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碁法の谷の庵にて

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2015年02月16日
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テーマ:ニュース(99573)

 商品の袋が破けているのを届けた小学生を万引き犯扱いしたコンビニに、ネット上で批判が集まっています。(こちら参照)
 被害自体は事実のようなので店が被害者であることも間違いないのですが・・・



 私は、弁護士の端くれとして過去に10人以上の万引き犯を弁護してきました。
 万引きが店に与える損害は人並みよりは理解しているつもりです。
 品物によりますが、一般の小売店では、商品を1つ万引きされると、同じ商品を5個売らないと被害は取り戻せません。
 また、万引きを警察に通報すれば、どうしても調書なども取られるのに対応せざるを得ず、対応に手間をかけさせることにもなってしまいます。
 万引き犯を捕まえることは、全く正当なことです。



 しかしながら、万引き犯を捕まえることにはリスクもあります。

 パニックになった犯人に攻撃されて、取り押さえようとした店員が取り返しのつかない障害を被ったりする、なんてケースもあります。
 犯人を厳罰にすることはできても、厳罰では店員のケガは治らないのです。



 もう一つが、今回問題となった誤摘発のリスクです。

 万引きをしようとしていないお客さんに対し、万引き犯として摘発しようとしてしまうことは、リスクとして存在しています。
 法的にも名誉毀損などで損害賠償責任を負うことが考えられます。
 こう行った誤った犯人扱いによる名誉毀損や告訴については損害賠償責任は成立しないことも少なくありません。あまり厳しく責任を認めると、誰も警察に通報できないということになります。
 仮に成立しても、故意にはめたのでもない限り、賠償額は100万円には届かないだろうと私は考えます。
 それならリスクとして甘受できる・・・という考え方もあるのかもしれません。
 が、今回の件でネットで批判が集中したことで、法的リスクの他に経営リスクが存在することが明確になったことは見逃せません。
 アルバイトが不衛生な行為を写真に撮ってツイッターやフェイスブックに投稿して炎上するいわゆる「バカッター」なんて言葉がありますが、それと同じです。
 もし間違われた人が店舗を名指しして、万引き犯と間違われたなどとSNSに書き込まれたら、たちまち店の評価は地に落ちかねないことが、今回の件ではっきり見えてきたように思います。
 今回の件は報道が火をつけたようですが、SNSでも同様のリスクは十分あり得ると言えるでしょう。




 実は、弁護人の立場から見ると、万引きの摘発は決して簡単なことではありません。
 下手な捕まえ方は簡単に冤罪を招きます。
 警察もちゃんとしたところでは冤罪とならないようしっかり注意しており、嫌疑不十分となることも少なくありません。

 小売店などでは、保安員、つまり万引きGメンを派遣してもらって万引きを摘発してもらっているところが多いようです。
 仕事柄、保安員の方の万引き事件の調書を見ることがありますが、保安員の万引き摘発までのチェックはしっかりと考えられています。
 おそらく、保安員の方には警備会社がしっかり研修を行っているのだと考えられます。
 何の事前知識もないままにさあ万引き犯を探して見つけたら摘発しなさい、とやられたら、すぐに冤罪を出して首が飛ぶのではないかと思います。

 

 例えば、保安員は「取ったところ」を見てから摘発をします。
 コアラのマーチのような、コンビニでもスーパーでもお菓子屋でもどこにも置いてあるような商品の場合、「これはよその店で買ったものだ」と言われてしまうと、たちまち立証できなくなることがありえます。

 保安員は「店の外に出るまで」声をかけません。
 店の中で捕まえようとすると、「これから清算するつもりだったのに…」と言われてしまいます。
 たとえポケットなどに入れていても同様です(マナー違反だとは思いますが)。マイバッグが社会的に推奨されている今、マイバッグの使用を持って万引きの意図があったに違いない、ということは困難です。
 一部の保安員はルールがおかしいと主張しているらしいですが、マイバッグを推奨している店舗に文句を言ったらどうでしょうか(悪化する万引きに耐え兼ねてマイバッグ推奨を止める店もあるらしい…)。

 保安員は声をかけるときにも大騒ぎをしません
 万引き犯人をパニックにさせると何をするかわかりませんし、万一冤罪だった時に意味もなく被害をでかくさせてしまうことがありえます。



 しかし、警備会社から派遣される保安員は研修を受けているとしても、高校生のアルバイトあたりがろくに指導も受けないまま見よう見まねで万引き犯(らしき人)を見つけて捕まえた!!とやったら、冤罪が出ても仕方ありません。
 そして誤って人を万引き犯扱いした結果、SNSなどで広まって炎上してしまい、苦労して開いた・経営してきた店舗がバカッター騒動と同様に閉店の憂き目に・・・経営者としては身の毛もよだつ事態でしょう。
 
 間違われた方としても、身の毛もよだつ事態に巻き込まれることがあります。
 判例検索してみたところ、平成15年に栃木簡裁で出たホームセンターでの万引きの無罪判決の事案を見つけました。
 万引きを目撃したベテラン保安員(と判決でも認定されている)が供述を変遷させたり、自分でも「基本」という対応を守っていないなどいい加減な対応をした結果(被告人は盗品を持っていなかった)、証言の信用性が否定されて無罪となったのですが、被告人は判決が下りるまで1年以上裁判に対応することを余儀なくされました。裁判中ずっと身柄を拘束されていたかは判決文からは定かではありませんが、されていてもおかしくない状況です。
 起訴した検察にも問題があるとは思いますが、いい加減な保安員の対応が事態を最悪の方向に持っていったと批判されても仕方ありません。

 そして、こういうことは、捕まえたのが保安員ではなく万引きについては大して研修も受けておらず法的知識もないと思われるアルバイトであろうと普通に起こり得ることも、また忘れてはいけないでしょう。
 世の中に万引き犯がいるのが諸悪の根源ですが、さりとて店に無実の人間を生贄にする権利があるわけでもないのですから、店は誤摘発のリスクからも自分で身を守るしかないのです。

 安易な万引き対応は、不運にして間違われた人と店、双方にとって最悪の事態をもたらしかねないことを踏まえて、店には万引き対応についてもしっかりとした従業員教育をしていただきたいと思います。
 





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最終更新日  2015年02月16日 23時32分05秒
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