カテゴリ:プレバト俳句を添削ごと査定?!
水貝のさくりと清くまず一献 呼び鈴のはんなり抜けて湯びき鱧 鱧の皮あの娘再婚したらしい 古都眩し夜は酒場の氷店 土用鰻大将すまん小ジョッキ 土地区画整理末伏のタッカンマリ じゃあそれとガツ刺し夕涼の酒場 焼酎やけふは店主に辞儀深う 西日溜める店影だけが呑んでる キープボトル墓碑銘となる夏のBAR 命日を集う紫陽花のレストラン 鰻待つ今日は台本家に置き 風青しカンロ杓子の三拍子 混濁のスープ青山椒の蒼 夏惜しむキープボトルを一人呑む
プレバト俳句。夏の炎帝戦。 お題は「行きつけのお店」。 ![]() ◇ 梅沢富美男。 水貝みずがいのさくりと清く まず一献 これが優勝でしたが、きっと賛否両論あるでしょうね。 村上もフジモンもジュニアも、見るからに不満そうだった。 … 季語の「水貝」は、アワビのお造り。 中七の「さくりと清く」は、 たんなる食感の形容なので、 実質的には「水貝」と「酒を呑む作者」だけを描いた句。 この食感の形容は独創性に乏しく、 たとえばコーラのことを「スカッと爽やか」と形容するのと同じで、 「さくりと清くない水貝があったら持って来い!!」 と言っていいと思うけど、 なぜか先生いわく、 水貝と日本酒のみならず、 店の雰囲気まで清らかなのが分かる、…とのこと。 でも、 そもそも字面だけではどこの場面かも分からないし、 家呑みの場面だと解釈できなくもない。 … 強いて好意的に解釈すれば、 ポイントは、下五の副詞「まず」なのかな、とは思う。 つまり、 このあと次々にいろんな料理が来るけれど、 そのはじめが爽やかな水貝であり、まずはそれで一杯呑む、と。 そこから「料亭の場面」だと想像させる仕組み。 そう考えれば、粋な佳作といえるのかもしれません。 とはいえ、 これが優勝句でいいのかなという疑念は残ります。 ◇ 中田喜子。 呼び鈴のはんなり抜けて湯びき鱧はも これが2位でしたが、 じつは梅沢の句と構造が似ています。 … 実質的には「呼び鈴」と「湯びき鱧」だけの句で、 中七の「はんなり抜けて」は、 ただのサウンドの形容なのだけど、 そこから「京都の料亭」だと想像させる仕組みです。 このサウンドの形容は独創的だけれど、 「呼び鈴が抜ける」という字面だけを見ると、 手や紐や金具から鈴が抜け落ちた…とか、 呼び鈴をもった人が通り抜けた…などの誤読もありうるし、 さらには、 玄関のチャイムが鳴ったら料理が届いたとか、 食事の支度の出来たところに誰かが帰ってきたとか、 そんな誤読もありえなくはないので、 料亭の場面という解釈に到達するのは難しい気もする。 ちなみに、湯引きは、 さっと湯にくぐらせて、すぐに冷やす調理法。 これも水貝と同じく料亭の夏の一品ですね。 ◇ …ってことで、 いつもとは毛色の違う作風が1位と2位になった印象。 そして「金持ちの年寄り」に有利な兼題なのかも。 ![]() かたせ梨乃。 鱧はもの皮 あの娘再婚したらしい これは3位の句。 この「季語+口語のセリフ」の形は、 ひとつの型と言ってもいいでしょうね。 ちなみに先生は、 「再婚」を「脱皮」ととらえてるらしい…(笑) ゴジラ的にいえば "第二形態" ってこと? ◇ …以下は順不同です。 フルポン村上。 じゃあそれとガツ刺し 夕涼の酒場 じゃあそれとガツ刺し 夕涼の屋台(添削後) じゃあそれとガツ刺し 夕涼の中洲(添削後) これも「口語のセリフ+季語」の形。 ガツは豚の胃袋。 ガッツ(胆力)と同じで「guts」が語源です。 ◇ 伊集院光。 土用鰻 大将すまん小ジョッキ これまた「季語+口語のセリフ」の形。 しかし、 なぜ謝って「小ジョッキ」を頼むのか分からない…。 わたしは、 「いつもなら大ジョッキだけど、ちょっと痛風が怖いので…」 みたいな解釈をしましたが、 本人いわく、 「忙しいのに悪いけど…」という程度の意味合いだそうです。 かたや先生は、 「テイクアウトしに来たけど、あまりに暑いので一杯…」 という解釈でした。 いずれにしても、 解釈の余地がありすぎる気がします。 ◇ 千原ジュニア。 焼酎や けふは店主に辞儀深う これも、 なぜ深くお辞儀したのかが分からない。 伊集院の句と同様に、解釈の余地がありすぎる。 酔っぱらって店内で粗相したとか、 他の客と喧嘩になって暴れたとか、 そんな解釈をする人のほうが多いのでは? でも、先生いわく、 「自分のなかで書き留めておく作品」としては、 これで良し、とのことでした。 ◇ フジモン。 土地区画整理 末伏まっぷくのタッカンマリ 地上げの噂 末伏のタッカンマリ(添削後) 末伏とは、暑さのきわまる晩夏の凶日。 日本では六曜(先勝・友引・先負・仏滅・大安・赤口)ぐらいしか使いませんが、 中国や韓国では、ほかにもいろんな暦注を使うのですね。 ▶ https://jpnculture.net/rekichu/ ちなみに、今年は、 初伏が7月11日で、中伏が7月21日で、末伏が8月10日 …だそうです。 タッカンマリは、 いわば「具を詰めないサムゲタン」みたいな鶏の煮込み。 原句は、 (何となく不吉な雰囲気はあるものの) 前段と後段の関係性が分かりにくく、 やはり解釈の余地がありすぎます。 ◇ キスマイ横尾。 古都眩し 夜は酒場の氷店 これは昼間の場面で、 「夜はBARに変わるかき氷屋」ってことなのだけど、 わたしはてっきり夜の場面だと誤読して、 「夜は飲み屋街の氷店に来た」と解釈しました。 つまり、 > 昼間は外で働いて、 > 夜間は酒場に氷を提供する店で働いて、 > ああ、京都のネオンが眩しいなあ。 …みたいな解釈。 形式上は、そういう誤読もありうる。 ◇ 立川志らく。 西日溜める店 影だけが呑んでる 西日の店 いつも影だけが呑んでる(添削後) 志らくは過去にも、 影のような野良犬に桜ながし 闇動く幸せが動く梟 などを詠んでいますが… 実景をぼかし、 「影」や「闇」を比喩的な主役にして、 安易に詩情を生み出そうという発想が、 やや小手先の手法になってる気がする。 ちなみに、 「西日溜まりの影」のイメージは、 「夏至の古色蒼然」にも、どこかしら似ています。 なお、以前の村上の句では、 「影の少なき無人駅」を、 「影のみ増ゆる無人駅」と直してましたが、 今回も影の存在感を強める添削になってますね。 ◇ 春風亭昇吉。 キープボトル 墓碑銘となる夏のBAR 晩夏なるBAR 墓碑銘となるボトル(添削後) 原句はやや説明的な感じがします。 かといって、 添削の「墓碑銘となるボトル」で意味が伝わるかどうか、 これはこれで勇気がいるかなあ、とも思う。 むしろ、この場合は、 晩夏のBAR 墓碑銘となりしボトル と過去形にしたほうが分かりやすいのでは? これから亡くなるのではなく、すでに亡くなってるのだから。 ◇ 森口瑤子。 命日を集う紫陽花のレストラン 18音の破調ですが、 最後が「ン」なので、さほどの字余り感はない。 先生は「レストラン」じゃないほうがよい、 …とのことですが、 これといった代替案は思い浮かびません。 ◇ キスマイ千賀。 鰻待つ 今日は台本家に置き 先生いわく、 季語の「鰻」は「鱧」にも代わりうる、とのこと。 たしかに、 鰻にガッツくより、優雅な鱧料理のほうが、 「今日は仕事を忘れて…」という気分にふさわしいかも。 ◇ 森迫永依。 風青し カンロ杓子の三拍子 字面だけを見たら何のことか分からないよ…(^^; カンロ杓子は、 かき氷のシロップだけでなく、 ラーメンのタレを入れるときにも使うし、 そもそも、 三拍子の「シャカシャカシャカ」ってのは、 カンロ杓子の音じゃなくて、氷を削る音でしょ? それとも「イチゴとあずきと練乳の三拍子揃い踏み!」みたいなこと? わたしなりに作者の意図を察すれば、 「風青し」は季語として確定してないし、 「氷を削る三拍子」と書いたら冬の句になっちゃうから、 無理やり「カンロ杓子」で代替させたんでしょうねw たしかに、 「氷」は冬の季語だけど、 「かき氷」は夏の季語なのだから、 風青し 氷搔きたる三拍子 とすれば、ちゃんと夏の句になるのでは? ◇ 星野真里。 混濁のスープ 青山椒の蒼 作者は担々麺のことを詠んだらしいけど、 青山椒の入ってるスープは他にもあるし、 具材の多いスープのことだと誤読する人もいるはずです。 作者の意図を察するに、 「濁ったスープ」と「青山椒」が印象的だったから、 その2つの取り合わせにしたのか? それとも、 ストレートに「担々麺」と書いたら芸がないから、 それを連想させる「混濁のスープ」で代替させたのか? でも、どっちにしろ、 担々麺のことしか読んでないわけだから、 わざわざ取り合わせにする必要がありませんよね。 かりに一句一章にまとめるなら、 担々麺の青山椒に身の締まる みたいな感じにすべきだろうし、 かたや二句一章の取り合わせにするなら、 ひとり席 担々麺の青山椒 みたいな感じでしょうか? さすがに「行きつけ感」までは出せませんが。 ◇ ニューヨーク嶋佐。 夏惜しむ キープボトルを一人呑む 全般的に陳腐な内容。 夜のBARの場面だとすれば、 季語が実景として見えないのも弱い。 それとも、 鈴木雅之の「ガラス越しに消えた夏」みたいに、 明るいうちから海を眺めて飲める店でもあるのかしら?? ![]() ![]() ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.08.12 12:58:42
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