一方、反対に値下がりしたワインは何か。私見だが、為替の動きを反映したワインとして、ロマネ・コンティなどのDRCが代表的だと思う。05年、06年ヴィンテージあたりを頂点に価格は頭打ちになった(正規代理店ファインズの提携店の場合)。なおコルトンが加わり、エシェゾーはラインナップの末端商品ではなくなったので、やや例外的かもしれない。作り手はファインズにネット販売を認めていないので、楽天などネットでの販売価格は、こうした傾向とは関係ない。現地の販売店で変な輸入業者が買い占めているのではないかと勘ぐってしまう白のオート・コート・ド・ニュイといい(昔は3本を70ユーロかそこらで購入したような気がする)、ネットという場所は、ここが作ったワインを買うのは消費者にとって不利益が大きい。
また、国内にどっさりファンがいるわけではないプレミアムワインの作り手のワインも値下がりした。すぐ思いつくのはルーシー・エ・オーギュスト・リニエ、セシル・トランブレイなど。白の作り手の筆頭格であるコント・ラフォンも、おそらく理由は違うだろうが随分と安くなった。自然派のフィリップ・パカレは、高すぎる上に失敗作に遭遇することが多かったので批判的にみていたが、最近では価格が高止まりせず、大幅に安く販売されるところも見かけるようになった。
さらに、01年、02年あたりで急上昇したクロード・デュガ、デュガ・ピィも、DRCと同じように頭打ちになったようだ。昔の値段が高すぎたと思う。
なお、ショップがセールと称してワインを割引価格で売るところもよく見かける。最近では06年、07年あたりが処分売りの対象で、著名な作り手でも1万円を切る特級ワインは結構見かける。こういうセールに出てくるワインは、通常のオファー時の価格(≒インポーターの了解を得ている価格)が高めで買い手がつかなかったわけだ。最初に下げて売って、翌年以降も買い続けるファンを作ればいいのにと思う。ワインの優劣はあまり関係がないと感じる。
最近、あるショップの方から「稀少なワインは大事に売っていこうというお店が多い」という話を伺った。ユーロ上昇に応じて販売価格が上昇したのに、ユーロ反落の局面では値下がりせず、むしろ値上げすらしたワインがあるのは、売る側がこういう姿勢をとっているからだだろう。
誰もが欲しいと思うワインの価格は人気に応じて一方的に上昇し、逆に人気がそれほど集中しないワインは、ユーロが高くなる頃に価格が上がり、安くなると相応に落ち着いてきたように思う。ブルゴーニュワイン全体の価格の序列が変化したといっていい。
DRCの場合は、誰もが欲しいと思っていても最初から大幅に高かったので値下げする余地があったということではないか、と勝手に想像している。ただ、正規代理店以外が販売するセカンダリー市場ではDRCの名前がものをいって価格が上昇する一方であり、最近の価格低下は転売業者にとって好機だったのかもしれない。
全く個人的な感想だが、DRC以外に、ワインの素人も含め誰でも知っているブランド的価値のあるブルゴーニュワインの作り手など世の中にはないと思っている。DRC以外は、畑の重要性の方が優位するのではないかな。「コルトン・シャルルマーニュ」や「シャンベルタン」が知られているのに比べると、作り手の知名度は突出しているとは思えない。
「あのDRCも手掛ける○○がこの価格で買える」などという宣伝文句は無意味であり、有害ですらある。「そんなことはない」といわんばかりに人気を煽ろうとする刊行物もマンガも、しょせんはプロモーション、ちょっと昔の流行語でいえば「ステマ」だ。このユーロ安局面は、どのワインがプロモーションワインで「ステマ」ワインなのか、消費者にもよく認識できたのではないだろうか。雑誌があるヴィンテージで特定の生産者をほめちぎるとき、小売店には商機となり、消費者は足元をすくわれる結果となったと考えている。手元に、どうしてあんなワインやこんなワインがあるんだと感じている方は、きっとだまされている。(了)