カテゴリ:弁護士としての経験から
無言電話やいたずら電話。 ニセの出前注文。 脅迫文でなくとも,趣旨不明な謎の手紙などが送りつけられてくる。 プライバシーの暴露。(住所や電話番号やメアド,出身学校などを暴露するだけで十分です) 勤務先への解雇要求。 自営業者等の場合監督官庁等への処分要求や通報。 よくある嫌がらせです。 実際のところ、これらの加害行為は被害者自身が気にしなければ,加害行為としての色彩を有しなくなる(かなり薄まる)場合も少なくはありません。 ニセの出前は断ればいい話です。いたずら電話や無言電話も1分にもならなければたいしたことないでしょう。 プライバシーなんてバレたって構わないという豪胆な方が居ることも否定しません。 第三者からの意味不明な解雇圧力に屈して解雇とか流石に不当解雇でしょう。 処分要求や通報だって普段からしっかりやっていればきちんと説明できるはずでしょう。 では気にしなければいいんだから損害はないのか。 そんな訳はありません。 こちらのtogetterでまとめられた犯行予告の例をご覧いただきましょう。 爆破や殺人をにおわせることを書いた犯人は,周囲にたしなめる方々がいたのに 「遊びだって言ってる」 「人を爆弾魔や殺人容疑者に仕立て上げるなら仕立て上げた人が責任を負うべき」 「業務妨害をするのは自分じゃなくて業務妨害だと騒いだ人たちだ」 などと「騒ぐ奴が悪いのだ」と正当化。 しかし現場は警察官が出動する事態であり,自分がギルティであることを悟るハメになってしまいました。 何といっても,平成20年6月8日の秋葉原通り魔事件において、犯人は「秋葉原で人を殺します」と書き込みを繰り返し,結果として本当に秋葉原で7人殺害,10人重軽傷ということをやりました。 犯行予告の全体数の統計は分かりませんが,「万一」が実現した結果,取り返しのつかないことになってしまったのです。 Togetterの件でも,もちろん,出動した警察も「ただの悪戯」の可能性は考えたことであろうと思います。 しかし,「悪戯ですまなければ」,放火・激発物破裂や殺人といった取り返しのつかない犯罪が発生する可能性を視野に入れなければいけません。便乗犯などが現れ,関連して何らかの犯罪行為が起きる可能性もあります。 手がかりとなる事態を知りながら放置して大損害になったとなれば,桶川ストーカー事件のように警察を含め,放置した者の責任や信頼が問題になる可能性もあります。 警察としてはしっかり警備しないと危ない,空振りならそれでよかったと思おうという判断で出動したのでしょう。 もちろん,そんなことが彼の責任を減じる理由や,不安がる関係者の方々を腐していい理由になる訳はありません。 犯行予告を受けた側としても,自分自身の損害だけならばリスクを飲む決断もアリでしょうが,「家や勤務先に火をつける」などというように,家族・友人・同僚・従業員などの関係者に累が及んでしまうようなケースだって考える必要があります。 それくらいなら,99.9%何もないと考えられるケースであろうと,犯行予告がなされたら警戒はある程度しておくべき。 現代日本においては,そのような対処を過剰反応だなどとはとても言えないと思われます。 そして,そうした不安から人を守るべきであるからこそ,刑法は害悪を告知すれば,実際に害悪を行うつもりかどうか,害悪の告知で何かをさせようとしているのかなど関係なく犯罪としているのです。 犯行予告に限らず,前記した無言電話やいたずら電話のような攻撃は,「連続的な・エスカレートしていく不法行為の兆候」である可能性がかなりあるものです。 桶川ストーカー殺人事件などは、根源的には痴情のもつれが原因だったようですが,金銭要求,無言電話,近隣徘徊、被害者の名誉を毀損するビラ配りとエスカレートし,ついに被害者が殺害されるという最悪の事態に至ってしまいました。 つまり,無言電話やいたずら電話のような人によっては無視しうる零細な不法行為であっても,連続的な不法行為が暴走して,いくところまで行ってしまう。 我慢していればいつか飽きると言う可能性はもちろんありますが,残念ながら加害者も十人十色です。 我慢した結果調子に乗ったり,「これでダメか,ならもっと強力な手段に出てやろう」とでてくる。 その手の問題に知識があれば,否応なくそういう加害者がいる可能性に思いが至ってしまいます。 今般問題になっている弁護士への大量懲戒請求も,これと同じことが言えるでしょう。 殺到した懲戒請求は確かに一見すれば懲戒理由なし,そんなので自分が懲戒されることはないと言うのは分かり切っていることなのかもしれません(私は実際そんな見解に全く賛同できないのですが,今日の記事はその点目をつむります)。 しかし,懲戒請求が連続的な不法行為の兆候であるとすれば,懲戒請求がうまくいかないなら脅迫状で,無言電話で,直接的な身体への加害とエスカレートしていく危険は簡単に浮かびます。 弁護士としてある程度経験を積めば,特にストーカー被害や離婚などで,ハナから損得度外視な攻撃を仕掛けてくるタイプの人は見た・聞いたことがあるはずで,それが自分に向けられるのが不安になるのは当たり前です。 攻撃方法も問題ですが,その攻撃対象(巻き添え含む)も,弁護士個人に限らず,同じ事務所の弁護士,弁護士の親族,事務所の事務員…そういったことまで警戒せざるを得ません。 かつてオウム真理教信者の脱会などを支援していた坂本堤弁護士はオウム真理教信者に自宅に踏み入られ,坂本弁護士ご自身はもとより,奥様や幼いお子さんまでが殺されました。 奥様が殺害されたことを契機とした犯罪被害者支援活動で有名な岡村勲弁護士ですが,岡村弁護士の奥様を殺害した加害者の動機は経済的損失を蒙った犯人が岡村弁護士を逆恨みし,岡村弁護士の家に行ったら岡村弁護士が不在なので奥様が標的になってしまったと言うものでした。 また,応対に出た事務員が攻撃され,ときには殺害されてしまったケースもあります。 こんな具合なので,弁護士はその職務上,安全確保にも神経質にならざるをえない職種です。(弁護士に限った話ではない気もしますが) もちろん安全確保策は経費が掛かったり職務への支障が生じる場合もあるのである程度開き直っている方もいますが,「警戒する弁護士が普通,開き直っている弁護士はやむを得ない措置」という認識は持たなければいけません。 これが発端となる事件が分かっていて,懲戒理由に当たらないとしても一応の根拠のあるような懲戒請求なら,「正攻法で攻めてくる相手なのだから,正攻法の場所で戦える」という意味では一定の安心感があります。懲戒される危険性はある意味上がりますが,被害はある意味それで済むと言える面もあります。 しかし,発端すら訳の分からない懲戒請求が何百人にもわたっている以上,桶川ストーカー事件のビラ配りと同質でこの後更に危険な行為に走り出すと言う危険も想定されうるのです。 例え大半が無責任なノリで行っており,ダメならそれで終わりと考えるとしても,「誰か一人でも」そういう攻撃に走り出せば弁護士個人の人生は跡形もなく破壊され,時には巻き添えの被害が出てしまう。 不安に鋼の精神力でもって打ち勝てる弁護士には敬意を持ちますが、自分以外の人が抱く不安に思いが至らないのだとすれば、それは鋼ではなくゾンビというべきでしょう。 弁護士側としては簡単な反論書面出して終わりでは済まず、懲戒請求以外にもなにか攻撃されるのではないかと怯えなければならないのがコピペによる大量懲戒請求である。という認識をまずお持ちいただかなければなりません。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018年07月05日 21時10分34秒
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