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ゲミュートリッヒな暮らし~Seit 2005

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2011.11.12
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カテゴリ:生活経済
 

 札幌市在住の拙者は、大震災の惨禍を直接経験していない。ほとんどがメディアの報道やネット発の情報から得ている。いろいろと情報の上澄みをすくって行くうちに、「大震災というダメージが背景にあろうことは承知しているが、それにしてもみんなのリアクションがなんか変じゃない?」 という違和感を感じることがあった。その違和感の多くは、「何で急にそんな話になるのか」 「これまでの貴方たちは何だったのよ」 と言いたくなるもので、これまでの自分を棚に上げたような雰囲気はまさに支離滅裂。
 あれほどの大災害、心に異変や不調をきたすのは痛いほど分かる。でもそこから心を立て直してこそ真の復興が始まる。そのヒントを探るべく、香山リカ先生の本を読みながら 「3.11後」 に起きた、すさまじいまでの心のダメージを反芻してみた。

「日本人のマナーに世界が驚嘆!」 「やっぱ日本人って凄いんだ」


 震災から1週間ぐらいして、いきなり何の話だよって感じの見出しが、特にネットニュースを中心に溢れ出した。被災地で秩序正しく行動する被災者の姿に、世界のメディアが仰天した、というのだ。
 統計上、日本はまだまだ治安のいい国であることは明らかで、むしろ世の中、治安が悪くなっていると思う人が激増しているのは何故なのか、拙者はそっちの方が疑問だった。「でもやっぱり日本人は凄いんだ」 と、これまでの流れを逆流させたような話が巷にあふれ出したんだから、何だか気持ち悪い。
 被災地の落ち着いた状況?と反比例したのが、首都圏で起こった買占め騒動だった。この落差がどうも理解できない。首都圏の人間だって 「凄い日本人」 の一員なのだが・・・。

 香山リカ先生によると、被災者の落ち着いた行動も、首都圏の買占め騒動も、一種の心的防衛メカニズムではないかと指摘する。買占め騒動が、不安解消行動であることは即理解できた。が、被災地の驚くべき秩序も、「日常の秩序を守ることで、自分がパニックになるのを防ぐためだったのでは」 という氷のように冷静過ぎる分析。現実を即座に受け入れると心が崩壊する。それを防ぐために、日常行っていた秩序正しい立ち居振る舞いを続けるよう、心が自動的に指示をした、というのだ。心が壊れないように、ギリギリの選択を迫られた人々・・・そして外野は勝手に 「僕らって凄いんだ」 と反芻している・・・確かに奇妙な現象としか言いようがない。さすが先生、冷や水を浴びせるのがうまい。

 約30年前、長崎県で大水害が起こった。長崎市内も広い範囲で冠水した訳だが、あるパチンコ店では床上浸水しているにもかかわらず、客が避難しようとしない。明らかに店内まで浸水しているにもかかわらず、多くの客がパチンコをやめようとしなかった。
 水も引いた後、市内では方々で片付け作業が始まったが、パチンコ店の前には客とみられる人たちが群がっていた。途中でパチンコをやめさせられたことに対して補償を求める人たちだった。数十年前の日本人はもっと凄い!言い方少し間違えた? 

そしていきなり手のひらを返すように始まった、東京電力バッシング


 自分の中にある都合の悪い感情や考えなどを無意識的に自分以外の特定の人物に押し付け、実際は自分がそうであるのに 「○○されている」 と考えようとする心理状態を、投影性同一視、という。どこかに敵を見つけ、「全ての問題は私ではなく、あいつの性なんだ」 と問題を摩り替えることで、自分を安心させようとする。

 先生の解説が、震災後に起きた東電バッシングだけでなく、イラク人質事件以降に見られる数々のバッシングにぴったり当てはまるように感じる。味わい深いのが、今回の震災が自然現象から始まっているだけに、「敵の特定」 にも時間がかかったことだ。そのかわり、標的が定まるやいなや、そのバッシングたるや、すさまじいものだった。すさまじいだけ、人々の持つ不安の度合いが測れる訳だ。

 東京電力に対するバッシングが、まるで手のヒラを返したように始まった後、ネットでこんなことを言う人がいた。

「私は原発の危険性を認知しつつも甘受し電気を使用し続けてきたので加害側の1人だと思っています。前々から反原発を唱えていたならいざ知らず、今回の事故で手の平を返したように反原発、東電批判を繰り返す人達がいますが今まではどう思っていたのですかね?「知らなかった、騙された」といいますが己の無知をさらけ出しているだけ、危ない物で作っていた電気を何も考えず便利に使っていたのだから非難する権利はないと考えます。事故後の対応も完璧とは言いませんがあれだけの大惨事、誰がやってもあの程度が精一杯でしょう。」

 まさにその通り、と言える。この方は投影性同一視に陥ることが無かった稀有な存在?

 何年か前、新聞の書評で忘れられない記事があった。本の題名は忘れてしまったが、原発城下町の現実を書いた本で、そのシュールさに苦笑いしたことがある。特にシュールだったのが、「小規模な事故」 が起きた直後、地元のお弁当屋さんが繁盛するという話だ。電力会社の関係者だけでなく、視察に来る中央省庁の職員やら報道陣やら・・・彼らはどこかで食べなければならない。どこかで寝なければならない。だからホテルも満室になるのだろう。この猛烈なまでにシュールな現実、緊張感の無さ、もうどう言い現していいか分からない。書評の感じからして、「原発に対するネガティブな視点がステレオタイプに陥っているメディアに対する皮肉」 という雰囲気であり、拙者の感想もそれと同じだった。

 このザマなのだ。まずは自分の無知ぶりを悔い改めるのが人間の道だろう。しかしながら、今年も相模原市に住んでいたとしたら、ここまで冷静になれたかは疑問だ。拙者とて一人の人間であり、動揺もするし怒ったりもする・・・。

万人にとっての利他・利己は存在しない、という話


 震災翌日、職場の朝礼で拙者が話したのは 「とにかくいま自分たちに出来ること、それは普段の仕事を普段どおりやること」 であった。
 大変なことが起きた!という気持ちで一杯なのだが、だから何するのって、朝から仕事をするしかない。先生の著書によると、仕事を放り投げてまで被災地の支援に赴く医師がいる件に触れ、じゃあ自分の病院の患者さんをどうするのって話になったそうだ。
 利他的な行動が、誰かにとって利己的に写る・・・これは味わい深いことではないのか。このことを認識するならば、「まずは日常生活の安定を」 という結論に至る。先生はこういう趣旨の呼びかけをしたら、すさまじいまでの非難を浴びたという。批判してる人こそいったい何をしているのか、と思う。仕事を放り投げてまで、何かに取り組んでいる忙しい人とは、到底思えないからだ。

 役場の庁舎内で、防災無線で避難を呼びかけていた若い公務員の女性が津波の犠牲になった。メディアはいずれも、彼女の行為を尊いものとして紹介していたが、家族はある取材に 「やっぱり逃げて欲しかった」 と答えたという。
そんなの、聞くまでも無いことだろう。
 家庭を持つ父親だって、そう簡単に職務に殉じてもらっては困るのだ。残された家族にとって迷惑なのも当たり前。それを 「利他的な行動だから」 と賞賛するとは、全くもって赤の他人とは薄情なものだ。

 ものの見方というのは必ず複数ある。それを忘れて一時の気分で思い込んだ挙句、誰かを無批判に持ち上げたり叩いたり・・・その後に残るのはいずれにしろ虚無でしかないのではないか。現実的な問題が山積みのなかで、刹那的な感覚で判断するのは困る。正解なんてものは簡単に見つからない~そういう大前提で悩み苦しみ、そして初めて何かが見えてくるはずではないか。非常時にそこまで冷静に考えるのは難しいと言われれば終わりだが・・・。

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最終更新日  2011.11.12 22:10:29



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