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カテゴリ:事件・裁判から法制度を考える
朝日新聞で、2年で時効なのに、14年分の債権を請求し、それが裁判所で通ってしまった例を扱っていました。
時効には、「当事者の援用」が必要とされています。(民法145条) 当事者が「この件時効です!」と言わないと裁判所としては例え時効期間が経過しても時効と扱うことができないのです。 裁判官が内心「主張すれば時効で請求の大半を認めないのになぁ…」と思っていたとしても、当事者の主張がなければ時効だから債権が消えた!と言うことにはできません。 裁判所から当事者に主張立証を促す「求釈明」もあります(民事訴訟法149条)が、中立性を維持する要請上時効のように一発で勝敗が決まってしまいかねない事項を求釈明するのは問題があるという意見もあります。 「弁護士に相談した方がいいよ、弁護士会とか法テラスの連絡先はここだから」くらいに匂わせるのがおそらく裁判所の限界であり、それでもなお「お金かかるので弁護士は頼まない」で押し切られれば裁判所もお手上げでしょう。 私個人として、この自治体の対応には正直かなりの違和感があります。 ただ、これはあくまで個人的な違和感に過ぎず、町側があえて教えてあげる義務があると言えるかと言うと…少なくとも私には義務があるとは思えません。 なぜ相手に自分の権利を捨ててまで有利な方法をあえて積極的に教えてあげなければいけないのかとなればそうした義務を裏付ける根拠は必要でしょう。 私には、その根拠が見つからないし、記事の弁護士も具体的にそういう根拠を持っているわけではなさそうです。 もちろん、請求側が相手からの回収のためなら何をやってもいいという訳ではないと思います。 「弁護士などに相談したら強硬手段に出ると申し向けて孤独に追い込み、時効について知る機会を妨害した」 とかなら裁判を受ける権利や弁護士を依頼する権利の侵害などを根拠に違法と評価できると思います。 実際、夜中に相手方に突然ファミリーレストランでの直談判に連れ出してその場で判をつかせた弁護士は業務停止の懲戒処分になっています。(以前の記事参照) しかし、淡々と裁判手続を使って請求しただけである限り、特に権利を侵害したという訳ではなく自治体の対応に問題があるとは言えません。 個人的に、「時効には援用が必要である」という法律の規定が一番問題であるようにも思います悪徳業者に使われている面も否定できません。 例えば、知識に乏しい人たちなどは請求されても「援用」などと言うことに思いが至らないばかりか、弁護士に「請求されたら援用しなさい」と言われていてもいざ請求された時にはすっぱり忘れてしまい、業者の言いなりに払ってしまうこともあります。 時効には援用が必要である なんて解釈はその最たるもので、一部の金融業者はこの解釈をしばしば悪用します。 債務者宅に突如押し掛け、弁護士や消費生活センターなどに相談する暇も与えずとにかく一部でもいいから払って!!と迫り、帰ってもらうために払った数千円の小金を盾に時効援用権を喪失したという主張を平気で出してきます。(一応これには裁判所も救済するケースがありますが) 時効に援用を必要とする趣旨は、債務者の時効に頼らない意思の尊重などとしばしばいわれます。 しかし、現実には債務者の意思の尊重としてではなく、単純に無知、あるいはパニックに陥った人たちが適切に対処できないことにつけこむことに使われているというのが実情ではないでしょうか。 少なくとも、時効に頼るくらいなら払った方がマシだ!なんて債務者は私の知る範囲で見たことがありません。 最後に、請求を受けたならば例え身に覚えがあって払う必要がありそうだと思ったとしても、一度は弁護士に相談に来てください。 生活が苦しいようなら法テラスの援助制度で無料相談になる可能性もありますし、自治体などが無料の弁護士相談をやっている例は多いです。 結果的に状況が好転しない可能性はありますが、せっかくの権利を放り出すよりはずっといいはずです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2020年06月01日 21時03分20秒
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