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碁法の谷の庵にて

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2008年10月04日
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橋下氏vs光市事件弁護団訴訟の判決は、pdfファイルですが、弁護団の広報ページから見に行くことができます。ここをどうぞ。

橋下氏は、非を認めつつも控訴とのこと。しおらしさは安心した一方、意外でした。
それでも控訴と言うのは、一審と全く同じ理屈をそのまま出すのでしょうか?確かに高裁や最高裁の最高の?判断を聞いてみたい気もしないことはないのですが、外野の無責任な感想だよなと思っていたら橋下氏自身が言い出すとは。
いろんな人に謝ったのも字面通りに見れば評価できるかもしれませんが、橋下氏は彼の言葉に応じたと裁判で認定された一般懲戒請求者をどう思っているんですか?とも。
今枝弁護士は、暴走気味の言動が目立ったので不安でしたが、判決後の会見などで話していた内容は私の知る限りでは穏当なものでした。取下げ発言からすれば、橋下氏への民事執行は控えるのかもしれませんが、それは個人の自由でしょう。

あまり表に出さない、事後だから出す事前予想は、原告は勝つだろうけど、賠償額が200万に達するとは思っていなかったのが本音です。云十万円位かなと思っていました。また、欠席という厄介な事情を抱えている足立弁護士についても、区別することなく請求が認められていたことは要注意です。
弁護団は21(2?)人、原告4名を除く弁護士に各200万円。残った弁護士が訴えてきて、個々の懲戒請求者に橋下氏並びに他の懲戒請求者との共同不法行為が認められたとすれば、運悪く目をつけられた誰かが支払うべき金銭は3000万円を超えます。他の懲戒請求者を発見して負担を求められなければ、家屋敷売れ、ってことになる可能性も高いわけですね。



さて、判決文の概要を分かりやすくお伝えするとしましょう。
認められた請求は200万円+年5%の利息。
不法行為の場合、利息は不法行為のあった時、本件なら橋下氏が発言が放送されたときから計算されます。1年以上たっているので、210万円は堅いことになります。不謹慎ですが、このご時世に5%の利息はおいしいので、法律家になったら利息はきちんと考える必要があります。和解をするときに、手打ちの手段として利息は諦めてやろうという話もあると聞きました。

その上で、次からは読みやすいようにという配慮からか、関連法令を列挙。法律家でも、民法や刑法などを除けばこんな条文あったんだということは珍しくないので、こういうこともするようです。
次いで、前提となる事実関係が書かれています。この事実関係は、証拠上明らかな事項はもちろん、橋下氏が争っていない事項や、裁判所も明らかな事実として知っているものなどを総合して書かれています。争いのない事実を明らかにしておくことは、事件の把握には有用です。

そして、裁判所が争点として提示したのは、
(1)橋下氏の発言が名誉毀損に当たるかどうか
(2)橋下氏の発言が名誉毀損以外に不法行為に当たるか
(3)橋下氏の発言と懲戒請求などの被害に因果関係があるか
(4)被害の程度はどんなものか

でした。


さて、それぞれについて裁判所の判断はどんなものだったでしょうか。青字は私からの補足説明や個人的見解です。

(1)名誉毀損は、人の社会から受ける評価を低下させるものなら、事実の提示でも意見や論評でも成立しうる。
事実を提示する名誉毀損ならば、公共の利害に関する事実であって、もっぱら公益目的であって、事実が重要な部分で真実なら、あるいは真実でなくとも真実と信じたことに相当な理由があれば不法行為にはならない。論評でも、前提となる事実が先述のとおりであり、その内容が人格攻撃に及ぶなど相当な範囲を逸脱しなければ不法行為ではない。
被告の発言は、少なくとも単に懲戒制度の紹介にとどまるものではなく、弁護団に懲戒請求を大規模に行うよう呼び掛けたことは否定する余地がない。
弁護士として許されない主張をしているという意見表明について、前提となる事実とずれがあるが、著しく弁護団の主張と乖離しているとは言えないので、ここだけなら不法行為ではない。
しかし、弁護団が虚偽の主張を創作したような発言は事実の提示によって評価を低下させる。そのような事実は認められないし、主張を変えるというのは珍しくなく速断を避けるべき事柄であるのに、真実と信じたことに相当な理由はない。
それ以降、懲戒請求を呼び掛けた部分については、懲戒に相当する弁護活動を行っていることを前提とするもので、名誉毀損に当たることは言うまでもない。そして、真実の証明はないし、信じたことに相当な理由があるとも言えない。

刑法なら、意見・論評か、事実の提示かは名誉毀損罪と侮辱罪という犯罪成立要件の分かれ目になるので厳密でしょうが、民事法ではどちらも名誉毀損でよいということですね。
また、公共性・公益性・真実性(或いは真実と信じたことに相当な理由があったこと)を満たせば不法行為とならないというのは、名誉毀損罪の刑法230条の2を横滑りさせたものです。民事法でも、この辺の判断枠組みは同じです。なお、真実が細部でちょっとずれただけでは、真実性の要件をみたさないとは考えられていません。
また、よくあることで速断を避けるべきこと…とありますが、実は私がよく文章を場合分けして書くのは、この辺りの逃げ道の確保なのです。一定の場合にはこうだが、そうでない場合もあるよ、というのはしっかり言うように心がけています。


(2)懲戒制度は弁護士会の懲戒権が適正に行使・公正に運用されるようにするための制度である。しかし弁護士にとっては根拠のない請求をされれば不当な侵害を被るし、弁護士法の懲戒請求の規定は恣意的請求の許容や広い免責の規定とは読めない。請求者は対象者に懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について調査・検討義務がある。また、根拠を書いている場合に請求者が普通の注意を払えば知りえたのに懲戒を請求すれば、懲戒制度の趣旨目的に照らして相当性を欠き不法行為となる。
そもそも懲戒事由があると思うなら自分で懲戒請求すればよく、多数の請求をさせる必要がある場合は普通想定できず、本件には合理性はないし、懲戒事由があると信じたことにも根拠はないし、むしろ被告は知りえた。ことに、マスメディアを使って広く呼び掛けることは指導監督のための負担として弁護士に与えてよい負担を超えていて、相当性を欠いている。仮に個々の懲戒請求が適法でも、集めれば違法となりうるし、それが予見できる場合には不法行為となりうる。
そして、このことは名誉毀損と別個に不法行為になる。
被告は世間の評価で違法性はないと主張しているが、弁護士は少数派の基本的人権保護の使命もあり、その場合に弁護士の活動が多数派民衆の意向に沿わない場合もある。その場合に多数者の懲戒請求だから懲戒相当と言うのは、弁護士の職責と相いれない。
また、刑事手続の弁護人の役割でも、無罪推定を受け、その保護者をするのだから、違法なものでない限り、多数者から批判されただけで活動が制限されたり、懲戒などありえないし、あってはならない。被告の主張は弁護士の使命や職責を理解していないものだ。
また、いろいろと被告は懲戒事由を言っているが、一定の事実で懲戒を呼び掛けた以上全く無関係の懲戒事由は考慮すべきでない。そして、被告が懲戒相当を信じた根拠はと言えば、主張創作は単なる憶測にすぎないし、憲法や刑事訴訟法、弁護士法・弁護士職務規程の規定に照らせば、弁護人は最善の弁護活動をすべきだし、荒唐無稽であっても被告人がそういうならそれに反する主張はできない。個別事案の当否には様々な理解がありうるが、主張内容が荒唐無稽だから非行などとは到底言えない。
説明責任論は、法律上の根拠はない。説明をした場合結果予測は困難で、被告人の利益になることも不利益になることもある。説明が具体的利益になる場合は想定し難い上、正確な報道の保証すらない。本件の弁護団も説明していたのに一方的誹謗中傷された。このことはBPO意見書でも明らかだ。
いずれにしても、懲戒事由にはならない。

最判平成19年4月24日判決がそのまま使われていると言ってもいいでしょうね。
また、個々の懲戒請求の違法性立証は橋下氏が要求していましたが、弁護団はそこをかわしつつも橋下氏のみをとらえることに成功した、と言ってよいでしょう。個々の懲戒請求が適法でも、橋下氏は違法と言うのは、弁護団の準備書面で見た論理です。(個々の懲戒請求者は安心という訳ではなく、判断保留されてるだけ)
後半部分では、裁判官の方も、ある程度世間向けに弁護士の使命を書き連ねています。判決文の30頁辺りはぜひ本文で一読してください。また、同時に橋下氏の主張を「あってはならないことであるし、ありえない」「弁護士の使命・職責を正解しない失当なもの」と、まさしく一刀両断、ズタボロに切って捨てました。でも、これってネットで少なくない弁護士も、私もずっと言ってきたことなんですよね。
橋下氏は懲戒事由として、オウム事件が控訴審なしで結審したことやら足立弁護士のスピード違反やらまで引きずり出してきましたが当然のごとく一蹴されてしまいました。当り前だとしか私には思えません。
説明責任論については、BPOの意見書を盛大に引用しているのが目を引きます、BPOどころか、裁判所からも報道の在り方は断罪された、と見てよいのではないでしょうか。


(3)懲戒請求は今年1月21日までに各人600件越えであった。ネット上で書式がアップされ、HPでは橋下氏のコメントが引用されていた。これらからすれば懲戒請求がなされたのは、被告の発言が原因だと優に認定できる。発言が視聴者に呼び掛けたものであること、発言が契機となったものである以上、因果関係があることは明らかである。

因果関係を認めるという結論自体は賛成しますが、もう少し丁寧に書いてほしかった気もしますね。
それにしても、懲戒請求wikiテンプレート公開中のページは、橋下氏の首をもろにしめたことになりますね。懲戒請求wikiも、キャッシュはしっかり取られていますから、逃げられません。


(4)被害の程度はどんなものか
懲戒請求は各人に600件以上、事務負担も多く、それ以上に精神的損害が大きかった。(テンプレート請求や個人作成でも大同小異だったので、今枝弁護士の陳述書はそれだけで真実とは言えないが)さらに、弁護士として知識や経験を有する被告の行為であることも合わせ、精神的・経済的損害は200万円が相当である。
なお、被告は他にも色々主張しているが、全く失当で理由はない。

200万円は、予想よりは多かったです。弁護団が減額されるべき理由は何ら述べられませんでした。弁護士という立場からなされたというのは、それだけで損害が大きくなる、という立論はどういう根拠か興味があります。懲罰的損害賠償は認められていませんが、弁護士故の信頼を裏切ったという意味があるのでしょうか。
最後の一文は判決文にあったものですが、不謹慎にも爆笑してしまいました。ダメな弁護士は書面が長いという話がありますが、橋下氏の答弁書は90頁くらいになってましたね(しかもその話の主は…)。

まあ、詳細は判決文でという感じですが、いずれにせよズタボロのケチョンケチョン、見る影もありません。私がこんな判決を書かれたらたぶん立ち直れないでしょう。





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最終更新日  2008年10月06日 10時50分55秒
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