カテゴリ:弁護士としての経験から
刑事関係で弁護活動やってて,最近頭に来ることが多いのが,起訴後勾留中,別途逮捕・起訴前勾留するでもなく延々と任意捜査を行った上,それが終わらないことを理由に「公判をまた開いてくれ,それまで被告人を勾留せよ」という検察官です。
法技術的な問題に関しては今日はここでは論じません。論じ始めるとただでさえ長ったらしいこの文章が楽勝で数倍になります。 これに関しては,検察官との法解釈的な衝突もあります。そこに関してこちらが正しいという自信は持っていますし,その点問題意識のある裁判官もいますが,そこは今日は引き下がります。(一応,「捜査中の案件につき逮捕・勾留令状を取るべきである」という結論部分のみ開示しておきます) いくら弁護人でも追起訴自体をするなとは言えませんし,検察側で突然新件が発覚するなどの事情で,方針変更をせざるを得ないことがあり得ることも認める所です。 ところが,そんなやむを得ない事情がどうとかは関係ありません。「いつ頃までに起訴する」と公判廷で言いながら,「公判廷で述べた予定すら守らず,裁判所を騙す検察官」がいるということです。 今日の記事では「遅延検察官」と呼びましょう。 裁判官から,「それは遅すぎる。ここまでにやりなさい」とぴしゃりと言われたり,自発的にいついつまでに終わると検察官から申し出て,それに従って次回までに追起訴をすることを前提に期日を設定。 しかし,弁護人の公判準備が間に合わなくなりそうになって電話でまだかと言っても「まだでーす!!」。 そして公判当日に「いやー間に合いませんでしたわー次はちゃんとやりますんでー(意訳)」。 上記のようなことをといけしゃあしゃあとほざく遅延検察官。 身柄拘束がかかっていなければ,私も不愉快には思うでしょうが基本的に強い態度には出ません。弁護側の準備上「伸ばして…」ということもありえるところだからです。 身柄拘束のかかっていない民事だったりすると依頼者の諸事情で準備が予定通りいかない…ということもあることで、準備が間に合わない相手方に遭遇した場合でも、ある程度はお互いさまと思って対応することにしています。 ところが,遅延検察官は「身柄拘束を捜査機関の一方的な都合で伸ばす結果」を承知でそう言ってくるのです。 私は,「追起訴するから待って…」という検察の主張に対して,「まあその方がスムーズに進む場合も…」とある程度大人な対応を取っていた時期もあります。そういう弁護士も多いでしょうし,今でも一概に間違った対応だとまでは考えません。 が,叱られても性懲りもなく繰り返す遅延検察官に何度も当たった上,破られたことへの責任追及も困難であるため,逮捕・勾留などもされていない余罪起訴の「予定」については,もう一切合切配慮しない訴訟活動を心掛け,追起訴予定案件であっても当該案件で一回結審可能なら被告人質問も弁論も準備します。 そもそも弁護人は公訴提起された事件の弁護人であり,検察が任意捜査中の案件については弁護人ですらありません。弁護人になってすらいない「謎の事件」に配慮して迅速な裁判の終了という当該事件の被告人の利益を目指す弁護活動を殊更手控えることは,本当に誠実な弁護活動と言えるのか?と考えます。 さて,遅延検察官などという存在はなぜ現れるのでしょうか。 以前追起訴が検察の予告より度々遅れ,私が勾留取消を申し立てたり,公判廷で散々抗議した件がありました。 私が遅延検察官と行ったバトルでは最大のものだったと思いますが,その件で遅延検察官(見た目若手)が,勾留取消申立への反論書面に書いてきた言い訳の一つが, 「警察が送致してこない,警察曰く内々の決裁に時間が必要だ」 というものでした。 ちなみに必要な期間として遅延検事が主張したのは捜査の端緒を捜査機関が得てから数か月後。 起訴前勾留ならば令状取っていれば検察官送致前の決裁に数か月かけていたら釈放するしかなく(逮捕したら送致は2日以内),捜査怠慢で一大不祥事ですが,令状を取っていないのをいいことに本来一大不祥事になるようなことを押し通そうというのです。 しかも,後日やっと追起訴され,公判で提出された証拠の作成日付を見ても,検察官がごねている時点で公判に提出された司法警察員作成の証拠はほぼ全て作成されていました(検察官が既に作成されたことを知っていたかは不明ですが)。 「決裁が必要とか書いていたが,証拠書類はとっくに全部できていたじゃないか。何故起訴をこんなに遅らせたのだ」と追及しましたが,逃げるばかりでした。 原因について色々と推測もしました。 遅延検察官が遅延に関しての意識が救いようのないほど甘い。 遅延検察官自身はまともでも,救いようのないほど甘い感覚の上の検事に迫られ泣く泣く書いている。 裁判所が強く出られないことを見越し,対裁判所で叱られて押し通すことで,検事を育てるチキンゲームの一環なんて推測もしました。 そんな中で,警察側の事情を書いてきたことで,もしかしてこれかな?と感じた最大の原因が, 「一番の問題は司法警察員で,遅延検察官はそれに対する指導力を全く発揮できていない」 という可能性です。 司法警察員も多忙でしょうし,司法警察員は犯罪者に簡単に退かない意味ではタフでなければ困りますが,「タフ」が「鈍感」「増長」「傲慢」と化す場合があるのは警察に限った話ではありません。 「捜査の現場を知らない,司法試験に受かっただけの若造検察官が無茶を言って捜査現場を圧迫している。」 露骨にそうは言わないまでも、そういう考え方前提に司法警察員に強硬に出られてしまう。 検察官は司法警察員に対して指揮権限は法律上ちゃんと準備されているのですが(刑訴法193条),「権限があるから躊躇なく行使できる」というのはある種の才能で,誰にもできることではありません。 遅延検察官は司法警察員に強硬に出られず,現実に司法警察員から事件が「ある」と言われつつも送致されないものだから遅延検察官としては起訴・不起訴の判断もできない。 不意打ち的にやっぱり追起訴ありますと言われるよりはまだマシだろうから,遅延検察官としても追起訴の予告はして,結果として公判廷で「追起訴を待って…」を繰り返して遅延検察官とならざるを得ない。 弁護人に噛みつかれ,裁判官からも難色を示されるが,裁判所側としても,追起訴が遅れたから訴えを門前払いする訴訟指揮は難しく,仮に裁判所で公訴棄却という強硬手段を取ったとしても控訴審で破棄とか,別途起訴されると被告人にも迷惑がかかる。いわば被告人を人質にとられているので,結局裁判所もしょうがないなぁ…と思いつつも公訴提起を受け付ける。(私が初期に大人の対応を取っており,またそういった大人の対応を取る弁護人を批判するのが難しいと考えるのもその発想です) その結果,司法警察員は更に 「こちらが正しかったではないか。現場どころか法律も知らない若造検事が余計な口出しをするな。」 「捜査のために現に通る手段すら選ばないようでは捜査担当として三流以下」 と増長し,「後回しにできる件」として身柄を取ったまま事件を塩漬けにし。更に検察官や裁判官,弁護人や被告人の胃袋を痛めつける。 そういった悪循環が発生してしまっているのではないでしょうか? 上記の私のストーリーは推測に過ぎず,検察官や司法警察員を事実に反してバカにした見解かもしれません。 いかんせん遅延検察官への怒りが前提に形成された推測で,バイアスの可能性はあります。上記のようなストーリーと無縁な検察官・司法警察員の方が大半と信じたいので,その方々が気分を害されたならばお詫びいたします。 しかし,遅延検察官が存在していること自体は残念ながら事実であり,少なくとも捜査機関の誰かがきちんと仕事をしていないと取らなければ,説明のつかない現象です。 もちろん,上記の推測が的中していたとして遅延検察官の責任は重大です。 検察官は指揮に従わない司法警察員に対して懲戒や罷免の訴追をすることだって可能です(刑訴法194条,正確には検察官の上層部たる検事正以上。地検のトップ位の方々が権限を行使することとなります)。司法警察員にはタフさが求められると言えど,「タフ」と「増長」「鈍感」「傲慢」を混同し,指揮に正当な理由なく従わない司法警察員は,罷免訴追にかけてでも黙らせることは検察官・検察庁の義務です。 検察官も,犯罪者,時には弁護人に対してもタフであることも必要でしょう。私も検察官にカチンとくることはありますが,検察官たるものそういうタフさも必要なことはある,というのも分かるので,その意味では同時に敬意すら抱くこともあります。 しかしながら,公益の代表者たる検察官は対犯罪者・対弁護人と同レベルで司法警察員に対してもタフでなければなりません。 身柄拘束に関して上記の程度の感覚の上,指揮されてもしても直そうとしない者を司法警察員として捜査をさせることは,酔っぱらいに公道でブレーキの利きにくい車を運転させるのと同じです。飲酒運転は酒を出した飲食店すら処罰される時代に,そんな司法警察員と分かっていながら捜査をさせたことについて無責任でよいというようなあり方が検察でまかり通ってよいはずはありません。 上記の私の推測が間違っているのならそれはそれで構わないのですが,せめて検察側で遅れの原因を徹底究明し,遅延に対しては問題ある者(組織体質か,個別の検事か,司法警察員か)に対して断固とした対応を取る。今検察庁にはそれが求められていると思います。 それは,法形式こそ違えど普段検察庁が犯罪被疑者・被告人に取っている対応そのものではないでしょうか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018年06月30日 00時00分57秒
コメント(0) | コメントを書く
[弁護士としての経験から] カテゴリの最新記事
|
|