『素晴らしき日々』。羽を胸に皆を守り岐路を往く。
『素晴らしき日々~不連続存在~』攻略完了。このゲームに手を付けたプレイヤーは怒涛の情報量、視界を隠す認識のズレ、そして目を覆うような狂気の描写に遮られ必ず平静を失うだろう。それはあるプレイヤーによっては怖いもの見たさの好奇心となり、またあるプレイヤーにとっては不快極まる支離滅裂な描写となって先に進む指を鈍らせる。そのどちらも正しい反応だ。どうであれ、このゲームは序盤においてあらゆる手段で以ってプレイヤーを混乱させ翻弄しようとしてくるのだが、その不安の波に抗おうとしたり、無理に打ち破ろうとする必要はない。シナリオに潜む謎を先回りして解き明かそうとする必要はない。だってわかってしまえば全然大したことないから。ただその物語の暴力に身を任せ、何も考えずに漂うだけでいい。そうすれば、必ず何がしかの感動は生まれる。保証してもいい。この作品のシナリオには人の心を動かす力がある。そしてそれは小手先のトリックや、小賢しい叙述のイカサマによるものでは絶対になくて、魅力的なキャラクター同士のドラマや、美しく示唆的で残酷で詩的で巧みな文章表現によるものだ。少しネタバレしてしまえば本番は四章のジャバウォッキーからだから。そこまで諦めずに続ければこの作品の本質と良心が見えてくる。だから、合わないと感じてもどうか諦めないでほしい。楽しかった。ありがとうケロQ。好きなキャラクターは間宮羽咲。ジト目が可愛い小動物系妹キャラ。ヒロインとしてより、やはり守るべき存在として愛しい。ただ問題点として、(作中で開花していないとは言え)ヤンデレの素質がある。想い人に近付く女性に対してたまに怖い。そしてまさかの実妹でもある。別の意味で怖い。俺が作中で一番好きな場面が、ある事情で彼女がエロゲーに興味を示すシーンである。何度見返しても笑える。そして羽咲は可愛い。あまりにもジト目が可愛いのでちょっといじめたくなる。そんな娘だ。ちなみに二番目に好きな場面は希実香の人間イスであることは言うまでもない。尊敬するキャラクターは水上由岐。序盤だけ見て探偵気取りの百合ハーレム女かと思ってたらとんでもない重要人物だった。彼女の過去は現実の悪夢とリンクして、我々に対して強烈に問いかける。即ち、『もし愛する人がガケから落ちそうな時、自分が一緒に飛び降りてでもその人を守れるか?』。守ろうとすることが出来るか?「人の優しさを支えるのは意地であり、それを貫こうとする意思だ」と言う。であれば、彼女は作中の良心と優しさを体現するヒロインに違いない。愛するキャラクターは悠木皆守。最初はクソムカツク不良野郎とでも思っておけばいい。俺は皆守を愛しているが、一つダメ出しをするなら「負けたこと」が気に食わない。そう、誤魔化されてはいけない。皆守は最終的に負けてしまった。恐ろしい凶行を止めることができなかった。それが事実だ。好きなBGMは小さな旋律。他どれもピアノが引き立つ美しい音楽ばかり。ああ、本当に残念だ。このゲームのラストは前向きに誤魔化してはいるが、実際にはとてつもなく悲惨なものだ。あまりにもたくさんの人が死にすぎた。そして、その罪は全て「カルト教団の主導者(部外者から見れば)」である○○に課せられてしまう。これは果たして、本当にハッピーエンドなのか?もっと違った結末がほしかった。終の空をぶち壊すような、そんな奇跡を。月が笑う。神が笑う。この滑稽な姿を。この喜劇のような悲劇を。夜空が……神が俺たちを嘲弄する。空の器を床に投げ落とす無邪気な子供のように。世界は空っぽになる。だが俺は言う。神なんて関係ねえ。運命なんて関係ねえ。俺は約束した。だから、俺は怯まない。誰が相手だって怯まない。俺は、俺自身の手で、運命を切り開く。喜劇を悲劇もくそくらえだ!世界は言語化できる全て。神は言語化できない全て。そしてこの作品が描こうとしたのは何よりも尊いもの、「言語化できない感情」だ。世界の中には価値が存在しない。では本当の価値はどこにあるのか?その問いに対しては、愛する人のために自分の身を宙に投げ出す、その瞬間の激烈な情動に答えがある気がする。無力なものは巨大なものの前でただもがく。どんな無様でもいい。生きるためなら、俺はどんな無様な姿でもさらす。「巨大なもの」とは重力であったり、暴力であったり、権力であったりする。自分を虐げる全てに立ち向かえ。無様でもいいから頑張って生き抜いてほしい。これも、作品を貫くメッセージだ。彼女は言った。償いだと。彼女は言った。十分だと。彼女は言った。それが、私の世界の価値であったと。ボクは思う。そんなの糞喰らえだと。世界がなんだ。償いがなんだ。呪いがなんだ。死がなんだ。ボクは彼女を抱きしめたい。ただ抱きしめたい。死の直前だろうが、瞬時のことであろうが、ボクは彼女の生きたぬくもりを感じたかった。だから飛んだ。生きることは尊い。愛する人のために命を投げ出すのは、尊い。単純、単純、単純だ。このゲームは全く難しくない。決して難しく考える必要はない。ただそこにある心意気を、あるがままに受け取ればいい。言葉より速く伝わるものもある。言葉より正しく伝わるものもある。世界はどんな短い時間でも意味を持つ。意義を持つ。言葉は世界、であれば言葉は器でもある。どんな小さく矮小な器であっても、そこに乗せる意図が尊ければ、やはりそれは尊いのだ。俺はこの作品のあらゆる結末に嘆きはするけど、無意味だとは思わない。世界はどんなに醜くても、ちっぽけで壊れかけでも、もう取り返しが付かなくても、絶対に意味を持つ。意義を持つ。だから、「幸福に生きろ」と。それがこの作品のメッセージだ。地獄への道は善意で敷き詰められている。善意は対象に罪悪感を与え、人の心を弱らせ惑わせる。良かれと思ってやったことの先にこそ、真の地獄が待っている。だからこそ、我々が地獄に踏み込んだ時、それまでの道筋にたくさんの善意があったことを忘れてはならない。例え矛盾であっても、それこそが救いだ。それこそが、それぞれが歩んできた『素晴らしき日々』だ。 【新品】サプライ 間宮羽咲 キャラクタースリーブコレクション第48弾 「素晴らしき日々 不連続存在」【画】