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碁法の谷の庵にて

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2019年11月01日
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カテゴリ:囲碁~碁界一般編
依田紀基九段が記者会見を開いて日本棋院不信を訴えたそうです。
 (日刊スポーツの記事はこちら、デイリースポーツの記事はこちら)
 背景にある事情について正確な所は私からはほとんど分からず(依田九段のツイートは追う前に消えてしまったので)、漏れ出てくる情報からいくつかのストーリーの推測は立つにしても、つぎはぎが多く確度は低い所だと思いますが…


 依田九段、twitterでの意見表明をたしなめられ、そこについて落ち度を認めたからと言って、「記者会見」というのはもっとまずい方向に話が進んでいるように思います。
 twitterやSNSでの見解表明がしばしば「炎上」という形で問題になるのは、ろくに考えもせず重大なことを表明してしまう人が後を絶たないし、あとで落ち着いても表明した事実が簡単に消せず取り返しがつかないからです。
 記者会見ならば、ろくに考えもしない発言ではなく本人なりにしっかり考えた上で発言するだろうという信頼は比較的強度ですが,代わりに「取り返しがつかない」度合いはSNS以上です。
 依田九段がtwitterに関して(方法論に問題があろうと)真摯に表明したのであればあるほど、記者会見という方法はtwitterの問題点「軽々しく発言しやすい」は、解決してもあまり意味がないどころか、むしろ余計な問題点が追加されているだけです。

 
 記者会見の報道から、依田九段を支持・応援する人はそれなりにいるかもしれません。
 確かに、依田九段の言っていることが本当なら「これはやばいでは済まないのでは…?」「依田九段が憤慨するのも無理はない」と感じられる事項もあります。

 でも私も含め報道を読んだそういう人たちが依田九段についたところで、依田九段が望んでいる棋院の問題点の改善にはつながるとは思われません。
 依田九段が本気で事態を憂慮しているならば、その手の「依田九段の味方」と「依田九段当人」の温度差は絶望的なくらいにあると見ていいでしょう。
 彼等は依田九段に寄り添ってくれるという訳ではなく、一時的な話題として依田九段に同情するだけ。もっと言えば話題として消費するので終わる人が大半でしょう。
 しかも依田九段の一方的意見しか聞かずに「依田支持!棋院が悪い!」というだけではその同情も軽いものであり、仮に支持者から改善提案が出た所で地に足のつかないものです。
 何かのはずみで依田九段の問題点が出てきたら突然風向きが変わってしまい,本来の問題点が解決された訳でもないのに一顧だにされなくなってしまうことすらも危惧されます。


 記事を見る限り、そうなることも覚悟して、依田九段も会見で事態を可能な限りつまびらかにして判断を仰いで、その中で味方についてくれる人を探している…とはちょっと考えにくいように思います。
 記者会見だけで支持に回ってくれる人たちはいるかもしれませんが、そう言う人たちは依田九段を精神的に慰めてくれるだけです。
 そういった精神的な慰めが欲しいという気持ちを責める気はありませんし、精神的な慰めが重要な働きをする場合もあることは否定しませんが,そんな精神的な慰めだけでどうにかなる事態なら、こんな記者会見まで開くほど事態が深刻になったでしょうか?


記者会見では
命の危険すら感じる精神状況となっています」と、表情をゆがめながら言葉を絞り出した。

「対局中止などの処分は、まったくあり得ない!」と突然声を荒げる場面もある

と報じられています。

 これらの記述からは依田九段が精神的に不安定になってしまっていることを疑わざるを得ません。
 報道の文面の具合の問題で実際はそうでないとしても、そう読めるように報道されてしまっています。


 背景になった紛争について誰が正しい・誰が悪いを私が論じることはできません。twitterでの表明の当否を脇において、執行部が一方的に悪く、依田九段は純粋な被害者という可能性もないわけではないのでしょう。
 しかしそうであるにしても、依田九段のこうした表明が事態の解決につながるとは到底思われません。
 そもそも当の依田九段自身が何が問題になっているか、一度ツイートしましたが削除してしまい、その後は具体的な所を明かさない、あるいは明かしているにしても報道に報じられていないのです。
 そんな状態で記者会見するなら、裁判所に訴えや調停を提起し、公的機関をかませたフォーマルな手続に持ち込む方がまだしもまともなやり方ではないかと思います。
 少なくとも、ガヤの精神的な慰めは当てにせず、棋院とケンカ別れすることも覚悟が決まってから可能な限り事態をまとめ、徹底的に戦略を立てて行うべきです。
 依田九段が精神不安定、あるいはそう読めるように報道されてしまう現状のままこじれた紛争を顕在化させることは、たとえこれまで依田九段が棋院に不当な仕打ちを受けていたのだと仮定してもまずいでしょう。
 労働法の理屈なら、内部告発や批判活動をしたとしてもそれだけでは懲戒理由にはなりません。しかし、依田九段にストレートに労働法の理屈が使われる訳ではありませんし、例え内部告発や批判の内容が正当でも手段がまずければ懲戒が正当化されえます。(記者会見という手法はかなりまずい可能性が大)
 私としては、依田九段の肩を一方的に持てる状況ではないのですが,主張内容について依田九段の肩を一方的に持てると仮定しても現状は不安しか感じません。
 少なくとも、囲碁ファンの一人として私は依田九段の今後に強い憂慮を覚えます。



 記者会見には弁護士2名も同席していたそうです。
 記者会見を止めなかったのか、依田九段の強い意向があって尊重せざるを得なかったのか、はたまた弁護士サイドから記者会見を勧めたのかは分かりません。
 私が依頼を受けたなら、記者会見を開きたい!という意向にはまず反対すると思いますが、当人の意思が堅く覆る見込みがないと見たならば記者会見について行ってフォローや補足はすると思います。

 依田九段の会見に付き添ったという二人の弁護士には、事態を何とかするための御尽力を祈るばかりです。




※※※※※※※※12月10日追記分※※※※※※※※

 依田九段のものと思われるブログに、記者会見の原稿と配布資料の一覧がでました。
 内容的に本物と推察していますが、確認は取れていませんので、偽物なら以下の見解は全て前提が崩れることを承知の上でお読みください。
 内容的には上記の繰り返し部分も多いですが。


 読んでみて、記者会見に関連する報道で出ていない情報(例えば不満を議事録に載せないというが何を主張したのか、KMSに情報が流れたなど)はいくつかありましたが…
 内容的には「想定の範囲を出るものではない」という認識です。


 もちろん、依田九段の記者会見が誠実に行われたという仮定を前提にすれば、依田九段がなぜ自分が対局停止なのか、そもそも正式な処分でなく対局禁止というのはあるのか、何故長期間にわたって説明をしないのか。
 こうした点について依田九段が不信を覚えるのはごもっともであり、棋院の対局禁止に関する内規などが不明である(懲戒に関する規約に対局禁止があるのでしょうか?)にせよ棋院執行部は非常に問題の大きいことをしている可能性が高く、あるいは執行部の誰かが暴走しているのだと仮定してもその問題ある行為を止めることもできていないなら、無責任ではいられないという感想ではあります。
 
 しかしながら、だからといって記者会見という手法が適切なのか、という記事の問題意識が解決したものとは思われません。
 むしろ、「本当なら棋院執行部(か少なくともその内部の誰か)に問題がある」という感想を抱いた時点で、いよいよ火に油を注いでしまった可能性が高いと再確認です。
 
 おりしもこの記事を書いて以降、東京高裁のマタハラ訴訟で東京高裁が「記者会見でマタハラ企業という認識を流布したことは名誉毀損」とし、マタハラで企業を提訴し、記者会見を開いた労働者側に逆に名誉毀損で損害賠償を命じています。
 片方の紛議の当事者が記者会見という形で幅広く関係者の名誉を傷つけることは、もし事実と違っていたら、あるいは事実であると立証することにしくじったらそれだけでも名誉毀損に当たると判断されてしまう可能性があるという事です。
 

 また、公益通報者保護法の視点で考えてみましょう。
 依田九段が公益通報者保護法における労働者に当たるかどうかについて、契約関係が不明ながらここではあたるものと仮定しましょう。
 しかし、この場合「通報先」は選ばなければいけません。例え内容が公益通報に当たるとしても、通報先を間違えれば保護の対象にならない=通報自体が処分の対象になりかねません。

 組織的な不正について通報するものとした場合に通報先として真っ先に選ぶべきはまずは事業者内部の通報先ですが、通報先ともめている現状からすると使えないという事になると思われます。
 そうすると次に通報すべきは監督官庁ということになります。日本棋院は公益財団法人なので、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律で処分や処罰の対象になる行為が法的に保護される通報になります。
 この段階で「棋戦の運営にあたって一部の棋士が不公正に排除された」というのが通報の対象に当たる事実か、と言えばそれは首をかしげざるを得ません。
 棋戦の運営については棋院に大きな裁量権が存するところであり、特定の原因で誰かを排除するというのは「問題行為」であっても、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律上処分や罰則の対象になるとは考えにくいように思います。

 その点かなり強引とは思いますが、例えば法5条5号の不公正に運営される棋戦は「公の秩序もしくは善良の風俗を害する恐れのある事業」にあたりかねず、公益財団法人としての認定取消しにつながる等と考えたとしましょう。
 しかしながら、この場合の通報先は内閣府大臣官房公益法人行政担当室または東京都となります。

 ではマスコミなどに通報・会見することはどうでしょうか。
 一応、内部通報や監督官庁以外に通報することも保護の対象にならないわけではありませんが、その場合の通報先は「当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」になります。
 しかも、正当化できるのは上記の通報先に通報したら不利益を受けるとか、証拠隠滅をされるとか、または書面で内部通報したけどなしのつぶてである場合や一刻を争う場合(毒性ある食品が出荷されたので「皆さん食べてはいけません!!」と緊急告知するなど)に絞られます。
 現状この件について被害者にあたるのは依田九段一人(依田九段の碁が見たいファンの希望は法的保護の対象とは言えない)ですし、例えば他の棋士が連鎖的に処分されかねないというような話もないのですし、一刻を争うという状況ではないですから、公益目的で被害の発生や被害防止をしたいなら報道に通報して会見という手法が適切という事にはならないのです。
 もしかすると、依田九段の会見の中でこうした事情について言明があるのかな?という可能性も一応考えましたが、公表されている資料類にはその手の言及は見当りませんでした。

 依田九段の記者会見は、違法でなかったとしても、棋院の処分からも保護される可能性は薄いように思われるのです。
 

 そして、私には「一個人としての表現の自由」はありますが、逆に言えばそれしかありません。
 表現の自由以上に依田九段や日本棋院を止める義務も権利もありません。
 しかも、棋院が「依田九段の主張は事実無根である」と取材に応じたという報道もあります。
 どちらの主張が正当なのか判断する以前にもうこの紛争は行きつくところまで行きつくしかなくなってしまったのではないでしょうか。
 もちろん徹底的に争うのは棋院にとっても依田九段にとっても棋院(あるいはその関係者)にとっても権利ですが、囲碁ファンとしては残念な事態の一語です。

 今の私は、この紛争はもう行きつくところまで行ってしまうのではないかと諦観していますが、何らかの形で事態が収まるという奇跡が起きることも祈っています。





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最終更新日  2019年12月10日 18時49分42秒
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