じさせるかもしれない（むしろ『未来少年コナン』は『やぶにらみの暴君』へのオマージュなのか？）。なお、このロボットの最後のポーズが、とある彫刻作品に似ていて、いかにもフランスらしい感じがした。後者は、油絵を用いた独自の表現スタイルが素敵で、思春期の少年の揺れ動く心を巧みに描写していた。ストーリー展開の面でも悪くなく、なかなかのものであったと思う。2本目は『エクスマキナ』。2138年、オリュンポス。非核大戦によって人類の半数が死滅した後、停戦によって誕生したこの中立都市には、人間、サイボーグ、そしてクローン技術で作られたバイオロイドが共存している。この街に住むデュナンとブリアレオスは、恋人同士であり、かつ所属する特殊部隊ES.W.A.T.の有能な隊員としても公私ともどもパートナーを組んでいる。が、ある作戦行動中にデュナンをかばったブリアレオスが、瀕死の重傷を負ってしまう。彼はサイボーグ医療の権威・ケスナー博士の執刀により半身をサイボーグ化することで一命を取り留めるものの、現場に復帰するには時期尚早であった。そこで、デュナンの新たなパートナーとして、テレウスが配属される。彼はなんと、ブリアレオスの遺伝子を元に作られたバイオロイドで、生身の頃の彼と同じ肉体や感情を持っていた。動揺を隠せないデュナンであったが、やがてブリアレオスが復帰。しかし、彼は、同様に半身サイボーグのアイアコスとパートナーを組むことになる。そんな頃、サイボーグの暴走によるテロ事件が多発する中で、企業集合体国家ポセイドンなど各国の首脳を集めた安全保障会議が開かれる。そこでオリュンポスの行政総監・アテナは、すべての国の観測・通信衛星を統合管理するグローバル・セキュリティ・ネット構想を提案して各国の同意を求めるが、その最中に国際会議場の周辺ではなぜかサイボーグだけでなく人間までもが暴徒化して会議場への襲撃を開始していた・・・。士郎正宗氏のコミックを元に制作された3Dアニメーション映画『アップルシード』のクリエーターが再集結し、その世界観を継承しつつも新たなストーリーを構築したもの。本作の監督は荒牧伸志氏、プロデュースは映画監督のジョン・ウー氏、音楽監修は細野晴臣氏。実に滑らかでスピード感に溢れるビジュアルは「見事」の一言に尽きる。ただ、若い女性戦士を中心に描くなど、その世界観を含めて全体的に『ベクシル　2077日本鎖国』にそっくり。まあ、男女の機微や登場人物の衣装のセンスなどの点では本作のほうがうまくできているように感じたが、あまり現実味を感じさせない微妙なサブキャラクターの存在や少々平板なストーリー展開などは今ひとつかもしれない。個人的には『ウルトラマンティガ』の第41話や第4話、あるいは『スター・ウォーズ』の「エピソード6」あたりを思い出してしまった。また、メカの面では、やはり『機動戦士ガンダム』あるいはその前後のロボット・アニメの影響を思わずにはいられなかった。赤いモビルスーツ（？）も登場するし、カミーユ・ビダンとフォウ・ムラサメのやり取りを想起させるようなシーンもあったりする。うーむ。総合評価としては、決して悪くはないが、さりとて、ものすごく素晴らしいわけでもなく、まあまあフツーといったところであろうか。

  2007.10.20

• ［VOYAGE-327］　映画／白椿＆ローグ アサシン＆キングダム。【2007.10.15 04:13:29】

  また体内時計が機能不全に陥っているのか、このところ妙に眠い・・・。それはともかく、今日の天気は曇り。三多摩の府中のアメダスによれば、日最低気温は14.6℃（06:00）、日最高気温は19.4℃（14:10）であった。さて、今日は、映画を3本見てきた。今日の記事では、いつものように、それらの印象などを書き込んでみたい。1本目は『白椿』。主婦の知美は、会社員の夫・幸治、幼稚園児の娘・真琴、そして大学教授を退職して悠々自適の実父・薫の4人家族で暮らしながら、実父が名ばかりの館長を務める歴史民俗資料館の仕事に追われて多忙な日々を過ごしている。娘の幼稚園への送り迎えはほとんど実父に任せっきりで、家事も必要最低限をこなすのが精一杯。そんな知美に対して、夫は無理解で「主婦や妻や母としての務めを果たせ」と小言を繰り返す。他方、20歳の鈴は、大学入試を目指す2浪生。母・澄子は知美の職場の同僚であるが、その母と顔をあわせるたびに「勉強しなさい」と言われるものの、サボってばかりで、部屋の中は服や小物で散らかり放題。そうした知美や鈴が息抜きで散歩していると、季節外れの白椿の花が咲いているのに気づく。あまりのかわいらしさに思わず見とれ、「こんなきれいな花になれたらなぁ・・・」と思っているうちに、大きなクシャミをする二人。すると突如、知美は主婦らしく、また鈴は受験生らしく、それぞれ別人のように振る舞うようになるが・・・。『五重塔』に続く、秋原正俊監督による新感覚ブンガク映画。日本探偵小説三大奇書に数えられる『ドクラ・マグラ』の著者・夢野久作（1889～1936）の怪奇幻想小説を題材としてアレンジした作品。知美役を演じたのは畑野ひろ子氏。私にとっては雑誌「クラシック・ライフ」の記者・けえ子のイメージが頭から離れないが、本作ではまずまずの好演と言えるであろう。また、鈴役の加藤夏希氏も、2003年度のNHKテレビ『100語でスタート！英会話』のジョージ・ウイリアムズ氏とコーパスくんを思い出してしまうものの、W主演を果たしている。見ていてイヤになったのは、知美の夫・幸治役の志村東吾氏が、あまりにもダメダメな夫ぶりを巧みに演じていたこと。演技がうますぎる（？）。こういう夫がいたら即、ゴミ箱行きであろう。それに対して、知美の実父・薫役の財津一郎氏は、包容力があって、いい味を出していた。キャストの演技についてはあまり問題を感じなかったが、ストーリー展開がややまどろっこしくて、少々退屈に感じる場合もあろう。まあ、結末自体は、観客の想像力に委ねる形で終わって余韻が残り、そんなに悪くはなかったけれども。なお、本作は資生堂の白のTSUBAKIとは一切関係がないので、お間違いなく。2本目は『ローグ アサシン』。FBI捜査官のジョンとトムは、サンフランシスコで伝説の殺し屋・ローグを追い詰め、銃で仕留めたかに見えたが、海に落ちた奴の死体は見つからなかった。その数日後、トムとその妻、幼い娘の一家3人が自宅で何者かに惨殺され、家は放火された。現場に駆けつけたジョンは、ローグが常用する弾のチタニウムの薬莢を発見。ローグの仕業であると直感し、復讐を誓う。それから3年。中国系マフィアと日本系ヤクザの間で抗争が勃発し、ヤクザの一味が次々と殺害される。その現場でジョンは再び例の薬莢を発見し、ローグが戻ってきたことを確信するものの、ヤクザを裏切ってマフィア側についたローグの真意は分からなかった。やがて、マフィアとヤクザの抗争が激化していく中で、ジョンは奴からの電話を受ける・・・。『英雄～HERO～』のジェット・リー氏と『トランスポーター』のジェイスン・ステイサム氏の共演によるアクション・サスペンス。ほかに石橋凌氏、ケイン・コスギ氏らが出演。台詞は英語・中国語・日本語が飛び交い、いかにもステレオタイプ化されたヤクザ（および日本的なアイテム）の描写には苦笑してしまうかもしれない。とは言え、アクションそのものは、気合が入っていて見ごたえがあった。重厚なBGMがやや過剰に感じるものの、そうした音楽とともにテンポよく進んでいくストーリー展開は実にスピーディーで、むしろ西海岸的な爽快さを覚えてしまった。ラストの衝撃的などんでん返しには驚かされるが、論理的には決して破綻していない。3本目は『キングダム　見えざる敵』。サウジアラビアの首都リヤドにある外国人居住区。石油関連企業で働く米国人の家族らがソフトボール大会を楽しんでいた休日の昼下がり、突如としてテロリスト集団が出現し、マシンガンの銃声が鳴り響く。難を逃れようとして集まってきた群衆の中では、自爆テロも発生。その後、負傷者や救急・警察、報道関係者らが押し寄せる現場で、さらなる自爆テロに見舞われ、300名を超える死傷者が出てしまう。アルカイダのメンバーであるアブ・ハムザが首謀者と疑われながらも、火に油を注ぎたくない両国外交筋は、米国からの捜査チームの派遣を見合わせる。しかし、この事件で同僚を失ったFBI捜査官ロナルド・フルーリーは、FBI長官を動かしつつホワイトハウスの司法長官や駐米サウジ大使らに働きかけ、期間は5日間でサウジ警察が常に同行するという条件つきではあるものの、どうにか捜査の許可を得る。法医学調査官のジャネット・メイズ、爆発物専門家のグラント・サイクス、情報分析官のアダム・レビットとともに、4人の精鋭チームでサウジアラビアに乗り込む。ところが、自らの統治能力を疑われたくないサウジ国家警察は非協力的で、捜査は一向に進まない。そんな中で、国家警察のアル・ガージー大佐だけは同じ志を持ち、サウジアラビア王国のハレド王子の宮殿に呼ばれた際に彼らは大佐の捜査能力を持ち上げて、王子の理解を得ることに成功する。こうして、ようやく本格的な捜査が始まり、今回の事件が用意周到に計画された事実を突き止めるが・・・。1996年6月25日にサウジアラビアで実際に起こったテロ事件をヒントにした、製作マイケル・マン氏、監督ピーター・バーグ氏による社会派アクション。主役のロナルド・フルーリーを、ジェイミー・フォックス氏が好演。加えて、ガン・アクションやカー・チェイスなども、見ごたえは十分で、手に汗を握るであろう。サウジ国家警察の中に真摯な協力者を出現させることにより、「米国人が善で、アラブ人が悪」という単純な二分論を回避しているストーリー展開は非常に興味深い。9.11を冷静かつ客観的に眺めようとする動きが米国内でも出始めていることの証左なのかもしれない。とは言え、米国側とアラブ側の立場の違いは、本作中のそこかしこ（特に現地の子供たちへの「教育」や、終盤の飴玉VSビー玉など）で表現されていて、それもそれで考えさせられる。また、誰が最後まで生き残るか・・・という点については、コメントを差し控えておく。見てのお楽しみ（？）。

  2007.10.14

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  ［VOYAGE-321］　映画／未来予想図＆サウスバウンド＆パンズ・ラビリンス。【2007.10.09 05:29:56】

  このところ、キンモクセイ（金木犀）の香りが漂うようになってきた。どこか遠くのほうで花が咲いている場合には実にいい香りであるが、うっかり近づきすぎるとトイレの芳香剤のような気がしてしまうので注意が必要である。「過ぎたるは及ばざるが如し」とは、こういうことであろうか。今日の天気は曇りで、ごく弱い小雨がぱらつく時間もあったらしい。三多摩の府中のアメダスによれば、今日の日最低気温は14.9℃（01:10）、日最高気温は20.2℃（15:00）。湿度が高く空気がじめっとしていて、気温の割にはそんなに涼しさを感じなかった。さて、今日は、昨日の記事で予告した通り（？）、映画を3本見てきた。今日の記事では、例によって、それらに対するコメントを記してみよう。1本目は『未来予想図　ア・イ・シ・テ・ルのサイン』。1997年。学生映画の自主制作に参加させられていた宮本さやかは、そこでたまたま駆り出された福島慶太と出会い、新郎新婦の役で共演する。ガウディに憧れて建築家を目指す慶太はさやかに惹かれ、やがて二人は恋人同士となってお互いの距離を縮めていく。スペイン・バルセロナへの卒業旅行の後、慶太は自分の夢を追いかけて設計事務所に、さやかは一般職として印刷会社に勤め始める。しかし、編集者として働くことを希望していたさやかは今の仕事に満足できず、一念発起して会社を辞め、悪戦苦闘の末に出版社への転職を実現させる。2002年。こうして自分の夢への第一歩を踏み出したさやかであったが、その頃、慶太にはスペイン転勤の話が持ち上がっていた・・・。DREAMS COME TRUEのラブ・バラードの名曲「未来予想図」「未来予想図II」をモチーフとして、その世界観を映画化したラブ・ロマンス。私自身は、ドリカムのこの曲への思い入れは全くない。むしろ、気象予報士ならではの習い性ではあるが、『アジアンタムブルー』では今ひとつ冴えなかった松下奈緒氏が主演する本作に対して、I have a bad feeling about this. （イヤな予感がする）という、私自身の未来予想が正しいかどうかを見極めたかったのである。で、結論から言うと、私の予想の的中率は70％くらいであろうか。イヤな予感が当たったのは・・・微妙なストーリー展開である。前半はダラダラとした印象で、エピソードにメリハリが乏しい。後半に入るとドラマが動き出すとは言え、宮本さやか（松下奈緒氏）が取材を試みる「恋が叶う花火」の花火職人・井上拓己（原田泰造氏）とその妻・苑（西田尚美氏）ら一家の不自然な言動や、一番ひどかったのは「さやかと慶太の二人は、一体いつからニュータイプになったのか？」と目を疑わずにはいられなかったラストシーンなど、とにかく現実味に欠けるのである。（なお、全くの余談ではあるが、「恋が叶う花火」と言えば、個人的には2004年6月公開の『天国の本屋～恋火』を思い出してしまう。）また、福島慶太役を演じた竹財輝之助氏のスペイン語（←私自身の初級どまりの第二外国語）はそこそこ流暢であったが、宮本さやかの母・陽子役を演じた松坂慶子氏の博多弁には違和感を覚えてしまった。福岡で商売を営む女性はおしゃべりでにぎやか、しかも早口、というのが私の固定観念であるけれども・・・文字面はおおむね正確であろうが、妙にスローな発音がしっくり来なかったのである。しかし、イヤな予感が外れたのは、まず宮本さやか役を演じた松下奈緒氏がそれなりに（前作よりは）好演していたことが挙げられる。また、バイクに二人乗りするさやかと慶太の物理的な距離が、心理的な距離に正比例して、次第にピッタリと寄り添っていくように描かれている点も好印象であった。さらに、1997年当時の携帯電話が、大学生にまで広く普及していたかどうかは不明であるものの、着メロではなくシンプルな着信音で、いちいちアンテナを伸ばす必要がある様子なども微笑ましかった。あと、本作では、予想外の収穫もあった。冒頭をちょっと過ぎたあたりで、さやかと慶太の二人が並んで歩く場面が見られるのであるが、「ん？　今の風景は・・・ひょっとして、どこかで見たような」といった錯覚に陥り、周囲の観客も同じような反応を軽く示していた。その後、中盤あたりで同じ場面が再び登場し、デパートの垂れ幕の中に「伊勢丹立川店」の文字がかすかに見えると、錯覚は確信へと変わる。つまり、今、見ている映画館から徒歩2分の場所で、ロケが行われたのである。 上の画像は、本作を見終わった直後に、携帯電話のカメラで撮影したもの。特に右側は、トレイラーの予告編ムービーでも確認できるが、松下奈緒氏が泣き崩れた「現場」である。ほかにも、福岡や横浜など、個人的に土地勘のある場所でロケが行われている。その点では、つい依怙贔屓（えこひいき）してしまうかもしれない。あっ、そうそう。エンドロールの後に、もう一曲＋長いワンシーンが残っているので、決してお見逃しなく。2本目は『サウスバウンド』。上原二郎は小学6年生。元過激派で無職の父・一郎、喫茶店を営む母・さくら、会社勤めの姉・洋子、小学生の妹・桃子の5人家族である。彼の悩みは父親があまりにも恥ずかしいこと。年金未納の件で自宅を訪問してきた区役所の職員には「税金なんか払わん、文句があるなら国民やめちゃお～」と悪態をついたり、「修学旅行の積立金がやけに高いそうだな、学校と旅行会社の癒着か？」と校長に面会を求めてひと悶着を起こしたり、といった始末である。ある日、二郎の友人らをダシに使う中学生の不良・カツに我慢できなくなった二郎は、暴力を振るって相手を怪我させてしまう。学校関係者や警察、それにカツの父親らが家に乗り込んでくるが、父・一郎は一向に動じないばかりか、満面の笑顔で彼らと乱闘を繰り広げる。その直後に母・さくらが、東京を離れて父の故郷である沖縄の西表島に一家で引っ越す、と宣言する・・・。奥田英朗氏の原作を、森田芳光監督が映画化した家族コメディ。父・一郎役の豊川悦司氏、母・さくら役の天海祐希氏、そしてイキイキとした子供たちの演技が実に魅力的。とりわけ個人的には、キレとコクのある豊川悦司氏が最高であった。（なお、脱線するが、この人の「ナンセンス！」という発言を見ていると、「ほめても何もでないぞ　コレ、大豆ですから。」というCMを思い出してしまう。電車内の液晶ディスプレイに映し出される広告の刷り込み効果は恐ろしい・・・。）あと、松山ケンイチ氏が『ドルフィンブルー　フジ、もういちど宙へ』以来の沖縄ロケに登場していて、思わずニヤリとしてしまった。意外な結末ではあったが、ストーリー展開自体はさほど悪くはあるまい。3本目は『パンズ・ラビリンス』。1944年、内戦終結後のスペイン。仕立て屋を営んでいた父を亡くした少女オフェリアは、フランコ軍のビダル大尉と再婚して身重の母カルメンとともに、山奥の駐屯地へと移り住む。その途中の山道で、オフェリアは石像の破片を拾って元の場所に戻すと、大きな昆虫が這い出してきた。やがて駐屯地に到着するが、激しい抗戦を続けるゲリラ軍が周囲に潜む駐屯地の内部事情は複雑で、大尉の主治医や小間使いのメルセデスはひそかにゲリラ軍に内通していた。オフェリアは冷酷な義父を好きになれず、体調を崩している母をいたわりながらも、大好きなおとぎ話の本を読みふけってばかりいた。薬で母がぐっすりと眠りに落ちた夜、例の大きな昆虫がオフェリアの部屋に現れ、妖精に姿を変える。妖精は、家の庭の奥にある迷宮（ラビリンス）へとオフェリアを誘い、そこで牧神（パン）と対面させる。牧神は、オフェリアが地底の魔法の王国の王女モアナの生まれ変わりに違いない、と告げる。満月の夜までに三つの試練をクリアすれば魔法の王国に帰れる、という牧神の言葉を信じたオフェリアは、その試練に立ち向かっていくが・・・。撮影・美術・メイクアップの3部門で第79回アカデミー賞（2007年2月）を受賞するなど、世界各地で絶賛されたギレルモ・デル・トロ監督のダーク・ファンタジー。本作はPG-12指定ではあるが、かのスティーブン・キング氏が美しく残酷！「オズの魔法使い」以来のベストファンタジーと高く評価していることからも推測できる（？）ように、暴力的で限りなくR-15指定に近い。1944年のスペインという厳しい現実世界があるからこそ、無垢な少女は空想世界と現実世界を行き来し、最終的にはその二つの世界が一つに統合されるわけである・・・って、これ以上書くと、カンの鋭い読者諸氏には結末がバレてしまうので、ほどほどにしておかねばなるまい。いずれにせよ、本作は単なるファンタジーではなく、ダーク・ファンタジーであることに注意を払うべきである。ほろ苦く痛々しい現実に耐えられる大人のみに鑑賞を勧めたい。

  2007.10.08

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  ［VOYAGE-312］　映画／クローズド・ノート＆パーフェクト・ストレンジャー＆幸せのレシピ。【2007.09.30 13:22:13】

  明け方から小雨が降ったりやんだりの一日であった。三多摩の府中のアメダスによれば、今日の日最低気温は15.2℃（08:50）、日最高気温は22.2℃（03:00）。日付が変わってすぐの時間帯のほうが気温が高く、日中だけを見れば11月上旬並みの涼しさと言える。昨日の日最高気温が真夏並みの32.4℃（14:40）であったことを考えると、気温の変動の激しさにはあきれてしまうが、健康管理には注意を要するであろう。さて、まずは余談から。私の目に留まった新聞記事を紹介する。うまみ凝縮「アイスワイン」　加オンタリオ州の特産品に（asahi.com　2007年09月29日15時40分）うーむ。この記事は果たして何を伝えたいのであろうか？たとえば、カナダ以外にはどこの国で生産していて、シェアはどのくらいなのか・・・といった情報を示してあれば、それなりにインパクトのある記事になったはずであるが、この内容だけでは、ニュースとしての価値が全く感じられないのである。編集者の資質を疑ってしまう。 ※画像は2007年3月15日に撮影したオンタリオ州内のワイナリー、Pillitteri Estates Winery。ちなみに、2007年3月19日にトロント空港で購入したPeller Estatesのアイスワインは、まだ1本が私の自宅の冷蔵庫の中で寝転がっている。［VOYAGE-124］を参照のこと。では、今日の本題に移ろう。今日は映画を3本見てきたので、いつものように、その印象などを記してみたい。1本目は『クローズド・ノート』。小学校の教員を目指す、教育大学2年生の堀井香恵。彼女は母親の再婚を機に初めての一人暮らしを始めようとしていたが、その引っ越し先の部屋で、前の住人のノートが残されているのに気づく。中を読もうとしたところ、引っ越しの手伝いをしてくれた友人の池内ハナに咎められ、あわてて断念する。そんなとき、香恵の部屋を下の公道からじっと見つめていた男が通り過ぎていった。なんとなく気になる香恵であったが、後日、彼女のバイト先の「イマヰ万年筆」にその男がやって来る。彼の名は石飛リュウ。そのときは知らなかったが、彼は新聞の連載小説の絵を描いている新進気鋭のイラストレーターであった。彼への思いを持て余していた香恵は、前の住人が置き忘れていったノートを何気なく開く。それは、若草小学校の4年2組を受け持つ新任教師・真野伊吹が、教え子との日々や元恋人・隆への思いを綴った日記であった。その日記に触発された香恵は、リュウへの思いを募らせていくが・・・。沢尻エリカ氏（堀井香恵役）と竹内結子氏（真野伊吹役）の二大ヒロインをキャスティングした行定勲監督によるラブ・ストーリー。本作を見ていたら、個人的には、ほかのいろいろな作品を思い出してしまった。★石飛リュウを演じた伊勢谷友介氏＝2週間前の『スキヤキ・ウエスタン　ジャンゴ』★行定勲監督×UFOネタ＝『遠くの空に消えた』★主人公（若い女性）が過去の物語（空想）の世界に入り込む＝『夕凪の街　桜の国』★「イマヰ万年筆」の先輩・可奈子を演じた永作博美氏＝『ドルフィンブルー　フジ、もういちど宙へ』、『好きだ、』（2006年2月公開）★クラスのみんなを笑わせるひょうきんな小学生＝『しゃべれども　しゃべれども』★京都の南禅寺水路閣×美術ネタ＝『初雪の恋　ヴァージン・スノー』★見ている側が小恥ずかしくなってしまう学校ネタ＝『バッテリー』★池内ハナの彼氏役を演じた田中哲司氏＝『魂萌え！』★池内ハナを演じたサエコ氏×変な指揮者がいる香恵の大学のマンドリン倶楽部＝『のだめカンタービレ』★香恵が憧れている俳優・夏目涼を演じた黄川田将也氏＝『TANNKA　短歌』（2006年11月公開）、『仮面ライダー　THE FIRST』（2005年11月公開）★沢尻エリカ氏×京都ロケ＝『天使の卵』（2006年10月公開）、『パッチギ！』（2005年1月公開）★伊勢谷友介氏×芸術家役＝『ハチミツとクローバー』（2006年7月公開）★竹内結子氏×行定勲監督＝『春の雪』（2005年10月公開）といったところであろうか。「この大学で2番目に有名な・・・あべし！」の台詞でお馴染みの大河内守を演じた遠藤雄弥氏をマンドリン倶楽部の指揮者役に起用すれば完璧であったが、まあ、そうも行くまい。で、本作の最大のポイントは、（他人の日記の中と、自分の現実世界で、二重に）恋をすることによって次第に情熱的になっていく堀井香恵を主演した、沢尻エリカ氏であろう。「エリカ様」と呼ばれるなど、女王様っぽいキャラクターが浸透している彼女ではあるが、本作ではかなり異なるイメージを見せている。そのギャップがなんとなく新鮮であった。また、上でも軽く示唆したが、初々しい新米教員の伊吹先生と純粋無垢な4年2組の児童たちによって繰り広げられる学校ドラマは、見ている側がちょっと恥ずかしくなってしまう部分があるかもしれない（教授法としても疑わしい？）。ただ、そうしたピュアな描写があるせいか、静かながらも劇的なラストへと至る展開で、不覚にもホロっとさせられてしまった。時系列的には最後の部分に無理があるものの、プロットとしてはさほど悪くなく、まずまずの佳作と言えよう。2本目は『パーフェクト・ストレンジャー』。上院議員が同性愛者であるというネタを数か月かけて取材しながら、社の上層部によってスクープを握りつぶされてしまった有能な記者、ロウィーナ。彼女は即座に新聞社を辞める。ある夜、幼馴染のグレースに出会い、広告業界の大物であるハリソン・ヒルの不倫スキャンダルの噂を耳にする。ところが、その数日後、グレースは変死体で発見される。何らかの薬物によって殺されたらしい。ハリソンによる口封じではないかと疑ったロウィーナは、独自の調査を開始する。前の新聞社の同僚でインターネットに詳しいマイルズの力を借りながら、偽名の派遣社員としてハリソンの会社に潜入し、その直属の部下になることに成功するが・・・。『X-MEN』シリーズのハル・ベリー氏と『ダイ・ハード』シリーズのブルース・ウィリス氏の共演によるサスペンス。この二人の演技の巧みさは小気味がよい。が、サスペンスというジャンルだけに2転3転のどんでん返しが用意されているのは当然であるとは言え、本作のオチは・・・はっきり言って「最低」である。もちろん「予想外の結末」ではあったが、あまりにひどすぎて、思わずドン引きしてしまった。後味の悪さを楽しみたい強者以外にはおすすめしない。3本目は『幸せのレシピ』。ニューヨークのマンハッタンで人気を誇る高級レストラン「22ブリーカー」。この店の評判を支えているのは、凄腕のマスター・シェフ（料理長）として厨房を取り仕切るケイト・アームストロングである。ただ、彼女の完璧主義ぶりには、セラピストもさじを投げるほどであった。そんな彼女に、ある日突然、人生の転機が訪れる。唯一の肉親である姉が事故で亡くなり、シングルマザーであった姉の娘、つまりケイトにとっては姪に当たる9歳のゾーイを、引き取ることになったのである。利発で繊細な姪との不慣れな私生活に苦悩しつつ、数日ぶりに仕事場に戻ると、見知らぬ陽気な男が厨房で自由気ままに振る舞っていた。レストランのオーナー、ポーラによって新たに雇われた彼は、スー・シェフ（副料理長）のニコラス・パーマーであった。この南欧的なニックの仕事のやり方はケイトのペースを乱し、彼女はことあるごとにライバル意識を燃やしていくが、自分の手を焼いていたゾーイが彼に心を開いたことから、二人の関係は改善される。やがて、ケイトは彼とのロマンスを意識するようになるが・・・。ニューヨークのレストランの厨房を舞台とした軽妙なラブ・コメディ。完璧な人間というのは存在せず、何かを完璧にこなすことは別の何かを犠牲にすることである・・・という真理をうまく表現したドラマである。自信と不安と寂しさの間で心揺れるキャリアウーマンのケイトを、キャサリン・ゼタ＝ジョーンズ氏が好演している。とは言え、最初のうちは「ティターンズ時代のエマ・シーン」といった感じ（と表現しても、大方の読者諸氏には通じない？）で分かりやすかったものの、次第にほぐれていく様子には若干の無理（違和感）を覚えてしまった。むしろ、ニックを演じたアーロン・エッカート氏の自然体でキュートな演技のほうが魅力的かもしれない。また、『リトル・ミス・サンシャイン』でアカデミー賞助演女優賞に史上最年少でノミネートされたアビゲイル・ブレスリン氏の、ゾーイ役の演技も光っている。さらに、ニックの初登場シーンで流れるオペラは、先日亡くなったルチアーノ・パヴァロッティ氏による『トゥーランドット』の「誰も寝てはならぬ」。あのトリノ五輪の荒川静香氏のイナバウアーを思い出さずにはいられまい。そのほかにも『蝶々夫人』など、オペラの名曲が各場面に彩を添えている。あと、妙なところで、ひらがな4文字の「和のアイテム」が登場する。ご注目のほどを。個人的には、雪のマンハッタンの光景が、懐かしくもあり、不愉快でもあった。シェフを描く作品としては『レミーのおいしいレストラン』以来であるが、微妙に似ている要素もあろう。

  2007.09.29

• ［VOYAGE-305］　映画／ファンタスティック・フォー＆めがね＆夜の上海。【2007.09.23 08:28:17】

  今日の天気は晴れ時々曇り。三多摩の府中のアメダスによれば、今日の日最低気温は21.7℃（03:50）、日最高気温は33.5℃（14:50）。彼岸に入っているのに、3日連続の真夏日となった。上空の偏西風は北海道のやや北を流れていて、太平洋高気圧は東北地方北部あたりから南の日本付近を広く覆っている。本当に真夏のような気圧配置ではあるが、気象庁のスパコンによれば前線が徐々に南下してくるため、東日本では天気は下り坂らしい。さて、今日は、映画を3本見てきた。自らの修士論文のスケジュールを考えると、こんな「極楽トンボ」の生活がいつまで続くか定かではないが、余裕があるうちは新作をできるだけ多く見ておきたいと思っている。いずれにしても、今日の記事では、それらのレビューを試みたい。1本目は『ファンタスティック・フォー　銀河の危機』。「ファンタスティック・フォー」の4人のメンバーのうちの2人、リード・リチャーズ（Mr.ファンタスティック）とスーザン・ストーム（インビジブル・ウーマン）の結婚式が目前に迫り、全米ではホットな話題となっている。残る2人、岩石のような体を持つ怪力男ベン・グリム（ザ・シング）は恋人アリシアとのロマンスを、またスーの弟ジョニー・ストーム（ヒューマン・トーチ）もセレブな生活を、それぞれ楽しんでいる。そんな中、日本の駿河湾では海水面が凍結し、エジプトのギザでは雪が降り、米国のロサンゼルス一帯では大停電・・・と、科学では説明できない異常現象が世界各地で次々と起きていた。その際、空を駆け抜ける謎の閃光が目撃されており、その正体を暴くべく、ヘイガー将軍はリードらに調査を依頼する。リードは、表向きはスーとの挙式を理由に断るが、裏ではこっそりと閃光の追跡装置を開発していた。そして、いよいよ結婚式の当日を迎えるが、例の閃光がニューヨークに出現し、式場はめちゃくちゃに。ジョニーが閃光を追いかけると、その正体は銀色のボードを操る未知の生命体（シルバーサーファー）であったが、その強大なパワーの前にジョニーは墜落する。やがて、このシルバーサーファーが出現した星は8日以内に滅びていることを知り、ヤツが作り出したクレーターの発生パターンから次の出現地点がロンドンであることを特定するものの、リードたちはチームワークの乱れからどうにも手が出せなかった。そこで、ヘイガー将軍は、かつて「ファンタスティック・フォー」によって野望を砕かれたはずの宿敵ビクター（Dr.ドゥーム）を科学者として起用し、彼らはしぶしぶ手を組むことになるが・・・。熱狂的なファンを誇る、米国マーベル・コミックの映画化第2弾。原題は『Fantastic Four: Rise of the Silver Surfer』であるが、邦題では『銀河の危機』となっている。私自身は第1作を見ていないため、ヘイガー将軍やダース・シディアスを思わせるビクターが何者なのかよく分からなかった。前作を見ている観客にはおそらくおなじみのキャラクターなのであろう。前作の予備知識があればもっと楽しめるかもしれないが、そうした予備知識がなくても、本作のストーリー展開としては特に問題なく理解できるはずである。むしろ問題なのは、日本を含むアジアなどの各国市場に媚を売るあまり、微妙な描写が含まれていること。冒頭の駿河湾の漁師たちもそうであったが、ラストシーンの××などは違和感を禁じえなかった。とは言え、目くじらを立てるほどでもあるまい。アメコミとして割り切って見るのが正解と思われる。2本目は『めがね』。春の浅い頃、タエコはプロペラ機でとある南の海辺の空港に降り立つ。大きなトランクを一つ提げて、民宿ハマダにやって来る。リゾート気分で観光やら読書やらを楽しむつもりであったが、ここは観光する場所もない田舎町。がっかりするタエコは、民宿の亭主ユージらのもてなしを断りつつ、町で毛糸を買ってきては適当に編み物を始めるのであった。そんな民宿ハマダの近くには、不思議な人々が集まってくる。毎年春になると民宿にやって来る常連客のサクラは、浜辺の小屋でカキ氷を笑顔で振る舞う。高校教師のハルカは、意味もなく近所をぶらついている。そして、毎朝、浜辺で行われるメルシー体操。彼らのマイペースさに耐え切れなくなったタエコは、ハマダを出て、町にあるもう一つの民宿、マリン・パレスに移ろうとするが・・・。『かもめ食堂』の荻上直子監督と、その主要キャストの小林聡美氏やもたいまさこ氏らによる、ロハス系人間ドラマ。鹿児島県・奄美諸島最南端の与論島で撮影された南の海のビジュアルや、ゆったりとした音楽が、実に心地よい。また、市川実日子氏、加瀬亮氏、光石研氏といった個性的なキャストも、巧みな演技を見せている。登場人物にしてもストーリーにしても、とにかく何もかもがユルユルで、まったりと時間が流れていく感じ。本作ではそれぞれの登場人物の「背景」を積極的に描こうとしていない。ストーリーが進行するにつれて少しは見えてくるとは言え、誰がどういう経緯でこの場所に来ているのかがほとんど分からないのである。見る者には「行間を読む想像力」が求められるとも言えるが、細かいことは別に分からなくてもいいか・・・という気にさせてしまうのが、この南の海のなせる業かもしれない。都会人のタエコにとっては、そうしたユルユルさが最初のうちは我慢ならなかったものの、次第に変わっていく様子が見ていて面白かった。特にラストシーンが印象的。スローライフに憧れる都会人には、「スローライフの現実」を知る上でも、有意義な作品となるに違いない。3本目は『夜の上海』。トップヘアメイクアーティストの水島直樹は、音楽祭の仕事で上海に来ていた。仕事の上でも恋愛の上でもパートナーの高橋美帆とは長い付き合いになるが、このところ仕事に追われて満足に会話も交わさず、しっくりこない関係が続いていた。その美帆を追って、わざわざ有給休暇を取得してまで、上海にやって来た男がいる。彼の名は河口龍一。美帆にとっては年下の男であり、美帆はほとんど相手にしていなかった。直樹も彼の存在をうすうす気づいてはいたものの、特に何もせずにやり過ごす。音楽祭終了後、直樹は街を一人でぶらりと歩いているうちに、ふとしたきっかけから迷子になってしまう。そんなとき、背後から高速で走ってくるタクシーに追突される。運転していたのは女性ドライバーのリンシー（林夕）。彼女はひとまず直樹をタクシーに乗せ、彼をホテルに送ろうとするが、パスポートも財布も携帯電話も持たずに出てきた直樹は、自分がどこに宿泊するかも知らず、まして中国語は全く分からない。お互いに困惑しながらも、直樹とリンシーは車で夜の上海をさまようのであった・・・。日中合作のラブ・ストーリー。水島直樹役を演じたのは本木雅弘氏、またリンシー役を演じたのは『少林サッカー』でブレイクしたヴィッキー・チャオ氏。この美男美女の組み合わせは見事と言うほかあるまい。しかし・・・塚本高史氏の演じた河口龍一の存在が何とも鬱陶しい（！）。水島直樹と高橋美帆との関係がうまくいっていないことを強調する意味では、このキャラクターの存在は効果的かもしれない。ところが、その分、ストーリーの現実味を著しく損ねてしまい、見る者の感情移入を妨げるのである。まさに「お邪魔虫」。キャラクターにせよストーリーにせよ、そのあたりの工夫がほしいところであった。また、脇役ながらも存在感のあるサム・リー氏やミルヒー竹中直人氏（ネイティブ？）のいい加減な日本語が、いかにもステレオタイプ的で、日本語教育の立場としては違和感を覚えてしまった。ただ、日本留学を希望しているリンシーの弟（マンガおたく？）が直樹に話す日本語の挨拶「●●●」は、私も「なるほど、そういう挨拶もアリか」と、思わず苦笑させられた次第である。そういう意味では、非常に興味深かったと言える。

  2007.09.22

• ［VOYAGE-301］　映画／ジャンゴ＆アーサーとミニモイの不思議な国。【2007.09.19 16:43:21】

  今日は朝から昼過ぎにかけて一時的に晴れていたが、後はどんより曇っていた。三多摩の府中のアメダスによれば、今日の日最低気温は21.4℃（23:50）、日最高気温は28.8℃（13:00）であった。では、昨日の記事の続きで、昨日見た映画の後半2本についてである。3本目は『スキヤキ・ウエスタン　ジャンゴ』。源氏と平家の決戦、壇ノ浦の戦いから数百年後。平家の落人が拓いた山間の寒村、湯田は、お宝（埋蔵金）の噂を聞きつけて押し寄せたよそ者たちに荒らされ放題であった。今は二つのギャング・グループが抗争を繰り広げている。一方は清盛、重盛らの赤い平家軍。もう一方は義経、与一、弁慶らの白い源氏軍。この抗争に巻き込まれた村人のルリ子、アキラ、静、平八、保安官らはいい面の皮であった。そこに、心に傷を負った一人のガンマンが流れ着く。彼は、平家と源氏、一体どちらの用心棒になるのか。それぞれの思惑がぶつかり合い、駆け引き、裏切り、欲望、そして愛が入り乱れ、事態は壮絶な戦いへと激化していく・・・。三池崇史監督による和製西部劇、というより、時代劇と西部劇の融合作品。台詞は基本的に全編英語であるが、思わず出てしまう間投詞などは日本語っぽい感じであった。伊藤英明氏（ガンマン）、佐藤浩市氏（平清盛）、伊勢谷友介氏（源義経）、安藤政信氏（与一）、石橋貴明氏（弁慶）、木村佳乃氏（静）、香川照之氏（保安官）、堺雅人氏（平重盛）、小栗旬氏（アキラ）、桃井かおり氏（ルリ子）など、キャスティングがとにかく豪華。彼らに加えて、クエンティン・タランティーノ氏も日本映画に初出演している。このタランティーノ監督の『キル・ビル』を思わせるような人物設定があったり、いかにも彼が好きそうな日本映画のタイトルを彼が演じたピリンゴ役の息子に名づけたりと、現実世界とのクロスオーバーがおかしかった。ストーリーはあってないようなもの。それぞれの登場人物の破天荒（もしくは、能天気）ぶりや、火薬を大量に使用した派手なガン・アクションなどが見どころであろう。なお、ちょっとだけ余談。村人のルリ子が「この村にはこんなものしかないよ」と言ってガンマンに差し出した食べ物は、庄内随一の特産品「●●●●豆」であったが・・・その謎はエンドロールで解けた。本作は、庄内映画村で大部分を撮影していたらしい。この庄内映画村は山形県鶴岡市にあり、2005年10月公開の『蝉しぐれ』や2006年12月公開の『武士の一分』などのロケ地にもなっている。木村佳乃氏にしてみれば『蝉しぐれ』以来、また桃井かおり氏にとっては『武士の一分』以来の庄内となったわけである。4本目は『アーサーとミニモイの不思議な国』先行上映。冒険を夢見るアーサーは10歳の少年。仕事で忙しい両親と離れ、祖母と二人で暮らしている。そんなある日、未払いの土地代を明後日までに返済しなければ、屋敷を立ち退かなければならなくなってしまう。4年前から行方不明になっている冒険家の祖父が裏庭に埋めたという財宝を見つければ・・・と思ったアーサーは、屋根裏でメッセージが残されていることに気づく。その財宝を手に入れるためには体長2ミリのミニモイ族が住む7つの王国に行かなければならないことを知ったアーサーは、祖父と親しかったボゴ＝マタサライ族の協力を得て、宝探しの旅に出るのであった・・・。リュック・ベッソン監督が実写と3Dアニメーションを融合させた、ファミリー向けファンタジー・アドベンチャー。『ネバーランド』『チャーリーとチョコレート工場』『プロヴァンスの贈りもの』などで知られる天才子役、フレディ・ハイモア氏（アーサー役）の演技力はさすが。また、声優陣のマドンナ氏、デイヴィッド・ボウイ氏、スヌープ・ドッグ氏、ロバート・デ・ニーロ氏もなかなかのものである。とは言え、舞台設定はご都合的（かなり恣意的）で、結果としてストーリー展開も予定調和的（先読み可能）。よくある「勧善懲悪」型になってしまった印象は否めなかった。ビジュアル的には悪くないだけに、ストーリーをもう少しひねってほしいと感じた次第である。私が今年1月以降に見てきた作品数の累積は、以上の4本を加えて100本に達した。昨年の自己最多記録94本を既に超えてしまったわけである。ここまで映画三昧の日々を送ることができる今の境遇を喜ぶべきか、悲しむべきか・・・それが問題である。

  2007.09.18

• ［VOYAGE-300］　映画／包帯クラブ＆ミス・ポター。【2007.09.18 06:59:01】

  今日もよく晴れて、三多摩の府中のアメダスによれば、日最低気温は25.4℃（04:50）、日最高気温は33.2℃（13:20）。4日連続の真夏日にして8月22日（水）以来の熱帯夜であった。ううっ、暑い～。それにしても、最近のマスメディアの報道で個人的に違和感を覚えてしまうのは、自民党総裁選挙である。そもそもあの御仁を首相の座に祭り上げて自爆テロにも匹敵するご乱心を招いたのは、ほかならぬ自民党であったはず。そうしたキングメーカーとしての根幹の責任を問わずに、次期総裁の座をめぐる枝葉の動向で大騒ぎするマスメディアは、何か視点がずれているような気がする。まあ、一般大衆の耳目を集めたい（つまり、商業的に儲けたい）マスメディアにとっては、美味しいコンテンツなのであろうが・・・国民の大多数はこの総裁選挙に投票できない。つまり、まさに劇場でしかないのである。こういう政治構造にメスを入れない限り、同じような過ちを繰り返すだけではあるまいか。麻生氏「強い言葉を発する首相に」　立会演説会の要旨（Sankei WEB　2007/09/16 22:49）福田氏「自立と共生への改革を」　立会演説会の要旨（Sankei WEB　2007/09/16 22:50）「自立と共生」という旗印は個人的には大歓迎であるものの、有権者一人一人が自立的な判断を下しながら他者と共生していくような社会を構築したいものである。政党のみならず、マスメディアの責任も決して軽くはなかろう。冷静かつ公正な報道を願わずにはいられない。さて、今日は、映画を4本見てきた。そこで、今日の記事では前半2本についての感想などを述べ、後半2本については明日の記事に回すことにしたい。1本目は『包帯クラブ』。高校3年生の少女ワラ（騎馬笑美子）は、小学6年生のときに両親が離婚して以来、母と弟の3人で暮らしている。ある日、調理中に誤って包丁で手首に切り傷を作ってしまったワラは、病院で「リストカット」と誤解され、世の中に絶望感を覚えてしまう。その直後、ワラは病院の屋上のフェンスの上に立って街を眺めていると、入院中の少年ディノ（井出埜辰耶）に下手な関西弁で話しかけられる。またもや「自殺」と勘違いされたワラ。しかし、言い争っているうちに誤解していたことに気づいたディノは、ほどけてしまったワラの包帯をフェンスに巻きつけ、ワラの心が傷ついたその場所の「傷の手当て」をするのであった。後日、ワラは公園のブランコで親友タンシオ（丹沢志緒美）から失恋話を聞かされてうんざりしていると、その心を見透かされ、彼女に大泣きされてしまう。ワラは仕方なくブランコに包帯を巻きつけ、傷の手当てをしたところ、感激したタンシオはメル友に伝え、興味を持った浪人生ギモ（柳元紳一）が「包帯クラブ」のウェブサイトを立ち上げる。やがて発案者のディノもメンバーに加わる。彼らは、傷ついた出来事を投稿してもらい、その人が傷ついた場所に包帯を巻き、その風景をデジカメで撮影して投稿者に送るというクラブ活動を始めるが・・・。『家族狩り』で山本周五郎賞、『永遠の仔』で日本推理作家協会賞を受賞した天童荒太氏が書き下ろした原作を、堤幸彦監督が映画化したもの。『誰も知らない』で2004年カンヌ国際映画祭の最優秀主演男優賞を受賞し、その後も『星になった少年』では象の背中に乗るなど、いたいけな少年としてのイメージが強かった柳楽優弥氏が・・・本作では妙にワイルドでエキセントリックなディノ役を演じ、それまでのイメージを完全にぶっ壊している。その意味で私はショックを受けてしまったが、俳優としての成長ぶりには目を見張るものがあろう。また、ワラ役の石原さとみ氏も、その制服姿が「秒殺」かどうかは不明ではあるが、なかなかの好演であった。ただ、タンシオ役の貫地谷しほり氏は、演出過剰（？）で演技が上手なのか下手なのかよく分からなかった。ストーリー展開としては、中盤以降はワラの親友グループやディノの「暗い過去」と直面することになり、かなりスリリングで重苦しくもある。が、この監督ならではのユーモアセンスで巧みに中和されていて、見事な青春群像劇に仕上がっていると言えよう。2本目は『ミス・ポター』。1902年、ロンドン。上流階級の家庭に育ったビアトリクス・ポターは32歳で独身。さまざまな良家の子息との縁談話を断り続け、子供の頃からの夢であった絵本の出版に向けて奔走していた。しかし、企画を持ち込んだ数社に出版を断られた彼女は、ウォーン家が一族経営する出版社でようやく契約にこぎつける。というのも、末弟のノーマン・ウォーンを新人編集者としてデビューさせるのにちょうどいい（つまり、大して売れない）と思われたためであった。ノーマンはビアトリクスの絵に魅了され、二人で意気投合して制作した絵本は予想に反してたちまち英国中の書店で売られるようになる。次々と新作を発表していく二人はいつしか愛し合うようになり、ノーマンはビアトリクスに求婚するが、ビアトリクスの両親は身分違いの結婚を許そうとしなかった・・・。青い上着をはおった愛らしいうさぎ「ピーターラビット」を生み出した女性、ビアトリクス・ポター（1866～1943）の半生を描く実話ドラマ。1902年と言えば夏目漱石（1867～1916）がロンドンに留学していた頃であろうが、上流階級の女性が結婚もせずに仕事を持つことなどあり得ない時代に、孤高を貫き、晩年には湖水地方の豊かな自然を保護するためナショナル・トラストの設立に尽力したという、現代の女性にとっては実に心強い人物像を見ることができる。主演のレニー・ゼルウィガー氏がいきいきと演じていたのが印象的。実は彼女は、本作では製作総指揮も担当している。ビアトリクスの生き方そのものを踏襲するかのような熱の入りようである。また、そのお相手のノーマンを演じたオビ＝ワン・ケノービ、いやユアン・マクレガー氏もいい感じであった。あと、特筆すべきはビジュアルの美しさ。「ピーターラビット」などのキャラクターをアニメで動かすことによってその愛らしさを存分に見せてくれると同時に、やはり湖水地方でのロケが効果的である。大自然の風景が何とも素晴らしく、そうした風景がビアトリクスにインスピレーションを与えたであろうことは想像に難くない。英国系、女性活躍系、動物キャラクター系あるいはスローライフ系に関心を持つ人であれば、満足できる作品となるに違いない。

  2007.09.17

• ［VOYAGE-292］　映画／ヱヴァンゲリヲン＆ミルコのひかり。【2007.09.10 01:19:18】

  今日は晴れ時々曇り。三多摩の府中のアメダスによれば、今日の日最低気温は21.7℃（05:20）、日最高気温は31.7℃（11:40）。ベラルーシ、いや白露を過ぎても、3日連続の真夏日であった。さて、昨夜から今朝にかけて、映画を2本見てきた。今日の記事では、それらについて熱く（？）語ることになるが、その前にいろいろと回り道をせねばなるまい。最初に、昨夜の映画館の状況から。久々にものすごく混雑していた。フジテレビが仕掛けた人気ドラマの映画化作品（『疲ー労』？　『披ー露』？　『緋色ー』？）による集客効果と思われる。しかし・・・個人的には、この作品を見ようとは思わない。なぜなら、私はこのテレビドラマ自体を見ていないということもあるが、それ以上に、知名度の高い俳優を大量にキャスティングしたり、巨額の広告費用を投じたりして、金にモノを言わせる商業主義がこれほどまでにすさまじいにもかかわらず、テレビドラマを見ていないと理解できないネタが少なくないらしいなど、内容としてはいかにも貧相で、ケツの穴が小さいように思えてしまうからである。これと同じ理由で『お猿の新選組！』（←なんだそりゃ？）も見ていない。回り道をもう一つ。私個人の「アニメ遍歴」についてである。物心ついた頃に『宇宙戦艦ヤマト』（の『1』（1974～75）なのか『2』（1978～79）なのかは不明）を見た記憶がおぼろげながら残っている（なお、藤沢駅北口再開発でできたばかりのデパートの屋上にささきいさお氏が来て強風の中でこの主題歌を歌っていたのは、はっきりと覚えている）。『タイムボカン』（1975～76）以降の初期シリーズや『未来少年コナン』（1978）、『銀河鉄道999』（1978～81）などは、割と熱心に見ていたと思う。その後、『機動戦士ガンダム』（いわゆるファーストガンダム）は再放送と劇場版3部作（1981～82）を見て、「ガンプラ」と呼ばれるプラモデルに夢中になったものである。おそらく最もハマったのはその続編の『機動戦士Zガンダム』（1985～86）と『機動戦士ガンダムZZ』（1986～87）。それらをピークとして、私自身はアニメから遠ざかっていった。『ふしぎの海のナディア』（1990～91）あたりになると、途切れ途切れにしか見ていない。その後は既に社会人になっていたこともあって、『新世紀エヴァンゲリオン』（1995～96）や『名探偵コナン』（1996～）などは、もはや見たいとも感じなくなっていた・・・。ここからが今日の本題。昨夜見た1本目は、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版：序』。14歳の少年、碇シンジは、父・ゲンドウに呼び出されて第3新東京市にやって来る。その出迎えを待っていると、「使徒」と呼ばれる正体不明の巨大な生物が山あいから出現し、待機していた国連軍との間で激しい交戦が開始される。その戦闘に巻き込まれて危機に陥ったシンジを間一髪で救出したのは、車に乗ってきた葛城ミサト。特務機関NERV（ネルフ）の作戦部長を務める彼女は、碇ゲンドウの部下であった。間もなくシンジはNERV本部で3年ぶりに父との再会を果たすが、極秘裏に開発された巨大な人型兵器（エヴァンゲリオン初号機）を見せられ、これで「使徒」と戦うことを強要される。一度は拒否するものの、重傷を負った女性パイロット・綾波レイが彼の代わりに出撃しそうになるのを見て、シンジは自ら出撃することを決意するのであった・・・。庵野秀明氏が総監督・原作・脚本を担当した、1995年初出のTVシリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』の再映画化。当初の結末に対して賛否両論が出たことから、TVシリーズ放映後に映画化して新たな結末を提示したところ、ますます賛否両論が沸騰したという、いわくつきの作品である。『ヤマト』『ガンダム』に続く第3次アニメブームのさきがけとなり、その後のアニメ作品に多大な影響を与えたとも言われている。で、上でも述べたように、私自身は『新世紀エヴァンゲリオン』を全く見ていない。一大ムーブメントとして社会現象化したことは知っているし、ストーリーもうっすらとは聞き及んでいるものの、この動画を見るのは今回が初めてである。そうした素人の視点からのコメントであることを先に断っておく。まず、ビジュアル的には、キャラクター造形はともかくとして、メカ（通常兵器）の動きとか建物の変形とか市街地の標識とか各種アイテムとかの細かい部分の描写が実に緻密で興味深かった。個人的には、葛城ミサトが愛飲するビールのブランド（細かいっ！）に注目してしまったほどである。また、第3新東京市が芦ノ湖周辺の小田原・箱根・御殿場付近に立地していることも、細かい地名からすぐに読み取れた。加えて、サウンド的には、出撃シーンの高揚感溢れる音楽が見事であった。キャラクターとしては、主人公は実は二人いるのではないか・・・と、感じた。表の主人公は言うまでもなく碇シンジ。『機動戦士ガンダム』のアムロ・レイにそっくりな、ナイーブな男子である。ただ、幼馴染のフラウ・ボゥよりもマチルダ・アジャン中尉やセイラ・マスといった「年上好み」のアムロ・レイとは異なり、碇シンジにはそうした様子は見られなかった。かと言って同級生の綾波レイにもまだ踏み込めずにいる。14歳の男子というのはこんなものであろうか。まあ自己顕示欲・承認欲求などは年齢相応であろう。他方、裏の主人公と呼べるのは葛城ミサト。精神的に不安定なパイロット・碇シンジを監督する立場にあって、妙にテンションを高くしてみたり、逆に落ち込んで同僚の赤木リツコに愚痴ってみたり・・・と、かなり忙しい（！）。こちらのコミカルにしてシリアスなお姉さまは、『キャッツ・アイ』（1983～85）や『シティハンター』（1987～91）、あるいは『らんま1/2』（1989～92）を見ているかのような印象を受けてしまった。「ちょっと」のことを「ちょっち」と発音したりするなど（もはや死語？）、1990年代というよりは1980年代の古典的なテイストを感じさせるキャラクターであった。本作は野心的な4部作のうちの第1作であるため、ストーリー展開についてはまだ何とも判断できない。今後、どのような結末を迎えるのか、楽しみではある。あと、本作そのものではないが、本作の観客層に関しても言及しておく。私の見たところでは、20代～30代の観客が95％強で、男女比はおよそ75対25といった感じ。年齢層は『機動戦士Zガンダム』劇場版3部作（2005～06）とほぼ同じで、その男女比90対10くらいに比べればはるかにマシではあるけれども、それでも一般的な作品に比べると非常に偏りのある観客層と言える。エンドロールの最後まで席を立たない人が圧倒的に多いのはいいとしても、飲み終わったドリンクの空き容器やポップコーンの食べかすなどを終演後の席に置き残している割合が高く、館内の清掃時間がいつもより長くかかっていたようである。自分のゴミは自分で運ぶなど、もう少し「大人げ」のある対応を示してほしかった。昨夜見た2本目は、『ミルコのひかり』。1971年、イタリア・トスカーナ。映画をこよなく愛する10歳の少年ミルコは、不慮の事故によって両眼の視力を失ってしまう。当時のイタリアでは法律によって盲目の子供が通常の教育を受けることが許されなかったため、ミルコは両親と離れジェノヴァの全寮制の盲学校へと転校させられる。自分の目が見えないことが受け入れられず心を閉ざすミルコは、ある日、古ぼけた一台のテープレコーダーを見つける。そこで知った音との出合いが、彼に新しい世界をもたらしていく。担任のジュリオ神父や、寮の管理人の娘でお転婆な少女フランチェスカは、音に対する彼の優れたセンスに気がつき、音を求める彼の行動を陰ながら手助けする。やがて、古い規律を重んじる校長と対立したミルコたちは、その圧力にも屈せずにある行動を起こしていくのであった・・・。現在は視力を回復し、イタリア映画界の第一線で活躍するサウンド・デザイナーとなったミルコ・メンカッチ氏の少年時代の実話に基づくドラマ。私は高校時代に放送部に所属していて、オープン・リールのオーディオ・テープで効果音やら音楽やらアナウンスやらを編集した経験がある。それと全く同じことを、盲目のミルコ少年がやっていたのには驚きを禁じえなかった。と同時に、個人的にはちょっと懐かしかった。本作の一番の魅力は、子供たちの生き生きとした演技であろう。ミルコたちの屈託のない明るい表情や、ミルコとフランチェスカの間で築かれる信頼関係などは、未来への「希望」に満ちていて、まさに邦題の「ひかり」にふさわしい。実に感動的であった。また、視覚障がい者を「弱者」と決め付けた上で「弱者なりの生き方」を教え込むだけの学校制度（法律）や学校権力（校長）に対して、ミルコたちが反旗を翻していく様子は、いろいろと考えさせられる。権力的な上下関係から脱却できない「日本語教育」に従事する人々には、一見をおすすめしたい。

  2007.09.09

• ［VOYAGE-285］　映画／河童のクゥと夏休み＆デス・プルーフ＆私のちいさなピアニスト。【2007.09.02 20:31:03】

  今日は曇り時々晴れ。三多摩の府中のアメダスによれば、日最低気温は20.6℃（05:40）、日最高気温は26.2℃（13:40）であった。ここ数日の涼しさで、セミの声がちょっと弱々しくなってきたような気もする。さて、昨日は9月1日。毎月1日は「映画の日」ということで、昨日も映画を3本見てきた。ファーストデイに映画を見るのは7月1日以来である。あれっ、8月1日は何をしていたのであろうか・・・ああ、そういうことか。（記事には書いていないけれども）思い出すのはやめておこう。いずれにしても、懇意の映画館で上映している作品で、見たいものは既にあらかた見てしまっているので、昨日は普段行かない映画館をハシゴしてしまったのである。1本目は『河童のクゥと夏休み』。東京・東久留米に住む小学生の上原康一は、学校からの帰り道に、ふとしたきっかけから川原で大きな石を拾う。帰宅してその石を洗ってみると、中から河童の子供が現れる。300年前の大地震で地面の割れ目に落ち、そのまま石の中に閉じ込められて一種の冬眠状態にあったらしい。第一声が「クゥ」であったことから河童の子供はクゥと名づけられ、康一の家族である父・保雄、母・友佳里、そして幼稚園児の妹・瞳の同意を得て、上原家で面倒を見ることにする。クゥの存在は世間には秘密にしていたが、次第に噂が広まっていく。そんな中、クゥの仲間を探すべく、康一はクゥを連れて河童伝説の残る岩手・遠野へと旅立つ。大自然の川でスイスイと自在に泳ぎ回るクゥに目を丸くする康一であったが、クゥは座敷わらしからここ100年ほど河童を見ていないとの話を聞き、仲間探しを諦めて東京に戻る。ところが、自宅の手前で待ち伏せしていた週刊誌のカメラマンにクゥの姿を撮影されてしまい、それが世間に公表されると、上原家の周囲にはマスコミや野次馬などが連日、十重二十重の人垣を作るようになり、大騒動へと発展していく・・・。『クレヨンしんちゃん』劇場版シリーズなどを手がけた原恵一氏が企画・脚本・監督を担当して、木暮正夫氏の児童文学作品をアニメ映画化したもの。慎ちゃん、晋ちゃん・・・といった面々が脳裏に浮かんでしまうせいもあるが、私は『クレヨンしんちゃん』が全く好きではない。それゆえに、本作を敬遠してきたのであるが、とある映画サイトで、昨夏の「時かけ」こと『時をかける少女』に匹敵するかのようなコメントがあったことから、ファーストデイという機会に見ておこうと思った次第である。で、結論から先に述べてしまうと、まあまあ、といったところであろうか。まず、マイナス評価としては、ところどころに残酷な表現が見られることが指摘できる。上原康一のクラスメート・菊池紗代子が学校でイジメを受けている様子とか、その菊池紗代子の家族が直面している状況とか、マスコミや野次馬によって示される利益第一主義あるいは群集心理がさまざまな悲劇を招いていくこと・・・などなど、描写があまりにも現実的なのである。まあ、そうした現実描写はむしろプラスに評価すべきではあるが、それらが河童というファンタジーと同居しているため、現実世界に対する良心の呵責をいやでも覚えてしまうのである。「子供向けアニメ」を見て（大人の）心に傷が残るとは、私にとっては想定外であり、面食らってしまったのかもしれない。一方、プラス評価としては、そうした残酷さにもかかわらず、ラストのすがすがしさが挙げられる。このオチも想定外ではあったが、上原康一や菊地紗代子にしても、クゥにしても、実に巧みな結末であったと言えよう。ただ、この夏のアニメ作品で言えば、『アズールとアスマール』の出来には及ぶまい。2本目は『デス・プルーフ in グラインドハウス』。テキサス州オースティン。地元ラジオ局で人気DJのジャングル・ジュリアは、友人のシャナ、アーリーンらと別荘で休暇を過ごす前に、車で酒場をはしごしていた。そんな彼女らをつけ回す不気味な男がいた。シボレーの車体にはドクロマーク、そして自身の顔にも傷跡のある中年男、スタントマン・マイクであった。彼と会話するうちにジュリアらは警戒心を緩めていき、バーに居合わせたパムは彼の車で送ってもらうことになるが、彼女たちは道中とんでもない恐怖を味わうことになる。その14か月後。今度はテネシー州。スタントウーマンのキムとゾーイ、メイク係のアバナシー、そして新進女優のリーは、映画撮影の最中でスケジュールが空いてしまう。新聞広告で見つけた70年代型ダッジ・チャレンジャーに試乗することになり、リーをディーラーのところに置き去りにした3人はアクロバティックなスタントライドを満喫していた。そんな彼女たちに目をつけたのが、あのスタントマン・マイクであった。彼にいきなり車をぶつけられた彼女たちは・・・。『キル・ビル』でおなじみの鬼才クエンティン・タランティーノ監督の最新作。タイトル中の「グラインドハウス」とは、B級映画を2～3本立てで上映する劇場のこと。また、「デス・プルーフ」を漢字に直すと「死の証明」ではなく「耐死（仕様）」となる。ちなみに、日本では2004年1月に公開された『バレットモンク』を直訳すると「弾丸坊主」であるが、その原題の『BULLETPROOF MONK』は「防弾坊主」。本作の「耐死（仕様）」とは、ちょっとやそっとの衝撃では死なないほど、スタントマン・マイクの車の装甲が頑丈にできていることを意味するものである。いやぁ・・・まさにB級映画。映像や音には時々ノイズが入るなど、レトロっぽい雰囲気を演出している。ストーリーはあってないようなもの。前半では女性のお尻と素足を執拗に接写しつつ、後半ではCGなしのド派手なカー・チェイスを見せるだけである。あまりにアッケラカンとした能天気なエンディングには、もはや笑うしかあるまい。3本目は『私のちいさなピアニスト』。国際的なピアニストとして活躍する夢を持ちつつも、家が貧しいために海外留学できずに挫折したキム・ジスは、ソウル郊外のアパートの一室にピアノ教室を開く。その引っ越し荷物を運び入れている際に、メトロノームを盗んで走り去った少年がいた。この悪ガキは7歳になるキョンミンで、祖母とともに貧しい暮らしを送っているが、彼が4歳のときに交通事故で母親を亡くして以来、そのトラウマから情緒不安定になっていたのであった。その後も彼はピアノ教室にたびたび姿を現し、いろいろないたずらをしてはジスを困らせていたが、彼の祖母との口論で思わず啖呵を切ってしまったことから、ジスはキョンミンの世話をする羽目になる。ある日、キョンミンに絶対音感の才能があることを見抜いたジスは、彼をコンクールに出場させて自らの夢を託すことを思いつき、猛特訓を施すが・・・。二人の“負け犬”が母子のような師弟関係を結んでいく様子を、音楽とともに描く人間ドラマ。韓国ではこういう音楽系のドラマが流行しないせいか、あまり「韓流」っぽくない。むしろ、『のだめカンタービレ』や『神童』や『ピアノの森』をごちゃ混ぜにしたような印象が強かった。現に、ラストで演奏される曲目は、まるで●●様を見ているようではないか（！）。ストーリーそのものは、おおよそ先読みが可能。まあ、そんなに悪くはあるまい。キム・ジス役を演じたオム・ジョンファ氏の端正さや、彼女に思いを寄せるピザ屋の店長グァンホ役を演じたパク・ヨンウ氏の笑顔は、何とも魅力的。特に後者の満面の笑顔は、私のかつての日本語学校での教え子（彼は決して日本語の上達は早くなかったが・・・）を髣髴とさせ、こちらも思わずニコニコしてしまったほどである。ただ、キョンミン役のシン・ウィジェ氏は今ひとつかわいげがなく、それだけは少々残念であった。

  2007.09.02

• ［VOYAGE-282］　映画／スピードマスター＆TAXi4。【2007.08.31 09:07:34】

  日本付近には前線が停滞し、その前線を挟んで「北の秋の空気」と「南の夏の空気」が押しくら饅頭をしているらしい。おかげで、関東南部では今日も曇りで時々小雨がぱらつく天気となった。三多摩の府中のアメダスによれば、日最低気温は21.9℃（24:00）、日最高気温は25.0℃（14:10）。2日連続で真夏日から解放され、実に涼しい一日であった。さて、今日は、映画を2本見てきた。そこで、今日の記事ではそれらを取り上げるわけであるが、その本題に入る前に、ちょっと余談めいた話をしておく。それは・・・「車に関する映画」の思い出である。私が好きな映画シリーズの一つに、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』がある。『1』が1985年、『2』が1989年、『3』が1990年に公開された3部作である。時速88マイル（140km/h）に達すると「OUT A TIME」のナンバープレートを残してタイムマシンになる、あの銀色のデロリアンがたまらなく好きであった。もう一つ、車のカッコよさをたっぷりと堪能させてくれた作品としては、2005年9月に公開された『頭文字D THE MOVIE』が挙げられる。ドラマの部分は今ひとつであったが、『インファナル・アフェア』シリーズでウォン警視役を演じたアンソニー・ウォン（黄秋生）氏が元・最強の走り屋にして豆腐屋の親父役で登場していたし、何よりも、迫力あるカー・アクションを実写で（しかも、日本の群馬県の公道で！）見せてくれたのが記憶に新しい。このように書くと、私は相当な「車マニア」もしくは「スピード狂」であるかのような印象を与えてしまうかもしれない。まあ、確かに、4年前に普通自動車第一種免許を取得した際に、卒業検定試験で制限速度50km/hの道路を10km/hくらいオーバーして検定員から注意を受けた経験があり、そういう意味では私も「走り屋」の一味であろう。しかし、その卒業検定試験以来、実は一度も車のハンドルを握っていない。つまり、私は頭に「超」がつくほどの「紙運転者」なのである。言い換えると、私にとって、車とは「自ら運転するもの」ではなく、「ほかの人が運転しているのを眺めるもの」なのである。以上のような個人的な前提に基づいて、以下のレビューを書くことになる。1本目は『スピードマスター』。とある街の埠頭。ここでは毎晩のように、チューンナップされた車が集結し、壮絶なカー・バトルを繰り広げている。ブライザッハ・グードマンのシルビア180SX［RPS13］、大道リオのフェアレディZ32、黒咲勇弥のRX-7 FD3S、の3台によるバトルでは、大手チューニングカーショップ「D＆S」の跡継ぎでもある勇弥のFDが圧倒的なスピードを見せつけ、ギャラリーを熱狂させていた。そのバトル終了後に、勇弥のFDをデジカメで撮影する少女がいた。腕の立つ整備士であった父親・辰二が病に倒れ、休業状態に陥っている実家の修理工場「桜井モータース」をどうにか建て直したいと考えている桜井まひろであった。しかし、FDを撮影したことが勇弥にばれてしまい、まひろは勇弥の手下に襲われそうになる。が、その時、放浪の旅を続ける見知らぬ男・赤星颯人がまひろを救出し、まひろのデジカメを修理工場まで届けるのであった。「桜井モータース」の窮状を見た颯人は、そこで整備士として働くことをまひろに懇願され、その願いを聞き入れる。颯人の働きによって「桜井モータース」はかつての賑わいを取り戻すが、商売敵の勇弥らにとってはちっとも面白くないことから「桜井モータース」への悪質な嫌がらせを繰り返し、颯人を挑発する。かつては無敵の走り屋であったがバトル中の事故で友人を亡くして以来走るのをやめた颯人は、見事にチューンナップされた辰二の愛車RX-7 FC3Sを借りてさらに自らチューンナップを施し、勇弥との勝負を受けて立つことにする・・・。日本製の名車によるカー・バトルと、それに情熱を燃やす若者たちを描くもの。そのカー・バトルの中心部分は実写ではなく、コテコテのVFXである。少々チープな印象は否めないものの、それなりに見ごたえがあった。『頭文字D』と同様に、ドラマ部分は微妙。特に、悪意はないけれども個人のテリトリーを無視して颯人の心に土足で入り込む、まひろの言動が痛かった。こういう勘違い系の言動は、現実世界でもたまに見られる（そういう意味ではリアリティーがある）とは言え、私個人としてはあまり好きにはなれなかったのである。まあ、本作を「B級映画」と割り切ってしまえば、妙にテンションの高い勇弥らの言動など、楽しめる要素も少なからずあると言えよう。あと、本作のオープニングとエンディングに出てくる「スピードマスター」のナンバープレートは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の「OUT A TIME」を思わせる。思わずニヤっとしてしまった。2本目は『TAXi4』。スピード狂のタクシー運転手ダニエルと、ドジでマヌケな刑事エミリアンの、コンビは今も健在。二人ともかわいい盛りの息子を持ち、地元の少年サッカーチームの練習を見守る日々であった。そんな平穏なある日、マルセイユ警察は突然、“ベルギーの怪物”と呼ばれる凶悪犯を護送する任務を命じられる。ジベール署長以下、署員全員でこの任務に当たるが、ドジの連続。どうにか犯人を署まで連行したものの、その間に犯人一味がマルセイユ警察に潜入し、コンピュータの犯人データを改ざんする。エミリアンはとあるドジから犯人の防護服を脱がしてしまうが、改ざんされたコンピュータのデータをそうとは知らずに見たエミリアンは、犯人の無実を信じて彼を釈放する。こうして、凶悪犯はまんまと逃亡するが、その凶悪犯を市街地に送り届けたのは純白のプジョー407、つまりダニエルのタクシーであった・・・。リュック・ベッソン氏の製作・脚本による痛快カー・アクション・コメディ第4弾。私自身はこのシリーズを見るのは初めてであり、前作までの流れが全く分からないまま本作を見た次第である。で、カー・アクションについては、見ていて確かに爽快感はあるものの、本作のマヌケなストーリー展開に312.8km/hの最速マシンが絡む必然性は皆無と思われる。ストーリーとはほとんど関係がなく、取って付けたようなカー・アクションだけを見せられても、個人的には今ひとつ萌えなかったのである。加えて、「警察権力に対する信頼感（もしくは、不信感）」が日本とフランスとの間でかなり違うらしいことが垣間見えた。たとえば日本の『踊る大捜査線』にも警察を馬鹿にしたような描写があるとは言え、最終的には勝利を収める警察への「信頼感」を表現することになる。それに対して、本作では徹頭徹尾、警察をダメダメな存在として描き、その無能ぶりによって観客を苦笑させることになる。これを「エスプリ」と呼ぶのかどうかは定かではないが、そういう「反権力志向」を本作では読み取ることができよう。ただ・・・こうした描き方を面白いと感じるかどうかは、人それぞれであろう。私としては、マルセイユ警察のおバカ度が『ラッシュアワー3』の軽口に通じるものがあって、ちょっと辟易としてしまった。結局のところ、個人的な総合評価としては、「日光の手前（＝今市）」と言わざるを得ない。

  2007.08.30

• ［VOYAGE-278］　映画／ラッシュアワー3＆Life＆シッコ。【2007.08.27 04:49:32】

  晴れてまだまだ残暑が厳しい。三多摩の府中のアメダスによれば、今日の日最低気温は24.2℃（04:00）、日最高気温は34.6℃（13:50）。3日連続の真夏日である。とは言え、大学通りを歩いていると、わずかではあるが、季節の移り変わりを感じることができる。今までであれば、日中はアブラゼミの鳴き声ばかりが聞こえていた。しかし、今日はアブラゼミが30％、ツクツクボウシが30％、ミンミンゼミが30％、残りの10％は秋の虫（コオロギ系）であった。これらの虫の声は、夏の盛りが過ぎ去りつつあることを物語っているように思われる。さて、今日は、映画を3本見てきた。今日の記事では、それらを取り上げてみよう。1本目は『ラッシュアワー3』。ロサンゼルス市警のカーター刑事がヘッドホンの音楽にあわせて踊りながらメチャクチャな交通整理をしていると、案の定、次々に衝突事故が起きる。事故を起こした車のうち、2人組の若い女性が運転していた車に目をつけたカーターは職権を乱用し、彼女らと夕食を共にする約束を取り付ける。彼の旧友でたまたまロスに来ている香港警察のリー警部に電話をかけ、彼女たちとの夕食に同席するよう誘うが、その頃、リーは国際法廷シンポジウムに出席するハン大使の護衛でそれどころではなかった。そのシンポジウムの席上で、中国マフィアのボス「シャイシェン」の秘密を突き止めたと発言した直後、ハン大使は何者かに狙撃される。向かいのビルから逃走しようとする怪しい人影を確認したリーは、その男を追跡する。ついにその男を袋小路に追い詰めたものの、その男はなんと、リーとは旧知の仲にあるケンジであった。そこに、2人組の女性の車でカーターが駆けつけるが、せっかくのチャンスをぶち壊してしまい、ケンジに逃げられてしまう。その後、リーとカーターはハン大使の娘を護衛することになるが、彼女を襲撃してきた一味がパリに拠点を置いていることを知ると、二人は一路フランスへと飛ぶのであった・・・。ジャッキー・チェン氏とクリス・タッカー氏の凸凹コンビが繰り広げるバディ・ムービー第3弾。私が見ていて最初のうちに耐えられなかったのは、クリス・タッカー氏が演じるカーターの無礼極まりない軽口。この手の映画のバディは通常、どちらか一方（もしくは両方）が「おしゃべり」なのであるが、本作もその通りであった。ただ、見ていると次第に慣れてくるというか、そうした軽口がこのバディの持ち味なのであると理解できるにつれて、ストレスは少なくなるらしい。本作の見どころはそういう台詞の妙に加えて、ケンジ役に真田広之氏、さらには暗殺者一味の一人として工藤夕貴氏らが出演し、様々なバトル・アクションを披露してくれることも挙げられる。なお、ストーリー展開としては、ハラハラドキドキする「どんでん返し」もあるものの、まあ結末自体は完全に「想定内」で予想を全く裏切らない。最後にお約束のメイキングNG集もあり、能天気な気分を味わいたい人には最適の一本であろう。2本目は『Life　天国で君に逢えたら』。日本国内ではトップ級であったプロウィンドサーファーの飯島夏樹は、パートナーの寛子らとともに、世界各地を転戦する日々が続いていた。しかし、海外ではなかなか勝てず、資金難から食事も貧しく寝泊りする場所にも困るほどであった。「ここで負けたら辞める」と気合いを入れて臨んだワールドカップで見事に表彰台に立ち、夏樹と寛子はついに結婚式を挙げる。その後も世界を舞台にした活躍は続き、一方では1女3男の子供に恵まれ、ハワイで購入した家に住むようになる。が、試合に出場するためほとんど家を留守にする父親に対して、長女は冷ややかな視線を送るようになっていた。そんな頃、夏樹の身体に異変が起きる。日本で精密検査を受けてみると、肝細胞がんと判明。一家は日本に帰国し、夏樹は大手術を受けるものの、がんを克服することはできなかった。精神的にも弱ってきた彼が「余命3か月」と宣告されたことをきっかけとして、彼を支えようとする家族の挑戦が始まるのであった・・・。真実の物語に基づく感動ドラマ。飯島夏樹役に大沢たかお氏、献身的な妻・寛子役に伊東美咲氏を起用しつつも、等身大の普通の人として、淡々とエピソードを描いている。そんなに素晴らしく感動できるわけでもなく、かと言って全く感動できないほどひどいわけでもなく、本当にフツーの夫婦愛・家族愛を見ることができる。まあ、ひたむきに生きていくことの大切さを実感できるのは確かであるが、それ以上でも以下でもない・・・といった印象であった。あとは、青く輝く海と白い波が織り成す南の島の風景や、サザンの桑田佳祐氏の音楽を堪能したい人にはおすすめ。3本目は『シッコ』。米国に住むある大工は、仕事中に薬指と中指を切断してしまう。指を接合する医療費はあまりに高額で、両方の指を接合できるほどの経済的な余裕はなかったため、彼は仕方なく費用の安い薬指だけの接合を選ぶ。この大工のように健康保険に加入していない人は、米国には4700万人もいるという。しかし、民間の医療保険に加入している2億5000万人あまりの人々のほうが、むしろ悲劇的な状況に直面している。民間の保険会社は最大限の営利を追求するため、「治療は不必要」と診断した医者には奨励金を出し、実際に保険金を支払う場面になればありとあらゆるアラ捜しをして何かと理由をつけては保険金を支払わない。しかも、議会へのロビー活動も抜け目なく、政治家への多額の献金によって、業界に都合のいい法律を作らせているのであった。こうして、HMO（健康維持機構）に牛耳られた米国では、まともな医療サービスを受けられず、人々は一度大病を患えば破産か病死かの選択を迫られることになってしまう。他方、カナダ、イギリス、フランスなどでは無料の医療サービスが普及している。実は米国にも唯一、無料の医療サービスを受けることができる場所がある。そこは、アルカイダなどの容疑者が収監されているグアンタナモ海軍基地で、米国の仮想敵国キューバと陸続きの地にある。そのグアンタナモ海軍基地に、米国では十分な治療が受けられない人々を連れて行こうとするが、受け入れられるはずもない。そこで彼らは、キューバで医療サービスを受けることにする・・・。アポなし突撃取材でおなじみのマイケル・ムーア監督によるドキュメンタリー最新作。先日の参議院議員選挙に立候補してどうにか当選した、とある候補者のキャッチコピーではないが、日本人でよかった。というか、むしろ米国人でなくてよかった。と本気で思ってしまったほど、米国の医療制度の問題点が浮き彫りにされている。フランスやキューバといった国を引き合いに出すことで、米国の国民感情を必要以上に刺激しようとする扇情的な意図はやや鼻につくものの、強烈なインパクトがある。まさに「ボディブロー炸裂！」といった感じであろうか。あの米国を想い　この属国を創る（元ネタは「この国を想い　この国を創る」）という路線がいかに危険であるか・・・との、日本への警告とも受け取れるかもしれない。（年金改革などを含む）社会保障のあり方を考える上で、とにかく必見の一本と言える。

  2007.08.26

• ［VOYAGE-270］　映画／遠くの空に消えた＆ベクシル。【2007.08.19 09:07:30】

  『ウルトラマンティガ』のダイゴ隊員、ではなくて、V6の長野博氏が久々にTVドラマに出演している。あれから10年かぁ、ちょっと老けたかな。・・・って、私自身の加齢を棚に上げてしまっているが、内容的に「教師モノ」ということもあって、思わず見入ってしまった。3回シリーズが終わったときに、何か触れたいことがあれば、このブログに書き込むかもしれない。ところで、今日は曇りで、一転して涼しい一日となった。三多摩の府中のアメダスによれば、今日の日最低気温は23.9℃（04:50）、日最高気温は26.2℃（18:10）であった。5日ぶりに熱帯夜から解放され、真夏日の連続記録も昨日の16日間でストップしている。それにしても、気になるのは・・・ここ数日、千葉県東方沖で群発地震が起きていること。さっきも映画を見ている最中に座席がグラグラ揺れて、少し落ち着かなかった。ということで、今日の記事の本題は、映画ネタである。2本見てきたので、それらについて述べておこう。1本目は『遠くの空に消えた』。馬酔村は、青い麦畑や牛の放牧場が広がる、のどかな田舎。ビル一つないそんな田舎に、一組の父子が移り住んでくる。村に空港を建設するための公団の責任者として国から送り込まれた楠木雄一郎と、その息子の亮介である。亮介は東京から転校してくるなりクラスの女子児童の人気の的となり、人気者の地位を奪われる形となった地元の悪ガキのリーダー格・土田公平はちっとも面白くない。そこで、公平は亮介に因縁をつけるが、その勝負の最中に二人とも「牛の肥溜め」に落下してしまったため、勝負はお預けとなる。その直後に二人は、柏手ヒハルという名の少女に出会う。彼女はやや高い場所にまっすぐ立ち、両腕を左右に大きく伸ばして、呪文を唱えていた。どうやらUFOの存在を信じているらしく、彼女の父を連れ去ったというUFOとの交信を試みているのであった。やがて、空港建設をめぐって村の住民たちが対立を深めていく中で、亮介、公平、ヒハルの三人は、秘密基地での流星観測を通じて友情を育んでいくが・・・。『世界の中心で、愛をさけぶ』『北の零年』『春の雪』で知られる行定勲監督の最新作。ストーリーとしては、柏手ヒハルが登場するまでの導入部分があまりにおちゃらけていて、私としては全く感情移入ができず、どうしようかと心配してしまったほどである。しかし、物語が後半に入るにつれて、見る者をグイグイと引き込むような展開になっていったので、前半の心配は無用であった。また、全体的な構造（語り口）が、村上春樹氏の短編小説っぽいような感じがした。それはともかく、本作は、『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』『ピアノの森』などのCVや『妖怪大戦争』『大日本人』などに出演した神木隆之介氏（楠木亮介役）と、『北の零年』『SAYURI』『バルトの楽園』などで知られる大後寿々花氏（柏手ヒハル役）の、二人の天才子役のために製作されたと言っても過言ではあるまい。この二人には、成熟した大人とは違う種類の「色気」があり、見ていて軽くドキドキしてしまった。あたかも観客の心を少年少女の時代に引き戻すかのようでもあった。まあ、この監督ならではのフェロモン誘導作戦なのかもしれないが、とにかく子供たちの生き生きとした演技が印象に残った。この二人の天才子役を前にすると、大人たちの存在はかすんでしまう。硬派なのは楠木雄一郎役の三浦友和氏と、バーのママ役の大竹しのぶ氏くらいなもので、あとはむしろ、妙にユルユルなキャラクターばかりであった。まあ、それはそれで、子供たちを引き立てる効果があるとも言えるであろう。2本目は『ベクシル　2077日本鎖国』。21世紀に入ってバイオ産業およびロボット産業は急速に発展を遂げ、日本は技術面でも生産面でも世界を圧倒し、市場を独占していた。しかし、これらの技術は人類社会の秩序を脅かすような危険性が指摘されたことから、国連は国際協定によって厳格な規制を設けた。その規制に反発した日本は国連を脱退し、ハイテク鎖国に踏み切る。国境を越えた人の往来が許されないばかりか、人工衛星からの偵察すらもできなくなってしまった。それから10年。米国では、想像を絶するようなバイオロボットらの仕業による事件が頻発していた。世界のロボット産業を独占する日本企業「大和重鋼」が事件に関与していると判断した米国特殊部隊SWORDは、「ハイテク鎖国を可能にする電磁波の解析」と「大和重鋼に関する情報収集」を任務として、日本への潜入作戦を開始する。そこで彼らが目にしたのは・・・。『ピンポン』で知られる曽利文彦氏が監督・脚本を担当したオリジナルSFアニメ。事前に読んだ数々の批評によれば、ビジュアルは素晴らしいものの、脚本が今ひとつ・・・とのことであった。しかし、私個人としては、ビジュアルは言うに及ばず、脚本もそんなに悪くはなかった。まあ、確かに、結末がやや甘い気がしたのは事実であるものの、ひどいというほどではあるまい。今日の記事の冒頭の『ウルトラマンティガ』にもその傾向があるが、我々は「近未来」を悪いものとしてイメージする場合、「個人個人の自由・権利を抹殺する全体主義の社会」を描きたがるらしい。そういう近未来の社会のイメージに慣れ親しんでいるか否かによって、本作の評価が分かれる可能性もある。いずれにせよ、どうやら万人向けではないらしいため、SFに弱い人は無理して見る必要はなかろう。

  2007.08.18

• ［VOYAGE-266］　映画／天然コケッコー＆夕凪の街　桜の国＆オーシャンズ13。【2007.08.14 16:30:07】

  今朝の明け方にペルセウス座流星群を見ようと思ったときには空一面に薄雲がかかっていたが、日中は相変わらずの青空である。おかげで厳しい残暑が続いている。三多摩の府中のアメダスによれば、今日の日最低気温は26.3℃（05:30）、日最高気温は34.2℃（11:40）。熱帯夜かつ14日連続の真夏日となった。さて、実は先週の土曜日の午後に、映画を3本見てきた。が、ほかのタイムリーな話題を優先してきたため、取り上げるタイミングを逸していたのである。そこで、今日の記事では、遅ればせながら、それらについて述べようと思う。1本目は『天然コケッコー』。山と田んぼが広がるだけで、何もない「ど田舎」の木村町。小・中学校を一緒にした分校に通う児童・生徒は、全校あわせても、たったの6人しかいなかった。主人公の右田そよ（中2）とその弟・浩太郎（小6）、実家が商店を営む田浦伊吹（中1）、実家が床屋で漫画家志望の山辺篤子（中1）、そして田浦カツ代（小3）と田浦早知子（小1）である。彼らは豊かな自然の中、方言丸出しで、実にのびのびと成長していた。そんな分校に「大事件」が起きる。なんと東京から転校生がやって来たのであった。転校生の名は大沢広海（中2）。そよにとっては初めての同級生で、しかもなかなかのイケメンさん。そよは期待に胸を膨らませるが、クールな広海はいかにも都会的で、ちょっととっつきにくかった。ある夏の日に、6人は広海を誘って、徒歩で海水浴に出かける。そのとき、ふとしたきっかけから、そよと広海はお互いの距離を縮めることになる。ところが、そよの父・一将は、広海の母・美都子を毛嫌いし、そよと広海の接近を許そうとしなかった。どうやら一将と美都子の間には、過去に何かあったらしい。そよの母・以東子は、そのことをうすうす察していたが、おおらかで全く動じなかった。こうして、ちょっとした小さな事件はあるものの、平穏な日々が過ぎていく・・・。くらもちふさこ氏の同名漫画作品を映画化したもの。原作についてはよく知らないが、本作では主人公が中学2年の夏から中学を卒業するまでの1年半を描いている。島根県浜田市でロケが行われ、いかにも田舎らしい自然の風景やのんびりとした人々の生活に加えて、八岐大蛇（ヤマタノオロチ）と素盞鳴尊（スサノオノミコト）の神話をモチーフにした秋祭りの神楽なども登場する。都会で暮らす観客も、一昔前にタイムスリップしたかのような、ある種の懐かしさ（郷愁）を覚えてしまうに違いない。そうした田舎ならではなのか、中学生という年齢ゆえか、あるいは個人的なキャラクターなのか。とにかく主人公・右田そよの「ナチュラルぶり」には苦笑を禁じえなかった。それだけ主演の夏帆氏らの演技が確かであった、ということかもしれない。あと、余計な指摘ではあるが、転校生がやって来るまでは、女子5人に対して男子はただ1人（主人公の弟だけ）であった。どこかの誰かに姿を重ね合わせて、思わず「気の毒に」と同情してしまった。2本目は『夕凪の街　桜の国』。1958年、広島。戦後の復興が進む中、26歳の平野皆実は、川沿いのトタン屋根の粗末な家で母・フジミと二人で暮らしている。二人とも被爆者で、父と妹・翠を原爆で亡くし、弟・石川旭は疎開先の水戸でおば夫婦の養子となっていた。皆実はある日、会社の同僚・打越豊から愛を告白される。しかし、自分の背中で「熱いよ」と言いながら死んだ妹たちのことを思うと、生き残って幸せになることへの罪悪感から、彼の愛を拒絶してしまうのであった。2007年、東京。28歳の石川七波は、既に定年退職した父・旭と、研修医の弟・凪生の三人で暮らしている。母・京花と祖母・フジミは被爆者で、七波が幼い頃に二人とも病気で亡くしていた。最近、自宅の電話料金が突然高額になったりするなど、父の様子がどうもおかしい。ある夜、父は家族に無言で自転車に乗って家を出る。七波が父の後をつけていくと、恋ヶ窪駅で昔の同級生・利根東子にばったり出会う。凪生と同じ病院に勤務している看護師の東子は、七波の父の尾行に加わる。七波の父は恋ヶ窪駅から電車に乗り、さらに東京駅から広島行きの高速夜行バスに乗ろうとしていた。翌日に仕事が休みの七波と東子も同じバスに乗り込み、ともに広島に向かうことになる・・・。2004年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞および第9回手塚治虫文化賞新生賞を受賞した、こうの史代氏の同名漫画作品を映画化したもの。原爆は、死んでいった犠牲者だけではなく、かろうじて生き残った者の心身にも深い傷を残す・・・ということを改めて人間ドラマで表現した意義については評価したい。本作を見れば、前防衛相の「原爆投下はしょうがない」発言が関係者の古い傷口に塩を塗る行為であったことは想像に難くない。「原爆は落ちたのではなくて、（お前なんか死ねばいいという悪意の下で）落とされたんよ」という主人公の台詞も、心の琴線に触れるものがあった。とは言え、私個人にとっては、ちょっと食傷気味で、お腹いっぱいなのである。戦後日本で平和教育を受けた者にとっては、本作の意義はすぐに理解できるであろうが、そういう教育を受けていない（特に海外の）人々が本作を見た場合には、すぐに理解できるとは限るまい。日本国内向けのメッセージも必要ではあるものの、それ以上に重要なのは海外向けのメッセージを発信し、お互いの立場の違いを認識した上でよりよい未来を構築していくことではなかろうか。「選択の余地が与えられずに、ただ苦しめられた」という受動的な被害者意識を浮き彫りにしつつ、生きていくことの価値を伝えるだけで終わってしまう本作が、そうした未来の構築に役立つかどうかは、正直なところ微妙であると感じた。なお、この点については、説明が長くなるので、突発的な事件でも発生しない限り明日の記事でも取り上げてみたいと思っている。加えて、いくつかの落穂拾いをしておく。薄幸な平野皆実役を演じた麻生久美子氏の静かな熱演は絶賛に値する。また、堺正章氏よりも実年齢が5歳ほど若いはずの田山涼成氏が、ずっと老けた役で登場したとき、私は自分の目を疑ってしまった。実に意外な（不思議な？）キャスティングと言える。また、演出の面で気になったのは、2007年の石川七波役の田中麗奈氏が、1972年の両親を回想する際に、あたかもタイムスリップしているかのように、そのシーンの中に入り込んでしまっていること。前編と後編の二つの物語をつなぐコアな部分ではあるが、それだけに、あまりに非現実的な描写に違和感を覚えてしまった。さらに、後編で、七波と東子がプリンセス・プリンセス（略称「プリプリ」）の『Diamonds』をノリノリで熱唱する場面がある。バブルが華やかであった1989年に、『いかすバンド天国（略称「イカ天」）』などのバンド・ブームにも後押しされて大ヒットした曲ではあるが・・・年齢設定から言えば、彼女たちの世代がハマったのはむしろWinkではないのか？あと、立川の映画館で見ていたため、同じ三多摩の恋ヶ窪駅がアップ（大写し）でスクリーンに映し出されると、観客から少しどよめきが起こったのが印象的であった。3本目は『オーシャンズ13』。犯罪集団「オーシャンズ」の一人、ルーベンは、仲間たちの警告にもかかわらず、世界的なホテル王・バンクの裏切りに遭遇。財産や地位を失ったショックのあまり、心筋梗塞で倒れてしまう。「オーシャンズ」を率いるダニーやラスティーたちは、病床のルーベンを励ますべく再結集し、バンクへの仇討ちを誓う。ラスベガスに建設中のカジノホテルのグランドオープンを台無しにしつつ、その莫大な資金とお宝を盗むという作戦を立てる。しかし、そのホテルの最新鋭のセキュリティ・システムは万全で、入り込むスキはほとんど見当たらなかった・・・。おなじみのメンバーによる「犯罪ドリームチーム」の最新3作目。うーむ、何と言うべきか・・・「お友達内閣」ならぬ「お友達チーム」のせいであろうか、緊張感とか緊迫感といったものがほとんど感じられない。ストーリーそのものに大きな破綻はないとは言え、いかにもご都合主義的で、最初から最後まで「まったり」と展開していくのである。まあ、ジョージ・クルーニー氏、ブラッド・ピット氏、マット・デイモン氏、そしてアル・パチーノ氏といった超豪華なキャスティングであるからこそ許されるストーリー、とも言えるであろう。個人的には、ラストの少し手前で、バンクの財産を奪い取ることに成功した後の「使い道」が笑えた。なお、東京を舞台とした『14』の製作を意識したせいか、お茶や相撲などの日本文化に媚びているような場面も見受けられた。が、幸か不幸か、次作『14』はもはやありえないとのことである。

  2007.08.14

• ［VOYAGE-259］　映画／トランスフォーマー＆プロヴァンスの贈りもの。【2007.08.08 07:03:09】

  今日も一日晴れ。三多摩の府中のアメダスによれば、日最低気温は22.5℃（05:20）、日最高気温は32.9℃（14:50）。7日連続の真夏日ではあるが、2夜連続で熱帯夜から解放されると多少はラクに感じられる。それにしても、肩こりとの付き合いはかれこれ十数年来になるが、どういうわけか今日は左肩だけがバキバキに痛む。うううっ・・・解熱鎮痛薬を服用して、どうにか治まってきたようである。さて、今日は、例によって映画を2本見てきた。そこで、今日の記事では、それらを取り上げてみたい。1本目は『トランスフォーマー』。中東カタールの米軍基地が正体不明の何者かによって襲撃を受ける。機密情報の流出は阻止したものの、基地は全滅。かろうじて生き残った者もいたが、国防総省（ペンタゴン）への通信手段を失っていた。その後、カタールの基地が襲撃されたときと同じハッキング・ノイズが、大統領専用機エアフォース・ワンの機内でキャッチされる。同機は緊急着陸するが、既に一部の機密情報が不正にアクセスされていた。一方、サム・ウィトウィッキーは冴えない高校生。車を買ってもらう条件として父親から出されていたのは、2,000ドルを自分で出すことと学校の成績でAを3つ以上もらうこと。サムは、自分の高祖父が南極探検に使ったアイテムをネットオークションで売ろうとするが、買い手はつかなかった。歴史のクラスのプレゼンテーションでもそれらを売ろうとして陳列し、教員の不興を買うが、教員に取り入ってどうにか「A-」をもらい、車を買ってもらう条件が揃う。大喜びで車の店に向かうものの、父親の行き先は中古車屋。サムは、オンボロのスポーツカー（1976～77年式のカマロ）になんとなく心が引かれるが、提示した価格が折り合わない。店員がほかの車を推奨しようとした瞬間、それらの窓ガラスがすべて大破し、結局提示した価格でそのカマロを買うことになる。その車で出かけたサムは、憧れの美人クラスメート、ミカエラ・ベインズを家まで送ろうとするが、ムードたっぷりの変な曲が急にラジオから流れたり、人気のない変な場所で突然エンストを起こしたりするなど、車自体が何かの意志を持っているようであった。その日の夜、自宅に停めてあった車が勝手に動き出し、サムは自転車で必死に追跡する。そして、サムは車がたどり着いた場所で、なんと巨大なロボットが歩き回るのを目撃するのであった・・・。日本の玩具メーカー・タカラトミーが売り出して世界中の子供たちに愛されているロボット玩具を、マイケル・ベイ監督と製作総指揮のスティーブン・スピルバーグ氏が映画化したもの。本作で特筆すべき点はビジュアル。ロボットにせよ通常兵器にせよ、緻密な動きは「お見事」の一言に尽きる。よくもここまで・・・と感心してしまうほどであった。また、別の意味で、ミーガン・フォックス氏の色っぽいビジュアルもなかなかのものである。あと、『キル・ビル』の中で使われた布袋寅泰氏の「バトル・ウィズアウト・オナー・オア・ヒューマニティ～『新・仁義なき戦い』のテーマ」が挿入されていたりして、音楽面でもメイド・イン・ジャパン（日本国内にいるメイドさん、ではない）への敬意が感じられた。ただ、ストーリー的には、完全にお子様向け。無人の車が自分自身の判断で自由に走行する場面は『ナイトライダー』っぽい感じもしたが、物語が後半に入ってカマロ（すなわち、バンブルビー）の助っ人たちが地上に出現してからは、『大日本人』のような、よくある「戦隊ヒーローもの」になってしまう。地球外の金属生命体なのに、（人間に話しかけるときならともかく）彼ら同士が会話するときでさえも、地球人の言語を用いるのか？　など、ツッコミどころが満載である。とは言え、そうしたロボットたちが人間以上に人間的な感情を持って自己犠牲的に使命を果たそうとする展開は、それなりに涙を誘うかもしれない。まあ、大切な何かを守るために奮闘するという同じシチュエーションであれば、『ダイ・ハード4.0』のほうが、はるかに大人向けであると言えよう。2本目は『プロヴァンスの贈りもの』。少年マックス・スキナーは夏になると、ヘンリーおじさんが暮らす南仏プロヴァンス地方で休暇を過ごした。それから数十年。やり手のトレーダーとしてロンドンの金融界にその名をはせるマックスは、超多忙な日々を送っていた。そんな彼のところに、ヘンリーおじさんの訃報が届く。その遺産を相続してシャトーやブドウ畑などを売却する手続きを進めるため、マックスは20数年ぶりにプロヴァンスを訪れる。ブドウ畑を管理してきた昔馴染みのフランシス・デュフロやその妻・リュディヴィーヌはシャトーを売却しないことを期待するが、マックスとの話は今ひとつ弾まない。そんな矢先に、マックスに不正取引の疑いが浮上し、彼はすぐにロンドンに戻って釈明しなければならなくなった。ところが、シャトーの売却宣伝用の写真を撮っているうちに、マックスは水を張っていない飛び込み用プールに落ちてしまい、そこから出られなくなる。ロンドンに連絡も取れず飛行機にも間に合わなかったため、彼はそのまま1週間の休暇（謹慎）を与えられることになる・・・。リドリー・スコット監督と主演のラッセル・クロウ氏のコンビによる、ロハス（Lifestyles Of Health And Sustainability）系ロマンティック・ラブストーリー。ロハス系だけに、観客の年齢層が妙に高かったような気がする。ある意味では、『トスカーナの休日』の、場所をイタリアからフランスへ、また主人公をアメリカの負け組女性からイギリスの勝ち組男性へと差し替えた、「二番煎じ」の作品とも言えなくもない。蠍も登場するし。そういう点では、目新しさはあまりない。そもそもスローフードやスローライフに目新しさなどあろうはずもないが、美味しいワインのように成熟した大人たちには受け入れられるに違いない。で、マックスが飛び込み用プールに落ち、とある方法によってそこからどうにか這い上がるというシーンを目にしたとき、私はほかの作品で見たことがある（つまり、このシーンは何かのパクリである）という既視感に襲われた。ところが、物語がだんだんと進んでいくうちに、『A GOOD YEAR』という原題もどこかで知っているなぁ、と思い始めて脳内の検索エンジンを起動させると・・・はたと気づいた。ほかの作品ではなく、本作そのものを既に見ていたのである（！）。今年の3月に、往路であったか復路であったかは記憶していないものの、とにかく成田～トロント間のエア・カナダ機内で見た。字幕もなく音声も聞かずに見ていたため、そのときはストーリーをほとんど理解していなかったが、いずれにせよ私個人にとっては5か月ぶりの邂逅であった。いやぁ、映画って本当に・・・。

  2007.08.07

• ［VOYAGE-247］　映画／アズールとアスマール＆レミーのおいしいレストラン。【2007.07.27 11:22:37】

  朝から昼過ぎにかけては日が差したものの、夕方には一時的に小雨がぱらついた。三多摩の府中のアメダスによれば、今日の最低気温は22.3℃（05:10）、最高気温は32.4℃（14:00）。3日連続の真夏日となった。さて、今日は、また映画を2本見てきた。今日の記事では、それらについて述べることにしたい。1本目は『アズールとアスマール』。領主の子として生まれ、白い肌、金色の髪、青い瞳を持つアズール。領主の使用人の子として生まれ、茶色の肌、黒い髪、黒い瞳を持つアスマール。この二人の男の子は、アラビア人の乳母ジェナヌの子守唄を聞きながら、幼い頃からわけ隔てなく兄弟のように一緒に育てられていた。成長するにしたがって、領主は二人の身分の差をわきまえるように教え込んでいくが、兄弟としての二人の絆を断ち切ることはできなかった。そのため、領主は二人を無理やり引き離すことにした。アズールは高名な学者の下で勉強するために都へ行かされ、ジェナヌとアスマールの母子は館から追放されてどこかに消えたのである。それから数年。立派に成長したアズールは、幼い頃に聞いたジェナヌの子守唄の中で歌われていた「ジンの妖精」の伝説が忘れられず、海を渡ってそれを探し求める決心をする。ところが、乗った船が難破し、やっとのことでアラビア人の国に漂着するものの、そこは「青い瞳は不吉」という迷信に支配されていて、アズールはいきなり迫害を受ける。やむなく盲人のふりをしてとぼとぼと歩いていると、アズールの国の言葉を話す物乞いのクラプーに出会い、彼に道案内を頼む。「ジンの妖精」を探すためのアイテムを入手しながら都に到着したアズールは、そこで聞きなれた声を耳にする。なんと、死んだと聞かされていたジェナヌの声であった。再会を喜ぶ二人。しかし、ジェナヌはもはや以前のような乳母ではなかった。この国で一財を成し、大富豪となっていたのである。アズールはアスマールとも再会するが、彼もまた「ジンの妖精」を求めてちょうど出発しようとしていた。こうして、彼らはともに旅立ち、さまざまな困難に立ち向かっていく・・・。『キリクと魔女』で知られるミッシェル・オスロ監督の最新作を、スタジオジブリの高畑勲監督が日本語吹替版に翻訳・演出したもの。私が見たのは「字幕版」ではなく「日本語吹替版」であったが、フランス語とアラビア語が併用されている原作のうち、アラビア語の部分はオリジナルに一切手を加えず、フランス語の部分だけを日本語に吹き替えるという演出が施されている。香川照之氏らの吹替版キャストは、オリジナルの声優と区別がつかないような声質や発声方法が要求されているが、その見事な演技力には脱帽である。また、ヨーロッパ的な表現技術で、イスラム的な文物を描写する・・・というハイブリッドなビジュアルは、かなり独特。そうした異国情緒たっぷりの色彩と装飾は、日本のアニメを見慣れた目には新鮮に映るはずである。で、ストーリーそのものは、冒険モノなのに、観客をワクワクドキドキさせるような盛り上がりに乏しく、割と平板な印象を受けてしまうかもしれない。が・・・本作は、アドヴェンチャーの要素を強調したいわけではない。ほかにもっと主張したいポイントがあるのである。それは、移民が押し寄せる本国フランスでは既に深刻かつ重大な現実問題と化している、「人種・民族・文化の違いをどう乗り越えていくか」という極めて現代的な問題提起である。この問題を解決へと導くアイディアは、本作の中でもいくつか提示されているが・・・ラストシーンで提示される解決方法は、私の度肝を抜いた（！）。「目が点になる」とは、まさにこういうことを指すのであろうが、決して悪くない。小気味のよいエンディングであると言える。多文化共生のテーマを考えたい人は必見。ぜひともおすすめしたい。2本目は『レミーのおいしいレストラン』先行上映。優れた嗅覚と味覚を持つネズミのレミーは、ほかのネズミたちとは違い、残飯を盗むことを潔しとせず、自分で料理を作り出すのが好きであった。『誰でも名シェフ』の著者でもある天才シェフ、グストーの「真の情熱さえあれば誰でもシェフになれる」という信条に感銘を受けたレミーは、いつか一流のシェフになることを夢見ている。ある日、彼はふとしたきっかけから家族や多くの仲間と離れ離れになってしまうが、今は亡きグストーの幽霊に導かれてレストラン「グストー」へとたどり着く。そこで新入りの雑用係・リングイニが店のスープを台無しにしているのを目撃したレミーは、あわててスープの味を調える。リングイニの怪しい動きに気づいた料理長・スキナーは、スープの給仕を止めようとするが、既に遅かった。スープを注文した客に呼び出されたスキナーは、厨房に戻ってくるなりリングイニを問い詰める。客は批評家で、「この美味しいスープを作ったのは、どのシェフか？」と聞いたのであった。その直後、店のシェフたちに見つかってしまったレミーは捕らえられ、リングイニが始末を命じられる。レミーがスープを作ったことを見抜いたリングイニは、落ちこぼれの自分がレストランから追い出されるのを恐れるあまり、一緒に料理を作ってくれるようレミーに懇願し、彼を助ける。翌日、批評家の記事が新聞に載ると、リングイニはシェフの見習いとなることが認められ、先輩の凄腕女性シェフ、コレットがその教育係を担当することになる・・・。『トイ・ストーリー』『バグズ・ライフ』『モンスター・インク』『ファインディング・ニモ』『Mr.インクレディブル』『カーズ』で知られるピクサー・アニメーション・スタジオの最新作。ネズミたちの毛並みや、いかにも美味しそうな料理など、ビジュアルの質感が素晴らしい。また、ストーリー的にも、レミーとその家族・仲間やリングイニとの友情、リングイニとコレットの恋、仕事上のライバルの出現におびえつつも敵愾心を燃やすスキナーやかたくなな批評家のイーゴなど、それぞれのキャラクターを生かした展開が実に楽しい。きっと大人も子供も存分に満足できる1本で、来年のアカデミー賞長編アニメ賞の最有力候補になるのは間違いあるまい。「当選確実」と評しておこう。

  2007.07.26

• ［VOYAGE-245］　映画／魔笛＆ピアノの森。【2007.07.25 13:19:14】

  今日は近畿地方で梅雨明けしたらしい。三多摩でも晴れて朝から日差しが強く、いかにも夏らしい暑さとなったが、関東甲信地方の梅雨明けはまだお預けとのことである。ちなみに、府中のアメダスによれば、今日の最低気温は20.9℃（05:10）、最高気温は32.1℃（14:30）と、完璧な真夏日であった。ところで、今朝は「朝焼けの東の空が美しいなぁ～」と思っていたら、またしても地震が発生した。11時38分頃、神奈川県西部を震源とするM4.4の地震である。今日は丁亥年丁未月己未日。まだまだ油断は禁物であろう。さて、今日は、何かと忙しくて先週末に見に行けなかった映画を、2本見てきた。そこで、今日の記事では、それらの感想などを述べてみたい。1本目は『魔笛』。第一次世界大戦前夜のヨーロッパ。塹壕戦に従軍していた兵士タミーノは、毒ガス兵器による襲撃を受けて気絶しているところを、3人の従軍看護婦に救出される。彼女たちは夜の女王の侍女であり、夜の女王の娘パミーナが暗黒卿ザラストロに誘拐されていることを告げ、タミーノにパミーナ救出を依頼する。パミーナの写真を見て一目で惚れてしまったタミーノはそれを快諾し、毒ガス探知用のカナリアを飼育する兵士パパゲーノが彼に同行することになる。夜の女王は魔法の笛をタミーノに、チャイムをパパゲーノにそれぞれ渡し、3人の少年たちの道案内によってパミーナ救出の旅が始まるのであった・・・。モーツァルトの同名オペラを映画化したもの。とは言え、原作のオペラと本作の映画とでは、いくつかの設定変更がある。まず、時代と場所を「第一次世界大戦前夜のヨーロッパ」に設定することによって、地球規模・人類規模での「戦争と平和」という現代的なテーマを強調している点が挙げられる。夜の女王を「個人的な怨恨から戦争を仕掛けようとする一国の元首」、またザラストロを「戦争のない平和な楽園を地上に出現させようとする、もう一国の政治的指導者」として、それぞれ対比的に描いている。ザラストロの領地の共同墓地には英語・アラビア語・日本語などの多くの言語で刻まれた墓碑があり、世界大戦に対する静かな抗議を読み取ることもできよう。原潜ならぬ言泉「やまと」を名乗る私にも大いに関係のあるテーマであり、非常に興味深かった。また、そうした時代・場所の設定に伴い、細かい部分での変更も少なくない。たとえば、嘘をついたパパゲーノに対して、おしゃべりができなくなるようにするための手段：　　原作では「錠前」　→　本作では「ガスマスク」逃亡を企てたパミーナを懲らしめようとした、モノスタトスへの罰：　　原作では「足打ちの刑」　→　本作では「伍長に降格」といった具合である。さらに、全曲の歌詞もドイツ語から英語へと変更されている（その意味では、もはやジングシュピールではない！）。しかも、原作をそっくりそのまま忠実に翻訳したわけではなく、歌詞内容自体がところどころで大きく差し替えられているようである。上記のような設定変更に伴って、ドイツ語のままでは観客に違和感を与える（それゆえに、いっそのこと、すべて英語に変更してしまおう）と判断されたのかもしれない。あと、舞台芸術としてのオペラでは表現できないようなことを、本作ではいとも容易に表現している。オペラの舞台は物理的に狭いのに対して、スクリーンは実に広大な景観（スペクタクル）を提示できる。また、オペラの舞台装置を入れ替える際にはそれなりの時間を要するのに対して、スクリーンでは一気に場面転換を図ることができる。このように空間的・時間的な制約が少ない自由な表現は、本作の特徴の一つとも言える。オペラに比べれば展開がはるかにスピーディーで、あたかもミュージカル映画を見ているような気がした。もっとも、表現できるからと言って、その表現が必ずしも成功しているとは限らない。夜の女王がまるで「魔女」であるかのように空を飛び回るシーンもあったりするが、私にはその動きが「ハマーン・カーンのキュベレイ」に見えてしまったのである（とすると、パミーナはミネバ・ラオ・ザビで、ザラストロはシャア・アズナブルか？）。これなどは明らかに過剰な演出であると感じた。まあ、いずれにしても、原作あっての本作である。予習をしなければ楽しみが半減する、というより、単に「前衛的で奇妙な音楽映画」という印象しか与えない可能性すらある。そういう意味で、本作は一見さんにはあまりおすすめしない。事前にオペラを見ておいて、それがどのようにアレンジされているかをチェックする・・・というのが、本作の楽しみ方であろう。個人的にはそれで十分に楽しめた。2本目は『ピアノの森』。著名なピアニストの息子である雨宮修平は小学5年生。一時的に祖母を介護するため、母とともに、とある田舎町に引っ越してきた。転校してすぐにガキ大将「キンピラ」から因縁をつけられるが、同級生の一ノ瀬海に救われる。森の中に放置されているピアノを我流で弾くことが好きな海は、ピアニストを志す修平に興味を持ったのであった。二人は放課後に森の中へ行き、ピアノを弾こうとするが、鍵盤が重くて修平にはうまく弾けない。ところが、海は見事に演奏して、修平を感動させる。貧しい家庭に育ったためピアノを習ったことがないという海を、修平は自宅に連れて行く。しかし、そこでの海のピアノ演奏はひどいものであった。そのことを聞いた小学校の音楽教師・阿字野壮介は、自ら森の中に入って海のピアノ演奏を目撃し、思わず涙を流す。実は、森の中に捨てられていたこのピアノは、かつて阿字野が所有していたもので、彼のために作られた彼専用のピアノであった。それを弾きこなす海に対して、阿字野は「一緒にピアノをやらないか」と声をかける。その誘いを拒否した海であったが、ほかの曲はうまく弾けるのにショパンの「子犬のワルツ」だけがうまく弾けなかったことから、悔しさのあまり阿字野に教えを請うことになる・・・。『花田少年史』で知られる一色まこと氏の人気漫画作品をアニメ映画化したもの。そもそものキャラクター設定が全般的にお子様向きで、私自身としては今ひとつ感情移入しがたいものがあった。大人の鑑賞に堪えうるかどうかは微妙なところかもしれない。同じクラシック音楽を映像化したものであれば、個人的にはやはり『のだめカンタービレ』や『神童』のほうが好きである。ただ、上戸彩氏、神木隆之介氏、池脇千鶴氏、福田麻由子氏、宮迫博之氏といったキャスティングは決して悪くない。また、ウラディーミル・アシュケナージ氏がピアノ演奏に参加したりするなど、サウンドの面では申し分なかろう。そのピアノを聴く価値は十分にあると言える。

  2007.07.24

• ［VOYAGE-235］　映画／ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団。【2007.07.15 04:53:01】

  今日の14時頃に大隈半島に上陸した台風第4号は、鹿屋市付近→都城市付近→宮崎市付近を通って日向灘に出た後、さらに足摺岬付近を経て現在は土佐湾（沖）から紀伊水道（沖）に抜けようとしている。この台風によって南の暖かく湿った空気を供給された梅雨前線が活発になり、三多摩でも朝からやや強い雨が降り続いている。府中のアメダスによれば、今日の最低気温は20.5℃（24:00）、最高気温は22.9℃（01:00）であった。さて、今日は、火曜日の記事で「予約を入れた」と紹介した、とある映画の先行上映を朝イチで見てきた。先行上映を見たのは『ハッピー フィート』＆『ナイト ミュージアム』以来であるが、それはさておき、今日の記事ではこの映画を取り上げたい。その映画とは・・・言うまでもなく、『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』先行上映。ホグワーツ校の4年生の課程を終えたハリーは、夏休みに帰郷していた。復活を遂げた闇の帝王ヴォルデモート卿との戦いでセドリックが殺されたことを今も気にしていて、その悪夢にうなされている。そのことを悪友に咎められ、ケンカになりそうになったちょうどそのとき、空が急に暗くなってディメンター（吸魂鬼）が出現する。ハリーは呪文を唱えてどうにかディメンターを退散させる。しかし、マグル（魔力を持たない人）の前で未成年者が魔法を使うのは違法行為であるとして、魔法省はハリーの懲戒尋問を開く。ホグワーツの校長アルバス・ダンブルドアの弁護もあってハリーは無罪放免となるが、ヴォルデモート卿の復活を信じようとしない魔法大臣のコーネリアス・ファッジは、配下のドローレス・アンブリッジをホグワーツ校に送り込み、ダンブルドアや生徒たちを見張らせることにする。実戦向きの防衛術を一切教えずに学校の規律ばかりを強化するアンブリッジに対して、危機感を覚えたロンとハーマイオニーは、少数の同志を募ってダンブルドア軍団を結成し、ハリーを先生として防衛術を自学自習することにする・・・。J.K.ローリング氏の世界的なベストセラー、『ハリー・ポッター』シリーズの第5弾。本作の感想を述べる前に、まずはこのシリーズについて概観しておこう。　作品名　公開年月　日本での　興行収入『1』　ハリー・ポッターと賢者の石　2001年12月　203.0億円『2』　ハリー・ポッターと秘密の部屋　2002年11月　173.0億円『3』　ハリー・ポッターとアズカバンの囚人　2004年06月　135.0億円『4』　ハリー・ポッターと炎のゴブレット　2005年11月　110.0億円興行収入がだんだん下がっているのは気になるものの、実は私自身は劇場では『4』しか見ていない。『1』『2』『3』はTVで放送されていたのを見たり、さらにDVDも購入したりしているが、さほど熱心に見てはいないのである。にもかかわらず、前作『4』にはすっかりハマってしまった。『4』は先に「日本語吹替版」を見たが、後日「字幕版」も見てしまったほどである。なお、このシリーズを見るなら、私は「字幕版」のほうを推奨する。というのも、呪文の字幕にはルビが振ってあって、呪文の発音と意味が同時に理解できるからである。で、『4』にハマってしまった最大の理由は、おそらく「三大魔法学校対抗試合」というコンセプトであろう。私は個人的に『料理の鉄人』のような“技の競い合い”が好きらしい。この『4』が公開された頃、私は日本語学校で非常勤講師をしていたが、ちょうど「3クラス対抗のプレゼンテーション大会」があり、その賞品として“炎のゴブレット”ならぬ東京風月堂のゴーフレットを用意した・・・というエピソードを持っている。いずれにしても、三大魔法学校の生徒たちがホグワーツ校に入場する場面などは、完全にお気に入りと言える。また、もう一つの理由として挙げられるのは、『機動戦士Zガンダム』第50話（最終話）を思わせるような（死んだ人が愛する人を守る）戦闘シーンがあること。君は刻の涙を見る・・・ハリーがカミーユ・ビダンに見えてしまうのである。なお、エマ・ワトソン氏とエマ・シーンは、エマつながりではあるものの、全く関係がない（わざわざ言うまでもなかろう）。ようやく、ここから、本作の話題に移る。本作『5』を見ていて感じたのは、『スター・ウォーズ』との関連性である。今度はハリーがルーク・スカイウォーカーに、そしてヴォルデモート卿がダース・ベイダーに、それぞれ見えてしまった。まさに『5』つながりで、『帝国の逆襲』っぽい要素がいろいろと含まれているかもしれない。そう考えると、ロンがハン・ソロで、ハーマイオニーがレイア・オーガナ姫・・・には、なりそうもない。ハーマイオニーはともかく、ロンはC-3POかR2-D2といったところであろうか。それで、本作を見るためには、少なくとも前作『4』を事前に見ておくことが必須条件となる。その背景知識がなければ、葛藤のあまりダークサイドに陥りかけるハリーやその仲間たちに、感情移入することはできまい。シリーズの中で、本作が最高傑作である・・・と言えればいいのであるが、ちょっと微妙かも。前作『4』が第一課題「ドラゴンの競技場」、第二課題「湖」、第三課題「迷路」、そして「ヴォルデモート卿との戦い」といった具合に各ステージの切れ間がはっきりしていたのに対して、本作『5』はそうしたステージ設定が明確でなく、メリハリに乏しいのである。ひたすら重厚な方向へと進んでいく本作は、次作『6』『7』への“つなぎ”といった役割を担うのみ。『7』の結末を暗示するような「予言」もあるため、シリーズを最後まで見たい人には欠かせないはずである。ところで、この夏は、蜘蛛男とカリブの海賊と本作の「三つ巴の戦い」が展開されることになる。まあ、興行収入と作品の評価のよしあしは必ずしも一致しないのが映画の世界の常であるが、観客を最も多く動員するのは果たしてどの作品であろうか。その行方にも注目したい。

  2007.07.14

• ［VOYAGE-233］　映画／傷だらけの男たち＆ドルフィンブルー。【2007.07.13 03:32:25】

  今日の三多摩では、曇りで時々小雨が降った。府中のアメダスによれば、今日の最低気温は20.8℃（01:50）、最高気温は26.8℃（12:10）。かなり蒸し暑く、体を動かした後には全身から汗が吹き出てしまう。さて、それでは、昨日の記事の続きで、映画ネタを書き込むことにしよう。昨日見た3本目は『傷だらけの男たち』。2003年、クリスマスの香港。刑事ポンはバーで、飲めないウイスキーのグラスを片手に、容疑者の動きを監視していた。女性を連れて車で移動する容疑者を、ポンやその“ボス（上司）”のヘイらは大捜査網で追跡する。やがて容疑者と女性はアパートに到着。ポンやヘイらが部屋に踏み込むと、そこは女性ばかりを狙った連続殺人の犯行現場であった。こうして容疑者を逮捕し、疲れて帰宅したポンは、そこで恋人が自殺を図り、手首から血を流してベッドに倒れているのを見つける。それから3年。恋人の死から立ち直れないポンは、警察を辞め、しがない私立探偵となって酒浸りの日々を過ごしていた。一方、キャリアも順調なヘイは、億万長者チャウの娘スクツァンと結婚し、幸せな新婚生活を送っていた。そんなある日、チャウが自宅の豪邸で何者かに惨殺される。完璧なセキュリティ・システムを備え、見知らぬ者には絶対にドアを開けないほど警戒心の強いチャウが、どうやって殺されたのか。不可解な点が多い父の死に疑問を覚えたスクツァンは、ポンに独自の捜査を依頼する。彼の協力によって捜査が進むにつれ、ある過去が明らかになっていく・・・。『インファナル・アフェア』を手がけたチームが、金城武氏や再びトニー・レオン氏らを起用して製作した香港ノワール。本作もハリウッドでのリメイクが決定していて、『ディパーテッド』と同様にレオナルド・ディカプリオ氏が起用されるとのことである。オーディオセットへのこだわりなど、やはり『インファナル・アフェア』っぽい雰囲気が漂い、その暗く重い世界観にハマった人には魅力的な作品と言えるかもしれない。4本目（今日見た1本）は『ドルフィンブルー　フジ、もういちど宙へ』。新任獣医として東京から沖縄美ら海水族館にやってきた植村一也。海獣課に配属された彼は、魚のひれを切り落としてイルカの餌を作ったり、プールの掃除をさせられたりと、飼育員並みの待遇に不満を隠せなかった。しかし、それは「イルカのことをよく知らなければ治療などできるはずがない」という館長の方針であった。一也は、そうした水族館のスタッフたちと時にはぶつかり、時には励まされながら、獣医としての実務経験を積んでいく。ある日、3頭もの子どもを産み育てて“ビッグマザー”とも呼ばれる、バンドウイルカのフジに突然の異変が起きる。フジは原因不明の病気にかかり、尾びれが壊死し始めていたのである。放置すれば死に至るため、一也たちは一か八かでその尾びれの切除を決断。手術には成功したものの、フジは泳ぐことができずに水に浮かんでいるだけであった。そんなフジをじっと見守る少女・ミチルに「泳げないイルカはイルカじゃない！」と責められた一也は、ウミガメの手びれをゴムで作った事例を知り、館長に相談。世界初の人工尾びれを開発するため、一也は世界的タイヤメーカーのブリヂストンへと交渉に向かう・・・。実話を基にした熱血青春ストーリー。一歩間違えれば『プロジェクトX』のようなモノローグ調の「お涙頂戴モノ」になってしまうところを、主演の松山ケンイチ氏らの熱演などもあって、どうにか一線を画している。人々の善意や熱意といったものを過剰に賛美している、という批評もありうるが・・・それはそれで、私個人としては、決して嫌いな路線ではない。そういう情熱的な人々とは対照的に、水族館ならではの涼しい光景も見どころの一つ。ジンベイザメやマンタが泳ぐ世界最大級の水槽をバックに、館長役の山崎努氏が一人でたたずむシーンなどは、これを見るだけでも癒されそうである。こうした深いコバルトブルーの水の色は、これからの季節には最適であろう。また、本作では、イルカの賢さの一端にも触れることができる。治療のため別の水槽に行っていたフジが元の水槽に復帰するときに、ほかのイルカたちが「お帰り～」と言わんばかりに一緒に身を低くして待っていたりするのである。仲間思いというか、社会形成能力の高さには目を見張るものがある。本作では触れられていないものの、イルカの社会では出産年齢に達する前の若いメスに子育ての補助を担当させるなど、社会経験を通じて次世代の母親を育てていくという。（次世代の育て方を知らない現代の）人間たちも見習うべきかもしれない。それにしても、やや余計な指摘ではあるが、表題の「宙」を「そら」と読ませるのは、『機動戦士ガンダム』を見て育った世代の仕業であろうか。

  2007.07.12

• ［VOYAGE-232］　映画／転校生＆アヒルと鴨のコインロッカー。【2007.07.12 08:20:59】

  三多摩の府中のアメダスによれば、今日の最低気温は21.8℃（23:00）、最高気温は25.4℃（18:20）。気温そのものは高くはないが、湿度が高く、やや蒸し暑く感じられた。天気は曇りで、時折ごく弱い雨が降っていた。とは言え、日没の時間帯には、空全体は曇っていたのに、西の空の地平線近くには雲に隙間ができていて、茜色の光が差し込んでいた。ちょっと不気味なものを感じる・・・約1か月前にも夕焼けの空を見て胸騒ぎ（何か天地を揺るがすことが起きそうなイヤ～な予感）を覚えたが、あの時は3日後に渋谷区の温泉施設「シエスパ」で爆発事故があった。何かの天変地異や人災の前兆でないことを祈りたい。さて、今日は、映画を3本見てきた。また、明日も、特段の事情がない限り、もう1本見るつもりである。そこで、今日の記事では、それらのうちの前半2本を紹介しよう。後半2本は、明日の記事で紹介することにしたい。1本目は『転校生　さよならあなた』。中学3年生の斉藤一夫は、両親の離婚をきっかけとして、母と二人で尾道から信州へと引っ越してきた。信州は母の故郷で、一夫も幼い頃一時的に過ごしたことがある。転校先の中学では幼馴染の斉藤一美と再会する。一夫の記憶は曖昧であったが、一美は一夫の「恥ずかしい」思い出話をぺらぺらと語り、周囲から冷やかされる始末。一美の彼氏である山本弘からは、「彼女は空想の物語の世界に入り込む癖がある」との解説を受ける。今ひとつ思い出せない一夫に対して、「大好きだったそばを食べれば思い出す」と言って、一美は一夫を自分の実家が営むそば屋へと連れて行く。そこは、祖父・父・母・姪（兄の一人娘）が一緒に暮らす、にぎやかな大家族。話の流れで、二人は思い出の場所である「さびしらの水場」を訪れることになった。長い柄杓に水を汲み入れて、その水を飲もうとした瞬間、バランスを崩した二人は水の中へと落ちる。やっとのことで水から這い上がり、ぼーっとした頭でそれぞれの自宅に帰ると、二人の体が入れ替わっていることに気がつく・・・。尾道三部作の『転校生』を大林宣彦監督が自らリメイクしたもの。外見は女の子（一美）なのに妙に男の子（一夫）っぽい言葉遣いやしぐさを見せる蓮佛美沙子氏と、その逆で外見は男の子（一夫）なのに妙に女の子（一美）っぽい言葉遣いやしぐさを見せる森田直幸氏。この二人の「ハーフ」っぽい渾身の熱演があまりに役に入り込んでいて、思わず笑ってしまう場面もいくつかあった。その点では、実に見事であったと言える。ストーリーとしても、ちょっとほろっとさせられる展開があったりして、決して悪くはなかった。ただ、妙に斜めに傾けたカメラアングルを多用しているが、そうしたビジュアル効果は最初のうちは面白かったものの、だんだんと違和感を覚えてしまった。また、『ゲド戦記』のワンシーンをまねしたかのような歌の場面は、『ゲド戦記』そのものがイマイチであったため、個人的には微妙かも。2本目は『アヒルと鴨のコインロッカー』。仙台の大学に進学し、アパートで一人暮らしを始めることになった椎名。ボブ・ディランの「風に吹かれて」を口ずさみながら、引っ越しの荷物を片付けていると、隣室に住む男・河崎から声をかけられる。同じアパートに住むブータン人のドルジが日本語が分からずに引きこもっているため、彼に広辞苑をプレゼントしたいという河崎は、椎名に本屋襲撃の話を持ちかける。わけが分からないままモデルガンを渡されて本屋襲撃の「後方支援」に加わった椎名に対して、河崎は「ペットショップの店長・麗子に気をつけろ」と告げる。果たして、ボブ・ディラン、河崎、ドルジ、麗子を結ぶ接点は・・・。原作は第25回吉川英治文学新人賞、第1回本屋大賞第3位、「このミステリーがすごい！2005年版」国内編ベスト10第2位に輝いた伊坂幸太郎氏の同名小説。冒頭こそ奇妙ではあるが、ストーリーが進展して（というより、遡って）いくうちに真相が明らかになり、何とも言いがたい感傷に襲われてしまう。作品としては小粒ながら、濱田岳氏、瑛太氏、関めぐみ氏、松田龍平氏、大塚寧々氏といったキャストの熱演もあって、なかなかの傑作であった。MovieWalkerのユーザーランキングで高い評価を得ていたのも（オール仙台・宮城ロケだけに？）ダテではなかろう。

  2007.07.11

• ［VOYAGE-222］　映画／シュレック3＆ダイ・ハード4.0＆憑神。【2007.07.02 06:49:06】

  今日は一日曇り。三多摩の府中のアメダスによれば、今日の最低気温は19.9℃（02:50）、最高気温は27.6℃（14:00）であった。湿度は高いものの、このくらいの気温なら過ごしやすく感じられる。さて、もはや言うまでもなく、毎月1日は「映画の日」である。3月1日は見なかったが、4月1日、5月1日、6月1日は各2本。今日は・・・3本見てきた。今日の記事では、それらを紹介することにしたい。1本目は『シュレック3』。フィオナ姫と結婚して幸せな生活を送っていたシュレックは、姫の父・ハロルド国王が病床にあったことから、一時的に国王代理を務めていた。やがて国王の容態が悪化し、シュレックとフィオナ姫は「遠い遠い国」の王位を継ぐように言われる。しかし、窮屈な役割に飽き飽きしていたシュレックはその要請を拒否。王位継承権を持つもう一人の若者、魔法学校生のアーサーを迎えに行くため、仲間のドンキーや長ぐつをはいた猫とともに船旅に出る。一方、シュレックに野心を阻まれ続けてすっかり落ちぶれていたチャーミング王子は、一気に巻き返して王座を奪取すべく、おとぎの国の悪役たちと手を組んで反乱を企てていた・・・。ドリームワークスの人気CGアニメ・シリーズ第3弾。私自身は『2』を見たが、毒々しい映画ネタ（というか、内輪ネタ）に面食らったものである。ところが、本作『3』は、そうした毒がほとんど見られない。ごくごく平凡な、おとなしい作品に仕上がっている。私の「期待」が外れ、別の意味で面食らってしまった。まあ、CGアニメ技術の向上は確かであり、めまぐるしく動き回るアクションや、セレブのお嬢様（白雪姫、シンデレラ、眠れる森の美女）の美しさなどは、それなりに一見の価値があるかもしれない。2本目は『ダイ・ハード4.0』。独立記念日の前夜。全米の公共機関に対するネットワーク不正侵入の動きが顕在化し、ワシントンD.C.のFBI本部に設置されたサイバー犯罪部のボウマン部長は、ブラックリストに載っているハッカーの一斉捜査を命じた。たまたま管轄外のニュージャージーにいたニューヨーク市警のジョン・マクレーン刑事にも、近くに住むハッカー、マットの身柄を確保するよう命じられる。しぶしぶマットの自宅に向かったマクレーンは、突然そこで何者かの襲撃を受け、激しい銃撃戦に巻き込まれる。やっとのことで脱出したマクレーンとマットは、FBI本部に到着すると、有能なハッカーが次々と殺されている事実を知る。どうやら、マットが手を貸していた組織が、口封じのために彼らを「消去」したらしい。しかし、サイバー・テロが本格化して交通網が麻痺に陥ったため、マットの事情聴取は別の部署へとたらい回しされる。その移動中に再びマットが命を狙われ、マクレーンはテロリスト集団との戦いを余儀なくされるのであった・・・。おなじみ、運の悪い刑事をブルース・ウィリス氏が主演するアクション・シリーズの第4弾。昔、『1』をテレビで見たとき、私は自分の体温が1～2℃上昇していると感じたくらい興奮させられたのを覚えている。その不朽の名作『1』ほどは興奮しないとしても、肉弾戦、銃撃戦、カー・チェイス、空中戦・・・と、アクションがてんこ盛りの本作『4.0』も相当にレベルが高く、十二分に見ごたえがあると言える。そうした「アクション」のみならず、携帯電話すらロクに使えないアナログ人間のマクレーンが、国家の安全と娘の生命を守るために、オタク趣味を持つデジタル人間のマットと手を組む・・・という「バディ・ムービー」としても、楽しめそうである。個人的には、ちょっと思わせぶりなラストシーンが気に入った。3本目は『憑神』。幕末の江戸。将軍の御徒（影武者）を代々務めてきた由緒ある家柄に生まれた別所彦四郎は、幼い頃より文武に優れ、秀才の誉れが高かった。しかし、婿養子に入っていた妻の実家からは、乱闘事件を起こした部下の不始末の責任を取らされる形で離縁され、出世の道は閉ざされていた。ある日、幼馴染の釜次郎（榎本武揚）がオランダ留学後に海軍奉行にまで出世したのは向島の三廻稲荷神社にお参りしたおかげ、と聞いた彦四郎は、酔って偶然通りかかった三巡稲荷で手を合わせる。すると、貧乏神、疫病神、死神が彼に取り憑き、次々と災難に見舞われることになる・・・。原作は浅田次郎氏。主演の妻夫木聡氏をはじめとして、脇を固めるキャストが実にコミカルな演技を見せている。特に西田敏行氏が演じる伊勢屋（貧乏神）は抱腹絶倒モノで、笑いが止まらないに違いない。しかしながら、そういうユルユルの脱力系ムービーは前半まで。後半に入ると、雰囲気がガラリと変わって、妙にシリアスになる。私自身はそのギャップについていけず、少々違和感を覚えてしまった。しかも・・・ラストシーンは完全に蛇足である。あんなシーンを挿入するくらいなら、主題歌を歌う「米米CLUB」の映像を見せてくれたほうがましであろう。

  2007.07.01

• ［VOYAGE-219］　映画／紅い鞄＆きみにしか聞こえない。【2007.06.29 03:03:10】

  今日も昨日同様、晴れたり曇ったりの天気であった。三多摩の府中のアメダスによれば、今日の最低気温は21.7℃（04:30）、最高気温は31.5℃（12:40）。再び真夏日で、かなり蒸し暑く感じられた。さて、今日は、映画を2本見てきた。今日の記事では、それらについて記すことにしたい。1本目は『紅い鞄　モォトゥオ探検隊』。山登りを趣味とする上海在住のある老人は、チベット（西蔵）自治区の東南部にあるモォトゥオ（墨脱）県にやって来る。メンパ族が住むその県は「中国最後の秘境」とも呼ばれ、中国で唯一、いまだに自動車道路がなく、子供たちは学校に通うのにヒマラヤ山脈の山を登り川を渡り長く険しい道のりを歩くという生命の危機にさらされながら、文字通り命がけで教育を受けていた。そのことに心を痛めた老人は、道なき道を分け入って現地に移住し、私財を投じて小学校を建設することにした。その事実を知った上海の新聞記者ワンは、老人に会って取材をするために、ふもとの村までやって来た。そこには、老人の心臓病を診察するために同じく上海から来ていた都会育ちの女医や、地元の校長先生とその娘、さらにはシェルパたちが、老人のもとへ向かうべく集まっていた。こうして、彼らの過酷な旅が始まろうとしていた・・・。2003年に中国で制作されたロードムービー。エフエムラジオ立川の開局を記念して、立川教育振興会やNPO法人日中体育環境教育整備協会の協力で上映されている。したがって、他の地域の映画館では公開されていないはず。雪崩、落石、底なし沼、激流、断崖絶壁・・・と、とんでもない危険と困難のオンパレードである。しかしながら、今日のハリウッドなどでは絶対にまねのできないような、チープな映像もあり、思わず苦笑してしまった。「♪カメラさんと、照明さんの、後に入る～」という嘉門達夫氏の歌ではないが、川口浩氏の探検隊を思い出してしまう場面があるかもしれない。そうした絶景の間に、ベタな人間ドラマもいくつか挿入されている。地元の少数民族メンパ族が非常に純朴な人々として描かれる一方で、物事の処理を金銭で解決するといったダーティな役柄は上海人に割り当てるなど、かなりのステレオタイプが含まれていそうである。現代中国の価値観が垣間見えるような気がして、実に興味深かった。原題は『心跳墨脱』。その邦題が『紅い鞄』に変わったのは・・・作品のクライマックスで明らかになるに違いない。本作は、まさに「中国最後の秘境」に触れることのできる、「心の清涼剤」とも言えよう。2本目は『きみにしか聞こえない』。横浜に住む女子高生・相原リョウは、人前で話すのが苦手で、友達がいないため携帯電話も持っていない。そんな彼女はある日、おもちゃの携帯電話を公園で拾う。その翌日の授業中に、彼女の頭の中で携帯電話の着信音が鳴り響く。気分が悪くなって保健室で休んでいる際に再び着信音があり、電話に出てみると、相手は野崎シンヤと名乗る、長野に住みリサイクルショップで働く青年であった。それ以来、二人は時々、頭の中の携帯電話で会話することができるようになった。次第に心を開いていくリョウに対して、シンヤはある提案をする。それは、シンヤが仕事で上京するときに、リョウに会いたい、というものであった・・・。人気作家・乙一氏のファンタジー小説が原作。映画『神童』で主役の成瀬うたを演じた成海璃子氏と、月9ドラマ『のだめカンタービレ』でモジャモジャこと奥山真澄を演じた小出恵介氏の、コラボレーションである。ストーリーそのものはファンタジーであるため、それに文句を付けるのはあまり意味がないとは言え、腑に落ちない部分もいくつかある。たとえば、相原リョウから野崎シンヤに電話をかけようとしたときに、なぜか間違えて原田リョウという人物につながってしまうのであるが、この原田リョウの言動が不可解で、最後まで謎が解けない点である。まあ、そうした不満はあるものの、「二人の間になぜか1時間の時差がある」という設定が、クライマックスの感動を「一粒で二度美味しい」ものにしているなど、いろいろと趣向を凝らしているのも確かであろう。なお、野崎シンヤは耳と口が不自由であることから、ところどころで手話が使われている。本作では手話の内容を字幕で表示していないが、それは、クライマックスで使われる手話の内容を、ラストで解説してクライマックスの感動を再現（リフレイン）する場面があるからである。手話の分かる人はその内容を先取りしてしまうことになり、損した気分になってしまうかもしれない（？）。最後に余談。この2本目のクライマックスの最中に、多摩西部を震源とするM4.1の地震が発生した。揺れ始めた当初は、すすり泣いている観客の誰かが椅子を揺らしているのか・・・とも思ったが、揺れが長くて不自然であったため、おそらく地震であろうと推測した次第である。

  2007.06.28

• ［VOYAGE-212］　映画／舞妓Haaaan!!!＆キサラギ。【2007.06.21 22:14:59】

  三多摩の府中のアメダスによれば、今日の最低気温は22.1℃（05:30）、最高気温は32.7℃（12:40）。3日連続の真夏日で、しかも今年一番の暑さとなった。晴れたり曇ったりの天気であったが、午後から大気の状態が不安定になり、夕方にはにわか雨も通り過ぎた。梅雨前線は一体どこへ・・・と探してみると、今日は沖縄地方で梅雨明けした一方で、北陸地方と東北地方が梅雨入りしたとのことである。いつの間にか北上して（鈴木大地選手のバサロ泳法のように？）関東甲信地方をスルーし、その北側で雨を降らせているらしい。この梅雨前線は、幸か不幸か、これから週末にかけて徐々に南下してくるようである。さて、それでは、昨日の記事の続きである。昨日見た4本の映画のうちの、後半の2本について述べたい。3本目は『舞妓Haaaan!!!』。鬼塚公彦は、鈴屋食品の東京本社に勤務する平凡なサラリーマン。かつて修学旅行のときに京都で迷子になったところを夢川町の舞妓さんに優しく接してもらって以来、彼は熱狂的な舞妓ファンとなり、ホームページ『ボンの舞妓日記』を管理するほどであった。ある日、彼は念願が叶って京都支社への転勤が決まる。しかし、「一見さんお断り」のお茶屋で舞妓さんと遊ぶためには、常連客の誰かに紹介してもらうことが必要であった。公彦は自分の会社の社長・鈴木大海が常連であることを知り、彼に取り入って「仕事で結果を出せば、連れて行ってやる」と約束してもらう。以来、死に物狂いで新商品を開発し、会社の売り上げに貢献する。公彦はついに、社長と一緒にお茶屋へ遊びに行くが、そこで豪遊していたのは年俸8億円のプロ野球選手・内藤貴一郎であった。他方、公彦の同僚OLで、彼の京都支社転勤を機に彼に捨てられた元カノの大沢富士子は、公彦のことが忘れられず、舞妓になることを志して京都で修行を始めるのであった・・・。クドカンこと宮藤官九郎氏の脚本によるハイテンション・コメディ。鬼塚公彦役の阿部サダヲ氏、内藤貴一郎役の堤真一氏、大沢富士子役の柴咲コウ氏に加えて、小出早織氏、真矢みき氏、吉行和子氏、キムラ緑子氏、生瀬勝久氏、Mr.オクレ氏、伊東四朗氏といった錚々たるキャストが脇を固めている。チョイ役で出演している植木等氏の遺作でもある。人物設定からして常軌を逸しているため、ストーリーはあってないようなもの。めまぐるしい展開ではあるが、決して難解ではなく、（共感の有無は別として）状況が分からないということはなさそうである。主人公たちの妄想・暴走による瞬間芸的な（体力勝負の？）ギャグで爆笑できるとは言え、観客に対するカタルシス効果も瞬間的で長続きせず、すぐに忘却してしまうはず。それなりに面白いが、後には何も残らない（むなしさだけが残る？）かもしれない。4本目は『キサラギ』。売れないアイドル・如月ミキが謎の自殺を遂げてから、ちょうど1年。その私設ファンサイトによく書き込んでいた「家元」、「オダ・ユージ」、「スネーク」、「安男」、「イチゴ娘」というハンドルネームの5人が、一周忌追悼会に集まり、初めてオフラインで顔を合わせる。彼女の思い出を熱く語る彼らであったが、やがて「彼女は自殺なんかするような娘じゃない、殺されたんだ」という発言をきっかけに、彼女の死をめぐる男たちの推理が始まる。その過程で、意外な真実が次々と明るみに出され、彼らの推理は二転三転していくが・・・。小栗旬氏、ユースケ・サンタマリア氏、小出恵介氏、塚地武雅氏（ドランクドラゴン）、香川照之氏という個性的な芸達者たちによるワンシチュエーション・サスペンス。「密室劇」という言い方も可能であろう。怪演という意味では香川照之氏に、また、おトボケという意味では塚地武雅氏に、それぞれ敵う者はいないかもしれない。が、個人的に一番笑えたのは、ハンドルネーム「オダ・ユージ」を演じていた「ユースケ・サンタマリア」氏。この名前の組み合わせと言えば・・・もう、あのネタしかないであろう。2003年7月公開の『2』を映画館で3回も見て、しかも「劇中で使われていた」という理由だけで同じノートPC（当時の最新モデルdynabook C8）を購入したほどハマり込んだ私にとっては期待通りの、名台詞を発してくれた。本作の予告編を見る限りではあまり面白そうに思えなかったことから、当初は見るつもりはなかった。しかしながら、MovieWalkerのユーザーランキングで非常に高い評価を得ていたため、急遽見ることにした次第である。その評価は全く間違っていなかった。上の『舞妓Haaaan!!!』が瞬間的な笑いなら、本作は構造的（あるいは、重層的）な笑いと言える。プロットが積み上げられていく中で、おかしさも倍増していく・・・といった感じなのである。今月の「おすすめの1本」として推薦しておこう。

  2007.06.21

• ［VOYAGE-211］　映画／ゾディアック＆ラストラブ。【2007.06.21 07:29:22】

  今日は一日を通じてよく晴れた。気温は昨日と大差なく、三多摩の府中のアメダスによれば、最低気温は20.0℃（04:20）、最高気温は30.8℃（12:00）であった。6日前に梅雨入りして以来、真夏日は今日で4日目である。さすがにそろそろ雨が恋しくなりそうな気分であろう。さて、今日は、朝から夜まで映画三昧の一日を過ごし、帰る頃には足がすっかりくたびれてしまった（エコノミークラス症候群の一歩手前？）。いずれにせよ、今日一日で計4本も見たことから、今日の記事ではその前半の2本を取り上げたい。1本目は『ゾディアック』。1969年7月4日夜、サンフランシスコ郊外のバレーホ。道路わきに停車していた車の中にいた若い男女が、暗がりの中で見知らぬ男に銃撃され、女性は死亡、男性も重傷を負った。その1か月後の8月1日。「ゾディアック」を名乗る人物から、3つの新聞社に犯行声明が送りつけられた。その内容は、1968年12月20日にハーマン湖で高校生のカップルが銃で殺害された事件と、1969年7月4日の事件についての、犯人しか知りえない情報が書いてあった。そこには奇妙な暗号文もあり、それを新聞の第一面に掲載しなければ今後次々と殺人を起こすことが予告してあった。暗号文は新聞に掲載され、すぐに解読されるものの、やがて第3の殺人事件が起こり、サンフランシスコ一帯はパニックに陥る。サンフランシスコ・クロニクルの漫画家ロバート・グレイスミス、同新聞社の記者ポール・エイブリー、サンフランシスコ市警のデイブ・トースキー刑事とウィリアム・アームストロング刑事らは、犯人との長期にわたる総力戦に身を投じていくことになる・・・。今なお解決に至っていない実在の劇場型連続殺人事件を、徹底したリサーチによってサスペンスおよび人間ドラマとして再現したもの。2時間半以上にも及ぶ長さであるが、必ずしも長いとは感じなかった。本作の主人公たちと同様に、事件の展開にグイグイと引き込まれてしまったようである。犯行そのものは非常に薄気味悪くてひんやりとした恐怖感を覚えるものの、それとは対照的に、事件に翻弄される主人公たちの熱血漢ぶりがなかなか見事であった。2本目は『ラストラブ』。サックス奏者としてニューヨークのジャズ・シーンで活躍していた阿川明。しかし、5年前に妻の友美をガンで亡くして以来、サックスを封印。日本に帰国し、友人の旅行会社に勤めながら、横浜の根岸で一人娘の佐和と暮らしてきた。ある日の朝、ごみを分別せずに出した明は、神奈川県庁の環境局の女性職員・上原結にきつく注意される。その日、結は突然上司から指示を受けてニューヨークへ出張することに。一方、明も会社の都合で急にツアーコンダクターとしてニューヨークに向かうことになった。この二人は飛行機の機内で隣り合わせ、偶然の再会を果たす。二人はニューヨークでもばったり出会い、結婚間近の結に対して明はいろいろとアドバイスをする。その直後に、結は婚約者から別れを告げられて激しく落ち込んでいるところを、明はジャズクラブへと誘う。幼い頃に父親を失って女手一つで育てられた結は、父親のように信頼できる明に対して、大人の男性としての魅力を感じ始めるのであった・・・。原作はYoshi氏の小説。14年ぶりにスクリーンに復帰する田村正和氏が、伊東美咲氏らと共演するという豪華なキャスティングが注目されている。そのキャスティング自体には決して問題はない。しかし・・・途中で見るのをやめたくなるくらい、内容的にはしらけてしまったのである。原作なのか脚本なのかは不明であるが、ありえない設定が目白押しで、とにかくリアリティに乏しいせいであろう。たとえば、細かい部分ではあるものの、1）ごみ収集は神奈川県庁ではなく横浜市役所の所轄であり、都道府県と政令指定都市との仲の悪さを考えれば、市役所のごみ収集に県の職員が同行するようなことはまずありえない。2）県庁で突然海外出張を指示することはありえない。公費で出張する以上、事前に相当な準備が不可欠である。3）公費で出張した県の職員が、出張の目的以外に、私用で美術館めぐりをしたり自分の結婚式場の下見をしたりするようなことは許されない。仮にやるとしても、他言を避けるなどバレないように工夫するのが常道である。4）県庁の出先機関での勤務ならともかく、本庁でデスクワークをするような職員は、気軽に休みを取ったり定時退勤ができるとは限らない。「地方公務員はヒマである」というステレオタイプが色濃く読み取れ、必ずしも実態にそぐわない。5）李玲という女性が、サックスを演奏する明を見て、ジャズ・シーンへの復帰を説得する場面がある。そこでは初対面にふさわしい表現を使うべきであるが、ユンソナ氏が演じる彼女は全くありえない日本語で話しかけている。もしそんな話し方を教えた日本語教師がいるとしたら、その教師には「失格」の烙印が押されるであろう。などなど、数え上げればきりがない。「神はディテールに宿る」とも言われるが、これほどまでに細部の設定が破綻しているのは、（とりわけ公務員の描写に関しては）柴咲コウ氏がハイパーレスキュー隊員を演じた『日本沈没』以来かもしれない。横浜でのロケに協力した横浜フィルムコミッションの寛容さには感心してしまう。そうした人物設定のみならず、確率論的にほとんどありえない偶然が何度も何度も積み重なっていくという状況設定（ストーリー展開）にも、失望を禁じえなかった。ついでに言えば、観客を無理やり余韻に浸らせようとするラストシーンもダメダメであった。私自身としては、2007年上半期に既に65作品を見てきたが、この半年間で一、二を争う「大失敗作」に推薦できそうである。まあ、14時間しか滞在できなかったという個人的な恨みもあり、私にとってニューヨークは鬼門と言えよう。わざわざその地で日本映画を撮影するのなら、十分に心して臨んでもらいたいものである。

  2007.06.20

• ［VOYAGE-203］　映画／300＆プレステージ。【2007.06.13 04:02:02】

  今日は晴れて日中は暑かった。三多摩の府中のアメダスによれば、最低気温は17.5℃（04:10）、最高気温は28.8℃（12:40）であった。さて、今日は、映画を2本見てきた。そこで、例によって、今日の記事ではその感想などを記してみたい。1本目は『300（スリーハンドレッド）』。前480年、古代ギリシア。アケメネス朝ペルシアのクセルクセス1世は、先代のダレイオス1世が果たせなかったヨーロッパ征服を成し遂げるべく、陸海の大軍を擁して自らギリシアに迫っていた。その特使はスパルタに到着するや否や、ペルシアへの服従の印である「土と水」を要求。しかし、スパルタ王レオニダスはこの要求を拒否して特使を葬り去ったが、神の託宣はペルシアとの戦争を認めなかった。苦悩の末、レオニダスは国の法を犯して開戦を決意し、精鋭300人を率いてテルモピュライの隘路へと向かう。たとえ敵が100万人もの大軍であったとしても狭い山道の陸路なら互角に戦える、との判断からであった・・・。基本的には史実に基づく劇画を映画化したもの。まず特筆すべき点は、洗練されたビジュアル。『マトリックス』のようなスローモーションなどを多用していて、そうした画像処理が実に見事なのである。R-15指定を受けている古代戦争の映画だけに、血や肉が吹き飛ぶシーンが無数にあるが、その映像ですらも芸術的な鑑賞に堪えうるほど（？）の美しさを兼ね備えている。オープニングの「ワーナー・ブラザース」のタイトルからして、本作が只者ではないことを予感させるに違いない。ストーリー展開も冴えている。少年時代のレオニダスが、母親から引き離されて文字通りのスパルタ教育を受けながら成長していく様子から始まり、そこで習得した戦い方がその後の人生で活かされることになる・・・という伏線の張り方は巧みであろう。さらに、レオニダス役のジェラルド・バトラー氏をはじめとするキャストの熱演なども、申し分ない。敵方のペルシア軍の「おどろおどろしさ」とのコントラストもはっきりしていて、主人公側に自然に感情移入できるはずである。それにしても、日本の特攻隊が「愛する人を守りたかった」と言いながらも結局は自滅が目的でしかなかったのに対して、このスパルタの300人の「決死の覚悟」は目的でなく手段であったことが、本作のラストシーンで明らかになる。「武士道といふは死ぬ事と見付けたり」などと、自慰行為を賞賛する日本文化との差異を、感じずにはいられなかった。2本目は『プレステージ』。19世紀末、ロンドン。ロバート・アンジャーとアルフレッド・ボーデンの若い二人は、中堅奇術師ミルトンの下で見習いのマジシャンとして修行を積んでいた。ある日、ミルトンのアシスタントを務めていたアンジャーの妻ジュリアが、水中脱出のトリックに失敗して死亡する。アンジャーは、ジュリアの縄を縛ったボーデンを疑うようになり、二人の関係は険悪化する。それ以来、「グレート・ダントン」の名で知られるアンジャーと、「ザ・プロフェッサー」の愛称で評判のボーデンとは、ことあるごとに対抗措置を繰り広げていく。やがて、アンジャーのマジックの舞台裏で彼の死を目撃したボーデンは、アンジャー殺害の容疑で逮捕されてしまう。この二人の間で展開された「トリック」とは、果たしてどのようなものであったのか。そして、最後に笑うのはどちらなのか・・・。本作の題名は、プレッジ（タネや仕掛けがないことの「確認」）→ターン（観客の期待に背かないパフォーマンスの「展開」）→プレステージ（予想を超えた驚きを提供する「偉業」）というマジックの3ステップに由来する。ロバート・アンジャー役のヒュー・ジャックマン氏（『X-MEN：ファイナル ディシジョン』『ヴァン・ヘルシング』）と、アルフレッド・ボーデン役のクリスチャン・ベール氏（『バットマン　ビギンズ』）の、手に汗を握るバトルおよびマジックが見もの。ほかに、重鎮マイケル・ケイン氏やスカーレット・ヨハンソン氏らが、ドラマにうまく絡んでいる。意表を突く結末に際しては、「うわっ、すげぇ！　そういうことか」と思わず拍手喝采をしたくなるか、「何だ、そりゃ？」とあきれてしまうか、のどちらか。個人的には後者の印象を得たが、頭の中でストーリーを反芻するうちに、少し前者に傾いたようである。逆に言えば、本作は、見終わった後で、頭の整理が必要になるのかもしれない。もし、そういう必要に迫られた場合には、MovieWalkerの「ネタばれ徹底検証」サイトが役に立ちそうである。

  2007.06.12

• ［VOYAGE-196］　映画／ザ・シューター＆大日本人。【2007.06.06 17:15:06】

  余談として、まずはパーソナルな話題から。私が住んでいるマンション（の奥）に隣接する家屋には大家が住んでいて、シベリアン・ハスキーを飼っている。15～16歳の老犬で、ほとんど吠えないものの、好奇心は旺盛らしい。たまに私などが近くを通り過ぎようとする際には、（視力が衰えているせいもあってか）必ず鼻をギリギリまで近づけて、誰が通り過ぎるのかを確認しようとするのである。まあ、そんなわけで、この犬が勝手にマンションの敷地を歩き回らないように・・・との配慮から、大家が犬と散歩に行くときを除いて、マンションの敷地と大家の家屋との間には常に門が閉められている。ところが、昨日は、私が自宅を出た朝も、帰宅した夜も、その門が開きっぱなしで、犬の姿が見えなかった。妙な気がして、今日、遠目から犬小屋を見ると、（仏事用の）花束が置かれていることに気づいた。どうやら身罷ってしまったようである。ああっ、残念・・・。合掌。さて、今日は、映画を2本見てきた。そこで、今日の記事では、その感想などを述べたい。1本目は『ザ・シューター　極大射程』。アフリカの小国エリトリア。米海兵隊の特殊部隊に所属する狙撃手のボブ・リー・スワガーは、観測手を務める相棒のドニーとともに、車両の撤退を支援する偵察任務に就いていた。敵の攻撃が激しくなって応援を要請する彼らであったが、軍は彼らを置き去りにする。この戦闘でドニーが死亡。スワガーも命からがら脱出する。それから3年。既に除隊したスワガーは、世間とのかかわりを避け、ワイオミングの山中でひっそりと暮らしていた。ある日、アイザック・ジョンソン大佐とその部下が、スワガーのもとを訪れる。大統領暗殺の動きがあり、それを阻止するために、スワガーの腕と経験が買われたのである。彼らは犯行現場を予想して張り込んでいたが、大統領（の隣にいたエチオピア大司教）が狙撃された瞬間、スワガー自身も背後から銃弾を受ける。またしても命からがら脱出したスワガーは、「大統領狙撃犯」と報道され、FBIから追われる身となってしまう。他方、このスワガーに遭遇していながら取り逃がし、失態をさらしたFBIの新米捜査官ニック・メンフィスは、事件の調査を進めるうちに、この事件には不可解な点が多いことを感じ始める・・・。「このミステリーがすごい！」の2000年度海外部門で第1位に輝いた小説が原作。結末自体は、ほぼ予想通りの展開で、意外性に乏しいかもしれない。ただ、そこに至るプロセスは、ハラハラドキドキの連続で、それなりに見ごたえがあると言える。頭脳明晰でありながらマッチョ（筋肉質）な男性たちの戦いぶりと、この事件に巻き込まれる女性のちょっとした色気と、戦場などのさまざまな雄大な景観・・・が、見るべきポイントになるはずである。2本目は『大日本人』。大佐藤大（だいさとう・まさる）は、防衛庁の指令の下、電流を浴びて身体を巨大化させることで多くの獣を退治してきた家柄の6代目である。その戦いぶりは毎回放送され、かつてはゴールデンタイムで放送されることもあったが、今では人気が凋落し、深夜の時間帯に放送されるのみ。戦いの内容および視聴率によっては、スポンサーがついたりつかなかったりするという厳しい世界でもあった。彼には妻と幼い一人娘がいるが、今は別居（離婚）していて月に一度（半年に一度）会う程度。また、彼の祖父（4代目）は、父（5代目）が短命であったため、無理な戦いを続けてきたせいか、心身の衰えが著しく、今は老人福祉施設に入所している。その4代目がやらかした不始末によって、大佐藤および防衛庁は批判を受けることになってしまう。こうした家庭の事情を抱えて葛藤する中で、最強の敵が現れ、大佐藤は最大のピンチを迎えるのであるが・・・。ご存じ、ダウンタウンの松本人志氏の第1回監督作品。カンヌ国際映画祭にも正式に招待されて話題沸騰となっているが、公開前の映像提供はほとんどなく、ずっと秘密のベールに隠されてきた。その広告戦略は・・・正解である。事前に映像を少しでも見せてしまえば、これほどの観客数を動員することはできなかったに違いない。言い換えれば、「怖いもの見たさ」で人が集まっている、とも言えよう。視聴率やスポンサーなどに縛られたテレビではやれないことを表現したい、という意欲の点においては、評価できる。社会風刺に満ちているのは確かであり、「今のは、ひょっとして、皇室のことを遠回しに指している？」と思ってしまう部分もあった。とは言え、その内容は、到底「映画」のレベルには達しておらず、所詮は「テレビの延長線上」に過ぎない（あるいは、「テレビの範疇」を抜け出ていない？）。また、日本国内にしか通用しない「内輪受け」の表現が少なくなく、本作がどうしてカンヌに呼ばれたのか理解に苦しむ。作品の前半は、引っ張るだけ引っ張って何も出てこないといった感じで、かなり退屈。笑える要素が増えるのは、作品の後半になってから。『ウルトラマン』シリーズと『秘密戦隊ゴレンジャー』を掛け合わせたような設定があり、個人的には大ウケ。私自身は直接見たことがないものの『ダウンタウンのごっつええ感じ』のコントのようなノリなのであろう。

  2007.06.05

• ［VOYAGE-192］　映画／ボラット＆しゃべれども。【2007.06.02 09:05:10】

  毎月1日は「映画の日」ということで、今日は（というか、今日も）映画を2本見てきた。そこで、今日の記事では、それらについて述べたい。なお、余談ではあるが、映画館は先週の金曜日（ちょうど1週間前）ほど混雑していなかった。それは一体どういうことであろうか・・・恐るべき集客力かな、東京ディズニーランドのアトラクション。1本目は『ボラット　栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』。カザフスタン国営テレビのレポーターを務めるボラットは、カザフスタン情報省の命令で、国家の発展のために偉大なアメリカ文化を学ぶべく、プロデューサーのアサマートとともにニューヨークへと飛ぶ。地下鉄の車内や市街の路上で出会った人々にキスで挨拶しようと試みるボラットであったが、たいていの人々から激しく拒否される。で、彼らは取材を始め、まずはユーモア指導の先生からアメリカンジョークを習うものの、何が面白いのかさっぱり分からない。続いてフェミニスト主義者の淑女たちにインタビュー。彼はそこで「女性の脳は男性の脳よりも小さい」という定説を否定されるが、ホテルのTVで見たセクシーな女性、パメラ・アンダーソンがカリフォルニアに住んでいるという情報を得る。パメラと結婚したいという妄想に駆られた彼は、アサマートをうまく説得し、車の運転を習い、中古のアイスクリームトラックを買って、途中で取材を続けながら一路カリフォルニアを目指していく・・・。カザフスタン人になりすましたユダヤ系英国人のコメディアンによるお笑いロードムービー。下品な性的表現や人種差別ネタがてんこ盛りで、とにかくハチャメチャ。「おいおい、それは違うだろ！」と思わずツッコミを入れたくなるような苦笑（または、冷笑）の連続である。が、どこまでがリアルでどこまでがヤラセなのか判断しかねる部分も少なくなく、そうした疑念が笑いにブレーキをかけてしまう場面もあるかもしれない。欺瞞に満ちた米国の文化や政治をとことん風刺しようとする意図は十分に理解できるものの、私自身としては、正直なところ、それほど愉快な気分にはなれなかった。2本目は『しゃべれども　しゃべれども』。東京の下町に住む青年・外山達也は、今昔亭三つ葉という名の落語家。新作には目もくれず、古典ばかりを一途に演じるものの、腕が上がらず「二つ目」から上に昇進できないまま壁に突き当たっていた。ある日、師匠の今昔亭小三文がカルチャー講座の「現代話し方教室」にゲストとして招かれたことから、三つ葉も同行した。そこで彼は、美人ながらも無愛想で口の悪い受講生・十河五月に出会い、彼女に落語を聴きに来るようにと誘う。一方、三つ葉の祖母・外山春子が教えている茶道の弟子で大学院生の実川郁子は、口は達者であるが関西弁のため小学校のクラスになじめない甥・村林優を心配し、三つ葉に落語の手ほどきを依頼する。心ひそかに郁子に憧れている三つ葉は、その依頼を引き受けて、落語を教えることにする。その生徒は十河と村林、そして評判を聞きつけた元プロ野球選手で解説が下手な湯河原太一、の3人であった・・・。本作にはいくつか見どころがある。まず、浅草寺のほおずき市など、下町情緒を巧みに映像化していること。また、不器用な人間たちが自らの成長を目指して、必死にもがく姿を描いている点も好印象。さらに、香里奈氏、松重豊氏、八千草薫氏といった芸達者も魅力的である。が、最大の見せ場は、今昔亭小三文役の伊東四朗氏、三つ葉役の国分太一氏、そして子役ながら村林優役の森永悠希氏の見事な噺家ぶり。なかなか熱が入っていて、落語という古典芸能の魅力を存分に伝えてくれるはずである。これだけでも見てよかったと感じた。まあ、「どうして、そうなるかなぁ？」とツッコミたくなる結末の甘さ（ご都合主義）はあるものの、後味は決して悪くない。地味な作品が好きな人には、おすすめの1本であろう。

  2007.06.01

• ［VOYAGE-185］　映画／パイレーツ・オブ・カリビアン。【2007.05.26 10:18:56】

  朝から雨が降り、今日は気温が上がらなかった。三多摩の府中のアメダスによれば、最低気温が16.1℃（04:20）、最高気温が18.1℃（00:10）であった。ここ数日で気温が派手に上がり下がりしているため、体調を崩さないように細心の注意を払いたいものである。さて、今日は、『のだめカンタービレ』DVD-BOXが届いた。が、このドラマに関しては（番組そのものについてではないにせよ）ロケ地めぐりなどを含めていろいろと書いてきたことから、何か特別な発見でもない限り、新たな記述は差し控えておきたい。その代わりとなる、今日の記事は・・・もう、これしかあるまい。本日公開された映画『パイレーツ・オブ・カリビアン　ワールド・エンド』を早速見てきたので、それについて述べよう。悪霊デイヴィ・ジョーンズの心臓〈デッドマンズ・チェスト〉を、「濡れ手で粟」によって手に入れた東インド貿易会社のベケット卿。世界制覇の野望を抱く彼は、ジョーンズの操る世界最強の幽霊船「フライング・ダッチマン号」を配下の艦隊に組み入れて、野望達成の邪魔となる世界の海賊たちを次々と葬り去ろうとしていた。一方、危機に瀕した海賊たちは、「9人の海賊長」を評議会に召集することを告げる、「海賊の歌」を合唱していた。ウィル・ターナーとエリザベス・スワンは、ヴードゥ教の予言者ティア・ダルマや彼女によって蘇生させられた「ブラックパール号」の元船長バルボッサらと手を組み、海賊長の1人であるサオ・フェン船長の本拠地シンガポールへと赴く。そこで船と乗組員を調達した彼らは、海賊長の1人で、巨大な怪物クラーケンの餌食となったジャック・スパロウ船長を救出して評議会を成立させるべく、世界の果て〈ワールド・エンド〉にあるという「デイヴィ・ジョーンズの墓場（デイヴィ・ジョーンズ・ロッカー）」を目指すのであった・・・。平日の夕方ということもあって、観客の半数近くは高校生であった。いろいろな作品を見てきた私にとっては、珍しい観客層である。それはともかく、登場人物が多すぎるせいか、ストーリー展開に追いつくのが結構大変であった。そのストーリー展開で重要な鍵を握っているのは、実は前2作の脇役たちである。これから見に行こうとする読者諸氏には、前2作に登場したキャラクターをもう一度復習しておくことをお勧めしたい。ビジュアルもまずまずであるが、火薬炸裂などの重低音サウンドがかなりの迫力であった。ゆえに、可能であれば、音響設備の面でクオリティの高い映画館を選ぶべきかもしれない。なお、その点では、あくまで私見であるものの、川崎よりも立川のほうが、音の解像度が優れているように感じられる。で、見終わったときの総合評価であるが・・・結末にはそれなりの盛り上がりもあり、決して駄作ではないにしても、やはり登場人物の複雑さがネックとなっていて、積極的な高評価も与えにくい。同じ『3』の対決としては、蜘蛛男もカリブの海賊も「互角の勝負」と言えそうである。ちなみに、エンディング・クレジットの最後と「ブラッカイマーの落雷」との間に、彼らの「10年後」を描いたワンシーンが残されている。少なからぬ数の観客が既に退出してしまっていたが、上映が完全に終わるまで席を立ってはいけない。

  2007.05.25

• ［VOYAGE-182］　映画／眉山＆パッチギ！＆主人公は僕だった。【2007.05.23 15:24:07】

  日没後、西の空には宵の明星（金星）が輝いていた。ちなみに、日本の本州付近で、今の季節の21時ごろに見られる明るい星を並べてみると、次のようになる。天体光度金星-4.2等木星-2.6等アルクトゥールス（うしかい座）-0.05等ベガ（こと座）0.03等カペラ（ぎょしゃ座）0.08等プロキオン（こいぬ座）0.40等土星0.5等スピカ（おとめ座）0.98等アンタレス（さそり座）1.06等ポルックス（ふたご座）1.16等デネブ（はくちょう座）1.25等レグルス（しし座）1.36等光度が1等級違えば、明るさは約2.5倍違う。金星がいかに明るく大きく見えるか・・・が、お分かりいただけるものと思う。さて、今日はそんな宵の明星を眺めながら帰宅したわけであるが、それまでどこで何をしていたかと言えば・・・平日なのに、映画館で映画を見ていたのである。昼前から宵のうちにかけて3本も見てしまったので、今日の記事ではそれらの感想などを書き込みたい。1本目は『眉山』。東京の旅行代理店で働いていた河野咲子は、ある日、故郷の徳島から「母が入院した」との電話を受ける。急いで帰郷すると、母・龍子はちゃきちゃきの江戸っ子らしく、病院の中でも相変わらず強気に振る舞っていた。しかし、担当医からは、母が末期ガンで余命いくばくもないことを知らされる。「父は死んだ」と聞かされて父を知らずに育った咲子は、父のことを隠し続ける母に対して常々不満を抱いていた。が、ふとしたきっかけから「父が生きている」と確信した咲子は、両親の思い出の地をたどりながら、父・篠崎孝次郎に会うことを決意する。東京に戻って父の営む診療所を訪ね、そこでお互いに父娘であることを直感するものの、咲子は母の病気を告げて「祭りを見に、徳島にいらしてください」と話すのが精一杯であった。やがて、母の病状が悪化したことを知って再び徳島に帰った咲子は、母に最後の阿波踊りを見せるべく奔走する・・・。原作はさだまさし氏の同名小説。クライマックスの場面でちょっと涙腺が緩んでしまったほど、ストーリー展開としてはそんなに悪くはなかった。しかしながら、どうしても腑に落ちないことがあった。それは、母との確執に葛藤する咲子を優しく支える、医師・寺澤大介（大沢たかお氏）の存在である。そもそも彼が咲子と出会うことになったきっかけの「医師にあるまじき発言」も不謹慎であるが、それ以上に問題なのは、彼が「小児科の医師」である点。診療科の中で最も多忙とされ、なり手が少ない小児科の医師なのに、患者の娘といちゃついているヒマなどあるのか？まあ、ビジュアル的には、（撮影の工夫によって）主演の松嶋菜々子氏が実に美人っぽく映っていることや、迫力ある最後の阿波踊りのシーンなどは、それなりに見ごたえがあると言えよう。2本目は『パッチギ！　LOVE & PEACE』。1974年、東京。1968年には朝鮮高校生として京都で大暴れしていたアンソンは、今では難病を患う息子・チャンスの治療のために何かと苦心していた。ある日、アンソンのかつての宿敵・近藤の率いる大学応援団が、朝鮮高校生に因縁をつけ、国鉄の電車内で大乱闘を繰り広げていた。その大乱闘に巻き込まれたアンソンは、国鉄マンの佐藤政之に助けられる。しかし、そのことが原因で国鉄をクビになった佐藤は、アンソン一家と親しくなる中で、アンソンの妹・キョンジャに好意を抱く。やがてチャンスの病気が進行し、その治療は日本では見込みがなかったことから、渡米するための莫大な費用が必要となる。そこで、アンソンと佐藤は危険な仕事に挑む。一方、ふとしたきっかけから芸能界に入ったキョンジャは、芸名の「青山涼子」を名乗りつつ、チャンスのために無理を重ねていくことになる・・・。在日コリアンの存在を真正面から取り上げた井筒和幸監督の『パッチギ！』の続編。そのパワフルぶりは本作でも健在である。私がとりわけ苦笑させられたのは、キョンジャをヒロイン役に起用した『太平洋のサムライ』という戦争映画。この劇中映画は、自滅していく特攻隊を過剰な演出で描いていて、別のとある映画（ほぼ同時期に公開されたライバル作品？）を徹底的に小バカにしているような印象を与えかねないのである。あと、言語学的に興味深く感じたのは、在日コリアンを演じた人々の会話が、会話内容や場面に応じて日本語と朝鮮語のコード切り替えを伴っていた点である。朝鮮語を理解できない私には「いかにも、それっぽく（本物らしく）」聞こえたが、それについては専門家の意見を伺ってみたいと思った。3本目は『主人公は僕だった』。悲劇作家のカレン・アイフルは、10年ぶりの新作執筆に取り組んでいたが、結末の部分をどうするかで苦しんでいた。一方、国税庁で会計検査官を勤めるハロルド・クリックは、極めて規則正しい単調な生活を送っている。起床時間、歯磨きの回数、バス停までの歩数、就寝時間など、毎日の行動は完全に決まっていた。ある日、いつものように歯を磨いていると、彼の頭の中で女性の声が聞こえてきた。そのナレーションは、あたかも彼が小説か何かの主人公であるかのように、彼の行動を正確に描写していたものの、そこには彼の突然の死を暗示するような表現も含まれていた。その声を聞いて以来、仕事に集中できなくなった彼は、医師に診察してもらったり、挙げ句の果てには文学部の教授にアドバイスを求めたりするようになるが、死を避ける方法が見つからないまま、不安な日々を過ごすことになる・・・。原題は『STRANGER THAN FICTION（小説よりも奇なり）』。英国の詩人、バイロンの言葉である。途中までは先読み不能でハラハラさせられたが、ラストのオチが陳腐で今ひとつかも。もっとも、本作の「メッセージ性」すなわち「寓話性」を、どれだけ深く読み解くことができるか・・・という感性の多寡によって、評価が分かれる可能性も否定できない。

  2007.05.22

• ［VOYAGE-172］　映画／初雪の恋＆五重塔。【2007.05.13 08:20:19】

  今日の日中は晴れていたのに気温がそんなに高くなく、「乾燥注意報」が発表されるほど空気がからっとしていて、さわやかな風がまるで秋を思わせるような天気であった。ところで、よく考えたら、今月の「映画の日」以来、映画館に行っていなかった。連休を挟んで新規公開作品が少なかったせいもあろうが、今月に入ってからはペースが落ちている。とは言え、今日はまた2本見てきたので、今日の記事ではそれらを取り上げたい。1本目は『初雪の恋　ヴァージン・スノー』。陶芸家の父が日本で交換教授を引き受ける都合で、韓国から京都の高校へと転校することになったキム・ミン。彼は京都の街をあちこち自転車で走り回っているときに、転倒して擦り傷をつくってしまう。神社の境内で休んでいると、通りがかった巫女姿の若い女性が傷の手当てをしてくれた。ミンは彼女に一目ぼれをする。彼女の名前は佐々木七重。なんと、同じ高校に通う女子生徒であった。七重の気を引こうとするミンであったが、勢い余って彼女の大切な画材を川に落としてしまう。日本語ができないミンは、彼女の画材を弁償したい一心から、高校の友人の助けを借りてチンドン屋でアルバイトをして、買った画材を彼女に手渡す。七重はそれを受け取るのを一度は断るものの、彼の一途な思いを知り、画材を受け取る。そのお礼として、描いた絵をミンにプレゼントするのであった。それをきっかけに距離が縮まった二人は、ある日、授業を抜け出して京都の街を歩き回る。清水焼の店に入ると、土をこねて焼き上げる人とその器に絵を描く人が別々の美しい大皿が置いてあった。それを見た二人は、いつか大皿を共同製作することを約束する。以来、ミンは陶芸と日本語の勉強に、七重は絵画と韓国語の勉強に、それぞれ励むようになるが、やがて突然の別れを迎えることになる・・・。『王の男』で「きれいなおにいさん」を演じたイ・ジュンギ氏と、『NANA』やNHK連続テレビ小説『純情きらり』などで大活躍の宮崎あおい氏という、日韓トップ俳優の共演である。この二人の演技はなかなか見ごたえがあった。が、どうしても違和感を覚えてしまうのは、大女優たる宮崎あおい氏が女子高生を演じている点である。宮崎氏が類まれな演技力を有していることは、『NANA』の馬鹿女（小松奈々＝ハチ）役を本当に馬鹿っぽく演じきった事実で証明済みである。しかし、彼女はそうした「シミュレーション」は得意であるものの、本作のような「ナチュラル」な女子高生役はあまり得意ではないのかもしれない。むしろ、演出として、『神童』で成海璃子氏の実年齢に合わせて主人公（成瀬うた）の年齢設定を引き上げたように、本作でもそういう設定変更（女子高生→女子大生）を施してもよかったのでは・・・と思ってしまった。ストーリーとしては、想定の範囲内といったところ。ありがちな展開ではあるが、それゆえに期待を裏切らないとも言えるであろう。また、京都の街の見どころなどをビジュアル的に多用していて、思わず観光旅行に出かけているような気分になってしまう。まあ、これは、渡辺淳一氏の小説でよく使われる手法でもある。あと、京都で日韓の恋と言えば『パッチギ！』であるが、その主演の塩谷瞬氏をミンの友人・小島康二役で起用していたり、作品そのものを髣髴とさせる場面（オマージュ？）も僅かながら存在したりしている。もっとも、1968年と2004年とでは時代の空気が全く異なるため、両者のキャラクターに微妙な差があるところは興味深い。2本目は『五重塔』。窯、燃料となる木、素材の土など、理想の陶芸の地を求めて青森県五所川原市にたどり着いた片岡十兵衛。彼が営む金山焼の陶器工房には、娘の有衣が喫茶店を併設して家計を助けている。ある日、展示会に出品していた十兵衛の壺に目が留まった熊谷常光院の老円上人から、檀家に配る陶器「五重塔」千躰の作成依頼を受ける。「短い期限で千躰もの作成は無理」と判断した有衣はこの依頼を丁重に断り、陶磁器エージェントの毒島修一に任せたものの、その話を聞くやいなや、十兵衛は工房を飛び出して老円上人に直談判し、依頼を引き受けることになる。受注をめぐって十兵衛と毒島との間でもめたため、老円上人は意外な決着方法を提示する。一度は断念した十兵衛であったが、結局は毒島が連れてきた選りすぐりの陶芸家たちと協力して、「五重塔」の作成に打ち込むことになる。この共同作業は順調に進むかのように見えたが、とんでもないトラブルが待ち構えていた・・・。1891～92年に連載された幸田露伴の同名小説を現代風にアレンジして映像化した作品。そうした「元ネタ」の存在を了解していないと、何のことやらさっぱり分からない・・・ということにもなりかねない。とは言え、原作を読んでおく必要性は必ずしもなく、現に私自身も原作は読んでいない。「古典文学をリメイクしたもの」という認識さえあれば十分であろう。ただ、全部が全部、現代風にアレンジされたわけではない。そもそも上人などという身分は、現代ではほとんど認められていないため、そこだけ劇画的な表現が採用されている。あまりに劇画的で、思わず笑ってしまった。愚直で頑固一徹な十兵衛をガッツ石松氏が熱演。余談ながら「頭がガッツ石松か、顔がガッツ石松か」という実に失礼な選択肢を問われることがあるが、それに対しては「心がガッツ石松」という別の見方を提示すべきかもしれない。また、ともすれば男性的な激しい芸術意欲ばかりが注目されがちな本作に、貴重な華を添えているのは、父親思いの有衣を演じた飯田圭織氏である。彼女の出演がなければ、私は後で原作を読んでみようと思わなかったに違いない。特筆すべき点は映像のクオリティ。デジタル素材をアナログに変換していないとのことで、超特大画面のスクリーンでハイビジョン番組を見ているような印象を受けた。

  2007.05.12

• ［VOYAGE-162］　映画／スパイダーマン3。【2007.05.02 23:45:20】

  朝のうちまで断続的に降っていた雨も上がって、昼前には日が差してきた。おかげで気温も上昇した。三多摩の府中のアメダスによれば、今日の最低気温は13.0℃（00:50）、最高気温は25.3℃（16:00）であった。一昨日以来、またしても「夏日」である。さて、それでは、昨日の記事の続きである。昨日見た映画の2本目は『スパイダーマン3』。スパイダーマンに変身する能力を身につけたピーター・パーカー。今や大学ではトップの成績を誇り、ブロードウェイでデビューしたばかりの恋人メリー・ジェーン・ワトソン（MJ）との仲も順調で、おまけにスパイダーマンは数々の活躍によりNY名誉市民に選ばれることになった。そんな順風満帆な彼に対して、父を殺されたと思い込んでいる親友のハリー・オズボーンは、再びニュー・ゴブリンに変身してスパイダーマンに勝負を挑む。しかし、その戦いに敗れたハリーは短期記憶障害に陥り、父が死んだことや自らがニュー・ゴブリンに変身したことを忘れてしまう。その頃、ピーターの伯父ベンを殺した犯人フリント・マルコが脱獄する。その男は分子融合の実験施設に逃げ込み、誤って砂と融合してサンドマンに変身する能力を得る。一方、宇宙から飛来した謎の黒い液状生命体は、スパイダーマンのスーツに取り憑き、ピーターはブラック・スパイダーマンになってしまう。復讐と憎しみの感情に支配されてサンドマンを倒した彼は、新聞社のフリーカメラマンのライバルであるエディ・ブロックの就職を妨害してエディの恋人を奪った上に、ハリーに心を許したMJにも悪質な嫌がらせをする。やがて正気を取り戻したパーカーであったが、謎の黒い液状生命体は今度はエディに取り憑いてヴェノムに変身し、復活したサンドマンとともに、スパイダーマンに襲い掛かってくる・・・。この『3』は批評家受けがあまりよくないらしい。前2作（とりわけ『2』）の完成度が高かったせいであろう。確かに、※ブラック・スパイダーマンとなったピーター・パーカーのえげつない（いやらしい）振る舞い※同様に、いかにも「悪の権化」といった感じのヴェノムのキャラクター造形※敵役がいとも簡単に心変わりしてしまう安易な展開などは、「B級」っぽい印象を与えかねない。もっとも、私自身としては、必ずしも失敗作とは感じなかった。主人公が慢心してダークサイドに堕落し、黒いスーツを着用する・・・という構図は、アナキン・スカイウォーカー（ダース・ベイダー）の『エピソード3』と同じであるものの、こうした「心の闇」の描き方は見事であったと思う。本作のキーワードは「報い」と「許し」になるはずであり、私自身としてはピーターらの置かれた状況が痛いほどに伝わってきた。ただ、上記の感想は、私自身の個人的な事情が影響している可能性もある。プライベートな出来事であるため、ここには詳しく書けないが、私はある状況で自分の力量を過信してちょっとやりすぎてしまい、周囲の不興を買った直後で、その失敗に対して自己嫌悪に陥っている最中に本作を見た次第である。つまり、「自らの慢心からダークサイドに堕落し、そこから抜け出そうとして必死にもがき苦しむ」という経験に乏しい批評家には、本作のポイントが十分に理解できないのかもしれない。また、本作では、結構笑えるネタも用意されている。その一つは、新聞社の編集長と秘書とのやり取り。もう一つは、ピーターがMJを招待したフレンチレストランでの演出である。おそらくシリーズ中、最強のお笑いを見ることができるに違いない。『2』ほどの感動は味わえないにしても、そこそこ見どころはある・・・というのが、私の結論であろうか。

  2007.05.02

• ［VOYAGE-161］　映画／バベル。【2007.05.02 20:59:01】

  5月最初の今日は、午前中から雨が降ったりやんだりの天気で、日中の最高気温も三多摩の府中のアメダスでは17.5℃（12:50）と、4月中旬並みの涼しさであった。さて、毎月1日は「映画の日」ということで、今日は映画を2本見てきた。なお、諸般の事情から、今日は1本だけを紹介し、残りの1本は明日の記事に回したい。その1本目は『バベル』。モロッコの人里離れた岩ばかりの丘陵地帯。ヤギを放牧して生計を立てている一家が、ジャッカルを追い払うためにライフル銃を購入する。父親は二人の息子に銃を持たせて放牧に従事させるが、その息子たちが試し撃ちで通りがかった観光バスを狙ったところ、弾はアメリカ人旅行者リチャードの妻・スーザンの肩を貫通して激しい出血を起こす。このライフル銃は、東京に住む綿谷ヤスジローが、モロッコでのハンティングのお礼として現地のガイドに残したものであった。ヤスジローの娘・チエコは聴覚に障害を持つ女子高生。母親を亡くしたばかりで、ろう者としての疎外感も日々味わう中、他者とつながりたい一心から自暴自棄になっていた。リチャードとスーザン夫婦の子供たち、マイクとデビーは、アメリカのカリフォルニア州サンディエゴに住んでいる。この幼い兄妹を預かっているのはメキシコ人の乳母・アメリア。彼女はメキシコのティファナで息子の結婚式が迫っていたが、育児を誰にも代わってもらうことができないまま、甥のサンチャゴが車で迎えに来る・・・。という三つの舞台で物語が進んでいくのである。いずれも、言葉が通じない、もしくは、言葉は通じるけれどもさまざまな壁があって気持ちが通じない、といった主題を目の当たりにすることになる。モロッコとアメリカ・メキシコの部分は関連があるものの、東京の部分だけ浮いている・・・という指摘は、いろいろな批評で目にした。が、私自身としては、そんなに違和感は覚えなかった。上記の主題を事前に理解していれば、各部分が断絶しているとは思うまい。ところで、本作を見て気分が悪くなる観客が出ているらしい。問題となっているのは、チエコすなわち菊地凛子氏が、仲間たちとともに公園でドラッグのようなものを飲んでハイになった後、クラブに出かけて群集が大騒音の中で踊っているシーンである。チエコはろう者であるため、騒がしい音楽が聞き取れない。そこで演出として大騒音が時々カットされているのであるが、その少し後にクラブの照明が激しく点滅する場面がある。これがいわゆる「ポケモンショック」（光過敏性発作）を招いているようである。確かに、その場面は見ていてあまり気分のいいものではなかった。クラブの大騒音が途切れたら要注意・・・と覚えておいていただきたい。私が興味深く感じたのは、本作の主題である「コミュニケーション・ギャップ」である。★モロッコの部分では、高みの見物という視点（欧米人）と実際の生活という視点（現地人）がずれているし、撃たれた夫婦と撃たれていない旅行者の利害対立があるし、さらには夫婦と大使館の間でも思惑の違いがある。とりわけ最後の思惑の違いは、救急救命を遅らせることで「テロによる犠牲者」を故意に生み出し、それを政治的に利用しようとする合衆国政府の深謀遠慮ぶりを垣間見ることができよう。★東京の部分では、言うまでもなく、聴者とろう者のギャップである。これについては、聴者側およびろう者側の双方から、本作全体の評価をめぐってさまざまな見解（賛否両論）が噴出しているようである。私自身のコメントはひとまず差し控えるが、こうした見解の違いを浮き彫りにした本作の「力量」（あるいは、本作に内在する主題）は十分に評価していいのではないか。★アメリカ・メキシコの部分では、乳母、幼い兄妹、乳母の甥、国境警備官らの立場が異なっていて、その違いがドラマチックな展開へと結実している。いずれにせよ、純然たるエンターテインメントではないものの、いろいろと考える材料を提供してくれるはずである。「コミュニケーション・ギャップ」というものに少しでも関心のある方には、ご覧になることをおすすめしたい。

  2007.05.01

• ［VOYAGE-152］　映画／神童＆ラブソングができるまで＆ロッキー・ザ・ファイナル。【2007.04.23 00:39:43】

  もはや週末恒例のイベントとしてすっかり定着しつつあるが、昨夜から今朝にかけて、映画を3本見てきた。今日の記事はその感想である。1本目は『神童』。八百屋の息子である菊名和音（通称「ワオ」）は、音楽大学を志望している浪人生。商店街に面した八百屋の2階にあるピアノで練習するものの、とてつもなく下手で、近所から迷惑がられていた。そんな「騒音」をめぐってワオと近所の店員が口論しているときに、13歳の天才ピアノ少女・成瀬うたが勝手に八百屋の2階に上がり込み、メンデルスゾーンの「春の歌」を弾き始める。あまりにも名演奏であったため、口論は止み、自然に人々が店の前に集まってくるほどであった。以来、ワオはうたからピアノのレッスンを受けることになる・・・。フジテレビの月9ドラマ『のだめカンタービレ』にハマった私としては、今月公開される映画の中では一番見たかった作品である。のだめがマラドーナ・ピアノコンクールの二次予選で演奏したショパンのエチュード（作品10の4）は、本作中ではワオの憧れの「相原こずえ」なる人物が英国留学へと旅立つ前に披露するなど、演奏シーンがてんこ盛りで、クラシック音楽が好きな人にはたまらないであろう。ただ、気になった場面もいくつかある。ワオは後に栄光音楽大学のピアノ科に首席で入学し、そこで声楽科の賀茂川香音のピアノ伴奏を務めることになるが、その彼女を演じた貫地谷しほり氏の「口パク」が全然音楽に合っていないのである。『スウィングガールズ』にも出演し、最近では『愛の流刑地』やNHK大河ドラマ『風林火山』などでも活躍しているだけに、やや違和感の残る演技であった。また、ストーリー展開としても、エンディングが今ひとつ盛り上がりに欠けるような感じで、もう一工夫あってもよさそうであった。とは言え、とりわけ二人の主役、成瀬うた役の成海璃子氏および菊名和音役の松山ケンイチ氏の熱演は見事であった。特に、ワオの最初のベートーヴェンのピアノソナタ「熱情」が本当に下手で、思わず苦笑してしまったほどである。あと、余談ではあるが、登場人物の名前に、菊名、成瀬、相原といったJR横浜線の沿線の地名が多いのは、漫画の原作者・さそうあきら氏の趣味であろうか。2本目は『ラブソングができるまで』。1980年代に一世を風靡した5人組のポップスター「PoP」の一員であったアレックス・フレッチャー。今ではすっかり落ちぶれて、元ギャルであった昔を懐かしむ中年女性を相手に、「過去のスター」として、同窓会などのイベントや遊園地で歌って生計を立てる日々であった。そんなある日、彼にも幸運がめぐってくる。若者たちに絶大な人気を誇る女性シンガー、コーラ・コーマンが彼の大ファンであり、その彼女から作曲の依頼が入ったのである。こうして10年ぶりに曲を書くことになったアレックスであったが、今ひとつ創作意欲が湧かない。が、代理で雇っていた自宅の植木係のソフィー・フィッシャーに作詞の才能があることを知った彼は、彼女とともに曲作りに励むことにする・・・。立て続けに音楽モノである。こちらは80年代および現代であるが、冒頭のミュージック・ビデオからして、いかにも80年代のノリが再現されていて、思わず笑わずにはいられなかった。主演のアレックス役のヒュー・グラント氏がとにかくノリノリで、実に傑作。にもかかわらず、ロマンチックな場面ではきっちりと要所を締めているのは「さすが」と言うほかはない。また、上述の作品と比較するのは酷かもしれないが、脚本もよくできていたように感じられた。3本目は『ロッキー・ザ・ファイナル』。かつてボクシング界の頂点を極めていたロッキー・バルボア。今は引退してフィラデルフィアで小さなイタリアン・レストランを経営しているが、愛妻のエイドリアンはガンで既にこの世を去り、息子のロバートも家を離れて自立し始めた。過去の思い出に浸り続けて生きていたロッキーであったが、ふとした偶然から、かつて自分が「煙草をやめるように」と説教した不良少女のマリーが今はシングルマザーとして必死に生きている様子に接して、マリーとその息子のステップスの面倒を見るようになる。やがて、もう一度何かに挑戦したい衝動に駆られていくロッキーは、プロ・ボクサーのライセンスを再び取得し、負け知らずの現役ヘビー級王者・ディクソンとのエキシビジョン・マッチに臨むのであった・・・。言わずと知れたシルベスター・スタローン氏の出世作『ロッキー』の完結編である。他人が何を言おうとも自分の信じる道をまっすぐ突き進み、苦難の末に栄光を手にする・・・という図式は、アメリカン・ドリームの王道ではある。そうした独善的な図式を批判すること自体は可能であるが、本作を見てしまうと、そんな批判は吹き飛んでしまうに違いない。1946年生まれ（60歳）のスタローン氏の「若々しい根性」には、本当に頭が下がる思いがした。「よくぞ、ここまで」という感慨を覚えざるを得ないほどの、力作に仕上がっているはずである。もっとも、完結編という割には妙にあっさりとしたラストで、さらなる続編も不可能ではなかろう。まあ、ラスト直前までの展開が十分にドラマチックであるため、そんなに不満は残らないと思われるが。

  2007.04.22

• ［VOYAGE-144］　映画／東京タワー＆サンシャイン2057。【2007.04.15 17:43:25】

  例によって、今日は夜遅くから明け方にかけて、映画を2本見た。1本目は『東京タワー　オカンとボクと、時々、オトン』。幼い頃に両親が別居し、父親（オトン）の住んでいた小倉から、母親（オカン）の実家のある筑豊の田舎町へと引っ越してきた少年（ボク）。やがて、大分の美術高校を経て、東京の美術大学へと進学することになるが、遊びほうけてオカンの仕送りを使い果たし、サラ金に依存する生活が続く。その後、ボクは一念発起してガムシャラに仕事を始めるが、イラストレーター兼コラムニストとしての仕事が軌道に乗り始めた頃、オカンが甲状腺のガンで入院して手術を受けるとの連絡が入った。手術自体は成功するものの、完治しなかったことから、ボクはオカンを東京へと呼び寄せる。そこでは、オカンが作る美味しい食事に魅了された人々の輪ができつつあった・・・。リリー・フランキー氏の自叙伝的なベストセラー小説の映画化。お涙頂戴的な過剰な演出はなく、また、主人公のボクがリリー・フランキー氏であることを強調していないため、ごくありふれた一般的な母子関係を見ているような印象を受けた。そうしたあまりに淡々とした展開に、むしろ「拍子抜け」してしまう観客もいるかもしれない。それを「成功」と見るか「失敗」と見るかは、観客の価値観次第であろう。私自身としては、演出過剰な作品が少なくない中で、こういう作品があってもいいと感じた。脱力系のボクが自らの才能と努力によってV字回復していく様子をオダギリジョー氏が好演していたが、やはり、愛情あふれるオカン役の樹木希林氏の怪演（？）なくしては本作は成り立たなかったであろう。あと、寺島進氏、小泉今日子氏、仲村トオル氏、宮崎あおい氏、柄本明氏・・・といった錚々たるキャストが、ほんの数十秒のチョイ役で出演しているのも見どころの一つ。舞台設定の九州ではなくて東北でロケをしたであろうことはなんとなく見抜いてしまったが、時代考証の面での問題はほとんど感じられなかった。2本目は『サンシャイン 2057』。2057年。太陽の活動が衰退して地球は寒冷化し、人類は滅亡の危機に直面していた。そうした危機を克服するために、宇宙船「イカロス2号」で可能な限り太陽に接近し、大規模な核兵器を太陽の極に投下してその活動を再生させようというプロジェクトが進められていた。そのイカロス2号が水星の裏側にまで到達したとき、妙な電波をキャッチする。それは、同じミッションで7年前に消息を絶った「イカロス1号」からの遭難信号であった。8人のクルーたちは議論の末にイカロス1号にランデブーすることを決断するが、「人類を救うという使命感」と「仲間を守るという連帯感」との間で揺れ動かされるような極限的な事態が次々と発生していく・・・。レベルの高い映像と音響効果は、宇宙空間を舞台としたSFアドベンチャーにふさわしい。が、ストーリー展開はちょっと微妙。誰が（最後まで生き残る）主人公なのかはっきりしない「群像劇」なのに、8人のそれぞれの立場の描き方が不十分で、観客にとっては感情移入すべき対象を絞り込めないまま物語が進んでしまうのである。本作をエンターテインメントとして期待すると、失望してしまうに違いない。むしろ「あなたなら、使命感と連帯感のどちらを優先させる？」という究極の選択を試されるような、哲学的な作品と考えるべきかもしれない。

  2007.04.14

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